Sunday, October 29, 2023

ファーガソン・フィンドレー「波止場」


ファーガソン・フィンドレー(1910-1963)はペンシルベニア生まれの作家で、ほとんど無名といっていいけれど、本作「波止場」は評判がよく、1951年には The Mob というタイトルで映画化されている。Mob というのはギャングのことである。最初に全般的な感想を言ってしまうと、この小説は標準以上の面白さで、フィンドレーのほかの作品も全部読んでみたい気持ちにさせられた。

どんな内容か大ざっぱに紹介すると……

ニューヨークの波止場地区はギャングによって取り仕切られていた。どんな活動をしていたのかは書かれていないけれど、たぶん密輸に関係することだろう。警察はもちろんギャング組織の壊滅をもくろむのだが、ギャングの首領ブラッキー・クレッグはなかなか手強い敵だ。警察が大陪審に喚問しようとしていた証人はブラッキーによってとある通りで殺され、その殺害現場を目撃した人々もそののち殺害されてしまう。

殺人課西司令部のマーロー刑事はその暗殺現場にいたにもかかわらず、うっかりブラッキーを警察の人間と思い込み、みすみす彼を逃してしまう。大チョンボだ。ところが西司令部はマーローに汚名挽回のチャンスを与える。正体を偽って波止場地区の労働者となり、ギャング組織の活動を探り、ブラッキーをつかまえろというのだ。かくしてマーロー刑事はティム・フリンという西海岸から来た男になりすまし、沖給仕として働くことになる。

暴力が渦巻く波止場地区での冒険はめっぽう面白い。拳での殴り合い、拳銃の撃ち合い、ギャングとマーロー刑事の騙し合い、さらにFBIが登場し、マーロー刑事のフィアンセまで危機一髪という目に遭う。しかも思いも寄らぬブラッキーの正体……。

物語が波瀾万丈で、テンポが小気味よいだけでなく、文章も悪くない。マーロー刑事が語り手となるのだが、それがハードボイルドによくあるちょっと小癪な感じのする口調なのだ。


おれにはわかっていた。禿頭のバーテンダーは波止場の犯罪活動となんらかの関わりがある。それは死や税金とおなじくらい確実なことだ。


ニューヨークの子供はラテン語の代名詞の格変化を学ぶのは不得手だろうが、タイヤの横滑りする音を聞いたらスティックボールの遊びを即座にやめ、ちりぢりに逃げなければならないことは知っている。


この文体はやりすぎると鼻につくが、本作ではまずまず成功している。

登場人物の心理が描かれていないとか、人間的な厚みがないとか、敵に見張られているかもしれないのに、マーローはなぜフィアンセとデートなどするのか、と文句をつけようと思えばいくらでもつけられるが、これはパルプ小説なのであって、白熱した物語に読者を巻き込めば、作品の目的は達成されたということなのだ。そしてその目的は充分に達成されていると思う。

Thursday, October 26, 2023

オクタヴス・ロイ・コーエン「地上の星」

巨漢の探偵ジム・ハンヴェイがハリウッドを舞台に活躍するミステリ。

田舎でスカウトされ、たちまちスターにのし上がった若者テンス・ウィルソンは、ある日、突然とある女優と結婚式を挙げ、メディアを騒がせる。結婚式の夜、彼はスタジオで撮影があったのだが、スクリプト・ガールからなにごとかを耳打ちされると、途端に顔色が変わり、撮影をやめたいと云い出す。監督にその要求を拒否されたウィルソンは、小道具のなかからピストルを取り出し、実弾を込め、尻ポケットに突っ込む。そして出番のないときは暗がりにじっと身を潜めるようにしているのだ。その奇妙な振る舞いにただならぬものを感じた映画会社は、探偵のジム・ハンヴェイを撮影現場に呼び出す。

そこで事件が起きる。撮影が休憩に入ったとたん、ウィルソンは銃殺され、彼と結婚した女優も意識不明で倒れているところを発見されたのだ。映画セットのなかで行われた殺人事件をハンヴェイがどう解決するのか。

はっきり言ってしまうと、この作品にはあまり感心しなかった。ハリウッドの様子が多少垣間見られて、その点は楽しいのだが、推理自体はフェアでもなければ、知的な刺激に満ちてもいない。

本作は通俗作家にありがちな駄作と称してかまわないだろうが、しかしわたしは作者のコーエンを優秀な娯楽作家であると考えている。1920年代、恐慌が始まる以前のある種の軽さを身にまとった人だが(それともこの軽さはハリウッドに由来するものだろうか)、読者の興味を引きつけるコツを知っている、ちょっとした才人だと思う。彼の作品は映画化されたものもあり、まちがいなく当時の人気作家の一人だったと言えるだろう。しかしそれだけなら楽しみながら消費されて終わるのだが、コーエンにはさらになにか変なところがある。彼のミステリはどことなく釈然としない要素を含んでいることが多いのだ。それは物語がきちんと構成されていないから、というのではない違和感、逆に、ミステリの根本にかかわるが故に妙だと感じさせるなにかである。Gray Dusk とか Love Can Be Dangerous などはとりわけ問題作である。アメリカのミステリがすごいのは、パルプ作家であってもフレデリック・ブラウンとかコーエンみたいな才能豊かな作家がいるというところだ。


Tuesday, October 24, 2023

デイヴィッド・グーディス「暗い道筋」

妻を殺害したと疑われ、刑務所に入れられていた男が脱獄し、本当の犯人を捜し出そうとする。テレビドラマの「逃亡者」とそっくりの筋立てだ。実際、「逃亡者」の原作ともいわれている。

いかにもノワールといった物語だが、わたしは読んでいて作ったような感じが残っているのに引っかかった。シチュエーションやキャラクターがことさらに誇張されていて、自然な感じがしないのだ。たとえば主人公の脱獄囚と元妻との関係は不可解だし、彼を助ける女との関係も不可解だ。最後に主人公の妻を殺した真犯人が判明するが、すとんと納得できるような解決ではない。文章もどこかたどたどしい。随所に充分こなれきっていないなにかがあり、物語にのめりこむことができなかった。しかしわたしは消化不良のようなこの印象をもってこの作品を断罪しようとは思わない。逆にこの消化不良は面白い徴候として存在しているような気がする。method in madness という表現があるが、グーディスのこの作品に於ける失敗にはある種システマチックなところがある。時間をおいて再読し、もう一度この作品を議論したい。

Saturday, October 21, 2023

H.B.ドレイク「影」

H.B.ドレイクは1894年に生まれ、1963年に亡くなっている。東洋の研究者、教師、かつファンタジー作家だった。本作(The Shadowy Thing)を読むまでわたしは名前も知らなかった。しかしこの作品はラブクラフトなどの怪奇小説が好きな人なら一読の価値がある。登場人物の心理にいささか理解できないものを感じるが、筋の運びは面白く、物語の醸し出す暗い雰囲気は見事である。

本書の語り手はディックというスポーツが大好きな青年である。彼にはエイヴェリという同級生がいて、この男は催眠術をよくした。クラスの生徒はみなエイヴェリの術に掛かってしまうが、ただ一人掛からないのが語り手のディックだ。ディックはあまりにも肉体的な人間過ぎるのだろう。そのためディックとエイヴェリのあいだには密かな敵対関係が生じる。

あるとき催眠術の実権の最中に事故が起きた。術に掛けられたある生徒の心が、邪悪な霊に取り憑かれ、ついにはこの生徒は精神病院送りになるのである。この生徒を救おうとして必死の戦いをしかけるのが、語り手ディックの妹で、霊能力を持つブランチである。ディックは神秘主義などにはなんの理解も持っていないが、ブランチは強力な霊能力をもっていて、やろうと思えば死にかけている人間の生命すらも引き伸ばすことができる。彼女は邪悪な霊に取り憑かれた生徒を救うためにエイヴェリと一騎打ちをすることになる。

降霊会やら納骨所やらジプシー占いやら怪奇小説が好きな人にはたまらない道具立てがそろっていて、いやがうえにも謎めいた雰囲気を盛り上げている。Internet Archive を調べればこの作者の著作がいくつか読めるようなので、興味のある向きは是非お手にとって貰いたい。

Tuesday, October 17, 2023

独逸語大講座(13)

第十三課

再帰動詞
Tisch, m. 机sich erinnern (二格)想い出す
Bank, f. ベンチsich verheiraten (mit) 結婚する
Park, m. 公園sich ausdrucken 言い廻す
Wunder, n. 奇蹟sich entfernen 遠ざかる
allein [alone]sich nennen 名乗る
zwar 成程(……ではある)sich befinden ……である、に在る
sich setzen 腰かけるsich helfen 要領よくやる
sich fürchten (vor) を恐れるsich getrauen 敢てする
sich freuen (über) を欣ぶsich schmeicheln 自負する

1. Der Kaufmann setzte sich an einen Tisch und fing an, einen Brief zu schreiben. 2. Die Feinde waren sehr stark, aber die Soldaten fürchteten sich nicht vor ihnen. 3. Ich war immer arm und hatte oft nichts zu essen, aber ich habe immer gewußt, mir zu helfen. 4. Wollen Sie sich auf den Stuhl setzen und mir etwas Neues erzählen? 5. Mein Vater freut sich sehr, Sie bei uns zu sehen, denn er hat Sie immer für seinen Hausfreund gehalten.

【訳】1. 商人は(der Kaufmann)一つの机に向かって(an einen Tisch)腰かけた(setzte sich)そして(und)一本の手紙を(einen Brief)書くことを(zu schreiben)始めた(fing an)2. 敵は(die Feinde)非常に強く(sehr stark)あった(waren)併しながら(aber)兵士達は(die Soldaten)彼等の前に(vor ihnen)恐れをなさなかった(fürchteten sich nicht)3. 私は(ich)常に(immer)貧しく(arm)あった(war)そして(und)屡々(oft)食うべき(zu essen)何物をも(nichts)持た〔なかっ〕た(hatte)併しながら(aber)私は(二つ目の ich)常に(二つ目の immer)要領よくやることを(mir zu helfen)知っていた(habe...gewußt=wissen)4. 貴君は(Sie)椅子の上に(auf den Stuhl)腰かけ(sich setzen)そして(und)私に(mir)何か新しい事を(etwas Neues)話して(erzählen)下さいませんか(wollen)?5. 私の父は(mein Vater)貴君を(Sie)我々の許で〔=家で〕(bei uns)見ることを(zu sehen)非常に(sehr)欣ぶ(freut sich)何故と云うに(denn)彼は(er)貴君を(二つ目の Sie)常に(immer)彼の家庭の親友と(für seinen Hausfreund)見なしていた(hat...gehalten)〔から〕

6. Ich weiß, wie er heißt, aber seines Gesichtes erinnere ich mich nicht mehr. 7. Er war in Amerika und vor einigen Jahren hat er sich mit einer Amerikanerin verheiratet. 8. Er kann die deutsche Sprache sehr gut lesen und schreiben, aber wenn er sie sprechen will, so weiß er nicht, wie er sich ausdrücken soll. 9. Ich glaubte auf der Straße meinen alten Spielkameraden zu sehen, ich lief nach, da hatte er sich schon entfernt. 10. Er nennt sich Georg Schulze und ist ein reicher Kaufmann von Hamburg.

【訳】6. 如何に(wie)彼が(er)名乗るかを(heißt)私は(ich)知る(weiß)併しながら(aber)彼の顔を(seines Gesichtes)私は(二つ目の ich)最早(nicht mehr)想い出さ(erinnere...mich)〔ない〕7. 彼は(er)アメリカに(in Amerika)いた(war)そして(und)二三年前に(vor einigen Jahren)彼は(二つ目の er)一人のアメリカ婦人と(mit einer Amerikanerin)結婚した(hat sich verheiratet)8. 彼は(er)独逸語を(die deutsche Sprache)非常によく(sehr gut)読み、そして、書くことが出来る(kann...lesen und schreiben)併しながら(aber)彼は(二つめの er)彼女を(sie=die deutsche Sprache)話そうと欲する(sprechen will)時は(wenn)その時は(so)彼は(三つめの er)如何にして(wie)彼が(四つ目の er)言い廻すべき(sich ausdrücken soll)〔かを〕知らない(weiß nicht)9. 私は(ich)街道上で(auf der Straße)私の古い遊び友達を(meinen alten Spielkameraden)見ると(zu sehen)信じた(glaubte)註1私は(二つ目の ich)後について走った(lief nach)その時には(da)彼は(er)既に(schon)遠ざかってしまっていた(hatte sich entfernt)10. 彼は(er)ゲオルク・シュルツェと(Georg Schulze)名乗る(nennt sich)そして(und)ハンブルクの(von Hamburg)一人の富める商人で(ein reicher Kaufmann)ある(ist)

11. Sie glaubt sich eine Dichterin und schmeichelt sich, sich bald mit einem berühmten Manne zu verheiraten. 12. Er ging in das Zimmer seines reichen Onkels hinein, aber da das Zimmer so schön war, getraute er sich nicht, sich auf einen Stuhl zu setzen. I3. Mein Schwesterchen war leicht krank, aber sie tat alles, was der Arzt ihr sagte, und so befindet sie sich heute besser als gestern. 14. Der arme Mann ging in den Park, setzte sich auf eine Bank und schlief ein. 15. Wenn Du Dich mit einem solchen Weibe verheiratest, so will ich Dich nicht mehr für meinen Bruder halten.

【訳】11. 彼女は(sie)自分を(sich)一人の女詩人だと(eine Dichterin)信ずる(glaubt)そして(und)程なく(bald)一人の名高き男と(mit einem berühmten Manne)結婚することを(sich zu verheiraten)自負する(schmeichelt sich)12. 彼は(er)彼の富める叔父の部屋へ(in das Zimmer seines reichen Onkels)入って行った(ging...hinein)併しながら(aber)部屋は(二つめの das Zimmer)非常に美しく(so schön)あった(war)から(da)彼は(二つ目の er)一つの椅子の上へ(auf einen Stuhl)腰かけることを(sich zu setzen)敢てしなかった(getraute sich nicht)13. 私の妹は(mein Schwesterchen)軽い病気で(leicht krank)あった(war)併しながら(aber)彼女は(sie)医者が(der Arzt)彼女に(ihr)云った(sagte)所の、凡ゆることを(alles, was)為した(tat)斯くして(und so)彼女は(二つ目の sie)今日は(heute)昨日(gestern)より(als)好く(besser)ある(befindet sich)14. 貧しき男は(der arme Mann)公園へ(in den Park)行った(ging)一つのベンチの上へ(auf eine Bank)腰かけた(setzte sich)そして(und)眠り込んだ(schlief ein)註215. お前が(Du)左様な女と(mit einem solchen Weibe)結婚する(Dich verheiratest)なら(wenn)そんなら(so)私は(ich)お前を(二つ目の Dich)最早(nicht mehr)私の兄弟と(für meinen Bruder)見なすことを(halten)欲し(will)〔ない〕

16. Wenn die Lehrer den Fleiß eines Schülers loben, so freut er sich sehr und auch die Eltern sehen es sehr gern. 17. Wenn Du Dich an gar nichts erinnerst, und alles vergißt, was Dir der Lehrer gesagt hat, so ist es kein Wunder, daß Du Dich gar nicht auszudrücken weißt. 18. Ich getraute mir, mich auf englisch auszudrücken, obgleich ich noch mit keinem Engländer gesprochen hatte. 19. Wenn ein Kind ganz allein in seinem Bette schlafen muß, so fürchtet es sich und schreit nach seiner Mutter. 20. Warum fürchtet er sich vor Dieben und macht die Haustür noch vor Abend zu ?—— Weil er reich ist. 21. Ich erinnere mich seiner Worte noch; er hat sich ganz schön ausgedrückt.

【訳】16. 先生達が(die Lehrer)一人の生徒の勤勉を(den Fleiß eines Schülers)褒める(loben)時には(wenn)その時には(so)彼は(er)非常に(sehr)欣ぶ(freut sich)そして(und)両親も亦(auch die Eltern)それを(es)註3非常に喜んで(sehr gern)見る(sehen)17. 汝が(Du)全然何物をも(an gar nichts)想い出さ(Dich...erinnerst)〔なく〕そして(und)先生が(der Lehrer)汝に(Dir)云った(gesagt hat)所の、凡ゆることを(alles, was)忘れる(vergißt)とすれば(wenn)それでは(so)汝が(二つ目の Du)全然(二つ目の gar)言い廻すことを(Dich...auszudrücken)知らない(nicht weißt)と云う(daß)事は(es)何等不思議な事(kein Wunder)ではない(ist)18. 僕は(ich)僕が(二つ目の ich)まだ(noch)一人の英国人とも(mit keinem Engländer)話したことは〔なか〕った(gesprochen hatte)にも拘わらず(obgleich)英語で(auf englisch)言い廻すことを(mich auszudrücken)敢えてした(getraute mir)19. 子供が(ein Kind)独りきりで(ganz allein)自分の床の中で(in seinem Bette)眠らねばならない(schlafen muß)時には(wenn)その時には(so)彼は(es)恐れ(fürchtet sich)そして(und)自分の母の方へ〔=母を求めて〕(nach seiner Mutter)泣く(schreit)20. 何故に(warum)彼は(er)泥棒を(vor Dieben)恐れ(fürchtet sich)そして(und)玄関の扉を(die Haustür)まだ(noch)晩の前に(vor Abend)閉じるか(macht...zu)?――彼は(er)金持で(reich)ある(ist)から(weil)21. 私は(ich)彼の詞を(seiner Worte)まだ(noch)想い出す(erinnere mich);彼は(er)とても巧妙に(ganz schön)言い廻した(hat sich ausgedrückt)

【註】〔1〕見掛けた様な「気」がした、の意。
〔2〕schlief ein に就いては、既に、文法の方で、御承知のことと思うが、之れは「眠り込む」で、schlafen だけならば「眠る」即ち、「眠っている」で、動作と状態との差がある。

Saturday, October 14, 2023

英語読解のヒント(80)

80. as the case may be

基本表現と解説
  • Say "Yes" or "No" as the case may be. 「その場に合わせてイエスとかノーとかいいなさい」

イエスという場合もノーという場合も等しくある。どちらのケースになるかは状況次第、という含みである。考えられる選択肢が三つ以上ある場合は、whatever the case may be という表現も使われる。

例文1

The great Square of the Mariínski was alive with a moving, jostling throng, surging backwards and forwards before the steps of the Theatre like waves on a rock; a gay, well-dressed, chattering multitude, eager to present their tickets, or buy them as the case might be, and enter the gaping doors into the brilliantly lighted foyer beyond.

Olive M. Briggs, The Black Cross

マリンスキ大広場はうごめき、ひしめきあう群衆で活気づいていた。彼らは劇場入口の階段前で、岩を洗う波のように前後に揺れていた。陽気で、身なりのいい、おしゃべりのとまらない群衆は、ある者は切符を見せようとし、ある者は切符を買おうとした。そのあとは開かれた扉を抜け、そのむこうの明るく照らされた広間へと入っていった。

例文2

The greatest wisdom, in matrimony as in politics, consists in knowing how to accept accomplished facts and make the best of them. Not only should you do so in the case of important facts, such as the discovery of shortcomings and defects in your husband or in your wife, as the case may be, but in the smallest details of everyday life.

Max O'Rell, Between Ourselves

政治においてと同様、結婚生活においても、成功のいちばんの秘訣は、もうどうしようもない事実を受け入れ、それにできるだけうまく対処することである。あなたが夫なら妻の、そしてあなたが妻なら夫の欠点や短所に気づいた、などという重大な事実を前にしたときのみならず、日常生活のほんのささいな出来事にたいしてもそういう態度を取るべきである。

例文3

She could talk Zulu — indeed, it turned out that she had run away from Zululand in T'Chaka's time — and she told me that all the people whom I had seen had died of fever. When they had died the other inhabitants of the kraal had taken the cattle and gone away, leaving the poor old woman, who was helpless from age and infirmity, to perish of starvation or disease, as the case might be.

H. Rider Haggard, Long Odds

彼女はズールー語が話せた。じつは彼女はトゥチャカが治めるズールーランドから逃げてきたらしい。彼女が言うには、わたしが出会った人々はみな熱病で死んだそうだ。彼らが死ぬとほかの村人が牛を奪い、老齢のため身体が不自由なこの老婆を残してどこかへ行ってしまった。餓死しようが、病死しようが勝手にしろというわけだ。

Thursday, October 12, 2023

英語読解のヒント(79)

79. in case

基本表現と解説
  • I took a map with me in case it might be useful. 「役立つかもしれないと思って地図を持っていった」
  • I took a map with me in case I should lose my way. 「道に迷わないように地図を持っていった」

in case は「ある場合に備えて」という意味。最初の例文は supposing that 「……と思って」に置き換えられ、あとの例文は fearing that 「……だと困るから」に置き換えられる。

例文1

For a moment I thought of following him, in case there might be something interesting in the parcel. But I had to decide in a moment, and I decided on trying the room.

Arthur Morrison, "The Case of the Dixon Torpedo"

とっさにわたしは彼のあとをつけようかと思った。あの包みの中に面白いものが入っているのかもしれないからだ。しかし一瞬のうちに決断しなければならなかったわたしは、部屋を調べることにした。

例文2

His wife was then questioned; while, at the same moment, two Indians stood threatening the two children with tomahawks, in case she did not confess.

James K. Paulding, "Murderer's Creek"

つぎに彼の妻が調べられた。同時に二人のインディアンが二人の子供の前に斧をかざした。白状しなかった場合はこうしてくれるという脅しである。

例文3

They parted there — Mrs. Michelson previously informing Miss Halcombe of her address, in case they might wish to communicate at a future period.

Wilkie Collins, The Woman in White

かれらはそこで別れた。ミセス・マイケルソンは将来連絡を取りたいと思うことがあるかもしれないと、前もってミス・ハルカムに住所を教えてあった。

Sunday, October 8, 2023

英語読解のヒント(78)

78. the case

基本表現と解説
  • It is far from being the case. 「それはけっしてそうではない」

the case が「真相」「事情」「事実」の意味になることがある。また as is often the case with... の形で「……にはよくあるのだが」という意味になる。

例文1

As is always the case, I found, when I could not get any water, I was thirstier than I supposed I was.

Frederick Swartwout Cozzens, The Sparrowgrass Papers

こういうときはいつもそうなのだが、そのときも水がないとわかるや、わたしは実際以上に喉が乾いているような気がした。

例文2

James was familiar with every part of the fording-place, and when the water was low, which was the case at this time, there was no danger in crossing.

Charles J. Barnes and J. Marshall Hawkes, New National Fourth Reader

ジェイムズは渡場のあらゆる部分をよく知っていた。だからちょうどそのときのように水が少なければ、渡るのになんら危険はなかった。

例文3

That earnest air, that placid face, seemed to bear conviction to those who heard, and it might not be going too far to say that such might have been the case had he been conversing in a foreign tongue.

May Evelyn Skiles, A Singular Metamorphosis

その真剣な様子、穏やかな顔つき、それが彼の確信を聞く者の胸に伝えた。たぶんこう言っても過言ではない。つまり、もしも彼が外国語を話していたとしても彼の確信が伝わっていただろう、と。

Friday, October 6, 2023

英語読解のヒント(77)

77. don't care if

基本表現と解説
  • I don't care if I go. 「わたしは行ってもかまわないよ」

「かまわない」という意味からさらに進んで「喜んで行く」の意味にもなる。don't mind if の形も用いられる。

例文1

"To tell you a truth, Master Thornhill, I never either loved you or liked you, and I don't care if I tell you now a piece of my mind."

Oliver Goldsmith, The Vicar of Wakefield

「正直に言うと、ソーンヒルさま、わたしはあなたを愛してもいないし、好きでもありません。だから遠慮なく言わせてもらいます」

例文2

"Are you going up to the Cripples, Fagin?" cried the little man, calling after him. "Stop! I don't mind if I have a drop there with you!"

Charles Dickens, Oliver Twist

その小男は彼の背中にむかって呼びかけた。「フェーギン、足なえ亭に行くのか? 待てよ。おれも貴様と一杯やってもいいぜ」

例文3

 "Then you can take him to his parents?" asked the mason who had listened with real interest to the little boy's account.
 "I don't care if I do," replied he; "it's the way I'm going."

Émile Souvestre, An Attic Philosopher in Paris

 さっきから興味津々、子供の話を聞いていた左官は「ならこいつをうちに連れて行ってやれるな」と言った。
 「うん、いいよ。どうせそっちに行くんだから」と彼は答えた。

Tuesday, October 3, 2023

英語読解のヒント(76)

76. can scarcely be exaggerated / overestimated

基本表現と解説
  • Its importance can scarcely be exaggerated. 「その重要性はいくら誇張しても誇張しすぎることはない」
  • Its importance can hardly be overestimated. 「その重要性はいくら過大に評価してもしすぎることはない」
  • It is difficult to speak in terms of too high praise of his merits. 「彼の功績はどれほど賞賛してもなお足らない心地がする」

「どれほど……しても……しすぎることはない」という言い方にはさまざまなヴァリエーションがある。

例文1

The importance of scientific cookery can hardly be exaggerated.

Philip Gilbert Hamerton, The Intellectual Life

科学的料理法の重要さは、ほとんど誇張することができないほどである。

例文2

It is indeed scarcely possible to overestimate the importance of training the young to virtuous habits. In them they are the easiest formed, and when formed, they last for life; like letters cut on the bark of a tree, they grow and widen with age.

A. R. Calhoon, How to Ge on in the World

青年によい習慣を身につけさせることの重要性はいくら過大に評価してもしすぎることはない。青年はよい習慣をもっともたやすく身につけ、いったん身につけるとそれは生涯つづく。樹に刻んだ文字のように、よい習慣は年とともに大きく、太くなっていく。

例文3

There was once upon a time an old man and an old woman, and they had two orphan grandchildren so lovely, gentle, and good, that the old man and the old woman could not love them enough.

R. Nisbet Bain, Russian Fairy Tales

むかしむかし、おじいさんとおばあさんがおりました。彼らには親のない孫が二人いました。とても愛らしく、物静かで、心だてがよかったものですから、おじいさんとおばあさんはいくら二人を愛しても愛したりないような気分でした。

英語読解のヒント(111)

111. never so / ever so (1) 基本表現と解説 He looked never so healthy. 「彼がそのように健康そうに見えたことは今までになかった」 He looked ever so healthy. 「彼はじつに健康そうに見...