Tuesday, January 30, 2024

ジョン・メア「帰り来たらず」


ジョン・メア(John Mare)は1913年に生まれたジャーナリストで第二次世界大戦中に戦死し、短い生涯を終えた。本作は彼の唯一の小説で、オフ・ビートなスパイものである。

舞台は1941年のロンドン。雑誌のライターをしているデズモンド・セインが謎の女アン・レイヴンと出逢う。なにが謎なのかというと、まず職業がなにかわからない。そのくせ彼女は金をふんだんに持っているのだ。また彼女の態度もデズモンドには謎だった。彼女はいつも誘っているのかそうでないのかはっきりせず、しかもひどく冷静。男の心を奇妙にかき乱す女だ。デズモンドは彼女の家は知っていたが、日中どこにいくのだろうと跡をつけると、たちまち彼女はそれを察知して行方をくらまし、あとで電話で、またおなじことをしたらもう二度と会わないと連絡してくる。

デズモンドという男は自分勝手でわがままな所がおおいにあり、自分の手に入りそうで入らない女にだんだんいらだちを覚えはじめ、とうとう殺意を抱くにいたる。

数日後に外国へ行くと彼女から言われたある日、デズモンドは彼女の家で彼女を殺害してしまう。

ここからおやおや? という話の展開になる。デズモンドが彼女のアパート出ると、警察よりも早く数名の男たちがその殺害現場を訪れ、死体を発見し、殺害者の調査をはじめるのだ。

じつは彼女は国際的な陰謀組織の一員、スパイであって、男たちは彼女とコンタクトを取るはずだったのに、彼女があらわれないので、家まで様子を見に来たということらしい。

デズモンドはこの組織に捕まえられ、拷問を受け、リストはどこにある、と問われる。そのときはなんのことかさっぱりわからなかったが、組織の人間を二人殺害し逃げのびた彼は、ふとした偶然からそのリストの意味を知り、陰謀組織と虚々実々の駆け引きをはじめる……。

この作品はスパイ小説ではあるけれども複雑な味わいを持っている。シリアスなものとコミックなもの、現実と悪夢、狂気と正気、そういったものがないまぜになって読者を考え込ませる瞬間がいくつもあるのである。「木曜日だった男」ほどの深さはないが、それと似通った哲学的な興趣を持っている。

物語の最後でデズモンドはスパイ組織の親玉の正体を知る。彼は政界・財界における、それなりの大物だったが、しかし「それなり」でしかない。けっして突き抜けた器量の持ち主ではないのだ。彼は本も書いているが、文章もお笑いものだし、内容もくだらない。その程度の人間がリーダーになっているのだ。反体制的な陰謀組織と言うから、モリアーティー教授みたいな、とてつもない悪党がその首領になっているのかと思いきや、じつはまことに凡庸な男でしかない。しかも彼はただ自分が望むことをべらべらとしゃべるだけで、それを実現する末端の人々が味わう現実――たとえば敵の首がへし折れるその衝撃を身体に感じていることや、敵の弾丸に身を貫かれる痛み――を知らない。わたしはデズモンドという男も嫌ないやつだと思うが、彼が最後に味わう感慨には共鳴せざるを得なかった。

Friday, January 26, 2024

オクタヴス・ロイ・コーエン「死ぬのはいつでもできる」

 


原題は There’s always time to die だが、I love you again という題でも出ているようだ。話の内容はちょっとばかり手が込んでいる。

一九三七年三月、西インド諸島を周遊してニューヨークへ帰還するクルーズ船のなかで事故が起きる。ジェイソン・ラウントリーという男が船から海に落ちてしまったのだ。すぐさまラリー・ウィルソンという男が海に飛び込み、ジェイソンを救助する。ところがその際、ラリーは救助ボートのオールに頭をぶつけ、意識を失う。意識を取り戻したとき、彼は奇怪なことに気づく。彼は一九二九年に会社の金をある場所に届けに出かけたことは覚えているが、その後の記憶がまったくないのだ。二十九年以前の記憶もおぼろげだが、二十九年から三十七年、つまり物語の現在までの記憶はすっぽりと抜け落ちている。彼は自分の名前はジョージ・ケアリだと思っていたが、所持品を調べて見ると失われた八年間のあいだはラリー・ウィルソンという名前で通っていたらしい。しかも裕福な身分となり、結婚までもしていたようだ。


                        ジョージ・ケアリ  |   ラリー・ウィルソン|

                    ----------------------1929---------------------1937----

                                      (最初の記憶喪失) (二度目の記憶喪失)


彼はラリーとして住んでいた家へ帰るのを引き延ばし、自分になにが起きていたのか探ろうとする。ところが妻から緊急事態の発生を告げる電報を受け、帰らざるをえなくなる。そして彼が助けたジェイソンの全面的な協力を受けながら、緊急事態(殺人事件)に対処することになる。

一九二九年に記憶を失ったとき、彼は会社の金を運ぶ最中だった。もちろん自分が誰で、なにをしているところなのかわからなくなったのだから、彼は自分が大金を持っていることを知り驚いた。また当然会社は彼を横領の罪で訴えた。

三十七年に記憶を失った(取り戻した?)とき、彼は殺人事件に巻き込まれていた。彼が八年間住んでいた場所でとある人間が殺されたのだが、その重要容疑者がいうには、殺害が起きた時間、彼はラリーと一緒だったというのである。ラリーがそのアリバイを立証すれば容疑者はすぐに容疑をまぬがれる。しかしラリーは記憶を失い、自分が容疑者と一緒だったかどうか覚えていない。

この二重の問題にラリーは直面する。そして物語はクライマックス(殺人事件の裁判)へと向かう。

本篇ですぐに気がつくのは一九二九年から八年間の記憶がまったくない、つまり大恐慌の時期の記憶が欠落しているという点だ。大勢の人が経済的に苦しかったころ、ラリーはかなり裕福な生活を送っていた。これは何を意味するのだろう。また二十九年以前の記憶と、それからの八年間の記憶が排他的な関係にあるのはなぜなのか。八年間の間は二十九年以前の記憶を完全に失い、二十九年以前の記憶を取り戻したとき、八年間の記憶は完全になくしている。なぜ二つの記憶が共存しないのか。二つの記憶は本質的に次元の異なるものなのか。さらに、二十九年以前の記憶を取り戻したラリーはそれから数週間、ラリーであってラリーでない、宙づり状態におかれる。彼が住んでいる町には妻もいるし、友人もいる。しかも名士として通っている。しかし彼は出会う人、出会う人、みなはじめて見る人ばかりだし、妻に対してはある種の距離を取らざるをえない。彼は社会というネットワークのなかにある場所を得ているのだが、その場所におさまることに罪悪感 guilt を感じてしまう。そしてラリーは殺人事件を解決することで、guilt を感じずにネットワークのなかに身を収めることができるようになる。記憶の問題と guilt の問題はどこかで繋がっているような感じがするのだが、どういう関係があるのだろうか。

読者にいろいろと考えさせる面白い一作だったと思う。


Tuesday, January 23, 2024

J.J.コニントン「キャッスルフォードの謎」

 


推理小説ではよくある、遺言をめぐる殺人事件を扱っている。キャッスルフォード夫妻は立派なお屋敷に住んでいたが、その生活費は資産家の妻の懐から出ていた。夫は以前はそれなりに売れていた肖像画家だったが、ふとした事故で指を二本失い、今は妻に養われる身分である。妻は最初のうちは夫を愛していたが、移り気な彼女はしだいに彼に愛想を尽かすようになる。その変化に伴って遺書の内容も変えようと考え始める。妻は最初のうちは膨大な遺産を夫に遺贈するつもりだったが、彼女の兄弟たちの狡猾な示唆に従い、それを変更しようと考えるのだ。そして遺書の内容が本当に変更されようとするその瞬間に、彼女は殺害されるのである。当然、遺書の変更によって損をする人がその犯人ではないかと疑われることになる。

コニントンは非常に念入りに描写を重ねる作家である。登場人物は類型的なのだが、それでも類型性を丁寧に説明する。いささか煩瑣なきらいがないわけではない。しかしこれが事件現場や手掛かりに関することとなると、話はちがってくる。事実を一つ一つ検証していくその書きっぷり、それこそ石橋を叩いて渡るような堅実さは、推理小説の興趣をかきたてる。作者は読者に対して完全なフェアプレイをいどんでおり、探偵が手にする手掛かりはすべて読者に提示される。そして大団円となる探偵の推理の開陳は、まことに論理だっていて、すべての手掛かりがぴたりと組み合わされて事件の全体像を提示する。コニントンというのはあきれるくらいにミステリの黄金期を体現した作家である。

じつを言うとこの小説を読んでいて一瞬不安になることがあった。地元の警察が事件を捜査し、キャッスルフォード夫人の夫が犯人ではないかと考えるのだが、娘が高名な探偵に連絡をし、そうではないことをあきらかにして欲しいと頼むのだ。このように事件の渦中にある人物から依頼を受け、その意向に沿う形で探偵が活躍する場合、物語はいわゆる「本格推理」とはならない。「本格推理」となるには探偵は事件から距離を置いていなければならないのだ。だからそこまで読んだとき、それまでの「本格推理」を目指した書きぶりが無駄になりはしないかと、危惧をしたのである。しかし探偵は依頼を受けて、こう言う。自分が事件にかかわるならすべてを疑う立場に立つ、と言明するのである。父を助けてくれという娘の依頼に応えるのではなく、事件のすべてから距離を置き、客観的に捜査を行うというわけだ。それを読んで、わたしは安心して推理ゲームに没頭した。

時代背景や、科学的知識の有無が問われるところもあるけれど、じっくり考えれば誰が犯人かはあたりをつけることができるだろう。犯人の意外性という点ではそれほど傑出しているとは思わないが、しかし堂々たる本格推理で、黄金期の香り高さが味わえる。

Sunday, January 21, 2024

オリーブ・ノートン「死体鳥が啼く」

死体鳥というのはフクロウのことだ。とりわけ啼き声のけたたましいやつをいう。あれが近くで啼くとぎょっとして跳び上がることがある。古くから不吉な鳥とされていて、lych-owl 「死体-鳥」、本書の舞台となるウエールズでは aderyn-corff (aderyn は死体の意味)と呼ばれる。主人公の巡査部長ロビン・ジランは休暇で北ウエールズへ行き、釣りを楽しもうとするのだが、到着したその晩にさっそく死体鳥が啼く。そしてロビンが車に乗せてやった、若い女のヒッチハイカーが行方不明となり、捜索の結果、死体となって発見される。そして彼女を最後に見たロビンは殺人の容疑をかけられるのだ。

ミステリになれた人ならかなり早い段階で事件の真相にあたりをつけることができるだろう。私も事件が起きてすぐに見当が附いた。しかしオリーブ・ノートンのミステリは、謎とその解決に主眼があるのではない。事件を通して主人公がある気づきを得る、それがノートンの作品の面白いところだ。「死体鳥」の主人公ロビンも事件を探るうちにある気づきを得て、小説の冒頭で気まずい関係になってしまった恋人との仲を修復することになる。じつのところ殺人事件よりもロビンの私生活におけるドラマのほうが重要なのである。殺人事件はロビンが自分の内面を整理する手掛かりになるにすぎない。

つまりこの物語ではパースペクティブの転倒が生じている。主であるはずの私的ドラマが、副であるはずの殺人事件の背景においやられているのだから。しかしパースペクティブが転倒した物語、つまり読者の関心を惹く事件、災害、カタストロフィーが、その背景として描かれている人間関係の比喩的表現でしかない作品というのはかなり多い。以前このブログで紹介したピーター・チェイニーの Lady、Behave! もこの構造を持っている。SF映画などで描かれるカタストロフィックな事態も、そこに登場する家族や夫婦の葛藤の、比喩的表現になっていることがある。たとえば娘の反抗に対する父親の激怒が、地球を襲う巨大隕石として現れ、最後に地球を救おうとする父親の決死の行為は、娘との和解を比喩的に示す、というように。内的なもの(葛藤)が外的なものに投影されるこの構造については、考えるべき問題が多数含まれているような気がする。


Thursday, January 18, 2024

独逸語大講座(16)

童話「木製の乙女」

原文 W. Schmidtbonn
改修訳注 関口存男

 これは原作を私が読み安く改修したものです。新たな単語を除く外は、凡て之れまでの文法の知識で読める筈です。註の方もなるべく詳しく読んで頂きたく思います。それは、註によって文法の復習をし、同時に文法に洩れた事柄を補って行くからです。  此際特に要求して置きたいのは音読です。昔の寺子屋風な教え方には或種の理があるので、語学は殊に大きな声を出して読まなければ上達しません。眼だけで紙の上をスケーティングやっていたのでは、それは結局生きた知識には成り得ません。机の上に置いて黙って睨み詰めるにしては独逸語なんてものは大して適当な対象ではありませんからね。日本人に一番多い癖です。とにかく向う三軒両隣が挙って新聞に投書する程声を揚げて読みさえすれば語学は面白い程上達します。言語とは、読んで字の如く、やはり口を以て喉を以て盛んに発音し続けるに非ざれば、それを母国語として現在喋舌っている外人達のそれに平行するような「語感」という奴が吾人の言語中枢の中に生じては来ないのです。音読せよ、而して音読に快感を覚えよ、――これが語学上達の第一の秘訣です。

Das Mädchen aus1 Holz

Vier Männer2 machten einmal zusammen eine Wanderung: ein Zimmermann, ein Goldschmied,3 ein Schneider4 und ein Mönch.5 Eines Abends6 übernachteten7 sie in einem großen Wald, wo8 sie von9 Räubern10 und wilden Tieren bedroht11 waren.12 Deshalb beschlossen sie, daß immer einer13 von ihnen wach14 bleiben15 soll, während die drei andern schliefen.16 Zuerst kam der Zimmermann an die Reihe.17 Als er aber die andern18 im tiefen Schlaf schnarchen hörte, wurde er sehr schläfrig. Darum19 nahm20 er sein Handwerkszeug21 aus seinem Bündel, schlug einen jungen Baum ab,22 säuberte23 ihn von24 den Ästen25 und schnitt26 daraus27 die Gestalt eines Mädchens mit Gesicht, Händen und Füßen.

訳。四人の男が vier Männer 或時 einmal 一緒に zusammen 徒歩旅行を eine Wanderung した machte。即ち(:) 一人の大工と ein Zimmermann 一人の金細工師と ein Goldschmied 一人の裁縫師と ein Schneider そして一人の 僧とが und ein Mönch。ある晩 eines Abends 彼等は sie ある大きな森の中で in einem großen Wald 夜を明かしたが übernachteten 其処では wo 彼等は sie 盗賊や野獣に von Räubern und wilden Tieren 脅威を受けていたのであった bedroht waren。それ故 deshalb 彼等は sie 他の三人が die drei andern 眠っている schliefen [schlafen 眠る、の過去 schlief は複数]間は während 絶えず immer 彼等の中の一人が einer von ihnen 眼を覚ましているべきである wach bleiben soll と daß 決議した beschlossen [beschließen の過去 beschloß の複数]――最初先ず zuerst 大工が der Zimmermann 順番に中った kam an die Reihe。ところが aber 他の者達が die andern (四格)深き眠りに落ちて im tiefen Schlaf 鼾をかいているのを schnarchen 聞くと als er hörte 彼は er 非常に眠たく sehr schläfrig なった wurde。だから darum 彼は er 自分の風呂敷包みの中から aus seinem Bündel 自分の商売道具を sein Handwerkzeug 取り出し nahm、一本の若樹を einen jungen Baum 切り取り schlug ab。その枝を掃除して säuberte ihn von den Ästen そしてund 其物から daraus 顔も手も足もある一人の乙女の姿を die Gestalt eines Mädchens mit Gesicht, Händen und Füßen 彫り上げた schnitt. (schneiden 切る、の過去)

註。――1. aus Holz または von Holz。「……製」と云う時には von、aus を用いる。――2. こういう時には Leute(人々)が使えない。Leute は英語の people で、その数が不定な時にのみ使う言葉である。――3. Schmied=smith 「鍛冶屋」の事だが、Goldschmied, goldsmith となると金銀を打って細工する職人のこと。――4. Schneider は、布地を裁って(schneiden, 裁る)服を作るからそう云うのである。――5. Mönch (英 monk)は Monaco (名高い賭博の国)München (独逸の都会、München ビールは名高い)等の固有名詞と同語源で、教会僧ではなく、僧院に籠って修道する僧の事を独逸語では Mönch 伊太利語では monaco と謂うのである。――6. eines Abends (或る晩のこと)は熟語である。形容詞附きの名詞を二格にすると副詞句が出来上る。その他 eines Tages(或日)eines Morgens (或朝)等がある。――7. über die Nacht (over night)「夜通し」から来た非分離動詞が übernachten (to stay over night)「一泊する」である。übernachteten はその過去の複数三人称。――8. wo は前の Wald を先行詞とする関係代名詞。(第二巻 172)――9. 此の von については第二巻 116――10. 「奪う」(rauben 英 rob)から来た名詞。――11. bedrohen (脅かす)の過去分詞。過去分詞でありながら ge- の附かない理由は? (第二巻 141 を見よ)。――12. 受働形ならば元来は bedroht wurden の筈である(第二巻 115)が、そうすると「脅威された」(一回きりの動作)の意になって、「脅威されていた」(連続的状態)の意にならない。――13. ein という不定冠詞を「一つ」「一人」という名詞的な意味に用いる時には、男ならば男性の語尾を附して einer と云う。――14. wach は英語の awake に相当する形容詞で、「私は起きている」ならば ich bin wach 又は ich bleibe wach である。――15. bleiben は元来は「とどまる」の意であるが、その用法は独逸語特有で、たとえば ich bin ein Kind に対して ich bleibe ein Kind と云えば「私は相変らず子供である」或は「私は子供であることを止めない」の意である。形容詞と共に用いる場合も同様で ich bleibe wach と云えば、「他のものが眠ってしまった後と雖も」と云う考を土台に置いて、「私は依然として目ざめている」という事になる。――16. 日本語で云えば、眠って「いる」間は、であるが、ドイツ語はもっと合理的で、「眠って「いる」のではなく、眠って「いた」のであるから、過去形を用いる。訳語は凡て日本語に囚われざるを得ないから、斯う云う点は特に注意して頂きたい。――17. an die Reihe kommen (順番に中る)という熟語。die Reihe は「順番」。――18. 此処で die andern は四格である。だから die andern schnarchen (他の者達「が」鼾をかく)と結び附けて考えてはいけない。die andern hören (他の者達「を」聞く)即ち詳しく云えば die andern schnarchen hören (他の者達を、鼾をかくのを、聞く)と分解して考えなければいけない。――同様に、「私は彼が来るのを見る」と云う時には ich sehe ihn kommen (私は彼「を」来るのを見る)と云うのがドイツ語の語法である。――19. darum=deshalb――20. 「取る」の三要形は表を見よ。――21. Handwerk は「手職」「商売」。――Zeug はWerkzeug と同じで「道具」。――22. abschlagen と云う分離動詞。ab= には「云々し取る」「云々し去る」の意がある。――23. säubern (拭う、掃除する)は sauber (綺麗な、清潔な)から来た動詞。――24. 此の前後の一文は、原文通りに訳すると、「それを(樹を)枝から清めた」となる。日本語では、関係を反対にして、「樹から枝を払いのけた」と云わなければならない。これも独逸語の語法だと思って覚えるの外はない。――25. 単数 der Ast. ――26. 切る事を schneiden と云うと同時に、截って作り上げる、彫る、彫刻する事をも schneiden と云う。――27. heraus は「それから」「その中から」「それを出立点にして」「それを台にして」「それを材料にして」の意。(heraus の構造に関しては第二巻 186)。

Monday, January 15, 2024

英語読解のヒント(95)

95. this day week

基本表現と解説
  • He left Yokohama for Europe this day week. 「彼は前週の今日、ヨーロッパへ向け横浜を発った」
  • He will leave Yokohama for Europe this day week. 「彼は来週の今日、ヨーロッパへ向け横浜を発つ」

this day week あるいは that day week は「前週の同日」ないし「来週の同日」を意味する。どちらの意味に取るべきかは文脈から判断する。

例文1

 "Weren't you a little shaky by Southend Pier one day, and wanted to be thrown overboard?"
 "Southend Pier!" he replied, with a puzzled expression.
 "Yes; going down to Yarmouth, last Friday three weeks."

Jerome K. Jerome, Three Men in a Boat

「先日、サウスエンド・ピアの近くでふらふらなさり、船から飛び降りたそうにしていませんでしたか」
「サウスエンド・ピアの近く?」彼は戸惑ったようにこたえた。
「ええ、ヤーマスへ向かうところでした。三週間前の金曜日です」

 「この前の金曜日から起算して三週間前」ということ。

例文2

I shall expect your clear decision when I return this day fortnight.

Charlotte Bronte, Jane Eyre

二週間後の今日帰ってくるとき、あなたのはっきりした決心を伺います。

例文3

"Let us pledge ourselves to meet again here this day three years, living or dead."

J. E. Muddock, Stories Weird and Wonderful

「生きていようと死んでいようと、三年後の今日、ふたたびここで会うと約束しよう」

Thursday, January 11, 2024

英語読解のヒント(94)

94. 比較級 + 否定 (2)

基本表現と解説
  • Nothing is more precious than time. 「時間より貴重なものはない」

否定語句を文頭に置くケース。

例文1

Nothing is more common than energy in money-making, quite independent of any higher object than its accumulation.

Samuel Smiles, Self-Help

金を貯め込もうとすること、しかも高尚な目的のない、蓄財のための蓄財くらい凡庸なものはない。

例文2

Nothing more wretched than his appearance could be imagined.

Anthony Trollope, Christms at Thompson Hall

彼のありさまより憐れなものは想像もできない。

例文3

Whang, the miller was naturally avaricious; nobody loved money better than he, or more respected those that had it.

Oliver Goldsmith, Letters from a Citizen of the World, to his Friend in the East

粉屋のワンは生来貪欲だった。彼ほど金銭を愛した者はなく、また彼ほど金持ちを尊敬した人はなかった。

Monday, January 8, 2024

英語読解のヒント(93)

93. 比較級 + 否定 (1)

基本表現と解説
  • A greater poet never walked the earth. 「彼よりも偉大な詩人はない」

つまり「彼はもっとも偉大な詩人だ」という最上級の表現とおなじ。

例文1

A dirtier or more wretched place he had never seen.

Charles Dickens, Oliver Twist

これほど不潔なところ、これほどみじめなところは見たことがなかった。

例文2

Many admiring glances followed them — a handsomer pair was seldom seen.

Charlotte M. Braeme, Dora Thorne

多くの賛嘆のまなざしが彼らのあとを追った。これほどの美男美女の組み合わせはめったに見られなかった。

例文3

"Black tidings these, Mr. Williams," said he; "blacker never came to New England. Doubtless you know their purport?"

Nathaniel Hawthorne, "Endicott and the Red Cross"

「不吉な知らせです、ミスタ・ウィリアム。これより不吉な知らせがニュー・イングランドに来たことはない。この知らせの意味するところはおわかりでしょうな」

Friday, January 5, 2024

英語読解のヒント(92)

92. come off + 結果を示す補語

基本表現と解説
  • The team played hard and came off with a victory. 「そのチームは奮戦し、勝利を得た」
  • Of the three I came off the best. 「三人のなかでわたしが一番ましだった」

競争・戦い・試練などの結果を示す表現。come forth とか come out という形も使われる。また come の代わりに issue が用いられることもある。

例文1

No man could have gone through it and came out of it unchanged.

Wilkie Collins, The Woman in White

そんな経験をして変わらない人などいない。

例文2

At the age when youth swells the heart with an imperial pride, he looked down more than once at his worn-out boots, and knew the unjust shame and burning blushes of wretchedness. It is an admirable and terrible trial, from which the weak come forth infamous and the strong sublime.

Victor Hugo, Les Misérables (translated by Lascelles Wraxall)

若者の胸が自負の念でいっぱいの年頃に、彼は一度ならず自分のぼろぼろの靴を見て、みじめさに不当な恥ずかしさを感じ赤面した。それはすばらしくも恐るべき試練だ。弱者はこの試練を経ていやしい者となり、強者は畏敬すべき人間になる。

例文3

And the President, liberated by those who had detained him, stepped up to the table and began, with minute attention, to select a sword. He was highly elated, and seemed to feel no doubt that he should issue victorious from the contest.

R. L. Stevenson, New Arabian Nights

会長は彼をおさえていた人々の手から解放されるとテーブルに近づき、念入りに武器選びをはじめた。ひどく勇み立っていて決闘には自分が勝つと確信しているようだった。

Tuesday, January 2, 2024

英語読解のヒント(91)

91. come

基本表現と解説
  • It will be two months, come Saturday. 「次の土曜日で二ヶ月になる」

この come は If / when ... comes の意。

例文1

"And it all happened before the death of my blessed man, four years ago, let me see, — yes, four years ago, come Christmas."

Henry Wadsworth Longfellow, Hyperion

「そのことがあったのは夫がなくなる前でした。四年前、ええと――そう、今度のクリスマスで四年が経ちます」

例文2

"Yes," he continued, "it wur sixteen year ago, come the third o' next month, that I landed him.

Jerome K. Jerome, Three Men in a Boat

「そうさね」と彼はつづけた。「やつを釣り上げてから、来月三日で十六年がたつことになりますかなあ」

 wur は was のこと。

例文3

 Fortune-Teller. We are liable to losses in this world, madam.
 Mrs. Credulous. I have had my share of them though I shall be only fifty, come Thanksgiving.

Charles W. Sanders, Sanders' Union Fourth Reader

 占い師 「生きていれば損をするものですよ、奥さん」
 ミセス・クレデュラス 「わたしは今度の感謝祭がきても五十にしかならないんですけど、それでもいろいろ損をしましたよ」

英語読解のヒント(111)

111. never so / ever so (1) 基本表現と解説 He looked never so healthy. 「彼がそのように健康そうに見えたことは今までになかった」 He looked ever so healthy. 「彼はじつに健康そうに見...