Wednesday, November 29, 2023

オリーブ・ノートン「死の床に横たわりたる」


オリーブ・ノートン(1913-1973)はロマンスや子供向けの本を書いた人だが、ミステリも書いている。本作(Now Lying Dead)は67年の発表である。

ブライアン・オールソップはあるとき市民向け創作講座に出席し、そこでこんな話を聞く。どんなに人畜無害な、人好きのする人であっても殺人の被害者になりうる。その人の友人と話をし、過去を分析し、秘密を探ってみるといい。きっとその人を殺したがっているだれかを発見するだろう。

ブライアンはこの言葉に惹かれ、ミステリを書いてみようと思い立つ。そして妻の親友の夫、アーサー・ヘイボールを犠牲者に仕立て上げようと考える。彼はアーサーの身辺に注意を払うようになり、やがて妻が心配になるくらい、その興味が偏執狂じみてくる。そしてとうとう事件が起きる。アーサーにゴルフに誘われたブライアンは、ゲームの最中にゴルフクラブを振り回し、それが「偶然」アーサーに当たってしまうのだ。そしてアーサーは即死する。

ブライアンは検死審問で無罪を言い渡される。しかし私は考え込んだ。なるほどブライアンは「意識の上では」無邪気にゴルフクラブを振り回し、アーサーが運悪くそれにぶつかっただけなのかも知れない。が、「無意識においては」どうなのだろう。アーサーは自分でも知らないうちに殺意を抱いていたのではないか。

事件はこのあと様相を二転三転させるが、私はそれをまさに「無意識」の領域に切り込んでいく過程であると読み取った。(あくまで私の解釈である)この部分がこの作品のすばらしいところで、ブライアンの無意識が妻との転移関係によって影響されていること、そして究極的にはそれが誤認であることがあきらかにされる。

この計算されつくされた展開はじつに見事で、読み終わったときに私はううんとうなってしまった。これはハイスミスやドゥ・モーリエと比較しても決して遜色のない作品である。とくに精神分析に興味のある人にとっては興味が尽きないだろう。これほどの作品がまるで知られないまま埋もれているのか。

Monday, November 27, 2023

ウィリアム・ジョンストン「ビーチクラブ殺人事件」

ウィリアム・アンドリュー・ジョンストン(1871ー1929)はペンシルベニア生まれの作家であり、「ニューヨーク・サンデー・ワールド」誌の編集者だった。私は何十年も前に彼の「隣のアパート」(The Apartment Next Door)というヤングアダルト向けスパイ小説を読んでその面白さに感心したことがある。そのあと同じ作者の本を色々探したのだが、古い作家で死後は著作の再版もないらしく、残念に思いながら読むのをあきらめた。しかし最近ふとしたきっかけで彼の本を何冊か入手し、昔の恋人に出会ったような、いそいそした気分で読書にふけった。期待に違わない、なかなかの出来だった。

表題のビーチクラブというのは、アメリカのとある田舎町の社交場で、人々が集まってダンスをしたり、ポーカーをしたりするところだ。主人公ティルト青年は、幼なじみのモリーと土曜日の朝六時にここで早朝テニスをすることになるのだが、さきにクラブに着いたモリーが、彼女の親しい友だちでもある町医者の死体を発見するのである。医者の家の家政婦によれば、医者は電話で何者かによってクラブに呼び出され、クラブに出掛けたのだという。しかも医者とその何者かは口論しているようだったらしい。いったい犯人は誰なのか。ティルトの友人の探偵が呼ばれ、また、意外にもモリーの妹のキットが占い板で事件の真相にせまっていく。

一見して素朴平和な暮らしを送っている町の人々だが、ある事件をきっかけに複雑な人間関係があぶり出されるという、よくある筋立てなのだが、そのあぶり出し方がじつにスリリングだ。章の終わりには爆弾を落とすように新たな事実・謎が提示され、読んでいるほうはなかなか本を置くことができない。こういう書き方は一九十年代、二十年代にほぼ完成され、ジャンル小説の分野ではジャック・スティールとかアーサー・W・マーチモントとかが見事な語りの技術を見せているのだが、ジョンストンもそのなかに加えて好いだろう。

古い偏見がところどころに顔を出すのは気になるけれど、一九二十年代に書かれた作品なのだから致し方ない。それより最終章まで緊迫感を絶やすことなく物語を続けた作者の手腕をほめるべきだと思う。

Thursday, November 23, 2023

エリザベス・ホールディング「森を出て」

エリザベス・サンクセイ・ホールディングの短編小説である。副題に「世間を知らない女の子、腹を空かせた狼、そしてすてきなおばあちゃんの物語」とある。おそらく1920年代に書かれた作品だと思うが、当時のアメリカの風俗を、「赤ずきん」の物語を借りて表現したものとなっている。ただしここで狼を撃退するのは女の子ではなく、おばあちゃんである。

主人公はエセルという十九歳の乙女。彼女は歌手になりたいと思っている。しかし両親がなかなか彼女のやりたいことをやらせてくれず、不満を募らせていた。彼女は歌のレッスンを受けていたとき、メッツという男と知り合う。小さなボードヴィル劇場で歌っているバリトンの歌手だ。この男がエセルをそそのかし彼女と結婚しようと目論む。もちろん彼女を愛しているのではない。財産目当ての結婚である。エセルはメッツがなんとなく嫌いなのだが、自分のやりたいことをやらせてくれない家への反発もあって、ついつい育ての親である伯母に彼と結婚をするという電報を送ってしまう。そして窮地に陥った彼女をおばあちゃんが救いにくる、というのがこの短編の筋になる。

おばあちゃんが彼女を助けに来たとき、彼女は「エセル」と呼びかけるのだが、それを聞いてエセルはこの世にいないはずの母の声を聞いたように思い、思わず「お母さん!」と叫ぶ。そのあとはおばあさんが狼であるメッツを見事撃退し、この作品は次のような三行で終わる。


Monday, November 20, 2023

ロバート・C・オブライエン「銀の冠」


十歳の誕生日の朝、宝冠のような帽子をプレゼントに受け取ったエレンは、それを持って近くの森へ行き、女王さまになった自分を空想する。ふと気づくとなにかが燃えるようなにおいがした。森を出て家に帰ると、なんと家がごうごうたる火に包まれている。家族は全員が死亡。彼女の家族は引っ越してきたばかりで近所に知り合いはない。彼女はたった一人で、遠く離れたおばさんの家に向かおうとする。
これがこの魅力的な冒険のはじまりである。何が魅力的なのか。謎がつきまとっているのだ。宝冠のような帽子は不思議な力を持っているらしく、それをかぶるとエレンは心が落ち着き、秩序だった考え方ができる。しかも宝石のように取り付けられた飾りは急に光を放ったりする。そしてエレンをつけねらう謎の男。緑色の仮面をかぶり、銃を使って店を襲い、警官を殺害するこの男は、おばさんの家までヒッチハイクしようとしたエレンを誘拐しようとする。
危険を察知し、からくも魔の手を逃れたエレンは、オットー少年に出会い、一緒になってさらに旅を続けようとする。
少し前に「グループ17からの報告」という小説を読んで、物語自体はそれほどでもないが文章がうまい作家だなと思った。透明感があり、不思議な静謐さをたたえた文体なのだ。わたしは文章がいい作家は必ず作品を複数読むことにしている。「銀の冠」は文体のすばらしさに加えて、物語も圧倒的に面白い。透明で静謐な文体で語られる物語が、しだいに悪夢のような性格を帯びていくところは見事としかいいようがない。現実がいつのまにか悪夢に転化するさまを描いた名作は多いけれど、これもその一つだろう。ヤングアダルト向けの一作だが、大人が読んでも夢中になる。

Sunday, November 19, 2023

独逸語大講座(14)

第十四課

関係代名詞
treiben 為すgroößer, a. より大なる
fahren 行く(乗物で)lächerlich machen 滑稽化する
Fahrzeug, n. 乗物Ehre, f. 光栄
unter [among]bekannt, a. 著名の
Kirschbaum, m. 桜樹Schauspieler, m. 俳優
großmütig 寛仁にfremd, a. [strange, foreign]
verzeihen 恕すZüge, pl. 顔相
unendlich 無限にBlick, m. 一目

1. Der Knabe, der sich eben neben meinen Bruder gesetzt hat, ist der Sohn meines Lehrers. 2. Der Schüler, dessen Fleiß Sie schon kennen, ist auch von seinem Lehrer gelobt worden. 3. Mein Onkel, dem Du gestern aus der Straße begegnet bist, hat oft von Dir gesprochen. 4. Der General, den wir gestern aus der Station gesehen haben, muß jetzt nach Amerika. 5. Der Garten, in dem meine Kinder spielen, gehört jetzt meinem Nachbar.

【訳】1. 今(eben)私の兄弟の側へ(neben meinen Bruder)腰かけた(sich gesetzt hat)所の(der)少年は(der Knabe)私の先生の息子で(der Sohn meines Lehrers)ある(ist)2. その生徒の勤勉を(dessen Fleiß)貴君が(Sie)既に(schon)識る(kennen)〔所の〕、生徒は(der Schüler)彼の先生からも亦(auch von seinem Lehrer)褒められた(ist...gelobt worden)3. 汝が(Du)昨日(gestern)街道上で(auf der Straße)出逢った(begegnet bist)所の(dem)私の叔父は(mein Onkel)屡々(oft)汝について(von Dir)話した(hat gesprochen)4. 我々が(wir)昨日(gestern)ステーションに於いて(auf der Station)見た(gesehen...haben)所の(den)将軍は(der General)今や(jetzt)アメリカへ(nach Amerika)行かねばんらぬ(muß)註15. その庭の中に(in dem)私の子供達が(meine Kinder)遊んでいる(spielen)〔所の〕、庭は(der Garten)今は(jetzt)私の隣人に(meinem Nachbar)属する(gehört)

6. Er hat seine Frau, mit der er sich vor einigen Jahren verheiratet hat, mit seinen Kindern nach England geschickt 7. Er stand auf und verließ das Zimmer, in welchem sein alter Vater schlief. 8. Er suchte seine Taschenuhr und sah nicht auf seine eigene Hand, mit welcher er suchte und in welcher sie sich befand. 9. Der Diener, der ins Zimmer hereintrat, näherte sich dem Tische, an dem sein Herr arbeitete. 10. Ich erinnere mich nicht mehr an die Zeit, in welcher ich noch keine Eisenbahn gesehen hatte.

【訳】6. 彼は(er)[〔彼が(二つ目の er)は訳さぬ方がよい〕]二三年前に(vor einigen Jahren)結婚した(sich verheiratet hat)所の(mit der)彼の妻を(seine Frau)彼の子供等と共に(mit seinen Kindern)英国へ(nach England)遣わした(hat...geschickt)7. 彼は(er)立ち上った(stand auf)そして(und)彼の老いたる父が(sein alter Vater)眠っていた(schlief)〔所の〕(in welchen)部屋を(das Zimmer)去った(verließ)8. 彼は(er)彼の懐中時計を(seine Taschenuhr)探した(suchte)そして(und)それを以て(mit welcher)[〔彼が(二つ目の er)〕も訳さぬ方がよい]探しつつあった(二つ目の suchte)〔所の〕そして(und)その中に(in welcher)彼女が(sie=Taschenuhr)在った(sich befand)〔所の〕彼自身の手の上を(auf seine eigene Hand)見なかった(sich nicht)9. 部屋の中へ(ins Zimmer)入って来た(hereintrat)所の(der)下僕は(der Diener)それに接して(an dem)彼の主人が(sein Herr)働いていた(arbeitete)〔所の〕その机に(dem Tische)近寄った(näherte sich)10. 僕は(ich)その時に於いて(in welcher)[二つ目の ich は訳さず]まだ(noch)一つの鉄道をも見ていなかった(keine Eisenbahn gesehen hatte)〔所の〕その当時を(an die Zeit)註2最早、想い出さない(erinnere mich nicht mehr)

11. Ich bitte Sie, das deutsch-japanische Wörterbuch, das Sie vor einigen Tagen aus meiner Bibliothek genommen haben, mir sofort zurückzugeben. 12. In diesem Büchlein finde ich viele Ausdrücke, deren Bedeutung ich mir nicht erklären kann. 13. Die Kinder können die Gesichter der Leute, von denen sie einmal etwas geschenkt bekamen, nie vergessen. 14. Gott sieht und weiß alles, was wir treiben. 15. Wie nennt man das Fahrzeug, womit man durch die Luft fährt?

【訳】11. 貴君が(二つ目の Sie)二三日前に(vor einigen Tagen)私の蔵書の中から(aus meiner Bibliothek)持って行ってしまった(genommen haben)所の(das)独和の辞典を(das deutsch-japanische Wörterbuch)私に(mir)直ちに(sofort)返すことを(zurückzugeben)私は(ich)貴君に(一つ目の Sie)願う(bitte)12. 此の小さな本の中に(in diesem Büchlein)私は(ich)その〔言い廻しの〕意味を(deren Bedeutung)〔私が(二つ目の ich)〕自分に(mir)説明出来ない(nicht erklären kann)〔所の〕多くの言廻しを(viele Ausdrücke)見出す(finde)13. 子供達は(die Kinder)その人々から(von denen)彼等が(sie=Kinder)一度(einmal)何か或る物を(etwas)贈って貰った(geschenkt bekamen)註4〔所の〕人々の顔を(die Gesichter der Leute)決して忘れることが出来ない(können...nie vergessen)14. 神は(Gott)我々が(wir)為す(treiben)〔所の〕凡ゆることを(alles, was)見、そして知る(sieht und weiß)15. それを以て(womit)〔人が(二つ目の man)〕空中を通じて(durch die Luft)行く(fährt)〔所の〕乗物を(das Fahrzeug)人は(一つ目の man)如何に(wie)名づけるか(nennt)

16. Im Parke standen viele alte Bäume, worunter sich auch einige Kirschbäume befanden. 17. Wer seine Kinder liebt, der schickt sie in die Welt hinaus. 18. Wen Du lächerlich machst, der macht Dich auch wieder lächerlich. 19. Wem du großmütig verzeihst, dem zeigst du, daß du unendlich größer bist als er. 20. Die Frau, mit der zu sprechen ich heute die Ehre hatte, war eine bekannte Schauspielerin. 21. Der Gast, in dessen Zimmer hineinzugehen er sich nicht getraut hatte, war ein Schauspieler. 22. Das Gesicht, an dessen Züge ich mich beim ersten Blick zu erinnern glaubte, war doch ein fremdes.

【訳】16. 公園の中には(im Parke)多くの、古い樹が(viele alte Bäume)立っていた(standen)その樹の中には(worunter)註5二三の桜も亦(auch einige Kirschbäume)在った(sich befanden)17. 彼の子供等を(seine Kinder)愛する(liebt)所の(wer)その人は(der)彼等を(sie)世の中へ(in die Welt)送り出す(schickt...hinaus)18. 汝が(Du)滑稽化する〔=馬鹿にする〕(lächerlich machst)所の(wen)その人は(der)亦汝をも(Dich auch)再び〔=…し返す〕(wieder)滑稽化する(macht...lächerlich)19. その人を(wem)註6汝が(du)寛仁に(großmütig)恕す(verzeihst)〔所の〕その人に(dem)〔汝は(二つ目の du)〕汝が(三つ目の du)彼(er)より、無限に、より偉大で(unendlich größer...als)ある(bist)ことを(示す)(zeigst)20. その婦人と(mit der)私が(ich)今日(heute)話すべき光栄を(zu sprechen die Ehre)持った(hatte)〔所の〕婦人は(die Frau)一人の有名な女優で(eine bekannte Schauspielerin)あった(war)21. その客の部屋の中へ(in dessen註7 zimmer)入り込むことを(hineinzugehen)彼が(er)敢えてしなかった(sich nicht getraut hatte)〔所の〕客は(der Gast)一人の俳優で(ein Schauspieler)あった(war)22. その顔相を(an dessen Züge)私が(ich)最初の一瞥に際して(beim ersten Blick)想い出すと(mich zu erinnern)註8信じた(glaubte)〔所の〕顔は(das Gesicht)やっぱり(doch)知らない顔で(ein fremdes)註9あった(war)

【註】〔1〕muß は muß gehen 〔前出〕。
〔2〕an die Zeit:sich erinnern は、二格の補足語をとる場合と、an の前置詞をとる場合とある。
〔3〕das deutsch-japanische Wörterbuch:deutsch と japanisch の間をつないでいる印〔-〕は Bindestrich と云って、二語を結合して一語となす時の印である。
〔4〕geschenkt bekamen:geschenkt bekommen で、之れは一つの成句である。
〔5〕worunter で始まっている関係文章は、形式上は前部の主文章に従属しているが、意味の上では対立している。従って斯の如き文章を訳す場合に、従属的意味を有つ関係文章の際の如くに、関係文章より主文へと訳して行くと、妙な文になる。最初より順次に、竝立的に訳し下ろさなければいけない。
〔6〕wem は、「その人を」と四格の様に訳してあるが、文法上は三格。即ち einem etwas 〔四格〕 verzeihen 「或人に或る事を恕す」の使い方である。
〔7〕in dessen Zimmer:此の場合 dessen を何とか語尾変化させるのではないか?と云う質問がよくある。それは、つまり in の前置詞が動詞の方向を示す場合で、普通は in das Zimmer とするからであるが、Gast の関係代名詞 der の二格なる dessen は、之れ以上の語尾変化をしないで、dessen のまゝでよろしいのである。勿論 Zimmer は四格。
〔8〕mich zu erinnern に就いては、十三課、註〔1〕参照。
〔9〕ein fremdes Gesicht.

Tuesday, November 14, 2023

英語読解のヒント(85)

85. 同族目的語 (3)

基本表現と解説
  • He shouted applause. 「声をあげて喝采した」
  • She similed approval. 「ほほえんで満足をあらわした」
  • She nodded her assent. 「頷いて同意をしめした」
  • He looked his anxiety. 「心配を面にあらわした」

上の文章はそれぞれ a shout of applause, a smile of approval, a nod of assent, a look of anxiety のような同族目的語を含む表現の一部を省略したものと考えられる。

例文1

Yes, he would be his lady's true knight, he vowed in his heart; he waved her an adieu with his hat.

William Makepeace Thackeray, The History of Henry Esmond, ESQ.

そう、わたしは愛する女性の真の騎士になろう、と彼は心中に誓った。彼は帽子を振って別れを告げた。

例文2

Stephen Letsom nodded assent, and sat down to listen to as strange a story as he had ever heard.

Charlotte Mary Brame, Wife in Name Only

スティーブン・レッサムは頷いて同意を示し、腰かけてじつに不思議な話を聞いた。

例文3

His blue eyes flashed suspicion at me.

Arthur Conan Doyle, Uncle Bernac

彼の碧い眼が疑うようにわたしを見た。

Sunday, November 12, 2023

英語読解のヒント(84)

84. 同族目的語 (2)

基本表現と解説
  • He swore a dreadful oath. 「彼はおそろしく罵った」
  • He fought his last battle. 「彼は最後の戦いをたたかった」
  • He struck a fatal blow. 「彼は致命的打撃を与えた」

動詞と意義はおなじだが、形がちがう目的語が用いられるケース。

例文1

The darkness was intense. And, as it was blowing great guns from the sea, and pouring with rain, the noises of the storm effectually concealed all others.

R. L. Stevenson, The Pavilion on the Links

漆黒の闇だった。しかも海からは風が吹き荒れ、雨は土砂降り。嵐の音でほかの音はまったく聞こえなかった。

 to blow great guns は「強風、暴風が吹く」という意味の成句。to blow guns ともいう。

例文2

Kneeling down, I renewed my oath, and then, falling across the grave, I wept tears of phosphorus, or some other scalding matter, for I had no ordinary tears to shed.

J. E. Muddock, Stories Weird and Wonderful

わたしは跪いてもう一度誓いの言葉を言った。そして墓の上に突っ伏し、燐かなにかの、焼けるような涙を流した。わたしには普通の涙はなかったのだ。

例文3

 As it fell out on a long summer's day,
 Two lovers they sat on a hill;
 They sat together that long summer's day,
 And could not talk their fill.

George Wharton Edwards, "Fair Margaret and Sweet William"

 ある長い夏の日
 恋する二人が丘の上に座っていた
 長い夏の一日をいっしょに過ごしたけれど
 それでも心ゆくまで語ることはできなかった

 似たような形として eat one's fill (腹一杯食べる)とか weep one's fill (存分に泣く)などの表現もある。

Wednesday, November 8, 2023

英語読解のヒント(83)

83. 同族目的語 (1)

基本表現と解説
  • She smiled a bright smile. 「彼女はあでやかな微笑を浮かべた」
  • She dreamed a happy dream. 「彼女は楽しい夢を見た」

同族目的語構文の基本的な形。

例文1

I laughed a mocking laugh of derision.

J. E. Muddock, Stories Weird and Wonderful

わたしは嘲笑った。

例文2

In all probability every one is abed, and now sleeping the sleep of the just — all except him.

Margaret Wolfe Hungerford, The Haunted Chamber

おそらく人はみな床に就いてぐっすり眠っているだろう。ただし彼をのぞいて。

 正しき人々(the just)は安らかに眠れることから、the sleep of the just は「ぐっすり寝ること」を意味する。

例文3

"This man died no natural or easy death," said the surgeon.

Charles Dickens, Sketches by Boz

「この男はけっして尋常な、安らかな死を遂げたのではない」と医者が言った。

Monday, November 6, 2023

英語読解のヒント(82)

82. change for the better

基本表現と解説
  • There has been some change for the better since I saw her last week. 「先週会ってからいくらかよくなった」
  • She has changed a trifle for the better since I saw her last week.

for the worse と言えば「悪く(なった)」。

例文1

“Trust Mr. Dawson,” he said, “for a few days more, if you please. But if there is not some change for the better in that time, send for advice from London, which this mule of a doctor must accept in spite of himself."

Wilkie Collins, The Woman in White

「あと数日はミスタ・ドーソンを信じてくれないか。しかしもしもそのあいだに快くならなければ、ロンドンの医者に意見を聞きなさい。ラバみたいに意地っ張りな先生もさすがにそれは受け入れるから」

例文2

When I went into the room Miss Halcombe was asleep. I looked at her anxiously, as she lay in the dismal, high, old-fashioned bed. She was certainly not in any respect altered for the worse since I had seen her last.

Wilkie Collins, The Woman in White

部屋に入って行くとミス・ハルカムは寝入っていた。わたしは重苦しくて、高さのある、旧式のベッドに横たわる彼女を不安な思いで見つめた。どう見てもこの前見た時から悪くはなってはいないようだ。

例文3

By Mr. Dawson’s own directions Lady Glyde was kept in ignorance of this change for the worse.

Wilkie Collins, The Woman in White

ミスタ・ドーソンの指示によって、容態が悪化したことはグライド夫人に知らせられなかった。

Thursday, November 2, 2023

英語読解のヒント(81)

81. the chances are that

基本表現と解説
  • The chances are that he will succeed. 「多分彼は成功するだろう」

「たぶん……するだろう」「おおかた……するだろう」という言い方。It is probable that と置き換えられる。the chances のかわりに the odds が用いられることもある。

例文1

Had he lived always away from the world, out of society, the chances are that his fate would have been different...

Charlotte M. Braeme, Dora Thorne

彼がいつも浮世の外、社会を離れて生きていたなら、おそらく彼の運命はちがっていただろう……。

例文2

Lillian Dacre never troubled her head about "woman's rights;" she had no idea of trying to fill her husband's place; if her opinion on voting was asked, the chances were that she would smile and say, "Lionel manages all those matters."

Charlotte M. Braeme, Dora Thorne

リリアン・デイカーは「女性の権利」について頭を悩ませたことなどなかった。彼女は夫とおなじ立場に立とうとは毛頭考えていなかった。選挙権をどう思うかと問われたなら、おそらく彼女はにこりと笑い「そういうことはライオネルがみなやってくれています」と言っただろう。

例文3

When a favourite steamer arrives in New York, with 500 first and second class passengers, it means about 5,000 pieces of luggage to open and examine. If you have no servants to see it done for you, the odds are that you will be five hours on the wharf before you are able to proceed to your hotel.

Max O'Rell, Rambles in Womanland

人気のある汽船が一等船客二等船客合わせて五百人を乗せてニューヨークに着いたなら、五千個の荷物が(税関で)開けられ調べられることになる。諸君にかわってその手続きをやってくれる召使いがいないのなら、おそらく五時間も波止場に留め置かれ、そのあとやっと旅館に行けるということになるだろう。

修理する権利

私は今は Kobo の Eink 端末で読書を楽しんでいるが、その前は Hanlin の V5 を使っていた。Eink 端末が出始めてすぐのころに個人輸入したものだ。一般のタブレットと違い、目に刺戟がないため、非常に重宝し、ページめくりのボタンがきかなくなるまで使用した。そのため Eink 端末にはごく初期の頃からずっと興味があった。

初期の頃と今とを比較したとき、大きな違いが一つ思いつく。バッテリー交換がしにくいという点、SD カードの差し込めない機種が多いという点だ。この二点については Eink のファンから大きな要望があって、初期の頃はメーカーも気をつかっていたのである。ところが、Eink がニッチな分野ながらもその存在が知られるようになると、メーカーはバッテリーが劣化したら消費者に買い換えを求めるようになる。またSD カードの差し込み口がない機種を生産するようになる。

今の電子機器はほぼ二年を目処に消費者の買い換えを促すようにできている。BBC の How the right to repair might change technology という記事に依ると、古い機種に対していくつかの大手メーカーはファームウエアをアップデートし、わざと遅くなるようにプログラムを変えたことすらあるそうだ。

BBC の記事はこのビジネス慣習が環境に与える影響について議論しているが、二年という短い商品サイクルを作り出すこの慣習には、消費者として単純に疑問を感じる。タブレットは二年経っても、劣化部分さえ変えれば、充分に使える状態だからである。しかも新機種といったところで二年前に買った物と機能的にはさしたる違いはないのだ。

しかし企業側は劣化部分の修理・交換にやたらと高い料金設定をして、買い換えを促そうとする。こういう商慣習は変えなければならない。

先に挙げた BBC の記事で知ったが、アメリカと EU では「修理する権利」が法制化される予定らしい。すでにフランスでは家電製品に対して「修理可能性スコア」というのが環境省によって表示を求められるようになっている。アメリカのカリフォルニアでは家電製品が生産されてから七年間は修理やパーツ交換が容易にできるように、生産者に修理用の部品やツールなどの提供を義務づけている。

以前、「もったいない」という日本語が国連で連呼されたことがあったが、日本はもっとこうした消費文化に対して自覚的であるべきだ。 

英語読解のヒント(111)

111. never so / ever so (1) 基本表現と解説 He looked never so healthy. 「彼がそのように健康そうに見えたことは今までになかった」 He looked ever so healthy. 「彼はじつに健康そうに見...