Saturday, February 26, 2022

ゲーム実況者のための英語

NicoB さんの英語ははっきりいって聞き取りにくい。早口でかなり lazy mouth、しかもサブタイトルを読むとき、作中人物になりきってわざと声と高く出したり、怒らせたりするものだから余計に聞き取りにくい。それでもわたしが彼の放送を楽しみにしているのは、とにかく楽しいからである。また彼はコンテント・クリエイターとしてゲーム会社による彼らの活動への不当な介入に強く抗議する、熱血漢でもある。今回はダンス・ミニゲームの一部分を取り上げてみた。生きの良い英語だと思う。

Okay. Here we go.1
Oh yeah!
Go, Kiryu! Wow!
Oh my god. So smoking hot.2
Here we go.
Oh, I see. Okay.
Uh...uh...oh my god, it's...it's kind of3 hard, especially its timing.
Shit! Uh...
I'm doing the monkey4, guys.
It's really difficult.5
Goddam it. Oh why...why it's so difficult.
Ok, I'm getting a little bit better.6
Shit.

よっしゃ、いくぞ。
おお、すげえ!
行け、桐生、ウォウ!
ああ、まじで恰好いいな。
よし、はじまったぞ。
ああ、そういうことか、わかった。
ああ……ああ……ああ。こりゃ……けっこう難しいな。とくにタイミングが。
くそ! ああ……
みんな、モンキーダンスだぜ。
ほんとうに難しいよ。
ちくしょう、なんで……なんでこんなに難しいんだ。
よし、ちょっとなれてきた。
ああ、くそ(うまくいかなかった)。

1. Here we go. なにかを開始するときの「いくぞ」という言い方。
2. smoking hot 煙が出るほどホットである、かっこいいという意味。
3. kind of hard は、はっきり hard とは言えないが、でも hard な感じがする、というニュアンス。
4. do the monkey は「モンキーダンスをする」。腕を振るようすが猿の仕草に似ていることから。
5. really difficult さっきは kind of hard だったが、今度ははっきりと「難しい」と言っている。
6. get better は「よくなる」。「ヤクザ・ゼロ」のこのリズムゲームは慣れるまでちょっと時間が掛かる。

Wednesday, February 23, 2022

新ドイツ語大講座 訳読編

第1課 すばらしい儲け

解説:ある大金持の守銭奴と夫思いの妻との間に起こった一笑話。「毎年冬がくるたびに外套を新調するような贅沢をしなければこそ、わしはこれだけの金持になったのだ」一点張りで、古ぼけてよれよれになった外套一枚で押し通す守銭奴。夫の年齢や世間体を顧慮して暖かい外套を買わせようと苦心する妻。この二人が妥協点に達するためには、夫にとっては安い買物、つまり、すばらしい掘出し物を、妻にとっては暖かい上質の外套を、買うことが必要である。妻はある町の毛皮商と打合わせをして、千マルクの毛皮外套を二十マルクということにして、夫に買わせる。ところが妻の喜びもつかのま、つぎの日には夫はまたもとのよれよれの外套を着ている。おどろく妻に老守銭奴は得意満面で、じつはあの外套を昨日のうちに二百マルクで売った、と話してきかせる。守銭奴に言わせれば、二十マルクで買った外套を二百マルクで売ったのだから、すごい儲けである。妻にしてみれば、千マルクも出したものを二百マルクで手放されたうえに、またもとの古外套にもどられたのでは、泣くにも泣かれない気持である。――「新ドイツ語の基礎」をひととおり勉強した諸君にはらくに読める程度の独文である。訳を手引きにして地所をひいて研究してほしい。

Ein enormes Geschäft

[1] Es war1 einmal ein reicher Mann2, der3 trug4 trotz seines ungeheuren Reichtums5 nur einen alten, schmutzigen Mantel. Wenn6 sein Weib ihn bat7, sich doch einen neuen zu verschaffen, sagte er: „Ich denke8 nicht daran9; ich bin ja10 nur deshalb11 so reich geworden12, weil ich nicht13 jeden Winter einen neuen Mantel getragen14 habe15.“
 Da16 sann17 das Weib lange auf eine List, wie18 sie19 ihm einen neuen Mantel anschaffen20 sollte21.
 Eines Tages22 sagte sie zu ihrem Gatten23: „Weißt24 du was25, ich habe zufällig bei26 einem Pelzgeschäft einen sehr billigen Mantel gefunden27, er kostet nur zwanzig Mark28. Und ich glaube, er würde29 dir sehr gut stehen30.“

〕Ein enormes Geschäft すばらしい儲け
 einmal かつて ein reicher Mann ひとりの金持の男が Es war おりました、der その男は trotz seines ungeheuren Reichtums 彼の巨大な富にもかかわらず(途方もない財産家のくせに) nur einen alten, schmutzigen Mantel ただ一着の古い汚れた外套を trug 着ていました(外套といっては後にも先にも古く汚れたのが一着しかありませんでした)。sein Weib 彼の妻君が ihn 彼に、sich 自分[のため]に doch せめて einen neuen [Mantel] 一着の新しい[外套]を zu verschaffen 調達することを(それではあんまりですから新しいのをお買いになってくださいと) bat 願い wenn ますと[そのたびごとにきまって]、er 彼は sagte [つぎのように]答えるのでした:„Ich 私は daran そんなことなどは denke nicht 考えない(とんでもないことだ);jeden Winter 冬ごとに einen neuen Mantel ひとつの新しい外套を weil ich nicht......getragen habe 私が着なかったから[こそ](毎年冬がくるたびに新しい外套を買って着るような贅沢をしなかったからこそ)、nur deshalb ただそれゆえに(それだからこそ) ich 私は so reich こんな金持に bin......geworden なった ja のだよ。“
 Da そこで das Weib 妻君は、wie いかにして sie 彼女が ihm 彼に einen neuen Mantel 新しい外套を anschaffen sollte 調達してやるべきかの[夫に新しい外套を買わせる] eine List [何かうまい]策 auf がないかと lange 長い間 sann 思案をいたしました。
 Eines Tages ある日 sie 彼女は zu ihrem Gatten 彼女の夫に向かって sagte 申しました:„Weißt du was ねえあなた、ich わたしは zufällig 偶然に bei einem Pelzgeschäft ある毛皮商店で einen sehr billigen Mantel とても安い外套を habe......gefunden 見つけました、er その外套は nur zwanzig Mark ただ二十マルクだけ kostet 値がします(その値段は二十マルクにすぎません)。Und それに、er その外套は dir あなたに sehr gut とてもよく würde......stehen 似合うだろう[と] ich わたしは glaube 思いますの。“

〕【1】war 三要形:sein, war, gewesen.
Es war einmal...... 【2】これはお伽噺や回顧的小話の枕に使われる常套文句。おなじ意味で Vorzeiten war...... や In alten Zeiten war...... もよく使われる。主語がふたつ(es と ein reicher Mann)あることについては、「新ドイツ語の基礎」(講座上巻)125項「文の非人称化」をもう一度読み返してほしい。つまり、ことさら改まって、ひとつの現象、出来事または真理を紹介しようとする時にはよく贅語的な es を先頭にすえ、ほんとうの主語を後におくのである。この贅語的な es を文法上の主語(grammatisches Subjekt)と呼び、意味上の主語 ein reicher Mann を論理上の主語(logisches Subjekt)と呼ぶことも覚えなおしておくこと。なお einmal は本文のように「かつて・昔々」の意味の時はアクセントが mal にあり、したがって通俗的には mal だけで使われることが多い。これに反して「一度」「一回」の意味の時はアクセントは ein の方にある。
【3】der この der は指示代名詞で、関係代名詞ではない。後者の場合ならば定形の trug は文末にいくはずである。指示代名詞 der の変化・用法については「ドイツ文法の要点」(講座下巻)§2 を参照のこと。
【4】trug 三要形:tragen, trug, getragen.
【5】trotz seines ungeheuren Reichtums = trotzdem [daß] er ungeheuer reich war = obgleich er ungeheuer reich war. ungeheuren とせずに、r の前の e を省いて ungeheuren とした理由については「新ドイツ語の基礎」§57「形容詞に語尾をつける際の注意」を参照すること。
wenn と als の相違【6】Wenn sein Weib ihn bat als は「……した時に」と、過去に起こった一回かぎりの事実を述べる接続詞だが、wenn はつぎにくる動詞が過去であろうと現在であろうと、「もしも……すると」の意になり、したがって過去の事実を指す場合にも、何度もあったことを指すのである(sooft 「……するたびに」とおなじ)。
文章の短縮・省略としての不定句【7】bat 三要形:bitten, bat, gebeten. 「ある人にあることを請い求める・請願する」の意味では、本文のように einen bitten, etwas zu tun = to beg of (または to ask またはもっと強く to beseech あるいは to implorea person to do a thing の形を用いるか、または einen um etwas bitten = to ask a thing of a person (または to ask a person for a thing)の形(例:Ich bat ihn um die Erlaubnis, mich entfernen zu dürfen. = I asked him for leave to withdraw.)を用いるのがふつうである。なお sich doch......zu verschaffen なる zu を伴う不定句をつぎのように文章に書きなおすと、逐語訳から意訳への推移がよくわかると思う:Wenn sein Weib ihn bat, sich doch einen neuen zu verschaffen = Wenn sein Weib ihn bat, er möge sich doch einen neuen verschaffen. このように zu を伴う不定句は文章の短縮ないし省略と見なしてよい場合がある。参考のために以下数例を挙げておく:
 (1) 彼は私に、彼女を連れてこい、と命じた。
   Er befahl mir, sie abzuholen.
   Er befahl mir, daß ich sie abhole.
 (2) 彼は医者を連れてくるために家を出た。
   Er ging aus, um einen Arzt zu holen.
   Er ging aus, damit (または auf daß または daß) er einen Arzt hole.
 (3) 彼は私にいとまごいもせずに出かけて行った。
   Er ging fort, ohne von mir Abschied zu nehmen.
   Er ging fort, ohne daß er von mir Abschied genommen hatte (または hätte).
【8】denke 三要形:denken, dachte, gedacht.
Ich denke nicht daran 【9】これは an etwas (四格) denken 「あることに考え及ぶ」という一般的な成句の特殊な場合である。「私はそんなことに考え及ばぬ」であるが、語調からはむしろ Ich denke nicht im entferntesten daran. または Ich denke gar nicht daran. ぐらいに考えてよいところ。したがって俗語調に Denk' nicht dran! = I should not dream of it. と言ってもよかろうし、Wo denkst du nur hin? = What are you thinking about (または of)? または Woran denkst du? Wie kannst du daran denken? = How can you think of such a thing? と言ってもよかろう。
強い主観が働いたときに用いる ja 【10】この ja はしいて訳出する必要もないし、じじつ、一語として訳出することの困難な副詞である。「このことは誰でも承知のことだ」とか「このことは理の当然のことだ」といった強い主観が働いた時によく用いる助詞的な副詞:Das weiß ich ja. 「そんなことぐらい知ってるわ」。Es regnet ja! 「なんだ、雨が降ってるじゃないか!」Zwei und zwei macht ja vier. 「2と2なら4さ」など。つまり、ほぼ日本語の「じゃないか」、「だよ」、「さ」、「ですぜ」が ja である。
【11】nur deshalb......, weil...... weil だとか damit のような因由や目的を示す接続詞句の意味をとくに強調するために nur deshalb 「それだからこそ」という副詞を先行させたのであって、日本語してしいて訳出する必要はない。英語の場合でも Er tat es nur deshalb, weil...... = He did it only because...... とか Er schrieb deshalb, damit wir...... = He wrote so that we...... のように副詞をわざわざ先行させることはない。
【12】geworden 三要形:werden, wurde, geworden.
定形を打ち消す nicht の位置【13】ふつう nicht は否定の副詞といわれているが、用法の実際からみて前置詞的接続詞と言った方がよいのである。その証拠に名詞、形容詞および定形以外の動詞を打ち消す時には、原則として否定される言葉の前におかれるうえに、意味のうえでもたんに「Aではない」と言うだけでなく、「じつはBである」という余韻を裏に響かせているのである。はじめの間はこの点をあいまいにして、nicht はすべて動詞にかかるもののように読みたがるが、そのためにずいぶん珍妙な読み違いが生ずる。下の諸例で nicht にたいする感じを養ってほしい。定形が単一な動詞の場合は、否定の nicht は文末におかれる点は英語とはまったく違うから、とくに注意を要する。たとえば Er kommt nicht immer. と Er kommt immer nicht. を比較すると、上述の原則にしたがって、前の文では nicht はつぎの immer を打ち消しているから「彼は必ずしもこない」となり、後の文では nicht は文末に位し、定形は単一な動詞だから、nicht は定形の kommt を打ち消して「彼はいつもこない」となるわけである。以下の例で定形を打ち消す nicht とそうでない場合の nicht の用法の差を銘記してほしい:
〔A〕定形を打ち消す nicht の位置
 (1) Ich kenne diesen Herrn nicht.
   私はこの人を知らない。
 (2) Er liest den Roman, den ich ihm geliehen [habe], nicht.
   彼は、私が貸してやった小説を読まない。
 (3) Sein Betragen gefiel seinem Vorgesetzten, der als sehr strenger Beamter bekannt war und auf eine tadellose Disziplin hielt, nicht.
   彼の挙動は、非常に厳格な官吏として知られ完全無欠な規律を心がけていた彼の上官の気に入らなかった。
〔B〕定形以外の要素を打ち消す場合
 (1) Nicht ich habe es getan.
   それをしたのは私ではない。
 (2) Er ist nicht reich, sondern arm.
   彼は金持ではない、貧乏だ。
 (3) Ich habe es nicht bemerkt.
   私はそれを認めなかった。
 (4) Ich lebe nicht in Japan.
   私は日本には住まない。
 会話の場合など Verachten Sie ihn? 「あなたは彼を軽蔑しますか?」に対する答えとして Ich nicht. という形で答えるが、これは「私ではない」ではなく、「私は彼を軽蔑しない」すなわち Ich verachte ihn nicht. という意味で、簡潔を旨とするための省略法(Ellipse)である。Wird er kommen? 「彼はくるだろうか?」の答えとして Ich glaube nicht. と答える場合も Ich glaube, [er wird] nicht [kommen]. 「彼はこない、と私は思う」の意味で、「私は信じない」という場合と混同してはいけない。以上述べたところから、本文の nicht は直後の jeden Winter だけを打ち消していることが分かると思う。
【14】getragen 三要形:tragen, trug, getragen.
【15】habe 三要形:haben, hatte, gehabt.
心理的接近を示す da【16】Da 逐語訳では「そこで」と訳してあるが、これが空間概念を表しているのでないことは一目瞭然だと思う。「こういうわけで」に相当する「そこで」なのである。本来は場所の規定詞である da が、どうしてこういう因由を示す副詞に使われるかということについては――この意味の da が余りにもしばしば用いられるものであるだけに――da のもつ根本的な性格にまでさかのぼってその正体をはっきりさせておかないと分からない。まず順序として dort 「あそこに・かなたに」と hier 「ここに」とを片づけよう。この両者の間には距離関係があって、hier は自分に近いことをいい、dort は自分から相当距りのある時に用いる。つまり hier は「ここ」、dort は「かなた・あそこ」である。単に空間的な距りを表現するだけなら hier と dort でじゅうぶんなはずなのに、さらに da があるのはなぜか? da は「そこに・眼前に・まのあたりに・現在・現に」で、空間的にわれわれに接近していると否とにかかわらず、われわれの意識の間近かに迫っている時に用いるのである。Das Examen ist da! 「いよいよ試験がやってきたぞ!」Gott ist da. 「神は存在する」Er ist nicht da. 「彼は留守だ」Was sagst du da für dummes Zeug? 「君はまた何というばかなことを言うのだ!」Da! 「そら! ほら! それ見ろ!」つまり da は心理的接近を示す副詞であるから、場合によっては dort よりもかえって遠距離にあるものを指すことができる。たとえば、味方の艦隊がどこかに停泊しているとする。甲艦と乙艦は数丁の距離をおいている。すると甲艦の水兵は乙艦を指して Unser Freund ist dort. 「われわれの味方はあそこにいる」と言うことができる。ところが、数十マイルもかなたに哨戒に出ている偵察機から「敵艦見ゆ」との報告がくる。この時兵士たちは Der Feind ist da! 「敵が来た」と言う。この場合は、ほんの数丁しか離れていない友艦を指して dort といい、おそらくは数十マイルもかなたにいる敵艦を指して da と言うわけである。簡単にいうと、hier は空間的に近いことを意味し、da は心理的に近いことを意味する。そして dort は、空間的か心理的か、いずれかの意味において多少の距りがある時に用いるのである。本文のような説話的な物語の中で文頭に置かれている場合は、かならずしも一語として訳出するに及ばない。「そこで・それだから・かかる事情で・それから」といった背景がかすかに暗示されればよいのである。
【17】sann 三要形:sinnen, sann, gesonnen. auf etwas (四格) sinnen は慣用句で「あるものを得んとして・発見せんとして・の機会をねらって思いをこらす」ことである。一般にこの型の auf を関心または注意の目標を指す auf と呼んでいいと思う。適当の機会にいくつかの文例を挙げよう。
【18】wie 「いかにして彼女は彼に新しい外套を調達してやるべきか」という、wie を先頭にした従属文は直前の List という名詞の付加語になっている。die Frage, ob...... = the question whether......; der Grund, warum...... = the reason why......; unter der Bedingung, daß...... = on condition (または with the understanding) that...... などの結合形はひんぱんに用いられるものであるから、ついでに知っておくこと。
【19】sie 意味の上から sie が das Weib をうける人代名詞であることに気づいた読者ならば、das Weib という中性名詞を女性の代名詞でうけたわけもほぼ推量できたであろう。なるほど、原則としては代名詞は名詞の性にしたがうが、das Weib 「妻」とか das Fräulein 「令嬢・未婚婦人・ミス」とか das Mädchen 「少女」とかいった名詞は、これらの名詞にようって表されている「人間」の実際の性にしたがって代名詞の性を決定する場合もよくある。以上は女を表す名詞の例だが、男を表す名詞にも die Wache 「歩哨」とか die Memme 「ひきょう者」といった、名詞の文法上の性と実物とが一致しないものがあるが、やはり das Weib の場合とおなじように、これをうける代名詞は、文法上の性にしたがって sie としてもよければ、実際の性にしたがって er としてもよい。やかましく言うと、これらの性の決定が任意を許さない場合もあるが、それは微妙な語学の感じの問題になるので、詳細は「文法詳説編」§171 を参照すること。
【20】anschaffen 数行前の verschaffen とおなじ意味。
【21】sollte 三要形:sollen, sollte, gesollt. この話法の助動詞は三要形だけを見ると規則動詞とかわりはないが、直接法現在が不規則である(ich soll, du sollst, er soll)。「基礎入門編」87頁参照。
時間の概念の副詞 Genitivus absolutus【22】Eines Tages 時間概念の名詞を二格にして(これらを Genitivus absolutus 「独立二格」と呼ぶことができる)時の副詞に用いるものがかなり多いが、つぎに最もひんぱんに用いられるものを挙げておく:
 tags 日中に     sonnabends 土曜に
 mittags 正午に    sonntags 日曜に
 vormittags 午前に  anfangs 初めは
 nachmittags 午後に  tags zuvor その前日に
 morgens 朝      tags darauf その翌日に
 nachts 夜間は    tagsüber 日がな一日
 des Nachts 夜間は  damals その当時は
 abends 晩に     ehemals 以前は
 des Abends 晩に   öfters ひんぴんとして
 dieser Tage 最近、そのうちに  niemals 決して
 jemals いつか    nochmal[s] もう一度
 bereits すでに
なお、「文法詳説編」§89参照のこと。
【23】Gatten これは「基礎入門篇」55頁の「男性弱変化名詞」に属する名詞であるから、一格(Gatte)以外は全部 Gatten である。 【24】Weißt 三要形:wissen, wußte, gewußt.
Weißt du was?【25】Wissen Sie was? または Weißt du was? は一種の成句で、相手に何か新しいことを教えてやろうという時に文章の先頭に据えるので、べつに質疑の意味はなく、単に「時に君……」といったぐらいの意味である。例:Wissen Sie was? Sie sind doch ein unbegreiflicher Mensch. 「ねえ君、君はじつに不可解な男だね」。
前置詞 bei の意味の見分け方【26】bei einem Pelzgeschäft 「ある毛皮商人の店で」。bei という前置詞は時によっていろいろな意味になるが、それはそのつぎにくる名詞の種類によって判断できる。名詞には具体名詞(家、石、町、壁)、人名詞(父、母、友だち、商人)、時間の経過のある事件名詞(祭、戦、試験、死、読書)、空間をも時間をも占めない抽象名詞(性質、意味、寒さ、知識、美)の四大別を設けることができるから、それにしたがって bei の意味を示してみよう:
 (1) 具体名詞とともに「……のそば」:bei der Schule 「学校のそば」、beim Stuhl 「椅子のそばに」
 (2) 人名詞とともに「……のもとで・の家で」:bei mir 「私の宅に」、bei meinem Vater 「私の父のもとに」
 (3) 事件名詞とともに「……の際に」:beim Schreiben 「書く時に」、beim Examen 「試験の際に」、beim Krieg 「戦争の際に」
 (4) 抽象名詞とともに「……にもかかわらず」「もし……ならば」または「……であるから」:bei seiner Weisheit 「彼の賢明さにもかかわらず」、「彼のごとき賢明さをもってすれば」、「彼は賢明であったから」、bei dieser Hitze 「この暑さにもかかわらず」、「こんなに暑くては」、「この暑さのために」
 (5) ただひとつ「……にかけて」誓うという時には、つぎにはどんな名詞がきてもかまわない:bei meinem Schwert! 「私の剣にかけて」、bei Gott! 「神にかけて」、bei meiner Ehre! 「私の名誉にかけて」
この最後の場合は (3) の意味の転用である。
【27】gefunden 三要形:finden, fand, gefunden.
【28】er kostet nur zwanzig Mark kosten という動詞は英語の to cost とほとんど同じ用い方である。
【29】würde これは werden の第二式接続法である。そして用法の上では間接話法に属するのだが、接続法の問題は重要だから、もう一度「基礎入門編」の第26講と第27講を読みなおしてほしい。
【30】stehen 三要形:stehen, stand, gestanden. 衣装が着る人に似合うとか似合わないという時に einem gut (schlecht) stehen = to suit (または fit) a person well (badly) の形を用いる。このほかに anstehen や passen もまったく同じ用法をもっている。また sitzen もよく使われるが、この方は「からだにしっくり合う」とか合わぬという時に用いる。kleiden という動詞を用いることもあるが、これは他動詞だから einen kleiden の形になる。

[2] Da wurde der alte Geizhals neugierig, ging31 mit seiner Frau ins Geschäft und kaufte sich32 den Mantel. Der Kaufmann gab33 ihn ihm34 für zwanzig Mark, weil zwischen ihm und der Frau vorher eine Verabredung getroffen35 worden war. Den Rest des Betrages bezahlte sie ihm natürlich hinter dem Rücken ihres Gatten36.
 Aber am andern Morgen fand sie ihn schon wieder37 in seinem alten, schmutzigen Mantel!
 „Aber Joseph38!“ schalt39 sie ihn, „warum trägst du schon wieder den abscheulichen Mantel? Hast du dir40 nicht gestern einen neuen gekauft?“

〕Da そこで(この話を聞いて) der alte Geizhals 老守銭奴は wurde......neugierig 好奇心を起こしました、 mit seiner Frau 妻君と連れだって ins Geschäft 問題の店へ ging 行き und そして den Mantel くだんの外套を sich 自分[のため]に kaufte 買いました(買い求めました)。Der Kaufmann 商人は ihm (Geizhals) 彼に ihn (Mantel) その外套を für zwanzig Mark 二十マルク[の値]で gab 与えました(売り渡しました)、zwischen ihm (Kaufmann) und seiner Frau 商人と妻君との間に vorher 前もって eine Verabredung ある申し合わせが getroffen worden war おこなわれていました weil ので。natürlich 言うまでもなく Den Rest des Betrages 価格の残りを sie 妻君は ihm 商人に hinter dem Rücken ihres Gatten 彼女の夫の背後で(夫には内証で) bezahlte 支払いました。
 Aber ところが am andern Morgen その翌朝には sie 彼女は schon wieder 早くもまた ihn 彼を in seinem alten, schmutzigen Mantel 彼の古く汚れた外套のなかに(を着ているのを) fand 見出しました。
 „Aber あらまあ Joseph ヨーゼフ!“[と] sie 彼女は ihn 彼を schalt 非難しました、„warum どうして du あなたは schon wieder またしても den abscheulichen Mantel こんないやな外套を trägst お着になるのですか? du あなたは gestern 昨日 einen neuen [Mantel] 新しいのを Hast......dir nicht......gekauft お買いになったじゃありませんか?“

〕【31】ging 三要形:gehen, ging, gegangen.
獲得・着服を意味する三格の sich【32】kaufte sich den Mantel すでに一度„sich doch einen neuen zu verschaffen“ という句でおめにかかった sich (三格)である。これは人代名詞の三格を支配する再帰動詞にもっとも多い型で、獲得・着服・自己の利害を表現する。日本語としてはわざわざ言い表さないのがふつうであるが、逐語訳では読者の関心を高めるためにわざと訳をつけてある。つぎの例でこの型の sich の用法を会得してほしい:
 (1) Er zündet sich eine Zigarette.
   彼はシガレットに火をつける。
 (2) Er putzt sich umständlich die Brille.
   彼は念入りに眼鏡をみがく。
 (3) Wir wollen uns das Mittagessen bestellen!
   昼飯を注文しようじゃないか。
 (4) Ich muß mir Klarheit darüber verschaffen.
   僕はその点をはっきりさせておかなくてはならぬ。
 (5) Es ist aber traurig, den ganzen Tag laufen zu müssen, um sich sein Brot zu verdienen.
   パンをかせぐために一日中走り回らされるのは悲しいことだよ。
【33】gab 三要形:geben, gab, gegeben.
二つの目的語の語順【34】gab ihn ihm ここでは geben という二つの目的語――三格の ihm と四格の ihn ――をとっているが、二つとも名詞の場合、一方が人代名詞の場合、二つとも人代名詞の場合などで、三格と四格のどちらを先におくか、つまり語順(Wortfolge)に一定の習慣があるから注意を要する:
 (1) 三格も四格も名詞の場合は、三格の人間を表わす方が先に出る:
  Der Lehrer hat dem Schüler ein Buch geliehen.
   先生は生徒に一冊の本を貸した。
 (2) どちらも名詞の場合は強める方が後にくる:
  Ich habe Ihren Sohn dem berühmten Professor empfohlen.
   私はあたなの息子さんをあの有名な教授に推せんしておきました。
 (3) 一方が人代名詞の場合は人代名詞が先に出る:
  Fräulein Hanako hat mir ein Geschenk gemacht.
   花子嬢が僕に贈り物をくれた。
 (4) どちらも人代名詞の場合は短くて力点のない方が先に出る。
  Er hat es ihnen gezeigt.
   彼はそれをかれらにみせた。
以上が基本的な規則だが、4の場合でも、どちらも力点のない人代名詞だと、大体四格が先に出る(Ich habe sie ihm gezeigt. 僕はそれらのものを彼にみせた。)といった細則があったり、三格の mir と dir が四格の ihn, sie, es と組み合わせられると、どちらを先にしてもよい(Fräulein Hanako hat es mir または mir es geliehen. 花子嬢がそれを僕にかしてくれた。)といった例外があったりして、初学者は作文の時に迷うが、読み慣れて語感が養われるにしたがって、自然に解決できるようになる。
単に「なす」を意味する諸種の動詞【35】getroffen 三要形:treffen, traf, getroffen. eine Verabredung treffen 「申し合わせをする」は熟語だが、この型の熟語に用いられる動詞は特別な意味ではなく単に machen や tun の言い換えにすぎないものが多い。他の例を挙げておこう:
eine Verbeugung machen    おじぎを―する
einen Sprung tun (または machen)    跳躍を―する
einen Einfluß ausüben    影響を―およぼす
Gerechtigkeit üben    正義を―行う
Schaden zufügen    危害を―加える
Widerstand leisten    抵抗を―試みる
seine Arbeit verrichten    自分の仕事を―やってのける
einen Diebstahl begehen    窃盗罪を―犯す
böse Taten verüben    悪事を―はたらく
Handel treiben    商売を―営む
Krieg führen    戦争を―する
ein Urteil fällen    判決を―下す
eine Klage erheben    訴訟を―起こす
eine Revision vornehmen    改訂を―試みる
【36】hinter dem Rücken ihres Gatten 「夫には内密で」は熟語。英語にも全く同じ熟語 behind one's back がある。ついでにこの熟語の正反対の熟語 ins Gesicht 「面と向かって」も覚えておくとつごうがよい:Ich werde es ihm ins Gesicht sagen. = I will tell him so to his face. aller guten Sitte ins Gesicht schlagen = to act in defiance of all rules of decency 「良風美俗など糞くらえといった行動をする」。
【37】schon wieder 「またもや」。この wieder は「ふたたび」ではなく「もとの通り」の意味で、多くは schon wieder の結合で用いられる。
【38】Aber Joseph! この aber は間投詞的に用いられたもので主として疑問文にそえて「これはいったいどうしたことか?」といった意相をもっている。つぎの Joseph という名前はしいて訳出しなくてもよかろうが、日本にもある道筋で、人を叱ったりたしなめたりする時には、よく相手の名を挙げる。
【39】schalt 三要形:schelten, schalt, gescholten (=to scold).
【40】dir 注32で詳述した獲得・着服を意味する三格の再帰代名詞の例である。

[3] „Freue dich41, Liebste42“, sagte der alte Geizhals strahlend43, „mit dem habe ich ein enormes Geschäft gemacht44. Denke dir mal45, als ich heute auf der Börse46 erzählte, daß ich den herrlichen Pelzmantel für zwanzig Mark gekauft habe, da wollte47 ihn mir jeder Mensch für dreißig, vierzig, ja fünfzig Mark abkaufen48. Da sagte ich gleich hundert! Aber damit war die Versteigerung noch nicht zu Ende49 und schließlich hat ihn mir einer50 für zweihundert Mark abgekauft!“
 Und51 die arme52 Frau hatte tausend Mark dafür bezahlt!

〕„Freue dich 喜んでくれ、Liebste お前、“[と] der alte Geizhals 老守銭奴は strahlend [嬉しさに顔を]輝かせながら sagte 言いました、„mit dem (=Mantel) あれをもって(あの外套を売って) ich 私は ein enormes Geschäft ひとつの莫大な取引きを habe......gemacht 行なった(すばらしい儲けをしたんだよ)。Denke dir mal まあ考えてもごらん、ich 私が den herrlichen Pelzmantel あのすてきな毛皮外套を für zwanzig Mark 二十マルクで gekauft habe 買った daß のだということを、heute 今日 auf der Börse 取引所で ich......erzählte 話をした als 時、da それを聞いて jeder Mensch [居合わせた人は]だれもかれも ihn あの外套を für dreißig, vierzig, ja fünfzig Mark 三十マルクで、いや四十マルクで、それどころか五十マルクで mir 私から wollte......abkaufen 買い取ろうと欲した。Da そこで ich 私は gleich さっそく hundert [Mark] 百[マルク]と sagte 言ったものだ! Aber ところが die Versteigerung 競り上げは damit それをもって(百マルクで) war......noch nicht zu Ende まだ終わらなかった und そして schließlich 最後には einer ある人が ihn あの外套を für zweihundert Mark 二百マルクで hat......mir......abgekauft 私から買い取ったよ!“
 Und ところが die arme Frau そのきのどくな妻君は dafür その[外套の]ために tausend Mark 千マルクを hatte......bezahlt 支払っていたのでした!

〕【41】Freue dich sich freuen = to be glad (または pleased) という再帰動詞の du に対する命令形。なお再帰動詞については「基礎入門編」第21講を参照せよ。
【42】Liebste これは「基礎入門編」第23講で説明した「形容詞の名詞化」の一つである。liebste は lieb の最上級であるからといって「最も愛すべき者」と訳することはない。愛人とか親しい人々に対する愛称の一種である。相手が女だから Liebste だが男なら当然 Liebster となる。Geliebte、Geliebter と言ってもよい。英語なら my darling ぐらいのところ。
【43】Strahlendvor Freude strahlend = beaming with delight の意味である。
【44】habe......ein enormes Geschäft gemacht 「いい儲けをする」とか「旨い商売をする」という時の常套的な表現が ein gutes Geschäft machen = to do a good stroke of business, to make a good bargain, glänzende Geschäfte machen = to do a roaring (または rattling goodbusiness (または trade)など、で本文の場合も単に形容詞を誇張しただけである。
【45】Denken dir mal 注41で述べた再帰動詞の命令形だが、再帰代名詞が三格な点が違っている。「基礎入門編」第21講の後半(§113)を読み返すこと。mal は einmal の縮小形、「まあちょっと……してごらん」など言う際の「まあ」「ちょっと」にあたる。
公開的な場所を指す auf【46】auf der Börse 日本語の感じでは in でよかろうと思われる時に、よく auf が使われるが、その auf は、何か「公開的な」場所の時に限られる。たとえば auf den Markt gehen 「市場へでかける」、auf der Universität 「大学で」など、同様に「住宅で」は im Wohnhaus だが、別荘となると auf dem Landhaus と言える。つまり住宅の方は「私的」だが、別荘は大学や劇場や博物館と同じように社会的、社交的、世間的な場所と見るのである。また Der Hausherr ist in seinem Zimmer. 「主人は部屋にいる」と言うと、その in は単に空間的に一つの場所を指したことになるが、Er ist auf seinem Zimmer. と言うと、今にも新聞記者でも引見しそうな気がする。だから、先生が一方的に指導し知識を授ける間は in die Schule gehen 「学校へ通う」と言うが、教授が学生という das Publikum 「公衆」を相手として vorlesen 「講義し」 vortragen 「講演する」大学へ行くのは auf die Universität ziehen と言うのである。
wollen の重要な意味のひとつ「……と主張する・したつもりでいる」【47】wollte 三要形:wollen, wollte, gewollt. wollen の基本的な意味は「欲する・望む」であるが、本文で「だれもかれもが……で私から買い取りたいと思った」と訳しては舌足らずで不十分である。むしろ「買い取ろうとした」「買い取ろうと言った」とか「買い取ろうと言ってきかなかった」といった方向に訳出しないとぴったりこない。事実 wollen は「……と主張する」、「……と自ら称する」、「……と言う」または時とすると「……ということにしてしまう」、「……したつもりである」の意味をもつのである。これは過去の不定法とともに用いられた時にとくに典型的に現われるから注意を要する:Nun er Diktator geworden ist, will jeder seiner Feinde sein Freund gewesen sein. 「彼が独裁者になった今日では、彼の敵はだれもかれも彼の味方であったと主張する」、Geh aus meinen Augen! Ich will dich nie gekannt haben. 「もはや目通りは相かなわぬ! 汝がごとき奴とはもはや一面識もなかったことに致すによって、さよう相心得ろ!」。
離格(Ablativ)の意になる三格【48】mir......abkaufen これは「私から買いとる」ということで、前綴の abu に「……から取る・奪う・離れる」といった意味があるので、mir は von mir の意になる。
 初歩の文法では三格を形式的に「……に」と教えるところから、あるものをある人「に」与えるという場合だけを念頭において、三格はふつう Dativ 「与格」と早のみこみされがちだが、本文でも明らかなようにこの名称は妥当を欠いている。日本語で、この書物をだれそれ「に」借りた、と言うが、この際の「に」は決して書物の移動して行く方向を指したものでなく、むしろ正反対に「……から」というのと同意である。ドイツ語の三格もこういう意味に用いられることがあるので、Dativ と区別して Ablativ 「離格・奪格」という範疇を設けることが必要になってくる。三格が Ablativ の意になるためには次のような動詞と結びついた時に限る。
 (1) 「……し去る」の意の前綴 ent- を有する動詞:entkommen 「逃れる」、entgehen 「のがれる」、entlaufen 「脱走する」、entfallen 「落ち去る」、entgleiten 「滑り落ちる」、entrücken 「遠のける」、entrinnen 「流れ出る」、entspringen 「源を発する」、entschlüpfen 「滑り脱ける」、entsprießen 「生え出る」、entwachsen 「生え出る」。
 Er ist dem Feinde entgangen.
  彼は敵の手を逃れた。
 Er ist der Gefahr entkommen.
  彼は危険を逃れた。
 Die Zügel entfielen seinen Händen.
  手綱が彼の手裡を脱した。
 Dem Felsen entrinnt der Quell.
  岩から泉が湧く。
 Die Pflanzen entwachsen dem Boden.
  植物は地から生え出る。
 Er ist adligem Geblüte entsprossen.
  彼は貴族の血統から生れ出た。
 (2) ent- とほとんど同意の ab- がついて「取る・奪う・搾り出す・骨を折って取る」の意になる動詞。
 Auch seinen Leuten ließ sich keine Auskunft über ihn abgewinnen.
  また彼の使用人たちからも、彼についての消息を聞き出すことができなかった。
 Wir haben einen riesigen Vorsprung, den lassen wir uns um keinen Preis abkaufen.
  われわれは非常な優先的地位を占めている、こいつばかりはたとえどんな値に引替えてもわれわれから買い取らせはしないぞ。
 Die ganze Geschichte hatte ihm nur ein mitleidiges Lächeln abgenötigt.
  この件全体は彼からただひとつの憐憫の苦笑を強要し取ったのみであった。(一部始終を聞いて彼はただちょっと苦笑したきりだった)
 (3) 「看取する」という意味での ansehen, anmerken など。
 Ich sehe deinen Augen an, daß du verliebt bist.
  君の眼をみると、君が恋していることがわかる。
 (4) そのほか nehmen 「取る」、stehlen 「盗む」、rauben 「奪う」、weichen 「避ける」など。
 Er hat mir alles genommen.
  彼は私からすべてを取りあげた。
 Er stahl es mir vor kurzem.
  彼はそれをこのあいだ僕から盗んだ。
 Er weicht mir überall.
  彼はいたるところで僕をさける。
【49】war......zu Ende zu Ende sein 「終わっている・過ぎている・尽きている」と同時に zu Ende bringen 「終える・果たす・すませる」も記憶しておくこと。
【50】einer 本文では ein Herr または ein Mann と言うかわりに用いてある。einer の変化や詳しい用法については「ドイツ文法の要点」§6 を参照せよ。
【51】Und こまかいことだが、この und には aber, doch と一脈通ずる相反的な意味がある。前に述べたことと und の後で述べることとが論理的にも事実的に矛盾していることを軽い Ironie 「皮肉」を交えて対比させるのである。この皮肉は Ich und Einfluß haben! = To think that I should have influence! (または Me and influence!)「この僕の顔が利くなんて、冗談じゃないよ!」のごとき例に露骨に現れている。
【52】arme arm というとすぐ「貧乏な」と思うが、この奥さんは金満家の奥さんで「貧乏」どころではない。ここは筆者の主観――同情を表現した装飾的な用い方にすぎない。

Sunday, February 20, 2022

COLLECTION OF ENGLISH IDIOMS

早稲田大學敎授 深澤裕次郎著

應用英文解釋法

東京英文週報社發行


(p. 226-228)


範例

Raleigh, finding his fate inevitable, collected all his courage.

ローリは運命の避け難きを知り渾身の勇を振ひ起せり。


解説

To collect one's courage, strength, energies, etc.

勇氣、力、元氣等を呼び起す、振ひ起す。

To collect

=To summon up, gather and bring into action

呼び起す。振ひ起す。


用例

1.  For a moment she was unable to speak or cry, but at last she collected all her courage and boldly turned round.

 V. Hugo

 暫くの間、女は口もきけず、聲も出せなかつたが、やがて渾身の勇を鼓して大膽に振り向いた。

2.  This respite, which was prolonged, was a sign that the Government was taking its time and collecting its strength.

 V. Hugo

 政府が斯様に悠々として居るのは、これ、政府が徐ろに鋭を養つて居る證據である。

3.  The promise relieved Christie, and rallying his strength he said quietly, "Ralph, I know all about waht ought to be done, for I have read about it in my Natural History book."

 Dean Farrar

 この約束がクリスチを安心せしめた。而して彼は勇を出して靜に云つた、「僕は爲す可き事は皆知つて居る、博物の本でその事を讀んだ事があるから」。

 taking its time ゆるゆるとして居る。

4.  As before, some minutes elapsed ere a reply was made; and  during the interval the dying man seemed to be collecting his energies to speak.

 E. A. Poe

 前の様に數分經つてから返辭をしたが、その數分の中に瀕死の人は物いふ力を振ひ起して居るやうであつた。

5.  On reaching an old chestnut tree, which she knew, she made a longer halt than the others to rest herself thoroughly; and she collected all her strength, took up the bucket again, and began walking courageously.

 V. Hugo

 かねて知つて居る古い栗の木の所に行くと、彼女は今迄よりは長く休んで、すつかり體をやすめ、それから有りつ丈の力を出して、再びバケツを取り上げ、元氣よく歩き出した。

Thursday, February 17, 2022

新刊案内

F・アンスティの「ステラ・メイベリーの告白」をアマゾンから出したのでご報告します。

F・アンスティはヴィクトリア朝の後期、十九世紀の末から二十世紀の初頭に活躍した作家です。そのほとんどはユーモラスな設定の軽い読み物で、とくに「あべこべ」という作品は人気がありました。日本でも男の子と女の子の心が入れ替わるという話がありますが、その原型ともいえる作品で、こちらでは実業家の父親とやんちゃざかりの男の子の心が入れ替わります。

「ステラ・メイベリーの告白」はF・アンスティが書いたホラー小説です。最近ヴァランコートという出版社から再刊され、読書家のあいだではちょっと注目されました。(書評サイトの Goodreads では四点以上の高得点を取っています。)ステラという若い女性が悪霊との闘いを語るのですが、しかしステラはいわゆる「信頼できない語り手」で、悪霊との闘いがほんとうなのか、彼女の妄想なのか、わからないような書き方になっています。ヘンリー・ジェイムズの「ねじの回転」がお好きな方は、ぜひ一度読んでみてください。

Monday, February 14, 2022

DuMont's kriminal-Bibliothek

ドイツの出版社 DuMont Buchverlag が出したジョゼフィン・テイの「フランチャイズ事件」(ドイツ語のタイトルは Die Verfolgte Unschuld)を手に入れたので見ていたら、巻末に DuMont 社のミステリシリーズの紹介がついていた。1001番から1026番までリストがあるので、それをここに紹介しておく。


Band 1001 Charlotte MacLeod <b>»Schlaf in himmlischer Ruh’«</b>

Band 1002 John Dickson Carr <b>Tod im Hexenwinkel</b>

Band 1003 Phoebe Atwood Taylor <b>Kraft seines Wortes</b>

Band 1004 Mary Roberts Rinehart <b>Die Wendeltreppe</b>

Band 1005 Hampton Stone <b>Tod am Ententeich</b>

Band 1006 S.S. van Dine <b>Der Mordfall Bischof</b>

Band 1007 Charlotte MacLeod <b>»... freu dich des Lebens«</b>

Band 1008 Ellery Queen <b>Der mysteriöse Zylinder</b>

Band 1009 Henry Fitzgerald Heard <b>Die Honigfalle</b>

Band 1010 Phoebe Atwood Taylor <b>Ein Jegliches hat seine Zeit</b>

Band 1011 Mary Roberts Rinehart <b>Der große Fehler</b>

Band 1012 Charlotte MacLeod <b>Die Familiengruft</b>

Band 1013 Josephine Tey <b>Der singende Sand</b>

Band 1014 John Dickson Carr <b>Der Tote im Tower</b>

Band 1015 Gypsy Rose Lee <b>Der Variete-Mörder</b>

Band 1016 Anne Perry <b>Der Würger von der Cater Street</b>

Band 1017 Ellery Queen <b>Sherlock Holmes und Jack the Ripper</b>

Band 1018 John Dickson Carr Die schottische Selbstmord-Serie

Band 1019 Charlotte MacLeod <b>»Über Stock und Runenstein«</b>

Band 1020 Mary Roberts Rinehart <b>Das Album</b>

Band 1021 Phoebe Atwood Taylor <b>Wie ein Stich durchs Herz</b>

Band 1022 Charlotte MacLeod <b>Der Rauchsalon</b>

Band 1023 Henry Fitzgerald Heard <b>Anlage: Freiumschlag</b>

Band 1024 C. W. Grafton <b>Das Wasser löscht das Feuer nicht</b>

Band 1025 Anne Perry <b>Callander Square</b>

Band 1026 Josephine Tey <b>Die verfolgte Unschuld</b>


英米の作家が並んでいる。タイトルは見てすぐに原作がわかるものもあれば、ドイツ人受けするように変えてあるものもある。ジョン・ディクソン・カーやエラリー・クイーン、メアリ・ロバーツ・ラインハルト。ジプシー・ローズ・リーなんてちょっとなつかしい。が、たぶん日本であまり馴染みのないのが Phoebe Atwood Taylor と Henry Fitzgerald Heard と Hampton Stone だろう。

最初のフィービ・アトウッド・テイラーは、Asey Mayo という元冒険家が活躍するシリーズ(日本語には「ケープコッドの悲劇」という長編が翻訳されている)と、Leonidasu Witherall という学校の先生が活躍するコミックなシリーズで有名な作家である。

二人目のヘンリー・フィッツジェラルド・ハードもあまり日本語訳がない(「蜜の味」というのが出ているようだ)。私も「黒い狐」というオカルト小説しか読んだことがない。「ドッペルゲンガー」というディストピア小説はアンソニー・バウチャーが賞めていたからいつか目を通そうと思っているけど。

三人目のハンプトン・ストーンは、アメリカ人作家 Aaron Marc Stein の別名。彼は George Bagby という名前を使うこともあったようだ。この人は百冊以上のミステリを書き、MWAからグランドマスターの称号を得ている。私はまだ読んだことがない。

こういうリストは非常に面白い。国によって人気作家が異なるからである。たとえばフランスなどはノワール系の作家が非常によく読まれる。英米では絶版となっていても、フランスでは翻訳でよく読まれている、なんてこともしょっちゅうだ。そういえば昔「新幹線大爆破」という邦画があった。あれはノワールを取り入れた作品で、フランスでは非常にうけていた。

Friday, February 11, 2022

ステファン・ツヴァイクの翻訳

私は映画はほとんど見ないのだが、オリヴィア・ドゥ・ハヴィランドとジョーン・フォンテーヌだけは大好きで、彼らの出演する映画はほとんど観ている。アメリカにいたころ、ブロックバスターでバイトをしていた友人に頼んでマイナーな作品まで捜し出してもらって見た。それでも手に入らない作品がたくさんあったけれど。

フォンテーヌの作品でいちばん気に入っているのはやはり「レベッカ」。次に好きなのは「見知らぬ女からの手紙」である。この可憐な作品は高校生のときに観てから忘れることが出来ない。音声を録音し、夜寝ながらフォンテーヌの声を聞いていた。

「見知らぬ女からの手紙」の原作者はステファン・ツヴァイク。1920年代、30年代に世界中で広く読まれた作家である。話が面白いだけでなく、フロイトと親交があり、精神分析に関心を持っていたという点でも興味深い。しかしわたしがツヴァイクを読むようになった本当の理由は、フォンテーヌの美貌とあのハスキーな声をしのぶよすがになったからではないだろうか。

先日、プロジェクト・グーテンバーグの「新刊」リストを見ていたら、ロマン・ロランの「クレランボー」があった。わたしはフランス語はできないのでそのまま通り過ぎようとしたのだが、ふとドイツ語訳とあるのに気づき、誰が訳したのだろうと気になった。見てみると Berechtigte Übertragung aus dem Französischen von Stefan Zweig と記されているではないか。ツヴァイクはこんな本まで訳していたのか。日本でもそうだけれど、作家の「訳業」は軽視され、よっぽど詳細なものでない限り、ビブリオグラフィーから省かれることが多い。たぶんそのせいか、わたしが迂闊なせいだろう、ツヴァイクがロマン・ロランを訳していたとはまったく識らなかった。

思いも寄らぬこの発見は、見知らぬ女から突然届いた手紙のように、わたしにショックを与えた。この手紙はなんとしても読まなければならない。手紙のなかには(映画のなかで起きるように)人生への態度を根本的に変えてしまうなにかが書かれているかも知れない。そんな予感に取り憑かれたわたしは今、不思議な気分でこの大長編を少しずつ読んでいる。

Tuesday, February 8, 2022

ラルフ・ミルン・ファーリー「私がヒトラーを殺害した」

ファーリー(1887-1963)は面白い経歴の持主だ。ハーバードを出てから数学やエンジニアの教師をしたり、火器の照準システムを開発したり、マサチューセッツの議員になったりしている。議員のときは女性の権利の拡大のために運動をしていたようだ。二つの世界大戦にはさまれた期間、彼はパルプ雑誌に大量の作品を書いている。恐らくいちばん有名なのは The Radio Man のシリーズだろう。時間旅行に関する短編も多数書いていて、The House of Ecstasy (快楽の館)などは日本語でも読めるようだ。しかしファーリーの作品はほとんど未訳のままである。

今回たまたまファーリーの短編 I killed Hitler を読んだ。はっとさせるようなものはなかったけれど、この人の書き方は非常に丁寧で、いわゆる達意の文章だと思った。考え方が論理的なのだろう、文章が頭に良く入ってくるのである。こういう文章は大好きだ。

物語の筋は……。

ヒトラーの遠い従弟にあたる男がアメリカにいた。その名前は独裁者とおなじアドルフ・ヒトラー。もっともアメリカに移住したとき名前は変えたのだけれども。彼は肖像画を描く、あまり売れない画家だった。(ちなみにヒトラーも若い頃は絵を描いていた)

ところがヒトラーがアメリカに宣戦布告したものだから、アメリカの従弟は従軍しなければならなくなった。芸術家であるわたしを兵士にするとはなんということか。この戦争を起こした張本人、ドイツの独裁者など、殺してしまいたい。そう思った彼は、時間をさかのぼって、ヒトラーがまだ少年時代のころに戻り、彼を殺してしまえたら、と夢想する。

その夢を実現できる友人が彼にはいた。インド人の神秘家の友人である。彼は不思議な魔術を使ってヒトラーの従弟を、ヒトラーが十歳だった時代へと送り返す……。

このあとどうなるかは言わないが、まあ、ご想像の通りである。もしかしたらここに「ヒトラーがヒトラーであるために、ヒトラーは殺されなければならないのだ」という哲学的主題を見ることもできるかもしれない。つまりヒトラーがヒトラーであると云う同一性が成立するには、非同一性の契機がそこに含まれなければならないということだ。が、読後感の凡庸さはそこまで考える気にはさせない。たださっきも言ったように、文章は悪くない。この人の作品はもう少し読みあさって見ようと思う。

Saturday, February 5, 2022

ジェイムズ・ハーバートのホラー

1970年代のホラーはとにかく面白い。アメリカからはスティーブン・キングがあらわれ、イギリスからはジェイムズ・ハーバートが出て来た頃である。どちらも New English Library という出版社から本を出した。しかしキングは今でも翻訳が出ているようだが、ハーバートは1990代以降は新作が訳されていないようだ。残念である。

 


ジェイムズ・ハーバートのデビュー作は The Rats で、凶暴化し異常に繁殖した鼠がロンドンを襲うという物語である。あれはカバー・デザインが秀逸で、とにかく目を惹き、物語の内容を予感させる迫力を持っていた。家に帰ってからペーパーバック特有の粗雑な紙をめくると、文章は荒削りだが、エピソディックな物語の展開の仕方が面白くて、一気読みをした覚えがある。あまり面白かったので、以降の作品もすぐ買って読んだ。The Fog も The Survivor もパターン化してきたとはいえ、期待を裏切らなかった。ハーバートの作品をすべて読んだわけではないが、気分転換をしたいときによく彼の作品を取り上げたものだ。彼は2013年に69歳で亡くなっている。

アンドリュー・ネット氏が書いている Pulp Curry というブログにジェイムズ・ハーバートにインタビューしたときの記事が載っていた。(Interview: James Herbert)おもに出版社や編集者との裏話みたいなことが書かれているが、二つほどなるほどと思うことがあった。一つは、ハーバートが作家になる前は広告業界でアート・ディレクターをしていたこと。彼のグラフィックな描写力は美術の専門家だったことから来ているのか。デントン・ウェルチとかウィリアム・S・バロウズなど、画家と文人を兼ねている人の文章はひと味違うところがある。ハーバートもこの手の小説家だったのか。

もう一点は、おそらくハーバートの後期の代表作であろうアッシュ・シリーズがイギリス女王の言葉からヒントを得たものであるということ。エリザベス女王はとある記者会見の席で「この国には暗黒の力が働いているが、そのことをわたしたちは知らない」と云ったらしい。それが物語を発想するきっかけだったのだとハーバートは述べている。なるほど。女王の口から「暗黒の力」なんて言葉を聞いたら、たしかにいろいろな想像が湧いて来る。

アッシュ・シリーズは最初の二作を読んで面白かったので、これを機会に三作目も読んでみようと思う。


Wednesday, February 2, 2022

ゲーム実況者のための英語

ケイティさんの英語は非常に聞き取りやすく、わたしは大ファンである。少し前にコロナに感染し、苦しそうな表情でビデオ報告していたが、もうすっかり完治なさったのだろう、今は元気にスリラーもののゲームの実況をしている。本日のスクリプトには重要表現がいくつも含まれている。

And let's go check it out1.
Okay.
Can I turn off2 the TV from here?
No, I can't.
I'm gonna get electrocuted3 if I come back this way.
How do I get that viewer4 to be electrocuted?
Let's figure it out5.
Why am I talking like this?6
Oh, I'm just gonna take this nice little stool7 over here.
That scared the shit out of me8.
Okay, maybe I'm not supposed to do that9.
Ah...Okay, hold on10.
Maybe I'm supposed to hide...and turn the TV off.
Shit, don't come this way.
I'm scared!
Okay.11

1 check it out は「調べる」。"go check" と動詞が連続しているが、これは "go and check" あるいは "go to find" のこと。口語では Let's go find it out などと and や to-不定詞を省略することが多い。
2 turn off は「(テレビを)消す」。
3 electrocute は「電気椅子で処刑する」「感電死させる」。get electrocuted で「感電死させられる」。
4 that viewer は「あの(テレビを)見ている人」
5 figure it out は「考え出す」「解決策を見出す」。
6 Why am I talking like this? 直前のケイティーさんの声が変化していることに注意。どうやってあの女を感電死させるか、などとよからぬことを考えていたため、つい悪党めいた声が出てしまったのだろう。
7 nice little stool この nice は「ちょうどいい(小ささの)」くらいの意味。
8 That scared the shit out of me はびっくりしたときによく使われる表現。
9 I'm supposed to do... は「……することになっている」「……することが期待されている」という意味。パズル系のゲームを実況する人がよく使う言い廻し。
10 hold on は「待って」。
11 okay という語は、実は okay ではないんだけれども(この場合はミッションが達成できず主人公が死んでしまったけれども)、まあいいや、という感じでよく使われる。

英語読解のヒント(111)

111. never so / ever so (1) 基本表現と解説 He looked never so healthy. 「彼がそのように健康そうに見えたことは今までになかった」 He looked ever so healthy. 「彼はじつに健康そうに見...