Saturday, March 14, 2026

関口存男「新ドイツ語大講座  下」(18)

§18. Wie kommen Sie auf dergleichen Verdacht?

あなたはどうしてそんなところへ気を廻すのですか?

kommen......auf......: 「……を思いつく」、「……に想到する」。verdacht, m.: 嫌疑。

 上文の dergleichen (そういった、そうした、そういうふうな)は、solch-en, ein-en solch-en, solch ein-en, so ein-en, derartig-en などを用いるのと同じですが、これらは全部格変化をするに反し(今の場合は Verdacht が男性で、auf が四格支配ゆえ、男性四格の -en)、dergleichen という語は語尾変化をしません(それもそのはずで、これは der gleich-ein Art、「同じ種類の」から生じたものゆえ、構造は女性二格)。同意の derartig- も der Art (その種の)から生じたものですが、これは語尾変化をします。さらに derlei というのもありますが、これは dergleichen と同じく無変化です。

 この dergleichen, derlei は題文のごとく形容詞的にも用い、また独立して名詞的にも用います。上文から Verdacht を省いて Wie kommen Sie auf dergleichen? (どうしてそんなことを考えついたのですか)ともいえます。

 → desgleichen と混同するな! desgleichen (=auch so „同じく“ „これまた同様に“)は副詞で、dergleichen とは別物です。たとえば「男は結婚すると一年目には欠伸をする」といったのち、「女も同様」という際には Desgleichen die Frau です。

  → meinesgleichen, deinesgleichen など。

「私と同じ身分の者たち」、「おまえの同類」などを、物主形容詞に -esgleichen を付して作ります。Er behandelt mich als seinesgleichen. (彼は私を同類として扱う)、Sie gefällt sich nur unter ihresgleichen. (彼女は自分と同じような仲間と一緒でないといい気持になれない女だ。)

§18. sich gefallen: 自分に気に入る、すなわち「好い気になる」、「得意になる」、「自適の気持を味わう」。

Wednesday, March 11, 2026

英語読解のヒント(211)

211. the last + 名詞

基本表現と解説
  • He is the last person I should consult. 「間違ってもあの男などに相談はしない」

「the last + 名詞」で「夢にも……しない……」の意。

例文1

"If a fool was going to commit a murder, your lake is the first place he would choose for it. If a wise man was going to commit a murder, your lake is the last place he would choose for it."

Wilkie Collins, The Woman in White

「馬鹿が人を殺すなら場所としてあなたの庭内の池をまっさきに選ぶでしょう。しかし利口な人間が人を殺すなら、あなたの庭内にある池はいちばん選びそうにない場所です」

例文2

No; surely it is the last place to suspect any one would go to without a definite purpose; and what purpose could Sir Adrian have for going there?

Margaret Wolfe Hungerford, The Haunted Chamber

いや、もちろんあんなところは何かはっきりした目的がなければ人が行くような場所ではない。ではサー・エイドリアンはそこへ行くどんな目的があったのか。

例文3

"There is nothing to be ashamed of, though it's all very odd, and the last thing I should have expected."

George Sims, Memoirs of a Mother-in-Law

「べつに恥ずかしがるようなことじゃないさ。たしかにずいぶん変てこな、思いも寄らない話だけどね」

Sunday, March 8, 2026

英語読解のヒント(210)

210. know better than

基本表現と解説
  • He knows better than to disobey you. 「彼はあなたの言うことをきかぬような(愚かな)人間ではない」

know better than で「……するような軽率な者ではない」という意味。場合に依っては「……しない」と解することもできる。

例文1

A man of my age and experience ought to have known better than to vacillate in this unreasonable manner.

Wilkie Collins, The Woman in White

わたしぐらいの年になり、かつ経験も積めば、こんなふうにむやみに迷っていてはいけないのだ。

例文2

"I told him he was old enough to know better. But my experience is that as soon as people are old enough to know better, they don’t know anything at all."

Oscar Wilde, Lady Windermere's Fan

「ぼくは彼に、その年なら分別がついてもよさそうなものじゃないか、と言ってやった。しかしぼくの経験によると、人はものがわかる年頃になると、かえってなにもわからなくなるのです」

例文3

"Earnshaw, it's a blessing your wife has been spared to leave you this son. When she came, I felt convinced we shouldn't keep her long; and now, I must tell you, the winter will probably finish her. Don't take on, and fret about it too much: it can't be helped. And besides, you should have known better than to choose such a rush of a lass!"

Emily Bronte, Wuthering Heights

「アーンショー、あなたの奥さんが息子を残せたのは神さまのお恵みだよ。あの人が来たとき、長くは生きられないと確信したもの。はっきり言うけど、たぶんこの冬を乗り切れないね。悲しんだり、くよくよしすぎちゃいけないよ。どうしようもないんだから。それにイグサみたいな女の子を奥さんに選ぶなんて、あんたも浅はかだったじゃないか」

Thursday, March 5, 2026

英語読解のヒント(209)

209. know again

基本表現と解説
  • He was so altered that I did not know him again. 「彼は思い出せないほど変わっていた」

この場合の know again は recognize とか identify 「それと認める」「思い出す」の意味。

例文1

"I knew the knife again; it was the one with which she had tried to murder you, dear."

Henry Rider Haggard, Allan's Wife

「わたしはそのナイフを思い出しました。それは彼女があなたを殺そうとしたナイフでした」

例文2

In this way we reached the Boulevard Bonne Nouvelle, which the little wanderer seemed to know again: notwithstanding his fatigue, he hurried on; he was agitated by mixed feelings....

Émile Souvestre, An Attic Philosopher in Paris

こうしてわたしたちはボンヌ・ヌーヴェル大通りまでやってきた。するとその子はその場所を思い出したらしく、疲れていたにもかかわらず足を速めた。彼はいろいろな感情に心を乱されていた……。

 この子供は迷子になり、語り手の「わたし」ともう一人の子供に付き添われて家まで延々街の中を歩くことになる。それで「わたし」は彼を wanderer と呼んだのである。

例文3

I set out one morning to walk — I reached Widford about eleven in the forenoon — after a slight breakfast at my inn — where I was mortified to perceive the old landlord did not know me again — (old Thomas Billet — he has often made angle-rods for me when a child) — I rambled over all my accustomed haunts.

Charles Lamb, Rosamund Gray

ある朝、わたしは徒歩ででかけた。昼前の十一時ごろウィドフォードに着いた。宿屋で軽い朝飯をすませた。その宿の年老いた主人はわたしを覚えておらず恥ずかしい思いをした。(ビレット爺さん。子供のころよく釣り竿を作ってくれたのだが)そのあとは昔よく出入りしていたところをことごとく歩いて回った。

Monday, March 2, 2026

英語読解のヒント(208)

208. 倒置 (9)

基本表現と解説
  • I did not notice it, nor did my sister. 「わたしも気づかなかったが、妹も気づかなかった」
  • I did not notice it, neither did my sister.

接続詞の nor や neither に先立たれ、主語と動詞が転倒する例。

例文1

Nor is fame only unsatisfying in itself, but the desire of it lays us open to many accidental troubles. ADDISON.

Austin Allibone, Prose Quotations from Socrates to Macaulay

名誉は本来満足のゆかないものであるのみならず、これを得ようとする欲望は、多くの不慮の禍に人を陥らしめる。

例文2

The little imp of a French lad did not advance, neither did he retreat.

Victor Hugo, The Toilers of the Sea (translated by Isabel F. Hapgood)

あのフランス人の小僧は進みもしなかったし、退きもしなかった。

例文3

No one save the railway servants entered the van or left it, neither had the doors been opened while the train was in motion.

Harry Houdini, The Right Way to Do Wrong

職員のほかは誰も貨物列車に出入りした者はなかった。また、列車が動いているあいだ戸は開かれなかったのである。

Thursday, February 26, 2026

ルイ・ニコライ・レヴィ「タマネギ人間クスラドック」

 


去年 google books でデンマーク語版(原作)の「タマネギ人間クスラドック」を見つけたときは椅子から飛び上がって喜んだ。この本はヴァルター・ベンヤミンがゲルショム・ショーレムに読むのを勧め、ショーレムが大いに褒めたという本なのだが、なにせ原作もドイツ語の翻訳版も手に入らず、わたしの中では伝説級の一冊となっていた。いや、正確に言うと日本のある大学図書館にはドイツ語訳があるのだが、古い本のせいだろうか、貸し出してくれなかったのである。それが2017年にはじめての英語訳が出てむさぼるように読み、これは訳すに値する本だと感心したのだが、しかし英語版から重訳するのはちょっと気が引けた。英訳はよく原文を簡素化して訳してしまうことが多いからだ。すくなくともドイツ語の訳と突き合わせて日本語訳をつくりたいものだが、と思っていたら、デンマーク語版が見つかり、欣喜雀躍したわけである。

それからPDFをプリントしてせっせと辞書を引き、AIにも教えを請うてようやく原文を読み終わった。英訳は案の定訳すのを飛ばした文章があったり、段落が変えられていたり、勘違いによる誤訳もいくつかあった。逆に原文の誤植を英訳者が正しく直して訳している部分もあった。作品の内容が幻想的というかサイケデリックというかシュールレアリスチックというか、読み手の読解力・解釈力をためすようなところがあるので、細部まで自信を持って理解したとは言えないが、これならわたしでも翻訳を出せそうだという感触は得た。

物語の中心にいるのはクスラドックという狂人とその治療にあたっているドゥ・モンテパシエという医者である。クスラドックはある犯罪を解く鍵をフローレンス夫人の催眠術によって心の中に植え付けられる。医者はそれを催眠療法によって取り出そうとするのである。その過程でじつにパルプ小説じみた、あるいはゴシック小説じみた、どぎつい色合いの事件が立て続けに発生する。こんな要約ではわけがわからないと思うが、夢野久作の「ドグラ・マグラ」の欧州版みたいな作品とでも思ってもらったらいいと思う。実際、この二つの小説は互いに光を当て合い、新しい読みの可能性を切り開いているのではないか。短い小説だが、抜群に面白く、知的刺激に満ちている。


Monday, February 23, 2026

王谷晶「ババヤガの夜」

 


日本人初のダガー賞を取ったということで、読まずにいられなかったのだが、図書館の予約が詰まっていて、ようやく手垢とコーヒー染みとお菓子をこぼしたらしき跡のついた本が手に入った。

一気に読んだ。

極上のパルプ小説である。

パルプには粗製乱造のイメージがつきまとうが、わたしが極上のパルプというとき、それは物語への熱気にあふれた作品という意味だ。何か語りたくてたまらないものが身体のなかにある。表現しなければならないなにかがある。それを爆発させた作品、リアリズムや小説のコンベンションやしゃらくさい枠組みを無視した、いや、それらを崩壊させるように炸裂した作品、それが極上のパルプだ。

わたしは読みながら過去においてそのように熱くはぜちった作品をいくつも思い出した。平林たい子の一連の極道小説や石川淳の知的でかつドスのきいた小説群、いわゆるバイオレンス小説とか任侠小説といわれるもの、RGGのビデオゲーム、ヤクザ映画や漫画のたぐいにいたるまで、すべてのエッセンスが「ババヤガの夜」に流れ込んでいる。後書きで作者は「ジョー・R・ランズデール、ジェイムズ・サリス、テリー・ホワイト、フラナリー・オコナー、ジェイムズ・エルロイ。少しでも、僅かでも、ちょっとでいいから自分もそこに近付きたくて、肩にガチガチに力を入れながら書いた」と告白しいているが、わたしはさらにリザ・コディや、ドリス・レッシングとすら共鳴関係にあると思った。日本の作品だけでなく世界のさまざまな作品を想起させる広がりを持つからこそダガー賞を獲得できたのだろう。

どんな話なのか。

おそらく物語が始まるのは1970年代後半だろう。女だがケンカに強くて暴力に取り憑かれた新道依子が、内樹というヤクザの令嬢のボディーガード兼運転手になる。尚子というこの令嬢は女らしい女になることを父親に強制され、いろいろな習い事に励んでいる。内樹という親分のファンタジー、女は女らしくあらねばならぬというファンタジーを実現させられているのが尚子だ。不細工でどこの国の血が混じっているのかもわからない新道依子とは住む世界が違う女だ。この異形の女に尚子は徐々に親しみを感じるようになる。そして新道依子が尚子のフィアンセ(サディスティックなヤクザ者で、変態的な性的嗜好を持つ男)の鼻をへし折ったとき(文字通り依子は男の「鼻を折り」、「顔を潰した」のである)、新道依子と尚子は報復を逃れるために逃避行の旅に出る。それは四十年という長い旅になるのだ。

尚子は依子を見て、父親の愛玩物である自分から抜け出そうとする。そしてその後四十年間不自由な暮らしを強いられ、さらには男どもとの闘いのなかで左足さえ失うだろう。男の(家父長的な)ファンタジー空間から抜け出そうとした代償がこれだ。この作品がフェミニズムの観点から書かれているのは明白である。

では新道依子とは何者なのか。彼女は荒ぶる力、彼女が子供のころ祖母から語り聞かされた「鬼婆(ババヤガ)」である。良いことも悪いこともする。敵か味方か分からない。そんな力だ。しかし心のきれいな女であれば鬼婆は助けてくれるという。依子はそのような力にあこがれ、実際そのような力になっている。尚子を触発し、男のファンタジー空間から抜け出す手助けをするのだから。新道依子は男(家父長)という暴力に対抗する暴力だとわたしは思う。彼女に内面がないという批判はあたらない。彼女は個として存在しているのではない。力なのだ。その力に触れたとき男のファンタジー空間に閉ざされて生きていた女は別の生き方を夢見るようになる。イギリスのフェミニズム運動でもおなじだ。その中心にはいつも暴力的と言っていい力が存在していた。その力が女性たちを鼓舞していた。

この闘いは現在も進行中である。多くの人々が不自由を強いられ、その闘いのために左足を失っている。世界中で繰り広げられているこの闘いが最後の一文「明るい太陽が、泥と血でできた依子の足跡を照らして乾かす。波が、寄せては返す。何度も何度も、寄せては返す」に暗示されているようで、わたしは深く感じ入った。すぐれたパルプというものは、荒唐無稽、現実離れした話のようで、じつは確かな世界認識に支えられているものだ。

関口存男「新ドイツ語大講座  下」(18)

§18. Wie kommen Sie auf dergleichen Verdacht? あなたはどうして そんな ところへ気を廻すのですか? kommen......auf...... : 「……を思いつく」、「……に想到する」。 verdacht , m .: 嫌疑...