Thursday, June 20, 2024

ロバート・エドモンド・オルター「野蛮への道」

 


ロバート・エドモンド・オルターは1925年、サンフランシスコに生まれ、なんと65年に亡くなってしまった短命のパルプ作家。児童文学、歴史小説、ノワール風のミステリなどいろいろなジャンルに手を染めたが、「野蛮への道」は死後出版されたSFである。戦争に至った詳しい記述はいっさいないのだが、どうやら核戦争が起きて世界の文明は滅び、生き残った人々は(少なくともアメリカにおいては)ネアンデルタールと呼ばれる蛮族、フロッカーズと呼ばれる集団生活者、そして単独で放浪の旅をするローナーと呼ばれる人々に別れていった。映画「マッドマックス」のような暴力的終末世界を描いている。

主人公はローナー(単独放浪者)であるフォークという男。彼はトンプソン式機関銃を持ち、それで襲いかかる敵をなぎ倒しながら水や食糧を求めて移動を続けている。ときどき女に出会うとタバコと引き換えに(この世界でタバコは貴重品なのだ)セックスをしたりもする。

彼はデパートを根城に集団生活を送るフロッカーズに偶然加わる。そこはランという男が指導者として君臨している。ランは集団を維持するために、集団からの脱落者を殺しさえする冷酷な男だ。フォークとランは出会った瞬間から、いつかは決着をつけなければならない間柄となる。女性関係のもつれからその決着の時は意外とはやくやってきた……。

最初から機関銃が派手に火を噴き、最後までアクションが連続する作品だが、同時にフォークの放浪の旅はバンヤンの「天路歴程」のような寓意性をもっていて、彼は「美しい二人」やら「清潔な娘」やら「孤独な牧師」に出会ったりする。この寓意性は最後まで続くのだが、正直に言って、生々しい暴力やセックスとは水と油のようにうまく混じり合ってはいないように思えた。文明が滅び、秩序が失われた世界においても、なお人間らしい生き方を求めようとする欲求、それがフォークのなかに芽ばえる様子は、寓意的な仕掛けがなくても充分に伝わるのではないか。

核戦争によってもたらされる終末世界と、古い文学的伝統を持つ寓意的世界を重ね合わせようとするなら、もうちょっと工夫が必要だ。しかし暴力的な場面はなかなか迫力がある。とりわけ最後の決闘の描写はページをめくる手がとまらなかった。わたしが読んだのは Avon のペーパーバックだが、誤植が目についたことも付記していおく。

クロード・ホートン「隣人たち」

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