経済的に苦しい生活を送っていたダミアン・ケアリーは、あるときアロウウエイズ邸と呼ばれる巨大な屋敷を遺産として受け取る。彼女の母親は大金持ちの一族の出身なのに、身分の釣り合わぬ相手と結婚したため、勘当同然の扱いを受けていた。その娘のダミアンも暮らしを立てるのに苦労していた。ところが思いがけず大金持ちの祖父の遺言のおかげで遺産を受け取ることになったのだ。
ダミアンは弁護士と面接し、アロウエイズ邸へ行き、そこに住んでいるモント家の人々に出会う。このモント家の人々のあいだには、複雑な人間関係があって、愛憎、怨恨、嫉妬などいろいろな感情が渦巻いている。そして屋敷をダミアンに明け渡すにあたって、その複雑な人間関係が暴発するのである。モント家が営む繊維会社の主任が殺され、ダミアンも命を狙われ、さらにまた殺人が起きる。
本書のいいところは、全編を覆う雰囲気である。ゴシック風の暗く、不吉な雰囲気がじつにうまく醸し出されている。ゴシック・ロマンスを書く女流作家は多いけれども、そのなかでも上位に属する見事な文章だと思う。ラインハートの「螺旋階段」のような、魅力あふれる「闇」が描かれている。物語のペースもよく考えられている。会話が少なく地の文が多い作品なのだけれど、退屈せずに読み通すことができた。
ただし登場人物が非常に多く、人物表を作っておかないと混乱する。また、物語はダミアンの視点で語られるが、進行中の事件だけでなく、過去の回想もまじってくるので、そのつど出来事を時系列でまとめておかなければならない。多少煩瑣な印象を与えるけれども、よくできた作品だと思う。