Thursday, February 12, 2026

英語読解のヒント(207)

207. 倒置 (8)

基本表現と解説
  • On they flew once more. 「彼らはまた飛んでいった」
  • Out stepped the hunter. 「猟師が歩み出た」
  • Not for a world of bliss would I do it. 「どれほど幸福を得てもそんなことはしない」

副詞、副詞句を主語の前に置くケースを示す。二番目の例のように、さらに主語と動詞が倒置されることもある。

例文1

Out of the gateway we rushed, and on down the snow-covered path until we were on the fringe of the fir forest.

Arthur Conan Doyle, The Exploits of Brigadier Gerard

われわれは門から飛び出し、雪に覆われた道を一散に走って樅の林の縁まで来た。

例文2

Down came the whole side of the mountain, in a cataract of ruin.

Nathaniel Hawthorne, "The Ambitious Guest"

山の片側がごっそりと、破滅の瀑布となって落ちて来た。

例文3

"Oh, Dora, how could you do it!" she falters, and that is all. Never, either then or afterward, does another sentence of reproach pass her lips....

Margaret Wolfe Hungerford, The Haunted Chamber

「ドラ、なんてことを!」と言って彼女はくちごもり、それきりになってしまった。そのときもそれからも、彼女は二度と非難の言葉を発したことはない。

Sunday, February 8, 2026

英語読解のヒント(206)

206. 倒置 (7)

基本表現と解説
  • Silver and gold I have none.
  • Silver and gold have I none.

例文はいずれも I have no silver and gold. 「金銀はすこしもない」の意味。目的語の silver and gold を主語の前に置いたときは、形容詞の no を 副詞の none に変える。また主語と動詞を転倒させた二番目の例のほうが最初の例よりも語勢が強い。

例文1

...banquets at his court there were none, and the sound of the fiddle and the shawm was heard there no more.

R. Nisbet Bain, Russian Fairy Tales

……彼の宮廷で饗宴は開かれなかった。フィドルの音もショームの音ももはや聞こえなかった。

例文2

But sleep had I none; for about me swarmed flies like vultures over a field of battle, and after fighting them for an hour that seemed a week, I acknowledged defeat and trudged drowsily on.

Harry A. Franck, Four Months Afoot in Spain

しかし寝ることはできなかった。戦場の空を舞うハゲタカよろしくハエがまわりで群れをなしていたからである。一時間ほど(それは一週間とも思える長い一時間だった)ハエと戦ったわたしは敗北を認め、眠気をこらえながら重い足取りで先へ進んだ。

例文3

Salt I had none, but I did possess a ship biscuit and a piece of cold baked taro, and with pigeon and crayfish, what more could a hungry man desire?

Louis Becke, "The River of Dreams"

塩こそなかったが、堅パンと焼いたタロイモの冷たくなったやつならひとかけらある。それに鳩とザリガニを捕まえたのだ。腹を空かした男がこれ以上なにを望むだろうか。

Thursday, February 5, 2026

英語読解のヒント(205)

205. 倒置 (6)

基本表現と解説
  • "He's one of the best fellows ever born." / "Yes, that he is!" 「彼は最高の男の一人だ」「ええ、そうです!」
  • "God is in heaven — can he see when I am doing wrong?" / "Yes, that he can." 「神さまは天にいらっしゃる。悪いことをしたらわかるのかな?」「そりゃ、わかるさ」

目的語又は補語の that を主語の前に置く例。この場合、二番目の例のように助動詞があるときは、動詞を略することが多い。

例文1

 "He is the curate of the parish, I dare say."
 “No, that he is not. He is of no profession at all.”

Jane Austen, Sense and Sensiblity

 「きっと教区の牧師補をしているんだわ」
 「いいえ、それはちがう。彼は職業についていないの」

例文2

 "But, Philippa, tell me at least who she is."
 "That I cannot do," she replied, and then the magnificent face was lighted with a smile.

Charlotte M. Braeme, Wife in Name Only

 「でも、フィリッパ、彼女が誰かくらいは教えて」
 「それはできない」と彼女は答え、美しい顔はあでやかな笑みをたたえた。

例文3

 "Canst thee drive?"
 "That I can!" and his eyes brightened with boyish delight.

Dinah Mulock Craik, John Halifax, Gentleman

 「荷車を駆ることはできるか」
 「できます!」彼はその目を子供らしい喜びで輝かせた。

Monday, February 2, 2026

英語読解のヒント(204)

 

204. 倒置 (5)

基本表現と解説
  • That vow he intended to keep. 「彼はその誓いを守ろうとした」

目的語を主語の前に倒置する例。

例文1

Its ascetic spirit he considered the kernel of Christianity.

Margrieta Beer, Schopenhauer

その禁欲的精神を彼はキリスト教の真髄と考えた。

例文2

Such utter and complete ruin one could hardly conceive of.

Mark Twain, The Innocents Abroad

それほど徹底的で完璧な破滅など、ほとんど想像することさえできない。

例文3

"Music I have learned till I am perfectly sick of it."

Jane Taylor, "Contrasted Soliloquies"

音楽はほんとうにいやになるまで習いました。

Thursday, January 29, 2026

ジュアンーデヴィッド・ナシオ「精神分析と反覆」

 


本書は現代フランス思想叢書の一冊として SUNY Press から2019年に出版された。著者はまったく知らないが、題名に惹かれて読むことにした。

最初のほうに随分ナイーブな言明があらわれてびっくりした。精神病患者は症候の解釈を与えられると、その症候から解放されるというのである。いや、そんなことはフロイトだって言っていないはずだ。解釈を与えても、症候が継続するケースにぶつかり、フロイトは考えを改めたはずである。しかしナシオ氏は単なる理論家ではなく臨床医であるので、これは彼の経験から得た、根拠のある言明なのかもしれない。そんなふうに考えて読み進んだのだが、本書の後半において、作者はわたしの疑問に答えてくれた。やはりたんに解釈を提示してもだめであって、分析医が患者にインパクトを与えられるように、ある種の関係を築かなければならないと、書いてあった。それは理論としてフロイトやラカンに接するのではなく、実践的に彼らを読もうとする臨床医の苦労や困難を感じさせる記述で、彼の方法の是非はともかく、経験の重みを感じさせるものであった。

精神分析における反覆という本書の主題は、非常に面白かった。ナシオは患者がある行為を反覆して行うのはなぜなのか、という問いを立て、その問いに直截に答えようとしている。ある女の患者は幼い頃に兄と性的行為をし、思春期以降は何人かの相手とSM的な関係を持ち続けている。そのような反覆は何故生じるのか。

ナシオの提示する解答はきわめて明快、明快すぎるほど明快だ。患者は幼児期に、彼/彼女の受容能力を超えたトラウマ的体験をする。それは意識によって解釈され得ない、忌避すべきものとして、無意識の領域に抑圧される。この抑圧されたトラウマをナシオは「無意識のファンタズム(心象)」と呼んでいる。この無意識のファンタズムは、意識によって解釈されることを求めて抑圧を打ち破り表面にあらわれる。するとそれが症候となる、というのである。その繰り返しが精神分析における反覆というわけだ。

ナシオはこの心的機構を説明しながら同時にフロイトやラカンの用語も簡明に説明している。「欲動」とか「享楽」とか「対象a」といった言葉の説明としてナシオのくらいわかりやすいものは、読んだことがない。

彼は反覆の構造を解き明かしたあと、分析医としてそれをどう治療していくのかという点についても語っている。わたしは臨床的なことはまったく知らないので、ナシオのやり方がどれほど一般的なのかわからないが、彼の言葉が長年の苦労のなかから紡ぎ出されていることは理解できた。

哲学者は概念の細かいニュアンスを考え抜こうとして、説明が長大で難解になるが、臨床医としてのナシオは思い切りよくある部分を単純化して理解し、説明を明快なもの、実用的なものに変えている。

本書の最後の部分には、ナシオが自分の議論を組み立てる際に、核心となったフロイトやラカンの言説が、短く、いくつも付されている。ここを読めば、本書の内容を振り返ることができると同時に、精神分析の勘所が理解できる。ラカン派は数多くの秀才を生み出しているが、ナシオもその一人だろう。

Monday, January 26, 2026

リサ・ランドール「歪んだ道筋」

 


これはいわゆる膜宇宙論を説明した一般向けの解説書である。膜宇宙論とはなにか。どうやら人間が理解する三次元空間の宇宙は、じつは高次元の空間に浮かんでいる膜みたいなものだということらしい。このバルクと呼ばれる高次元の空間にはわれわれの住む膜以外にも、いろいろな膜が浮かんでいると考えられている。

なぜ科学者がこんな膜宇宙を考えたかというと、重力の特異性をこれによって説明できるからだと言う。物理学では重力、電磁気力、弱い力、強い力という四つの力が考えられている。このうち重力は最も弱く、なぜこんなに弱いのかということが物理学者の疑問だったらしいが、膜宇宙モデルでは重力の力が高次元へ漏れているからだ、と説明できる点が強みだ。

もう一つこの本を読んで知ったのは、ビッグバンの起源についてだ。膜宇宙論においてはビッグバンは膜同士が衝突して起きると考えられるらしい。以前ユーチューブの番組で物理学者のショーン・キャロルが、ビッグバンが起きたことはあらゆる証拠から見て確実であると自信をもって語っていたので、このシナリオは決定的なものなのかと思っていたが、そうでもないようだ。赤方偏移の現象から宇宙は膨張していると長らく考えられていたが、じつは宇宙が回転しているために膨張しているような見かけを与えているのではないか、という説が去年あらわれたり、科学といえども「常識」はつぎつぎと書き換えられるようだ。

しかし正直にこの本の感想を言えば、ひどいのひと言に尽きる。リサ・ランドールはまったく文章が書けない人だ。アメリカには科学の最先端をわかりやすく門外漢に説明するサイエンス・ライターがたくさんいて、いつもうらやましく思うのだが、この人はまったくの例外である。話し言葉と書き言葉を無造作に混在させる文章感覚のなさ、比喩表現のぞろっぺいさ、論旨の混乱、意味のない繰り返し、読んでいて不愉快きわまりなかった。本書は「ワープする宇宙 五次元時空の謎を解く」というタイトルで翻訳が出ているそうだが、アマゾンの評価は星4.2。信じられないような高評価である。よっぽどの「名訳」なのだろう。しかし原文はひどい。わたしは最近の物理学における高次元の考え方に興味があるから最後まで我慢して読んだが、そのあとすぐ口直しにジュリアン・バーンズのミステリを読んだ。リサ・ランドールは二度と読まない。

Friday, January 23, 2026

ロバート・W・チェンバース「隠密作戦」

 


チェンバースといえば短篇「黄色い服を着た王」で有名だが、長編小説もかなり書いている。「隠密作戦」は1919年、第一次世界大戦の経験をもとに書かれたスパイ小説だ。この頃のスパイ小説は今と違ってロマンチックな冒険小説といった趣きを持っている。ル・キューやフィリップ・オッペンハイムといった、当時の人気作家もみなル・カレやグレアム・グリーンとはおよそかけはなれたロマンチックな物語を書いた。今読むとこうした作品はいかにも古びて見える。スパイ小説の古典とみなされているのは、チルダースの「砂州の謎」とかコンラッドの「密偵」といった、ロマン主義をできるかぎり排した書き方の小説である。

「隠密作戦」は、たまたまスイスとフランスの国境においてドイツ軍が企んでいるある作戦に気付いたスコットランド出身の男ケイと、アメリカの秘密情報局ではたらく美しい敏腕局員エリスがタッグを組み、ドイツのスパイに命を狙われるなか、ケイが見出したドイツ軍の作戦を挫折させようとする物語である。十九世紀的なロマンが二十世紀に入って読者に嫌われ出したのは、ひとつには物語を展開する仕掛けとして「偶然」があまりにも多用されたからである。最初のうちはこの偶然は意表をついて面白かったけれど、何度も繰り返されると鼻につくようになった。悪党に襲われていた女性を救ってみたら、じつは幼くして生き別れになった妹であった、とか、人が行かない山中の小屋で事件が起きたのに、じつはたまたま村人が通りかかり、その一部始終を見ていた、とか、そんな偶然がぞろぞろ出てくる。ある人は皮肉交じりに、十九世紀後半の小説においては双子の出生率がぐんと上がった、などと言っている。一見不可解な事件の謎が、双子の存在によって解明されるという話がずいぶん書かれたのである。「隠密作戦」も十九世紀的な伝統を引きずっていて、ケイとエリスの出会いは、絶対ありえないような偶然によって可能とされている。この種の展開にはわたしも食傷気味で、ちょっとうんざりした。作者自身もそれには自覚的だったのだろう。エリスが「こんなことってあるわけないわ!」と独りごちると、三人称の語り手は「しかしそういうことは実際あるのである」などと書いている。そんな強弁をしなければならないくらい、びっくりぎょうてんの二人の出会いである。

ただ第一次世界大戦を受けて、スパイ小説は変貌しなければならなくなったということは、この小説を読んでいて感じられた。このカタストロフィックな現実は、従来のロマンチックなナラティブにはなかったいくつかの要素を導入してしまった。たとえば近代的な兵器のとてつもない殺傷能力は、ロマンティックな語りの織物を切り裂くような効果を持っている。ケイとエリスが魚雷で攻撃される場面など、生ぬるい十九世紀的な叙述のなかに突然異分子が持ち込まれたような異様さを感じさせる。古い現実認識のもとに書かれた文章が、新しい風俗や現象を描こうとするとき、そこにある種の齟齬が生じるケースがままあるが、それがこの作品でも起きている。スイスの山中の牧歌的な風景が描かれたあとに、ケイとエリスがドイツの殺し屋に遭遇する場面でも、殺し屋が山から落下し、ぐしゃりと内蔵や脳漿をぶちまけるという描写は、不吉なくらい場違いな印象を与える。また、スパイのあいだの騙し・騙される関係、常に不信にさらされている心理状態は、勧善懲悪のような古い、安定的イデオロギーから生まれた文体で表現されるにはあまりにも向いていないような気がする。しかし最大の齟齬はエリスだろう。彼女は都会育ちのお嬢様である。暗号解読の仕事をしているだけで、とくに体力があるとは思えない。なのに男も無理だという冷たい湖を泳いで銃弾を取ってきたり、スイスの山中を歩き回り、あるいはスパイに追われて逃走するのである。とても近代的な武器を使用した銃撃戦に耐えられる存在ではないのだが、それがまるで妖精のように大活躍する描写には、さすがに当時の読者も違和感を覚えただろう。

こうした欠陥、失敗を克服すべく、作家は新しい現実を表現する文体を徐々に鍛え上げ、ついにはル・カレの作品のような、見事な構築物を生み出すに至ったわけだ。その間のモームやアンブラーなどの努力があらためてすばらしいものであったと認識させられた。

英語読解のヒント(207)

207. 倒置 (8) 基本表現と解説 On they flew once more. 「彼らはまた飛んでいった」 Out stepped the hunter. 「猟師が歩み出た」 Not for a world of bliss would I do it. 「どれほ...