Sunday, May 29, 2022

差別や偏見の問題は簡単じゃない

元総理大臣が女性蔑視の発言をして世界から批判され、なんとかいうユーチューバーがホームレスを嘲弄し、謝罪に追い込まれた。偏見、差別は人間のメンタリティに深く根ざしており、アイデンティティの形成にも大きな役目を果たしている。

だから偏見や差別を批判するのは簡単ではない。われわれが「当然」と思っているような考え方の中にそれが含まれているからである。これを剔抉して批判するには不断の反省が必要になる。

大西巨人が「神聖喜劇」というとてつもない小説を書いている。軍隊生活の細密な描写であり、東堂太郎が軍隊規則で以て軍隊の非道を正そうとする異様な物語であり、軍隊生活を通して社会にはびこる差別・偏見の問題を考え、鋭い考察を随所に秘めた傑作である。

その中に忘れられないエピソードがある。東堂が属する部隊の人間はときどきお互いに散髪をしあう。東堂はいつも友人に散髪を頼む。が、部隊にはもと床屋のおやじがいて、彼は東堂に「おれにまかせなよ」とよく言っていた。しかし東堂は躊躇し、結局彼に頼むことはない。なぜ東堂は躊躇したのか。他の人々は「おれにまかせなよ」と言われて喜んで床屋の主人に散髪をまかせるのに。

これと似たような状況はわれわれの日常にもある。ずっと以前、新幹線のなかで著名なお笑い芸人を見つけた客が、「なにか面白いこと言えよ」と要求したことがあった。人のいい芸人はそれに応えてなにか芸を披露したそうだが、この客の振る舞いはあきらかにおかしい。どこかに芸人に対する偏見や差別意識がある。東堂が床屋の主人に散髪を頼まなかったのも、この差別意識、あるいはその萌芽のようなものがそこにあると感じたからだ。

東堂ははっきりと差別意識があるとは言っていない。しかし差別であるかもしれない、ないし、それが差別とはべつものであるとはっきり認識できないのなら、自分は床屋の主人に散髪を頼むべきでないと考えたのである。

こういう微妙な心理の襞に分け入ってまで、われわれは差別と戦わなくてはならない。これは気が遠くなるような戦いである。しかし私は「神聖喜劇」を読んだ時点からこの戦いに引きずり込まれている。

Thursday, May 26, 2022

ジョゼフ・L・ブロトナー「政治小説」

ダブルデイ出版社は政治学入門シリーズという小冊子をたくさん出していて、ときどき政治学以外の識者からも寄稿を募っていた。これもその一冊で、文学畑の学者が政治小説を紹介したものである。これが以外に面白く、最初はなんの気もなしに目次だけ見ておこうと思ったのに、結局最後まで読んでしまった。べつにその分析に鋭いところがあるわけではないのだが、読書案内としては最高の出来である。小説がどれほど政治と深く関わっているかということもよくわかるだろう。


作者はアメリカ、イギリス、その他の地域の三つにわけて、それぞれの代表的政治小説を検討していく。たとえばアメリカの場合なら、ビーチャー夫人の「アンクル・トムの小屋」からはじまり、アルビオン・トゥルジェの「愚か者の任務」、ヘンリー・アダムズの「デモクラシー」(この本はいつか訳すかもしれない)、ジャック・ロンドンの「鉄の踵」、アプトン・シンクレアの社会問題を扱った小説群、ジョン・スタインベックの「疑わしい戦い」、シンクレア・ルイスの「ここで起きるわけがない」、ジョン・ドス・パソスの「若い男の冒険」、ヘミングウエイの「誰がために鐘は鳴る」、ジョージ・ウエラーの「柱のひび」、ノーマン・メイラーの「バーバリの岸辺」、ポール・ギャリコの「恐怖の審問」、ほかにもじつに多くの作品が言及され、その長所短所、読み所が解説されている。

イギリスのほうでは、ジョージ・エリオット、ヘンリー・ジェイムズ、ベンジャミン・ディズレーリ、アントニー・トロロープ、ジョージ・メレディスといった大御所が取り上げられるだけでなく、ミセス・ハンフリー・ウォードやハワード・スプリングなどあまり知られていない作家にも焦点を当てられている。

第四章は「国民性の鏡としての小説」と題され、イギリス、アメリカのみならず、イタリア、スペイン、フランス、ドイツ、ギリシャ、ロシア、南アフリカなど各国の特殊性が議論されている。正直、この部分は眉につばして読まなければならない。なにしろテーマの壮大さに比して記述が短すぎるし、取り扱う資料も少なすぎる。しかしここに引用された小説の一節はどれも読み応えがあった。それぞれ作者の洞察が白熱した言葉で語られ、その部分だけでも考えさせる力を持っている。

第五章は非常に参考になった。「集団的政治行為を分析する小説家」という題がついているが、ここでいう集団とは「ルンペンプロリタリアート」、「農夫」、「労働者」、「プロレタリアート」、「中流階級」、「富裕層」のことである。こうした区別は漠然としか意識していなかったが、この本のおかげでイメージがいっそうはっきりしてきた。非常にありがたい。いくつもの「小さな気づき」を与えてくれる小説案内としてすぐれていると思う。

本書はプロジェクト・グーテンバーグのサイトで手に入る。(The Political Novel by Joseph Blotner)

Tuesday, May 24, 2022

ウラジーミル・ナボコフ「目」

ロシア人の青年がボルシェビキ・ロシアを逃れてドイツに逃亡し、そこで家庭教師を営んでいた。本文中では名前をあげられていないこの男は、好きでもないマチルダという女と不倫関係にある。あるとき女房の火遊びに気づいたマチルダの夫が青年のもとにあらわれ、杖でさんざんに彼を打ちのめす。しかも彼が教えている子供たちの前で。青年は屈辱のあまりピストル自殺してしまう。


ここまではいいのだが、この先、物語は異様な展開をむかえる。青年は病院で意識を取り戻すのだが、「死んでも意識はそのまま継続するものらしい」と思いこむのだ。そして肉体を離れ、空中を浮遊する「目」となって孔雀通り五番地に住むロシア人一家を観察しはじめるのである。ヴァーンヤ、エヴゲーニャという姉妹、エヴゲーニャの夫フルシチョフ、親戚のマリアンナ、友人のロマーンとムーヒンとスムーロフ。これらの人々が「目」によって語られる物語の登場人物である。

このなかでも「目」がとりわけ執拗に注目するのがロシア人一家と最近知り合いになったスムーロフである。「目」は彼の人柄や、ヴァーンヤとの関係をひどく気にする。

さて、主人公が自殺し、「目」になるという展開も妙だが、物語を読み進めるとさらに妙なことに気づく。空中を浮遊する観察者となったはずの「目」が、普通の人間として登場人物たちと会話をしたりつきあったりしているのである。死んだのだから、生きてこの世を動きまわれるはずはないのだが、「目」は花屋で花を買ったり、とある男から手紙をふんだくったりしている。つまり「目」は死んではいないのだ。自分では死んだと思いこんでいるが、本当は普通に生きているのだ。そして本書の最後では「目」が誰であるのかが明かされる。

ナボコフらしい怪しい語り口の小説で、面白いとは言わないけれども、気になる作品にできあがっていると思う。近いうちにまた読み返すつもりだ。

Friday, May 20, 2022

マージェリー・ローレンス「クイア街七番地」

この本はずっと前から読みたかったので、手に入ったときは小躍りした。アルジャーノン・ブラックウッドのジョン・サイレンスものが好きな人なら、きっと興味を抱くであろう作品集である。十九世紀末から二十世紀初頭にかけて欧米ではスピリチュアリズムが大流行し、大勢の作家がその影響を受けた。わたしも降霊術とかが大好きで、イギリスに行くときは必ず心霊協会を訪ねることにしている。だからこの手の作品には目がないのだ。

「クイア街七番地」はこの作品集の主人公マイルズ・ペノウヤの住所である。彼は西洋のみならず東洋の心霊術も学び、霊界と交信ができる特殊な能力を身につけたらしい。その彼がさまざまな霊的事件を解決していく七編の物語が収められている。

第一話は「真鍮の扉」。中国で購入した真鍮の扉には古代中国の王妃の魂が宿っていて、それが扉を購入したイギリス人に取り憑き、妻との仲を裂こうとする。マイルズ・ペノウヤは王妃を扉の中から誘い出し、直接対決をする。この対決場面には異様な迫力があり、作者のこの作品集への力のいれ具合がよくわかる。

第二話は「幽霊と大聖堂」。建てられたばかりの大聖堂に、それを建てた建築家の亡霊と子供の亡霊があらわれ、信者が近づかなくなってしまった。そこでサイキック探偵マイルズ・ペノウヤに依頼が来るというわけである。これまた亡霊二人との対決場面は映画でも見ているようなスペクタクルシーンになっていて、マリー・コレーリを彷彿とさせる。そういえばマリー・コレーリもスピリチュアリズムに入れ込んでいた。

第三話は「エラ・マクラウド」。これは輪廻転生を扱ったもので、俗物貴族の女中をしているエラ・マクラウドと、彼女が怪我の手当をして助けてやった犬が、じつは古代ギリシャ時代の姉弟であったという物語。過去の自由で溌剌とした生と、現代の卑小なあり方が対比され、悲劇的な結末は読む人をしてしんみりさせる。

第四話は「白い蛇」。孤児院で子供たちが夜寝ていると、窓辺に白い蛇があらわれるようになった。院長に呼ばれて調査をはじめたマイルズ・ペノウヤはそれが蛇ではなく、孤児院の隣の家から庭を通り、壁をよじのぼる巨大な白い化け物であることに気づく。いったいこの異次元の化け物の正体はなんなのか。事件の背景には意外なメロドラマが隠されていた。

第五話は「ムーンチャイルド」。小さな私立学校に娘を通わせる、ある父親がマイルズに助けを求める。父親は学校の奇妙な授業と、そこに通い始めてからの娘の変化に心配をおぼえたのだ。マイルズはたちどころにそこが月を崇める悪の教団であることを突き止め、壊滅のための計画を練る。

第六話は「傷跡のある若者」。結婚を考えているある若者がマイルズのもとを訪ねてくる。彼は子供の頃から自分の腕にあらわれたり消えたりする不思議な傷跡のことで相談に来たのだ。それはまるで蛇のような形をしている。詳しく話を聞くと、若者にはいくつか不思議なところがあった。普段は都会の生活が大好きで、田舎の自然に囲まれた生活は嫌でたまらないのだが、しかし実際田舎にに行くと釣りや泳ぎやらじつに巧みにやってのけるのだ。そして彼は夢遊病者で、夜中にどこかへ出かけて行き、泥にまみれて帰って来る癖があった。そこでマイルズは、まず彼が夜中にどこへ行くのか、それを突き止めることにした。そこでわかったのはこれまたメロドラマじみた「過去」だった。

第七話は「妖精の男の子」。本篇ではパトリックというアイルランドからイギリスにやってきた男の子が主人公である。彼は音楽や絵画にすぐれているが、奇妙にませた口をきく少年だ。しかも底知れぬ悪意に満ちた物言いをする。そのため母親も、母親の姉も彼の振るまい方に不安と怖れを抱き、マイルズに相談に来るのである。マイルズは家庭教師として男の子の家に住み込み、彼を観察するのだが、彼が魔術をつかい、自分にいじわるをした相手にには大人であれ子供であれ報復をすることに気がついた。いったい彼は何者なのか……という筋である。話としてはいちばん面白く読めたけれど、ニューエイジ的な環境主義が露骨なところはいただけない。


物語はすべて奇怪な現象が提示され、それが起きるようになった背景的な物語が語られ、最後に異常が解消するというパターンを踏む。奇怪な現象はある物語(問題)の徴候であり、物語(問題)に決着をつけることによって、徴候は消え去るというわけだ。これは昔の精神分析の考え方である。つまり患者が示す不可解な症状は、内に秘められた精神的な問題の徴候であり、精神分析は問題を突き止め、それを患者に理解させることで徴候を解消するという考え方である。しかし実際はこうはいかない。いつまでたっても徴候は消えない場合が結構ある。それどころか患者自身が問題の在処を知悉しており、その解決法もわかっているという場合でも徴候は継続するのである。そういうことを知っている人間からするとこの casebook は少々単純な物語の寄せ集めのように見えてしまう。

しかしマージェリー・ローレンスの本を読むのはこれが二冊目だが、とにかく読みやすい英文を書く人だと思う。ほかにも作品が手に入れば間違いなく読むだろう。

Tuesday, May 17, 2022

ドナルド・ヘンダーソン・クラーク「せっかちな処女」(1931年)

作者はロマンスやミステリや脚本を書いて主に三十年代と四十年代に活躍した人である。わたしは初めて読む。

この作品のタイトルにある「せっかち impatient」には性的な意味がこめられていて、三十年代においてはスキャンダラスな響きを持っていたはずである。つまり古い道徳観への反発がこの本の主題になるのだろうとあたりをつけて読み始めた。


主人公はルース・ロビンというブロンドの美少女である。彼女は生まれてすぐに孤児となり、進歩的な考え方を持つ叔父によって育てられた。たとえば叔父はこんなことを彼女に教えた。いい結婚相手が見つかったら、その男と同棲生活を送ってみろ。それで気に入れば結婚すればいいし、不都合が見つかればやめればいい。今ならどうということもない考え方だが、この当時は「自由恋愛」と称して弾劾されるような性愛への態度である。しかしルースは叔父の教えに感化され、ある種ドライな女に育っていく。

高校を卒業し、叔父が亡くなると、ルースはそれまで育った田舎町を離れ、ニューヨークへ行こうとする。このあたりから彼女のまわりにさまざまな男どもが集まりはじめるが、ルースはじつに冷静に彼らに対処し、ときには法律すれすれの脅しまでつかって金を取ったり、利用したりする。ブロンドの美人というと、おつむが弱い女というステレオタイプが存在するが、彼女はそれとはまるでちがう。ほとんどフェム・フェタールのような狡猾さをそなえている。

しかし宗教的で古くさい考え方に縛られている田舎町においてこそ彼女はスキャンダラスな存在ではあるものの、ニューヨークのような大都会に来ると、彼女は有能な女と認められる。彼女はとある大会社の社長の秘書を務めていたのだが、給料を二倍にしてくれというと、社長は彼女の勤務態度、才腕に基づいて即座にその要求をのむくらいだ。さらにべつの男は彼女に女優の道をすすめる。やはり彼女の容姿だけでなく、その頭の切れとパーソナリティーに大物の素質を認めているのである。

その後彼女は妊娠し、医者に堕胎の相談をし、さらにシングルマザーとなる。あの当時では考えられないようなことをルースは次々とやってのけるのだ。

1930年代というのは一種の端境期であって、前時代的な考え方、つまりヴィクトリア朝的道徳観が一方にあり、また、そこから脱却しあらたな自由を求めようとする動きが他方にある時代だった。それはミステリを読んでいても頻繁にあらわれるテーマである。「せっかちな処女」もまずはそうした問題意識を共有している作品といっていい。いや、それをかなり過激に表現しているといってもいいだろう。そういう意味では面白いのだが、しかし読後感はなにかものたりなかった。過激さがものたりないというのではなく、なぜか最後までルースに共鳴できなかったのである。それよりも彼女にいろいろな智恵をつけた叔父ベンのほうが生き生きしていて印象に残った。

Saturday, May 14, 2022

新ドイツ語大講座 訳読編

第4課 猫の生態

解説:猫の生態を、そのもっとも印象的な面をとらえて、随筆風に説いたもの。内容は猫が人間のそばに寄りたがる理由、住居に執着する傾向、水をきらう性癖、水辺で小魚を捕らえる技術、猫の潔癖性、大小の用を便ずる際の特殊な好み、人の肩・木の枝・屋根の上など高い位置を好む理由、恋愛期における猫、母としての猫などである。

Die Katze

[1] Die Katze war und ist ein Raubtier. Ein Raubtier lebt einsam1, hat keine Freunde, will auch keine habe. Es ist sich selbst genug2. So sucht auch die Katze die Nähe der Menschen, nicht weil sie die Menschen liebt, sondern3 weil es dort schön warm ist. Denn nichts liebt dieses Kind des Südens so sehr wie4 die Wärme der Sonnenstrahlen oder des Ofens. Sie reibt sich5 an dir6 oder läßt sich auf deinem Schoß nieder7, weil sie etwas von deiner Wärme haben möchte. Wohlgemerkt8: nicht von deiner Herzens-, sondern von deiner Körperwärme9! Auch ist es ihr völlig gleichgültig, wer sie streichelt. Sie verlangt nie nach10 Liebkosung, sondern immer nach Wärme. Behaglichkeit und Wärme liebt sie über alles11 und kümmert sich nichts um12 Menschenliebe und Menschenfreundschaft. Das ist es, was sie z.B.13 vom Hunde wesentlich unterscheidet14.

〕Die Katze 猫  Die Katze 猫は ein Raubtier 肉食獣 war で[かつて]あった und し ist [現在においてもそうで]ある。Ein Raubtier 肉食獣[というもの]は einsam 単独に lebt 生活する、keine Freunde 友を hat も[たない]、auch しまた keine [Freunde] 友を haben 持つことを will 欲[しない]。Es (ein Raubtier) 肉食獣は sich selbst genug 自適自足して ist いる。So たとえば auch die Katze 猫も die Nähe der Menschen 人間の近隣を sucht 求める(人間のそばにいたがる)、[それは] sie (die Katze) 猫が die Menschen 人間を liebt 愛する weil ため nicht ではなくて、sondern むしろ dort そこでは(人間のそばにいると) schön とても warm 暖かく ist ある weil から[である]。Denn なぜならば dieses Kind des Südens この南国児(暑い南方から来たこの動物)は nichts なにものをも die Wärme der Sonnenstrahlen oder des Ofens 日光または暖炉の暖かさ wie ほどに so sehr そんない liebt 好[まないからである](猫は南国の暑い地方から来たものだから、なにものにもまして日光や暖炉の暖かさを好む)。Sie 猫は an dir 君[のからだ]に reibt sich 自分をすりつけたり(きみのからだに自分のからだをすりつけたり) oder または auf deinem Schoß 君の膝の上に läßt sich......nieder 腰をおろす(君の膝の上にとぐろをまいたりする)、sie 猫は etwas von deiner Wärme 君の暖かさのいくぶんかを haben möchte 得たいと思う weil から。Wohlgemerkt ただし:von deiner Herzens[wärme] きみの心の暖かさ[のいくぶんかを] nicht [得たいから]ではなくて、sondern むしろ von deiner Körperwärme 君のからだの暖かさ[のいくぶんを得たいからである](ここで注意を要することは、猫が君にからだをすりつけたり、君の膝の上に乗るのは、暖かさを求めてのことだが、それは君の心の暖かさではなくて、からだの暖かさであることだ)! Auch その上 wer だれが sie (Katze) 猫を streichelt 撫でるか es ということは ihr 猫にとって völlig まったく gleichgültig どうでもよい ist のである(自分を愛撫してくれる人がだれであろうと、猫は一向に意に介しない)。Sie 猫は nie 決して nach Liebkosung 愛撫を verlangt 求め[ない]、sondern むしろ immer つねに nach Wärme 暖かさを[求めるのである]。Sie 猫は über alles 一切をこえて(何物にもまして) Behaglichkeit und Wärme 快適(心地よさ)と暖かさを liebt 愛する und のであって um Menschenliebe und Menschenfreundschaft 人間の愛情や人間の友情については kümmert sicht nichts すこしも関心をはらわない Das この点が sie 猫を z.B. (=zum Beispiel) たとえば vom Hunde 犬から wesentlich 本質的に unterscheidet 区別する war ところの es 点 ist である(この点では猫は犬とは本質的に異なっている)。

〕【1】einsam = allein, vereinzelt 「単独で・独りで」。
【2】sich selbst genug = mit sich selbst zufrieden 「おのれに満足している」。だから Es ist sein eigener Freund. と言ってもよい。Ich bin mir selbst genug. 「私は自足の状態にある」でもわかるように、ここの sich は三格である。
【3】nicht......sondern 英語の not......but に相当する接続詞。これに似たものに nicht sowohl......als [vielmehr] がある。ついでに覚えておくこと:Sie hat mich nicht sowohl geküßt als vielmehr gebissen. 「彼女は私に接吻したというよりはむしろ噛みついたのだった」。
【4】nichts......so sehr wie...... この文章では否定詞が目的語になっているが、つぎの例のように主語が否定詞のこともある:Kein Tier ist so groß wie der Walfisch. 「いかなる動物も鯨ほど大きくはない・鯨ほど大きい動物はいない」。
【5】reibt sich sich reiben = to rub oneself 「からだをすりつける」。reiben の三要形:reiben, rieb, gerieben。
【6】dir 客観的な科学記事(たとえば動物学の書物など)なら Sie reibt sich an einem Menschen...... とでも言うところだが、本文は物語的効果をだすために、わざと読者を話中に引き入れたのである。ここは単数の du の形だが、複数の ihr (euer, euch, euch)でも Sie (Ihrer, Ihnen, Sie)でもよい。
【7】läßt sich......nieder sich niederlassen は人間ならば sich setzen 「腰をおろす」と同じだが、飛んでいる鳥とか蜂などについて言えば「降りてとまる」意味である。
【8】Wohlgemerkt これは「注意!」あるいは「ただし」という意の挿入語である。文法的には過去分詞であるが、過去分詞は命令法の一種として用いられるところから gemerkt は merke! 「注意せよ!」と同意で、それに「よく」(wohl)がついたもの。こういう場合にはラテン語の nota bene (= merke wohl!) もよく用いられる。
【9】Herzens-......Körperwärme Herzens- は Herzenswärme の省略。こういうふうに、どうせ直後にまたもう一度出てくる同語は - の印で略される。たとえば「白パンと黒パン」は Weißbrot und Schwarzbrot と言うかわりに Weiß- und Schwarzbrot という。
【10】verlangt......nach nach etwas verlangen = to have a great desire (longing, wish) for a thing, to hanker (crave) after (for) a thing.
【11】über alles = above (beyond) all things
【12】kümmert sich......um...... sich um etwas kümmern という熟語は「あることに心を用いる・あることを意に介する」という意味。したがって「ひとの世話をやくより自分の頭の蝿を追え」というのを Kümmern Sie sich um Ihre eigenen Angelegenheiten! とか Sie sollen sich um sich selbst kümmern などと言うのである。
【13】z.B. zum Beispiel 「たとえば」の省略形。
【14】unterscheidet 不規則動詞 scheiden に前綴 unter のついた非分離動詞。三要形:unterscheiden, unterschied, unterschieden。

[2] Die Katze hängt15 nicht so sehr am Menschen, als16 am Haus. Es ist ja eine bekannte Tatsache, daß es schwierig ist, mit Katzen umzuziehen17. Sie kehren meist wieder in das altgewohnte Haus zurück. Wie ganz anders ist der Hund! Ihm ist es ganz gleich18, wo er sich befindet, wenn er nur möglichst nahe bei seinem Herrn sein darf19.
 Die Katze haßt nichts so sehr wie20 das Wasser. Ihr Fell ist nämlich äußerst21 empfindlich gegen Nässe und Schmutz. Bei Regenwetter geht sie nie ins Freie22. Auch tritt sie freiwillig nie ins Wasser. Sie besitzt23 aber die fabelhafte24 Geschicklichkeit, Fische zu fangen25. Sie schlägt sie mit ihren Pranken vom Ufer aus geschickt heraus26, ohne ihr Fell zu bespritzen. Wie mancher Goldfisch ist auf diese Weise spurlos verschwunden27!

〕Die Katze 猫は so sehr そうたいして am Menschen 人間に hängt 愛着 nicht しないが、als むしろ am Haus 家に[愛着する](猫はどちらかといえば人よりも家の方に多く愛着を感ずる)。ja 言うまでもなく mit Katzen 猫をつれて umzuziehen 移転する es ということは schwierig 難事 ist である daß という Es ことは eine bekannte Tatsache 周知の事実 ist である。Sie (Katzen) かれらは meist たいていの場合 wieder またも in das altgewohnte Haus 古く住みなれた家へ kehren......zurück かえってくる。Wie ganz anders いかにまったく異なって der Hund 犬は ist あることよ(ところが犬はこれとまったく異なっている)! er (二番目の er) 犬は bei seinem Herrn 自分の主人のそばに möglichst できるだけ nahe 近く sein darf いることを許され wenn......nur さえすれば、er (一番目の er)自分が wo どこに sich befindet いるか es ということは Ihm 犬にとって ganz 全く gleich どうでもよいこと ist である。
 Die Katze 猫は nichts なにものをも so sehr wie das Wasser 水ほどには haßt きらわ[ない](猫にとっては何よりも水が禁物だ)。nämlich そのわけは Ihr Fell 猫の毛皮は gegen Nässe und Schmutz 湿潤と汚穢に対して äußerst きわめて empfindlich 敏感 ist だからである。Bei Regenwetter 雨天のさいには sie 猫は nie 決して ins Freie 戸外へ geht 出て行[かない]。Auch また sie 猫は freiwillig 自発的には nie 決して ins Wasser 水の中へ tritt 足を踏みいれ[ない](投げ込まれた場合はべつとして自ら進んで水の中へ入ることは決してない)。aber ところが Sie 猫は、Fische 魚を zu fangen 捕える die fabelhafte Geschicklichkeit 嘘のような巧妙さを besitzt もっている。Sie 猫は ihr Fell その毛皮を ohne......zu bespritzen 飛沫でぬらすことなしに、mit ihren Pranken その前脚をもって vom Ufer aus 岸から geschickt 巧みに sie (Fische) 魚を schlägt......heraus 打ち出す(水際にかまえていて魚が近よると前脚のつめで上手にひっかけてしまう)。Wie mancher Goldfisch いかに多くの金魚が auf diese Weise こういう方法で spurlos あとかたもなく ist......verschwunden 消え去ったことか(金魚鉢の金魚がこういうやり方でずいぶん猫にとられている)!

〕【15】hängt an jemandem hängen は「あるひとに愛着している」という成句で、英語なら to be greatly attached (devoted) to someone といったところ。人間のかわりに物をもってきて、たとえば am Geld hängen とすれば to be fond of [one's] money, to be a money-grubber 「金銭に執着する・私慾が深い・握り屋である」となる。
【16】nicht so sehr......als これは注3 で挙げた対照的接続詞 nicht sowohl......als [vielmehr] と同じもの。だから本文は Die Katze hängt sowohl am Menschen, als vielmehr am Haus. としてもよい。
後続文章の先行詞として用いられる es【17】Es ist ja......umzuziehen. この文章にはふたつの es があって、いずれも後続文章の先行詞として用いられている。最初の es は daß 以下をうける先行詞であり、第二の es は mit Katzen umzuziehen という zu を伴う不定句の先行詞である。この用法は es の用法中でも重要なもののひとつだから、二三の文例を挙げておこう。前の注で「紹介する際の es」(Wir sichteten am Horizont zwei Rauchfahnen. Es waren in der Tat deutsche Schlachtschiffe. 「地平線上にわれわれは二条の煙りがたなびくのを認めた。それは果たしてドイツの戦闘艦であった」)の用法を述べたが、この場合も用法は同じである。むしろ「後続文章の先行詞として用いられる es」は「紹介する際の es」の一種と考えてよいであろう:
 (1) Es sind die roten Blutkörperchen, die den Sauerstoff aus der Lunge bis zu jeder einzelnen Zelle tragen.
  酸素を肺から個々の細胞にまで運んでいくのは赤血球である。赤血球が酸素を肺から個々の細胞にまで運んでいくのだ。
 (2) Es ist nicht der Reichtum, der uns glücklich macht.
  われわれを幸福にするのは富ではない。
 以上の例でわかるように、述語名詞が複数なら、es の定形も複数になる。また後続文章に対して特に読者の注意を喚起しようとする時には es の代わりに das を用いる:
 (3) Das eben ist der Fluch der bösen Tat, daß sie, fortzeugend, immer Böses muß gebären. (Schiller: Wallenstein)
  悪業というものは、一度犯すと、つぎつぎと悪を重ねて作っていかねばならぬということ、これが悪業のたたりなのだ。
  (muß は文末にくるべきだが、韻の関係で位置を狂わせたのである)。
 それから、関係文が事柄を指す場合には、関係代名詞(述語名詞の性・数に制約される)は was を用いることも多い。たとえば文例(2) は次のようにも言うことができる:
 (4) Es ist nicht der Reichtum, was uns glücklich macht.
 umziehen の三要形:umziehen, zog um, umgezogen.
【18】Ihm ist es ganz gleich = Ihm ist es ganz gleichgültig (または einerlei)。この成句は次に必ず ob や wo などを先頭にすえた副文章を伴っている。
【19】wenn er nur......darf ここの nur は wenn といっしょに wenn nur = if only つまり「……しさえすれば」という成句である。
【20】nichts so sehr wie 注4 を参照すること。
副詞の絶対最高級 gehorsamst, äußerst, entschiedenst など【21】äußerst これは empfindlich という形容詞を修飾する副詞だが、すでに「基礎入門編」の§116 で習っているし、前の注でも説明してあるから、副詞の最高級は am -sten の形でなければならないことはわかっていると思う。本文のように最高級でありながら基本形のまま用いるのはある種の慣用的な単語(主として外交上の辞令)に限られる:
  gütigst どうぞ  gehorsamst おそれながら
  ergebenst 謹んで
 ところが本文の äußerst のように任意の副詞を -st の語尾のままで用いると「非常に……」の意味になる。この形の副詞を「絶対最高級」と呼んでいる:
  lieblichst singen とてもじょうずに歌う
  entschiedenst ablehnen だんことして拒否する
  furchtbarst regnen おそろしく雨が降る
これらのうち、höchst、äußerst は単に「非常に」「すこぶる」という副詞であるから、ごくふつうであるが、ほかのものはそうみだりに用いるべきではない。「非常に……」という場合にむしろ aufs -ste の形の方がふつうである。
  Sie sang aufs lieblichste.
  彼女はとてもじょうずに歌った。
  Er lehnte aufs entschiedenste ab.
  彼はだんこ拒否した。
  Er läuft aufs schnellste.
  彼はとても早く走る。
【22】ins Freie das Freie 「戸外・野外」は frei という形容詞を中性名詞化したもので、したがって格変化は「基礎入門編」の第23講で説いた規則にしたがう:ins Freie gehen = to go into the open air, to take open-air (outdoor) exercise, Bewegung im Freien = outdoor exercise.
【23】besitzt 三要形:besitzen, besaß, besessen.
【24】fabelhafte fabelhaft の元の意は「作り話のような・嘘みたいな」であるが、通俗には unglaublich 「信じがたいほどの」 wunderbar 「すばらしい」の意に用いられる。
【25】Fische zu fangen この「zu を伴う不定句」は先行する名詞 Geschicklichkeit を規定修飾することは訳であきらかと思う。この型の zu を伴う不定句については前注で詳しく説明しておいた。
【26】schlägt......heraus 三要形:herausschlagen, schlug heraus, herausgeschlagen. 「打って」(schlagen)「外へ出す」(heraus)という構成である。こういう語は自由に類造し得るものだから、前綴になる語句の意味をよくつかんでおく必要がある。
【27】verschwunden 三要形:verschwinden, verschwand, verschwunden.

[3] Ihr habt wohl schon oft gesehen, wie28 eine Katze über eine schmutzige Straße trippelt29. Sie macht unendliche Umwege um Pfützen und Schlamm, um nur ja30 nicht ihre Pfötchen31 zu bespritzen. Gerade so wie eine elegante Dame, die ihre Schuhe schonen möchte.
 Dieser Sinn für Sauberkeit hat die Katze zu einem angenehmen Hausgenossen gemacht. Stundenlang putzt sie ihr Fell, wo scheinbar gar nichts zu putzen ist32. Reicht die Zunge nicht hin33, so kommt auch noch die Pfote dazu. Deshalb haben gesunde, gut gehaltene Katzen nie Ungeziefer34 im Fell, während35 wir den Hund selten flohfrei halten können.

〕 eine Katze 一匹の猫が über eine schmutzige Straße 泥に汚れた街路を通って trippelt ちょこちょこ走る wie 有様を Ihr 君たちは wohl おそらく schon oft すでにいくども hat......gesehen 見たことがある[と思う]。Sie 猫は、 ja なんとかして ihre Pfötchen その前脚を um......nicht......zu bespritzen [泥水をはねかけて]けがさないため nur のみに(ただただ前脚を濡らしたくないばっかりに)、um Pfützen und Schlamm 水たまりや泥をさけて macht unendliche Umweg 際限のないまわり道をする(どんな遠いまわり道でもする)。Ihre Schuhe 自分の靴を schonen möchte たいせつにして汚すまいとする die ところの eine elegante Dame 粋な婦人 Gerade so wie とちょうど同じように。
 Dieser Sinn für Sauberkeit この清潔に対するセンス(この潔癖性)が die Katze 猫を zu einem angenehmen Hausgenossen 好ましい家族の一員に hat......gemacht なしたのである(猫にこういう綺麗ずきな性質があるので人に飼われて可愛がられるようになったのだ)。scheinbar ちょっと見たところでは gar nichts zu putzen ist ぜんぜん磨く必要がない[ように思われる] wo ところの ihr Fell その毛皮を sie 猫は Stundenlang いく時間も putzt 磨く(べつに汚れているらしくもないのに暇にまかせて毛をなめては磨きをかける)。die Zunge 舌が Reicht......nicht hin まにあわない[時には]、so その時には die Pfote 脚 auch noch までも kommt......dazu つけ加わる(舌でまにあわないと、脚までも使う)。Deshalb それ故に gesunde, gut gehaltene Katzen 健康でたいせつに飼われている猫は nie 決して Ungeziefer 虫を im Fell 毛のなかに haben 持[たない](毛に虱や蚤をわかすようなことはない)、während これに反して wir われわれは den Hund 犬を flohfrei 虱をわかさぬように halten können 飼うことができることは selten まれである。

事実描写の wie【28】wie jemanden gehen sehen 「ある人が行くのを見る」、jemanden sprechen hören 「あるひとが話すのを聞く」など、81頁の注58(「不定法とその四格主語」)で説明したように、ただちに不定法と結びついて助動詞的に用いられる動詞、および、erzählen 「物語る」、lesen 「読む」などの動詞は、次に目的語的従属文がくる時には、daß よりも wie を先置する方がふつうである。wie を先置するからといって「いかに……であるかを」なぞと、とくに方法だけに念を入れた意味はなく、「細部の看取」といった色彩が強いだけである:
 (1) Er sah, wie sie bei solchem Wetter sich auf die Straße wagte.
  彼は、彼女がそんな天候をものともせずに往来へ出ていくのを、見た。
 (2) Ich habe ihm erzählt, wie ich dich an der Perre zum Bahnsteig getroffen habe.
  私は彼に、私が君にプラットホームの入口のところで出会った、と話したよ。
 (3) Er las, wie von beiden Seiten die weitgehendsten Zugeständnisse gemacht worden sind.
  彼は、両方の側からもっとも広い譲歩がなされた(両者ともできる限りの歩み寄りをした)[という記事を]読んだ。
【29】trippelt trippeln は英語の to trip と同じく「ちょこちょこと早く歩く・小股で歩く」こと。
【30】ja nicht は、「決して……しない」という場合に用いる結合である。否定を強めるための ja と言ってもよかろう。
【31】Pfötchen 後で出る Pfote 「前脚」に対する Diminutiv 「縮小名詞」である。
【32】zu putzen ist 「zu を伴う不定法」が sein と結合する場合については前注(74頁第3 課注40)を見よ。
【33】Reicht die Zunge nicht hin この定形倒置文は wenn 文章のかわりである。すなわち、Wenn die Zunge nicht hinreicht とまったく同じものである。定形を倒置するのは、疑問文の場合、主語や定形以外の要素を文頭にすえる場合、副文章を先置する場合(「基礎入門編」§67)だけでなく、本文のように wenn を先頭にした副文章において wenn を省略した場合もある。hinreichen (または ausreichen)は「用が足りる」。
【34】Ungeziefer ここでは「のみ・しらみ・だに」のような虫を指しているが、広い意味に用いる時は鼠のような有害な小動物も含まれる。
【35】während 元来は「……するがBは……である」と二つの事実をならべてそのコントラストを出すときに中間に用いる。Ich liebe Stille und Einsamkeit, während mein Bruder immer Menschen um sich haben muß. 「わたしは静寂と孤独を愛するが、私の兄弟はいつも人間が身辺にいないと気がすまない性分だ」など。

[4] Um ihre Notdurft zu verrichten36, wählt sie sich gern einen Platz, wo sie ihre Ausscheidungen37 gleich zuscharren38 kann. Man tut deshalb gut39, der Katze ein Kistchen mit Sand oder weicher Erde hinzustellen. Sonst wird sie ein Sofa oder gar ein Bett für ihr Geschäftchen benutzen. Das ist nämlich ihr Instinkt, sich stets eine weiche Unterlage auszusuchen. Ihr kleines Geschäft erledigt sie mit Vorliebe im Spülstein. Auffallend ist dabei ein stark konservativer Sinn der Katze, die40 den einmal gewählten Platz nicht ohne Not ändert. Sie kommt sogar oft von draußen41 herein, um ihr Geschäftchen am gewohnten Platz verrichten zu können.

〕sie (第一の sie)猫は、 ihre Notdurft verrichten その必要事を果たす(大小便をする)Um......zu ために、sie (第二の sie)それが ihre Ausscheidungen 排泄物を gleich すぐに zuscharren kann 搔いて埋めることのできる wo ところの einen Platz ひとつの場所を gern 好んで wählt......sich 選ぶ(大小便をした後ですぐその上に土などをかけて蔽ってしまえるような場所をさがし出す)。deshalb それゆえ der Katze 猫に ein Kistchen (Kiste の縮小形) mit Sand oder weicher Erde 砂や柔らかい土のはいった小箱を hinzustellen あてがうと Man tut......gut よろしい。Sonst さもないと sie 猫は ein Sofa oder gar ein Bett ソファまたは[時には]ベットさえも für ihr Geschäftchen 小用のために wird......benutzen 利用するであろう。nämlich それと言うのは stets いつでも(用便の際はつねに) eine weiche Unterlage 柔らかい下敷を sich......auszusuchen さがし出す Das ということが ihr Instinkt 猫の本能 ist である[からだ]。sie 猫は mit Vorliebe とくに好んで im Spülstein 「流し」で Ihr kleines Geschäft 小用を erledigt すませる。dabei この場合 ein stark konservativer Sinn der Katze 猫の強い保守的な志向[というもの]が Auffallend ist 注目にあたいする、 die 猫は den einmal gewählten Platz 一度選んだ場所を ohne Not 必要がなければ nicht......ändert 変えない[からである]。Sie 猫は sogar それどころか、am gewohnten Platz 慣れた場所で um ihr Geschäftchen......verrichten zu können 小用を済ませんがために、 oft 時によると von draußen 戸外から kommt......herein [家の中へ]入ってくる[ことさえある]。

〕【36】ihre Notdurft......verrichten 「用をたす」である。大小を区別したい時は die große Notdurft, die kleine Notdurft と言う。あとですぐでてくるように、「小」用の方は ihr kleines Geschäft とか ihr Geschäftchen と言ってもよい。「用をたす」ついでに用をたす場所もすこし調べておこう。一番無難な場所は der Abort [ʔap’ɔrt] か der Abtritt である。die Latrine や das Klosett 「厠」もないではないが、紳士はあまり行かない。あるいは多少のユーモアをもって der Lokus には行くかもしれぬ。「化粧室」や「手洗所」へいく日本人は少しきざに見えるが、die Toilette、der Waschraum をさがすドイツ人は少しもきざでない。しゃれた男は der Wasserwerke はどこかなぞと聞くが、これは必ずしも水力電気や給水タンクを見学したいばかりでもないらしい。往来や会場などには öffentliche Bedürfnisanstalt といって、まるで官庁か学校のようなものが設けてあるから、これならだれでも入学できる。Bedürfnisanstalt もおいおい有名になってきたから、有名なものはどうしても自然に敬遠されがちで、少しつむじを曲げて Sitzanstalt ないし Hockanstalt を求める人もある。eine Sitzangelegenheit と言うと椅子か凭木(ひょうぎ)のようだが、それでも十分用をたすことができる。そもそも Stuhl 「椅子」と言えばすでにその事である。穴の開いたなどと言う必要はない。
「排泄」を表わす ab-【37】Ausscheidungen 「排泄」を表わすのに前綴の ab- が好んで用いられるから、ついでに二三の例を挙げておこう。Wasser abschlagen 「放尿する」の ab-、absondern 「分泌する」の ab-、Abführungsmittel 「下剤」の ab- を見れば、ab- に「排泄」の機能があることが分かろう。近ごろは塵芥と区別して、台所の残り物 Küchenabgänge または Küchenabfälle 「いもの皮やお茶かすやねぎの皮など」を集めにくるが、あれは豚などに食わせるものである。それから、煮物をしていると「あく」のような「泡」のような「うきかす」が浮く、それで匙でとり除きながら煮るのだが、この浮滓のことを Abschaum という。鉱山なら金滓である。「あく」は Ablauge という。また工場などから溝へ流している汚水または排水は Abwasser である。また自動車は、ことに発車のときは、いやな臭いのするガスを排泄するが、あれは Abgas である。「おなら」も人間の Abgas と言うわけ。人間の大勢集まる所ではたえず換気して frische Luft (これを Zuluft と言う)を入れ、Abluft を排泄しなければならない。人間も呼吸するたびに相当の Abluft を排泄しているわけで、閉めきった電車の中のあのたまらない悪臭は主としてこの Abluft の臭いなのである。食事の後には茶碗や皿を、要すれば湯で洗ってしまうが、流した後の湯(Spülwasser)も Abwasser、そのほか、残飯を Abhub と言うのも、成立は違うかもしれないが、成立後の語感としてはやはりこれらと似ている。「くず」という表現にはもちろん -sel の語尾があるが(Abgängsel, Füllsel, Feilsel, Fegsel, Nachbleibsel, Überbleibsel, Schnipsel, Ausfegsel, Häcksel, Schabsel など)、また Abfall をつけてもよい:Metallabfälle と言えば工場で生ずる金属の鑢くず(Feilsel)など、Küchenabfälle と言えば前述の台所の残り物である。
「開ける」 auf- と「閉める」 zu-【38】zuscharren これは scharren 「搔いて」 zu 「埋める」という構成の分離動詞。この場合の分離前綴 zu- は auf- と対照するもので、「開ける」の auf- にたいして zu- は「閉める」という意味である:
 auftun --- zutun aufklappen --- zuklappen
 開ける        閉める      ぱたんと開ける        ぱたんと閉める
 aufschließen--- zuschließen aufschieben --- zuschieben
 開ける        閉める      押し開ける          押して閉める
 aufgehen --- zugehen
 開く         閉める
【39】Man tut......gut 後にくる関係文との連絡をつけるために Man tut......gut daran としてもよいが、daran はいれない場合が多い。これとまちがいやすい句に、「……した方がよい」という意味を表わすために besser を用いた句がある。たとえば「行った方がよいでしょう」は Es ist (wäre) besser hinzugehen. であり、「黙っていた方がよいでしょう」なら Sie hätten besser getan zu schweigen. (Sie hätten besser geschwiegen.) と言うが、gut tun も同じである。
【40】die 前に(65頁第3 課注15)述べたように関係代名詞 die は後続的である。
【41】von draußen draußen は「戸外」、drinnen は「屋内」。

[5] Die Katze bevorzugt einen hochgelegenen Sitzplatz. Das kommt daher, daß sie ein Baumtier war. Gern klimmt42 sie ihrem Herrn auf die Schulter und sitzt dort ganz gemütlich. Um ihren gefährlichen Verfolger loszuwerden, klettert sie immer auf den nächsten Baum oder Zaun.  Da sie ein Baumtier ist, kann sie von großen Höhen abspringen. Dabei fällt sie stets auf die Füße43. Die Zoologen44 sagen, daß dieses Wunder durch die geschickte Wendung ihres Schwanzes bewirkt wird.

〕Die Katze 猫は einen hochgelegenen Sitzplatz 高い所にあるとまり場を bevorzugt とくに好む。Das このことは sie 猫が ein Baumtier 樹上動物 war であった daß という daher 事実から kommt 由来する。sie 猫は Gern 好んで ihrem Herrn auf die Schulter 主人の肩の上へ(自分の主人の肩の上へ) klimmt よじのぼる und そして dort そこに ganz きわめて gemütlich 居心地よく sitzt とまっている。sie 猫は ihren gefährlichen Verfolger 自分の危険な追跡者を Um......loszuwerden 逃れるために immer 常に auf den nächsten Baum oder Zaun 手近かにある樹木や垣の上へ klettert よじのぼる。
 sie (第一の sie) 猫は ein Baumtier 樹上動物 ist である Da から、sie (第二の sie) 猫は von großen Höhen ひじょうに高い所から kann......abspringen 跳び降りることができる。Dabei その際 sie 猫は stets 必ず fällt......auf die Füße 脚の上に降りる(降りても脚でちゃんと立つ)。Die Zoologen 動物学者たちは sagen 言っている dieses Wunder この奇蹟(この跳び降りの巧みな芸当)は durch die geschickte Wendung ihres Schwanzes 尾の巧みな振転によって(尾を巧みに振って平衡をとることによって) bewirkt wird 行われる daß のであると。

〕【42】klimmt 三要形:klimmen, klomm, geklommen. 時には規則的に klimmte, geklimmt となることもある。
【43】fällt......auf die Füße auf die Füße fallen は「落ちても(降りても)倒れずに立つ」という慣用句。
【44】Zoologen -log の語尾を有する名詞はギリシャ語からはいってきたもので男性弱変化名詞に属する:Philolog[e] 「言語学者」、Astrolog[e] 「星占師」、Demagog[e] 「民衆煽動者」。

[6] Zur Zeit der Liebe werden die Katzen ganz wild. Gärten und Dächer schallen wider45 von ihren leidenschaftlichen Liebesgesängen. Das ist ein schauerliches Konzert, das auch den tiefsten Schläfer46 erweckt. Du magst47 sie mit Steinen werfen, du magst sie mit Wasser bespritzen48, sie kümmern sich wenig darum. Sie verlegen ihre Liebesszene dann auf das andere Dach und zetern dort weiter. Müde und zerzaust49 kehren sie dann morgens50 nach Hause zurück, um am warmen Ofen den ganzen Tag zu verschlafen51 und sich für die nächste Nacht zu stärken.

〕Zur Zeit der Liebe 恋の時期には(交尾期には) die Katzen 猫は ganz ひじょうに werden......wild 凶暴になる。Gärten und Dächer 庭や屋根は von ihren leidenschaftlichen Liebesgesängen かれらの激情的な恋の歌のために schallen wider 鳴りわたる。Das これは auch den tiefsten Schläfer 最も深い睡眠者をも(どんなに熟睡している人でも) erweckt 目ざめさせる das ところの ein schauerliches Konzert ものすごいコンサート ist である。Du 君は sie (Katzen) かれらに mit Steinen werfen 石を投げつけて magst みるがよい、du 君は sie かれらに mit Wasser bespritzen 水をかけて magst みるがよい、sie かれらは wenig ほとんど darum そんなことを kümmern sich 意に介[しない](石を投げつけられようが、水をかけられようが、いっこうにとんちゃくしない)。dann そんな場合には Sie かれらは ihre Liebesszene かれらのラヴ・シーンを auf das andere Dach ほかの屋根へ verlegen 移す und そして dort そこで zetern......weiter 叫びつづける(恋の讃歌をうたいつづける)。dann それから morgens 翌朝に[なると] sie かれらは Müde und zerzaust 疲れて[毛を]もみくちゃにして nach Hause 家へ kehren......zurück 帰ってくる、am warmen Ofen 暖かいストーブのそばで den ganzen Tag......verschlafen 昼中を寝てすごし und そして für die nächste Nacht つぎの夜のために sich......verstärken 鋭気を養う um......zu ために。

〕【45】schallen wider von etwas widerschallen = to resound with something 「あるものから反響する・こだまする」。widerschallen は widerhallen と言ってもよい。ここで分離前綴の wider が文末に行っていないのは、前置詞を伴う句を後にもってくる時(強調したり、長い規定を伴う際)には、その前置詞を外にはみ出させる習慣があるからである。
形容詞の最高級の認容的意味【46】auch den tiefsten Schläfer 「たとえ……といえども」の意を表わすために形容詞の最高級に sogar, selbst, auch などの助辞を添えるが、時にはこれらの助辞を添えないこともある:
 (1) Der kühnste Unternehmer wäre nicht auf diesen Gedanken gekommen.
 たとえどれほど思いきった起業家といえどもそんなことは考えまい。
 (2) Er tat Dinge, die man mit dem besten Willen nur verschroben nennen konnte.
 どんなに善意に解釈してもつむじ曲りとしか言いようのないようなことをいくつも彼はしでかした。
 (3) Das Fräulein war so überaus tugendsam, zartsinnig und verschämt, daß auch die entfernteste Beziehung auf die Verhältnisse, durch welche wir entstehen und werden, sie tief verletzen konnte.
 そのお嬢さんはとても品行が正しく、心が繊細な上に、大の恥かしがり屋だったので、われわれ人間が生れる事情などにほんのちょっとでも触れたら、ひどく感情を傷つけられるのであった。
 ついでに心得ておく必要があるが、認容的な色彩は最高級の場合だけに限るものでなく、文脈のいかんであらゆる場合に見られる現象である。次例をよく味わってほしい:
 (4) „Hast du viele Gläubiger auf dem Hals?“ „Der Sand am Meere ist nichts dagegen.“
 君を苦しめてる借金取りはたくさんなのか?――浜のまさごも数ならずさ。
無関心な要求を表わす mögen【47】magst この mögen の用法については、「新ドイツ語の基礎」第28講の「要求話法」をもう一度読み返してみること。本文の場合は少しこまかくなって、「……するがよい」、「……したがよかろう」、「……するならせよ」といった無関心な要求を表わしている。無関心な要求といっても「純粋な要求」との差は紙ひとえ、たんなる程度の差にすぎない。無関心な要求には mögen の直接法(動詞の第一式接続法)を用いる。つぎの文例でこの用法になれてほしい:
 (1) Die Wissenschaft mag die Vernunft befriedigen, das Gemüt läßt sie leer.
 科学は理性を満足させるかも知れない、しかし情の方は放りぱなしだ。
 (2) Wir erleben und erkennen, solange wir wach sind, aber wir leben auch, wenn Geist und Sinne schlafen. Mag die Nacht alle Augen schließen, das Blut schläft nicht.
 われわれは、目が醒めている間は、体験し認識する。しかし、精神と感官が眠っている時でも、われわれは生きつづけている。夜がわれわれの眼を閉ざしても、血液は依然として眠らずに働いている。
 (3) Heirate ihn wer da mag, ich bin nicht für den ersten besten Freier da.
 誰でも結婚したい人は彼と結婚するがよいでしょう、わたしは求婚されたからといって手あたりしだい誰とでも結婚するような人間ではありません。
 (2) と (3) の例で倒置法を用いてあるが、実際は Es mag die Nacht alle Augen schließen......, Es heirate ihn wer da mag の形式上の主語 es が省略された形である。
 (4) Wenn er die Mühe scheut, so bleibe er hübsch zuhause.
 その労をとるのがいやなら(出ていくのがいやなら)、じっと家にいるがよかろう。
 (5) Er werde meinetwegen ein Minister oder was er sonst noch will.
 彼は大臣なりなんなり好きなものになるがよかろう。
【48】mit Steinen werfen, mit Wasser bespritzen 「あるひとに石を投げる」は Steine auf jemand werfen とも言うが、また人の方を四格にして jemanden mit Steinen werfen とも言う。この後の方の時にはふつうは be- という前綴を要するのであるが、werfen だけはその例外である。すなわち「あるひとに水の飛沫をかける」は Wasser auf jemand spritzen、人を四格にすると jemand mit Wasser bespritzen となる。
【49】zerzausen 「毛をかきむしる」。
【50】morgens は「朝方」で、morgen は「明日」(s の有無に注意)。
【51】verschlafen 「寝てすごす」、「眠りあかす」――この型の ver- という前綴りは「……あかす」「すごす」の意に用いられる:den Abend vertrinken 「晩を飲みあかす」、den Abend verplaudern 「晩を語りあかす」など。

[7] Als Mutter ist die Katze geradezu rührend. Ihre 4 bis 6 Jungen betreut sie mit einer mustergültigen Liebe. Vorher sucht sie sich ein sicheres Versteck, sei es ein Bett, das gerade leer steht, oder52 eine Puppenschachtel auf dem Boden. Wenn ihr etwas verdächtig vorkommt, verlegt sie ihre Jungen in einen andern Schlupfwinkel. Sie spielt unermüdlich mit ihren Kleinen, und bald beginnt der Unterricht im Räuberhandwerk. Sie bringt ihnen gefangene Mäuse herbei, natürlich noch lebend53, und läßt sie dann vor ihnen springen, damit sie sich im Fangen üben können.
 Die mustergültige Mutterliebe der Katze kann sogar für verwaiste andere Jungtiere benutzt werden. Instinktmäßig bemuttert sie in dieser Zeit alles54, was man zu ihr bringt. Sogar junge Ratten zieht sie sorgsam auf! Aber wehe, wenn man den Tag verpaßt, an dem der Mutterinstinkt erlischt55! Prompt werden dann die Rattenjungen aufgefressen56.

〕 die Katze 猫は Als Mutter 母としては geradezu まことにもって rührend 感心な ist ものである。sie 猫は mit einer mustergültigen Liebe 模範的な愛情をもって Ihre 4 bis 6 Jungen 四匹ないし六匹の仔を betreut 養育する。Vorher 前もって sie 猫は ein sicheres Versteck 安全な隠れ場を sucht......sich 探しておく、es (Versteck) それが gerade ちょうど具合よく leer steht 空いている das ところの ein Bett 寝台 sei であろうと、oder あるいは eine Puppenschachtel auf dem Boden 屋根裏の人形箱 [sei] であろうと[かまわない]。ihr 猫にとって etwas 何かが verdächtig 疑わしく vorkommt 思われる Wenn 時には(何かうさん臭いと思うと)、sie 猫は ihre Jungen 仔猫たちを in einen andern Schlupfwinkel べつな隠れ場所へ verlegt 移す。Sie 猫は unermüdlich 倦むことなく mit ihren Kleinen 仔猫たちを相手に spielt 戯れる、und そして bald [そのうちに]やがて der Unterricht im Räuberhandwerk 掠奪商売の授業が beginnt 始まる。Sie 猫は ihnen (=ihren Kleinen) 仔猫たちに gefangene Mäuse 捕えられた鼠を bringt......herbei 持ってきてやる、natürlich 言うまでもなく noch lebend まだ生きている[ままで](母猫は仔猫たちに鼠を捕えてきてやる、それも生きたままの奴を)、und そして dann それから sie (第三の sie) 仔猫たちが im Fangen [鼠を]捕えることにおいて sich......üben können 練習することができる damit ために(仔猫たちに鼠捕りの練習をさせるために)、sie (第二の sie) その鼠を vor ihnen 仔猫たちの前で läßt......springen 跳び走らせる。
 Die mustergültige Mutterliebe der Katze 猫の模範的な母性愛は sogar それどころか für verwaiste andere Jungtiere 親を失った他の動物の仔にたいして[さえ]も kann......benutzt werden 利用されうる(利用することができる)。sie [母]猫は in dieser Zeit この時期においては man 人が zu ihr 母猫のところへ bringt 持っていく was ところの alles すべてのもの(どんな動物の仔を持っていてもそれ)を Instinktmäßig 本能的に bemuttert 母として世話をする。sie 母猫は sogar junge Ratten [時によると]鼠の仔でさえも sorgsam 入念に zieht......auf 育てあげる! Aber しかしながら den Tag......, an dem Mutterinstinkt erlischt [その日に]母性本能が消えるところのその日(母性本能の消失する日)を man ひとが verpaßt 逸する wenn ならば(うっかり忘れると)、wehe 禍なるかな!(さあ大変!) dann その時には(母性本能が消失すると) Prompt 即座に die Rattenjungen 鼠の仔たちは werden......aufgefressen 喰い平げられてしまう!

無選択の態度を表わす認容文「それは甲であれ、乙であれ」【52】sei es......oder これは「甲であれ、あるいは乙であれ」という無選択の態度を表わす認容文であって、下のごとくいろいろな形式がある。助詞として nun を伴うことがよくあるから、ついでに記憶しておくこと:
 A. es sei nun wahr oder falsch
  それは真実であれ嘘であれ
 B. sei es nun wahr oder falsch
  (同上)
 C. es mag nun wahr sein oder falsch
  (同上)
 D. ob mit Recht oder mit Unrecht
  それが当然のことであれ不当のことであれ
 E. einerlei ob mit Recht oder mit Unrecht
  (同上)
 F. Gleichviel ob mit Recht oder mit Unrecht
  (同上)
 G. gleichviel auf welche Weise
  どんな方法によってであれ
 次に上の形式を用いた文例をいくつか挙げておこう:
 (1) Das war ein trefflicher Gedanke, er sei nun im Feuer des Augenblicks entstanden oder planmäßig vorbereitet gewesen.
  それは大急ぎの際にあわただしく産れたものであれ、あるいは前から計画していたものであれ、とにかくすばらしい考えであった。
 (2) Der Staat ist zunächst Macht, um sich zu behaupten; seine Gesetze müssen gehalten werden, ob gern oder ungern.
  国家というものはまず第一に、自己[の独立]を主張するための、権力である。[したがって]国家の法規は、好むと好まざるとにかかわらず、守らなくてはならない。
 (3) Alle Körper, gleichviel (einerlei) ob leblos oder belebt, streben nach dem Zentrum der Erde.
  あらゆる物体は、無生物たると生物たるとを問わず、地球の中心に向かう傾向をもっている。
 (4) Ach, könnte ich doch nur eine Stellung finden, gleichviel welche!
  どんな口でもいい、働き口が見つかるといいのだがなあ!
【53】natürlich noch lebend この句は前注で詳しく説明した述語句で、しかも Mäuse, die natürlich noch lebend sind と書きかえられるのでも明らかなように、名詞付加的(adnominal)な用法である。
【54】alles ここはもちろん、猫以外のほかの動物の仔のことである。動物の仔でも人間と同様に生きものであるから、無生物扱いにするのは変だが、動物はおろか人間を指す場合でも、個人を無視して指すときには中性にする。「生きとし生けるもの」は Alles, was lebt とか Alles was atmet とか言うし、また「女」のことを was lange Haare trägt (長い頭髪をもてるもの)と言うのなども同じである。
【55】erlischt 三要形:erlöschen, erlosch, erloschen.
【56】aufgefressen 三要形:auffressen, fraß auf, aufgefressen.

Wednesday, May 11, 2022

英語読解のヒント(9)

9. all + 複数名詞

基本表現と解説
  • to be all ears 「全身を耳にして」
  • to be all eyes 「目を皿のようにして」
  • to be all thumbs 「不器用で」
  • to be all smiles 「喜色満面で」
  • to be all bones 「骨と皮ばかりで」
  • to be all nerves 「びくびくしている」

all に続いて、おもに身体の一部を示す語が複数形で用いられる慣用的な表現がある。

例文1

You were an ugly little wretch when you came to Castlewood — you were all eyes, like a young crow.

William Makepeace Thackeray, The History of Henry Esmond, Esq.

おまえがキャッスルウッドへ来たときは、みっともないガキだったよ。カラスのひなみたいに目玉ばっかりぎょろぎょろしててさ。

例文2

One morning she went forth to pay her visits, all smiles, such as she thought captivating: she returned, all tears, such as she thought no less endearing.

Elizabeth Inchbald, Nature and Art

ある朝、彼女は訪問に出かけた。この笑顔なら魅力的だろうと彼女が思う、にこやかな笑みを満面に浮かべて。帰って来たときは涙にかきくれていた。こういう泣き方なら朝の笑顔に負けないくらい魅力的だろうと彼女が思う泣き方をしながら。

例文3

He, poor man, was all bows, and scrapes and pretty speeches....

Maria Dinah Craik, John Halifax, Gentleman

かわいそうに彼は一生懸命お辞儀をしたり、足ずりをしたり、お世辞を言ったりしていた。

Sunday, May 8, 2022

英語読解のヒント(8)

8. when all is said and done

基本表現と解説
  • when all is said
  • when all is said and done
  • after all is said and done

いずれも「結局」「要するに」「なんといっても」といった意味。

例文1

But when all is said, he was not the man to lead armaments of war, or direct the councils of a State.

R. L. Stevenson, New Arabian Nights

しかし結局のところ、彼は軍隊を指揮したり、国政を左右するていの人物ではなかった。

例文2

So, when all was said and done, whether kidnapped, as I preferred to believe, or in hiding, as the police suspected, Bérangère was nowhere to be found.

Maurice Leblanc, The Three Eyes (translated by Alexander Teixeira de Mattos)

そういうわけで、わたしが考えるように誘拐されたにしろ、警察が見込んでいるように隠れているにしろ、結局のところベランジェールはどこにも見つからなかった。

例文3

My eldest brother had a son eighteen years old, and I had two stout boys of my own. These would have been of great assistance at such times, in using the sweeps, as well as afterward in fishing — but, somehow, although we ran the risk ourselves, we had not the heart to let the young ones get into the danger — for, after all is said and done, it was a horrible danger, and that is the truth.

E. A. Poe, "A Descent into the Maelstorom"

兄貴には十八になる息子がおりました。わたしにも逞しい身体をした息子が二人いました。かれらがそんなときにいれば、櫂を漕いだり、あとで魚をとるときに役に立ってくれたでしょう。しかしどういうものか、自分らは危険を冒しても、若い連中に剣呑なまねをさせることはできませんでしたなあ。なんといったって恐ろしくあぶないんですから。いや、ほんとうに。

Thursday, May 5, 2022

英語読解のヒント(7)

7. against

基本表現と解説
  • The tall tower stood out boldly against the clear evening sky. 「その高い塔は晴れた夕空を背景にくっきりとあらわれた」

against は「背景」を指示することがある。

例文1

...nothing could be seen from the windows but a vast, white sheet, against which the smoke of the locomotive had a grayish aspect.

Jules Verne, Around the World in Eighty Days (translated by G. M. Towle)

……窓の外には茫々たる雪景色だけが広がっていた。その雪を背景にして汽車の煙がねずみ色っぽく見えた。

 ここでの「窓」は汽車の「車窓」.

例文2

The shepherd's dog barked fiercely when one of these alien-looking men appeared on the upland, dark against the early winter sunset....

George Eliot, Silas Marner.

このうさんくさげな連中の一人が、早い冬の夕日を背負って高台の上に黒く姿をあらわしたとき、羊飼いの犬ははげしく吠えた。

例文3

The boy held the tiller, while against the red glare of the furnace I could see old Smith, stripped to the waist, and shovelling coals for dear life.

Arthur Conan Doyle, The Sign of Four

少年は舵柄を握っており、真っ赤に燃える炉の前には上半身裸になって必死に石炭をくべているスミス老人の姿が見えた。

Monday, May 2, 2022

ガイ・エンドア「思うに女は……」(1933)

ガイ・エンドアは「パリの狼男」やデュマの伝記「パリの王様」で有名な作家。娯楽的な作品を書いているのかと思ったら、案外深みがあって、思わず頁をめくるのをやめ、考え込むことが幾度かあった。本作「思うに女は……」は殺人事件にフロイト的な精神分析をからめた興味深い物語になっている。

本書は二部構成になっていて、第一部は結婚しているある若い女が(名前は明示されていない)高価なピンを万引きし、殺人を犯し、逮捕されるまでの経過を記した手記。彼女は精神分析医を夫にもち、彼の所持する文献などを読み、精神分析に興味を持っている。そして自分の奇怪な窃盗癖や妄想について分析をしはじめるのだ。しかし話が展開するうちにどこまでが現実で、どこからが幻想なのか、だんだん判然としなくなってくる。

第二部では第一部の手記が殺人事件の裁判に提出された資料の一つであることがわかる。まず三人の医者が第一部の手記をもとにその語り手を分析する。そのあとにはふたたび第一部の語り手による二つ目の手記がはさまれる。これは裁判の様子を記したものなのだが、ここが本作の白眉だ。そこでは彼女の夫が第一部の手記を手掛かりに真犯人を指摘しているのである。その結果、彼女は無罪となる。

まさかこんな話の展開になるとはわたしも思っていなかった。あれだけ現実と妄想が交錯した手記をもとに推理を展開するとは! 推理に納得がいくかと聞かれれば、ちょっとどうかと思うところが、正直、あるけれど。しかしガイ・エンドアは確かに面白い物語を作る人だ。

精神分析は分析者と被分析者のあいだに転移が生じ、両者の無意識がつながるという奇怪な地点からはじまる。そのため他者の分析は自己の分析という事態が生じるのだが、本作はそれを小説の形で表現してみせたわけである。二十世紀の中頃はアメリカで精神分析がはやり、フロイト的な考え方を取り込んだ文学作品もだいぶ書かれたのだが、本作もその一つといっていいだろう。


英語読解のヒント(111)

111. never so / ever so (1) 基本表現と解説 He looked never so healthy. 「彼がそのように健康そうに見えたことは今までになかった」 He looked ever so healthy. 「彼はじつに健康そうに見...