この本は近いうちに読み直さなければならない。じつに奇妙な、魅力たっぷりのホラーである。
作者のウォルド・フランクは1889年、ニュージャージーに生まれ、政治的な活動家として生涯を過ごした。ラテンアメリカに関する著作が多数あり、小説も数作書いている。しかし「チョーク・フェイス」みたいなホラーを書いているとは知らなかった。
この本の語り手は若い医者である。勉強はよくできるようなのだが、精神的にはどことなく不安定で、その文章は妙にドラマチックになったりセンチメンタルな部分を見せたり、わたしの読解力に問題があるのかもしれないが、なんだかわけのわからない部分もある。両親とも仲がうまくいっていない。母親は彼が独立することを嫌い、ずっと自分の保護下に置こうとしている。彼はそれに反発しているが、どう見ても両親に守られている今の境遇に満足しているようだ。要するにこの男は世間で言う「わがままなぼんぼん」であり、物語論的に言えば「信用できない語り手」ということになる。彼は気に入っている女性と結婚したいと考えているが、彼女のほうは、彼を嫌ってもいないが、特に好きでもないらしい。
細かく書くと話がややこしくなるし、ネタバレにもなるので短くはしょると、この若い医者が連続殺人とおぼしき奇怪な死に興味を抱くようになる。その事件のいずれにおいても背の高い、黒いスーツを着た、白いつるつる頭の男が目撃されているのだ。しかも顔はのっぺりしているという。これが表題のチョーク・フェイスである。医者はこのチョーク・フェイスの正体を突き止めようとする……。
おそらく語り手のコンプレックスや不燃焼的恋愛関係がなんらかの形で連続殺人やチョーク・フェイスという形象に反映されているのだろう。とにかくサイケデリックというか、シュールというか、珍妙な作品なのだが、しかし面白い。明らかにフロイトの影響を受けて書かれたとわかる。わたしは読みながらルイス・レヴィの「たまねぎ男クスラドック」を思い出した。再読の際はノートを取り、じっくり考えながら読まなければならない。内容の議論はそれからだ。さっきも言ったように、語り手の精神状態が非常に特殊で、一回読んだだけではわたしにも理解できていないところが多いからである。ひょっとしたらとてつもなく不思議な、知られざる傑作なのかもしれない。今回はそんな予感を抱かせる小説だと報告するにとどめておく。