Thursday, May 14, 2026

関口存男「新ドイツ語大講座 下」(20)

§20. Die Freude am Wissen als sochem

知識そのものに対する悦び

Die Freude am ~: sich freuen an...... 「……を楽しむ」というので、名詞 Freude も Freude an...... 「……に対する悦び」という用い方をする。

 知識そのものに対する悦びというのは、「知識のための知識」(Das Wissen um des Wissens willen, 英:The knowledge for knowledge's sake)あるいは「それ自身のための悦ぶことです。即ち、知ってどうするということはなく、知らんがために知るので、知ることそれ自身(das Wissen selbst, das Wissen an sich, das Wissen an und für sich selbst)が目的の学問です。芸術にも Kunst um der Kunst willen (芸術のための芸術)というのがあって、これは運動がフランスで起ったから l'art pour l'art [ラール・プール・ラール]というフランス語で知られていますが、とにかくこうした絶対的関係を Selbstzweck (自己目的)といいます。ところで、こうした理屈をいう場合に、「知識それ自体」とか「知識そのもの」とかいったような語を必要とするわけで、そのいい方はいろいろありますが、最も普通なのは das Wissen als solches, もっとわかり易くいう際には das Wissen als Wissen (身の飾りとしての知識」とか「金儲けの手段としての知識」とか、その他いろんな不純な知識と区別、他のあらゆる形容詞が割り込む余地がないように、おのれみずから形容詞の地位を兼摂して、自分で自分を形容して絶対化したした形が das Wissen als Wissen, die Kunst als Kunst, der Sport als Sport, 等々です。ところが、いったいドイツ語は同じ語を繰返すことをいやがる語なので、たとえば Wenn du keinen Mut hast, so mußt du welchen (あるいは solchen)aufbringen (勇気がないなら、出したらいいじゃないか)[§17] というのと同じように、二度目の名詞を solch- で間に合わせたのがこの das Wissen als solches, die Kunst als solche, der Sport als solcher なのです。

(1) Die Erkältung als solche ist gar nicht bedenklich, wohl aber ihre Komplikationen!
  風邪そのものは決して心配したものではない、がしかしその余病がね。

(2) Es gibt Menschen, die das Geld als solches lieben.
 世には金そのものを愛する人がいる。

(3) Gegen das Tanzen als solches habe ich nihts enzuwenden.
 踊ることそれ自身に対してはなんら抗議すべき点を持たない。

 格変化の問題ですが、この場合 solch- の語尾は本当は「強語尾」でなければならないのですが、普通よく二格三格を弱語尾にして、-em の代わりに -en, -es の代わりに -en を用いる傾向もあります。題文の als solchem も、なんなら als solchen としても差支えありません。

§20. um des Wissens willen: um......willen は「……のため」という二格支配の前置詞(for the sake of)。seiner selbst: 「それ自身」(seiner は er の二格)an sich (= an und für sich): それ自体、そのもの。aufbringen: 出す、搾り出す、奮い起す。(1) bedenklich: 心配な、おそろしい。wohl aber: sondern と殆ど同意。前を一たん否定しておいて、次に肯定を持ち出す際に、その間に挟む句。Komplikation: 余病、「複雑化、紛糾」。(3) einwenden: 抗議する、文句をいう、苦情を申し立てる。

Monday, May 11, 2026

英語読解のヒント(219)

219. letter

基本表現と解説
  • He obeys the law in the letter, if not in the spirit. 「法の精神には従わないかもしれないが、明文には従っている」
  • We carried out our arrangement to the letter. 「われわれはかねての手筈を正確に実行した」

spirit は「精神(内容)」を、letter は「字句(形式)」を示す。ここから転じて to the letter は「文字通りに」「厳密に」「正しく」という意味になる。

例文1

He was more concerned with the letter than with the spirit of his faith.

Victor Hugo, The Toilers of the Sea (translated by James Hogarth)

彼は信仰の精神に従うよりも字句に拘泥した。

例文2

...and when promises have been made, fulfill not only the letter, but the spirit of that which they agreed to perform.

Charles W. Sanders, Sanders' Union Fourth Reader

そして約束をしたときには、その約束の文面ばかりでなく、精神をも履行せよ。

例文3

"Follow my instruction to the letter, or dread the consequences."

Margaret Wolfe Hungerford, The Haunted Chamber

「わたしの指示に忠実に従え。さもないと後が怖いぞ」

Friday, May 8, 2026

英語読解のヒント(218)

218. lest (2)

基本表現と解説
  • Take heed fearing lest it prove harmful to you.
  • Take heed fearing lest it may prove harmful to you.
  • Take heed fearing lest it should prove harmful to you.

fear, fearful, dread, dreadful, worry, afraid など、恐怖を意味する語の後にある lest は that と解する。

例文1

"Begone, and fear lest you be made to pay for the temerity you have already committed!"

William Godwin, Caleb Williams

「立ち去れ、そしておまえが犯した無分別の報いを受けることを怖れよ」

例文2

He turned up the bank, not without some fear lest he might miss the right way, since he was not certain whether the light were in front or on the side of the cottage.

George Eliot, Silas Marner

彼は土手のほうへと向かったが、道を間違っているのではないかという懸念がないわけではなかった。というのはその燈火が家の前にあるのか、横にあるのか知らなかったからである。

例文3

The eyes of the wrinkled scholar glowed so intensely upon her, that Hester Prynne clasped her hands over her heart, dreading lest he should read the secret there at once.

Nathaniel Hawthorne, The Scarlet Letter

皺だらけの学者の視線は爛々とヘスターにそそがれ、へスター・プリンは思わず胸の上で手を合わせた。彼に胸の秘密をたちまち読み取られるのではないかと恐れたのだ。

Tuesday, May 5, 2026

英語読解のヒント(217)

217. lest (1)

基本表現と解説
  • Take heed lest it prove harmful to you. 「あなたの害にならないよう注意しなさい」
  • Take heed lest it may prove harmful to you.
  • Take heed lest it should prove harmful to you.

この lest は「望ましくないことが起きないように」「……しないように」の意味。最初の仮定法を用いた形はやや古く典雅な印象。二番目の形は現在には may を用い、過去には might を用いる。三番目の形においては現在・過去とも should を用いる。

例文1

Grudge not one against another, brethren, lest ye be condemned: behold, the judge standeth before the door.

King James Bible

兄弟たちよ、互いに不平を言ってはいけない。あなた方が裁かれることのないように。見よ、裁き主が戸の前に立っておられます。

例文2

Look upon us, God of mercy,
Come and guard us, kind Creator,
And protect us from all evil!
Guide our feet lest they may stumble....

Kalevala (translated by John Martin Crawford)

慈悲深き神よ、わたしたちを見守ってください
優しき神よ、わたしたちをお守りください
すべての悪からわたしたちを庇護してください
よろめくことがないよう、わたしたちの足をお導きください

例文3

The rush of the waters at this spot was tremendous, and no one ventured to approach it, even in a canoe, lest he should be dashed in pieces.

John L. Hülshof, Reading Made Easy for Foreigners — Third Reader

この辺の水勢はたいへんなもので、たとえ丸木舟に乗っていたとしても、木っ端微塵になることを怖れて誰も近辺には近づかない。

Sunday, May 3, 2026

英語読解のヒント(216)

216. still less / still more

基本表現と解説
  • No one has a right to deprive others of their liberties, still less their lives. 「誰にも他人の自由を奪う権利などない。ましてその生命を奪う権利はなおさらない」
  • Every one has a right to enjoy his liberties, still more his life. 「誰にでも自由を享受する権利がある。ましてやその生命を享受する権利は当然ある」

still less, still more のほかに much less, much more の形も使われる。

例文1

Mr. Oakhurst seldom troubled himself with sentiment, still less with propriety....

Bret Harte, "The Outcasts of Poker Flat"

オークハーストが遠慮することなど滅多にないし、まして礼儀なんか気にしない……。

例文2

Glendinning has been represented to my eager inquiries as immeasurably wealthy; and the sums which he had as yet lost, although in themselves vast, could not, I supposed, very seriously annoy, much less so violently affect him.

Edgar Allan Poe, "William Wilson"

わたしが熱心に探ってみたところ、グレンディニングは途方もない金持ちだということだった。だから彼がこれまでになくした金は、巨額ではあるものの、彼を深く心配させるようなものではない、まして激しい打撃を与えるようなものではないとわたしは思った。

例文3

 VERGES. You have been always called a merciful man, partner.
 DOGBERRY. Truly, I would not hang a dog by my will, much more a man who hath any honesty in him.

William Shakespeare, Much Ado About Nothing

 ヴァージス「おまえはいつも慈悲深い男だと言われるな」
 ドッグベリー「その通りでさあ。わたしは犬をつるし首にしたりしません。まして正直な人なんかつるし首にしません」

Wednesday, April 29, 2026

驚きのOCR

国立国会図書館のラボが NDLOCR-Lite というOCRソフトを無償公開したが、これが評判通りのすばらしい出来で驚いている。OCRというのは、画像化された文字をテキスト形式に変換するソフトのことだ。PDFは非常に便利ではあるけれど、画面の小さな読書用端末を使うときは困ることもある。レイアウトが固定されているため、縦に長い版組の場合、文字が小さくなって読みにくい(眼の悪いわたしにとっては読めない)のである。もちろん小さい端末でも拡大表示して読みやすくはできるのだが、そうすると読みつづけるために絶えず画面をスライドさせなければならなくなり、面倒なことこの上ない。テキスト形式なら長い縦書きの一行を任意の箇所で改行して表示できるので、そのぶん、文字を大きくできる。自分が読みやすい版組を自由に設定できるようになるのだ。

そこでOCRの力を借りてPDFをテキスト形式に変えてしまおう! となるのだが……問題がある。画像の文字を正しくテキストの文字に変換してくれないのだ。わたしがよく使っていたのは Google Keep というネット上のサービスで、PDFの画像をコピーし、このページに貼り付け、文字に変換させる。なかなかの精度ではあるのだが、ときどき妙な挙動を見せる。単語があるべき場所から違うところに移動させられたり、ルビはどれも数行飛んだところに表示されるのである。これをいちいち手作業で修正するのはやっかいすぎる。そのため西洋語なら Google Keep で一冊まるまるテキスト化したことはあるが、日本語ではやったことがない。

今回出た NDROCR-Lite はその悩みを解消してくれそうである。まず文字の読み取りの精度が高い。精密に比較したわけではないが Google Keep と同等かそれ以上だろうと思う。そして明らかに Google Keep に優っているのは、読み取りの速度だ。Google Keep はネット上のやり取りがあるせいなのか、読み取りに十秒くらい待たなければならない。NDROCR-Lite は2秒である。さすが日本の文字、版組を最初から意識してつくられただけある。そしてルビの処理が秀逸。一切省かれてテキストが出力されるのだ。ページを示す数字も、文字以外のデザインもきれいに除去してくれる。ルビはわたしの場合、よほど特殊なものでないかぎりなくてもいいので、これはありがたい。しかしルビがこれだけきれいに省ける、つまりルビをきちんと認識できるなら、設定でルビ処理の仕方を選べるようにすることも(たとえば Epub 用に <ruby></ruby> で表記させる)可能になるだろう。

不満を言えば、章の区切りを示す「一」とか「二」といった漢数字がなぜか英語の -A とか妙な表示になる。もしかしたらソフトは章立ての漢数字をイラストと勘違いしているのかもしれない。またときどき引用の「が省かれてしまう。終わりの」は、わたしが調べた範囲ではすべて認識されているのに、おかしな現象である。さらに文字がかすれているわけでも画像に汚れがあるわけでもないのに、部分的に飛ばされている箇所があった。これは他のOCRでも見られる現象であるが、なにが原因なのだろう。読み取りを行う原文はテキストにおいては一行ごとに改行されて表示されるので、段落内に一行だけ短いものがあると、読み抜けがあるなとわかる。これは残念だった。もう一つ、句読点のあとに半角のスペースがよく入る。もっともこれはエディタの置き換え機能で簡単に除去できる。

こうした問題はあるが、文字の認識率は相当に高く、「浮城物語」を何頁か読み込ませたが、読み抜けは発生したものの、読み取った文字のなかに間違いは見つからなかった。高精度で日本語をテキスト化できるのは間違いないだろう。これはOCRの開発にとって大きな一歩だと思う。国立国会図書館はいい仕事をした。まだ未完成ではあるけれど、将来に期待が持てそうな、筋のいいソフトウェアである。いろいろな人が専門的なレビューを書いているので興味のある人は調べてほしい。無料でダウンロードし、使えるソフトである。

Sunday, April 26, 2026

コリン・ブルックス「死体発見」

 


コリン・ブルックス(1893-1959)はイギリスのジャーナリストで30年代40年代はファイナンシャル・ニューズやサンデイ・ディスパッチの編集をしていた。BBCのラジオにも出演していたらしい。同時に以下のようなミステリも書いていた。

Mr X (1927)

The Body Snatchers (1927)

The Ghost Hunters (1928)

The Catspaws (1929)

Seven Hells (1929)

Found Dead (1930) 本書

Account Paid (1930)

O Sweet McTavish (1930)

Three Yards of Cord (1931)

Mr Daddy Detective (1933)

Frame Up (1935)

The Swimming Frong (1951)

このほかにも Her Serene Highness (1929) というのがあってこれもミステリっぽいところがありそうだ。HathiTrust で目次を確認したところ、語り手が「探偵になる」と題された章があるから。しかしまだ読んでないので断言はできない。

思わず彼の著作リストを調べてしまったのは、本書が予想以上によかったからである。出だしは仮定法の文章が三つ連続で使われている。

もし赤毛の娘の靴下止めがはずれなければマクタヴィッシュは振り返らなかっただろう。もしマクタヴィッシュが振り返らなかったら、わたしは彼とぶつかりはしなかっただろう。もしもわたしがマクタヴィッシュにぶつからなければ、この話は書かれなかっただろう。

通りを歩いていた赤毛の娘の靴下止めがはずれ、それを直そうと人目のない中庭に入っていった。マクタヴィッシュは娘が奇妙な足取りで中庭へ入っていったので通りからちらりとその方向を見たのだが、すると彼女が靴下止めを直す魅惑的な姿がちらりと見えるではないか。その瞬間、通りを急ぎ足で歩いていた語り手の「わたし」がマクタヴィッシュと正面衝突するのである。そのときだ。赤毛の娘が地階の窓からなにかを見つけ、悲鳴をあげる。そして靴下止めを直さずに男二人のほうへ駆け寄りこういうのだ。「人が死んでいる!」

 このあともちろん警察が捜査に乗り出すが、マクタヴィッシュの発案で赤毛の娘と語り手もチームを組んで事件の解決に乗り出すことになる。

 若い娘が薄暗がりのなか白い足を腿までさらけ出してガーターを直すという姿はなまめかしいが、しかしその後はとくにセンセーショナルなことも起きず話は進んでいく。しかしこれが面白くてついつい先を読んでしまう。センセーショナルなことは起きずとも、物語はテンポよく展開するし、会話がユーモラスで楽しいのである。アマチュア探偵チーム三人の個性もうまく表現されている。しかも彼らにはなんとなく怪しげなところがあるのだ。それは強調されてはいないが、すべての登場人物を疑ってかかるミステリファンならきっと「待てよ」と思う瞬間がところどころに配されている。コリン・ブルックスが文章家だとは思わないが、読者の興味を引き付ける技術はたしかに持っていると思う。

 物語は後半に入って第二の殺人事件が起き、一気にその興趣を増す。そして見事などんでん返しがあり、なぜ出だしの部分があれほど印象的に書かれていたのか、その理由も明らかになる。なるほど、そうだったのか! と読者はきっと膝を打つだろう。標準以上の、仕掛けにみちたミステリに仕上がっている。

 コリン・ブルックスのほかの作品は探偵小説と言うよりスリラーとか冒険小説に近いようだが、ぜひ読んでみたい。

関口存男「新ドイツ語大講座 下」(20)

§20. Die Freude am Wissen als sochem 知識 そのもの に対する悦び Die Freude am ~ : sich freuen an...... 「……を楽しむ」というので、名詞 Freude も Freude an...... 「……に...