Friday, March 14, 2025

関口存男「新ドイツ語大講座 下」(6)

§6. Was man hofft, das glaubt man gern.
(Was einer hofft, das glaubt er gern.)
望ましい事柄は信じがちである。

 man は「吾人」、「世人」、「誰でも」、などを意味する不定代名詞ですが、それと全然同じものに einer があります(英の one)。ただ、einer の方は、一度用いた後には、二度目は er で代表しますが、man の方は er で言い換えることは許されません。題文を Was man hofft, das glaubt er gern といっては誤りです。

 man は一格の形しかないので、他の格を必要とする場合には einer の変化形を用います。つまり man の格変化は次のようになるわけです。

一格:manまたはeiner
二格:eineseines
三格:einemeinem
四格:eineneinen

 どういう場合にこうした形を用いるかを研究しておきましょう。たとえば「自分に出来ないことを人がすると、偉そうに見えるものだ」は Was man nicht selbst kann, imponiert einem. (吾人が己れ自身で能わざる事は、吾人を威圧する)といいます。imponieren (威圧する)という動詞は三格支配ゆえ、man の三格にあたる einem を用いたのです。Was einer nicht selbst kann, imponiert ihm. は正しいが、man を用いると einem です。つぎに beeindrucken (印象づける、感銘深からしめる)を用いると、これは四格支配ゆえ、Was man nicht selbst kann, beeindruckt einen または Was einer nicht selbst kann, beeindruckt ihn となります。次の二格の eines は、ごく稀にしか用いられません。なぜというに、二格を用いそうな時には大抵三格か四格で表現するのがドイツ語の特徴だからです。たとえば「おまえはどうして人の足を踏むのだ?」は Warum trittst du einem auf den Fuß? (人に足を)――「あなたは人の財布ばかりのぞくのね」は Du guckst einem nur immer so in den Beutel (人に財布の中を)――「あなたは人の鼻の頭にキスするの?」は Du küßt einen auf die Nasenspitze? あるいは Du küßt einem die Nasenspitze? (人を鼻の頭へ、人に鼻の頭を)等々。(§98.)

§6. trittst: treten (踏む、歩む)。gucken: のぞく。nur immer so: ただ・いつも・そのように。Beutel (Geldbeutel): 財布。

関口存男「新ドイツ語大講座 下」(7)

§7. jemand (einer), niemand (keiner), および jedermann ([ein] jeder)  「誰か」(英: somebody, someone )と「誰も…… (せぬ)」(英: nobody, no one )とは、次の...