Friday, June 30, 2023

クリストファー・ブッシュ「ジャンボ・サンドイッチ事件」

この作品は三部構成になっている。あまり細かくしゃべるとネタバレになるので、曖昧な書き方をするが、第一部は詐欺事件、第二部は恐喝事件、第三部は偽装殺人を扱っている。いずれもとある貴族の悪たれ息子がからんでいて、それぞれの事件を探偵トラヴァースが丁寧に解決していく。ジャンボ・サンドイッチという奇妙なタイトルは、トラヴァースがかつて食べた絶品サンドイッチに由来する。それはチーズやら肉やらが三層重ねになっていて、最初の層の味が口に広がると、次の層の味がそれに加わり、さらに最後の層の味が折り重なって、えもいわれぬうまさなのだそうだ。この作品もそういうサンドイッチみたいな味わいを持っている。


ブッシュといえば推理小説黄金期の立役者の一人だが、本作は1965年に出版されたもので、晩年の作品と言える。確かに三つの異なる味が楽しめるのだが、全体の印象はあっさりした感じで、すらっと読めてしまう。巨匠の枯れた味わいとでも云えばいいのだろうか。凝りに凝ったマニアックな作品を期待する人には物足りないかも知れないが、わたしは一抹の哀愁をただよわせるこういう作品も悪くないと思う。

トラヴァースは知性的だが、ごく普通の人間で、語り口も非常に落ち着いている。探偵というのはたいてい癖が強いものだが、彼は探偵能力にすぐれた常識人である。貴族の名誉に傷がつかないようにと、留意しながら捜査を進めるなど、人情味豊かな側面もある。探偵小説の可能性を追求する熱気にあふれた時期を過ぎてから、巨匠たちがどんな作品を残したか。それを知るのに好適な一作。


Tuesday, June 27, 2023

エリザベス・サンクセイ・ホールディング「死への欲望」

 

ホールディングは心理的サスペンスの先駆者で、チャンドラーが高く評価していた作家である。「死の欲望」は彼女の作品のなかでもかなり出気のいいほうだと思う。

ディランシーは金持ちの女と結婚した、人のいい男だ。町の人みんなに愛されている。彼にはホワイトストーンという画家の友人がいる。画家は貧乏で、自分が画家として大成できないのは妻のせいだといつも文句を言っている。このホワイトストーンがあるとき十歳も年下の美少女エルジーと出会い、彼女に愛を告白される。その瞬間から彼は妻の殺害を計画するようになり、ついにはそれを実行に移すのだ。親友のディランシーはショックを受けるが、じつに興味深いことに、彼はこの事件を通して、自分も妻に強い不満を抱いているという事実に気がつくのである。そして彼も妻の殺害を画策する。

ミステリにおいては二組のカップルが登場し、一方のカップルが他方のカップルの無意識の欲望を現実の行為として表出するという設定がよく用いられる。ディランシー夫婦とホワイトストーン夫婦の関係は、まさにそれで、ディランシーは「死への欲望をホワイトストーンから受け取った」と言っている。

しかしホワイトストーンが妻の殺害を決心したのは、美少女エルジーに出合ったからである。つまりエルジーはホワイトストーンに潜在していた死への欲望に確乎とした形を与えたわけだ。彼女はファムファタール的な性格を持っている。

さらにホワイトストーンやディランシーの犯罪を独自に調べようとするヒューという青年も興味深い。彼は大金持ちの父親を持ち、ブルジョア的な価値観を強く信じている。これに反して芸術家の父を持つエルジーは金や物質的成功にではなく、芸術に価値を見出している。ヒューはエルジーに魅力を感じ、物語の最後では結婚を示唆さえするが、エルジーは断固それを拒否する。エルジーからすると、芸術のためであれば殺人も許されるのだが、ヒューのブルジョア的価値観はそれを許さない。この複雑な対立が物語に深みを与えている。

物語の最後にはあっと思わせられるひねりが用意されている。それも死への欲望を深く考えさせるもので、フロイト的なタイトルを持つこの作品はわたしにとって突出して印象的な作品となりそうである。

Saturday, June 24, 2023

アーサー・ギャスク「ラローズの判断」

 


イギリスのとある大邸宅でハウスパーティーが開かれた。招待されたのは十数名の男女。もちろんみな貴族とか法律家とか医者とか俳優といった著名人ばかり。そのうちの一人デイン大尉が真夜中に火かき棒でなぐられ殺される。しかもその日大尉が競馬で儲けた大金も消えていた。事件当時、この邸宅の近所では窃盗事件が多発していたため、警察はおなじ犯人による犯行と考えた。しかしラローズ探偵は屋敷の警備が厳重であったことから、犯人は内部にいると推理した。彼は宿泊客全員を邸宅に二日ほど足止めし、彼らとともにそこに宿泊しながら手掛かりを探そうとする。

しかし貴族とか上流階級人士というのは、いけすかない連中ばかりである。オーストラリア出身のラローズを野蛮人のように見下し、捜査にまったく協力しようとしない。それどころか彼を敵視し、なんと殺意すら見せるのだ。邸宅の執事、家政婦もあやしげな連中で、ラローズはすぐさま彼らが秘密を隠し持っていることに気づく。ラローズの捜査は難航する。

ラローズには際立った特徴がある。一番最後に彼はデイン大尉殺しの真犯人を突き止めるのだが、なんと彼は犯人に同情し、その罪を見逃すことにする。彼はひどく感傷的な男なのだ。これはなにを意味するのだろう。探偵には大きく二種類ある。エラリー・クイーンのように事件を徹底して外部から眺めるタイプと、事件にみずからも巻き込まれ、ときには身を危険にさらすタイプである。前者は大団円において事件の様相を一変させる、論理的な推理を展開してみせるが、後者の場合は、ハードボイルドの探偵がその典型なのだが、事件の内部を最後まで突き進み、突き抜ける。ラローズはその中間的な探偵である。彼は事件に巻き込まれ、実際ピストルで胸を撃たれたりする。そのため貴族たちを足止めしている二日間のあいだに事件を解決することができない。つまり彼は失敗するのである。しかし失敗して事件から距離が出来たときに、彼は見事な洞察力、推理力を発揮する。そしてもう一度事件の渦中に乗り込んでいく。ラローズは「絶対に失敗しない男」と呼ばれているそうだが、すくなくともこの作品においては彼は失敗する。そして失敗によって事件と距離が出来たときにはじめて探偵としての能力を発揮し、決定的な手掛かりをつかむのである。失敗が成功のなかに組み込まれているという仕組みだ。この構造はほかの作品にも見られるのだろうか。


Wednesday, June 21, 2023

ロバート・C・オブライエン「グループ17からの報告」

 「究極のチェスゲームにおいて、駒はあまりにも大きすぎ、重すぎて、とても動かせない。プレーヤーはただ座って目を見張り、こう考える。「何が起きるのだろう、もしも……」そうこうするうちに一方のプレーヤーの命が尽きて倒れ、ゲームは不戦勝によって片がつく。かくして時間のみが重要な要素であり、プレーヤーが優位を築くには、相手の老化のプロセスを早めなければならない」

「超大国間の戦いでは、あからさまで本格的な攻撃は、いかなるものであれ、核による全面的な報復を招く。それゆえ機関銃、大砲、タンク、戦艦、飛行機、兵士といった通常の戦争手段は実質上すべて否定される。ただひとつ残るのは生物兵器である。これはあからさま攻撃とは必ずしもならない。そのような攻撃の被害者は、疑念を抱くかも知れないが、決して自分が攻撃されているとは確信をもっていえない」

こんな巻頭言が本文の前に置かれていて、わたしはこれで本書に興味を持った。わたしはミステリも好きだが、戦争や軍事を扱った小説も好きで、「グループ17からの報告」はその両方の要素を合わせ持っているらしいから、これはもう読むしかない。


物語はアメリカのワシントンの田舎で展開する。ここにはロシアが所有する巨大な屋敷があって、まわりを壁でぐるっと取り囲まれている。大使館ではないのだが、過去に色々な事情があって、外交特権を持ち、アメリカの司法が及ばない場所となっている。ここで元ナチスの科学者シュッツという男がとある研究を行っていた。飲料水に「超水」ともいうべきあるものを混ぜると、それを飲んだ人々が十年、二十年という長い時間を経て、次第に無気力になり、しまいには死んでしまうのである。それは毒とはいえない毒であって、まさしくこんなもので攻撃されたら、巻頭言にあるように「自分が攻撃されているとは確信をもてない」まま死んでいくことになる。

しかしシュッツはこの研究を完成させるために人体実験を試みたかった。そのため近くに住んでいるアリソンという女の子が敷地内に入ってきたとき、彼女を襲い、実験室に連れ込んでしまうのである。731部隊とかナチスの科学者とか、とにかくろくでもない連中である。

行方不明になったアリソンを探すのが地元の警察とファーガスという生化学者だ。ファーガスは問題の屋敷にシュッツがいるのではと疑い、彼の論文を調べ、なにを目論んでいるのかを突き止める。そしてとうとう警察官と屋敷に忍び込み、アリソンを救出しようとする。

物語のテンポはゆっくりしているし、派手なアクションは一切無いが、一定のサスペンスが最後まで持続する、悪くない作品だと思う。シュッツが作ろうとする「超水」がいかなるものなのか、ちょっとした科学的説明が附されているいるけれど、その正しさはよくわからない。H2O ではなく H8O4 とか H16O8 なんてものが本当にあるのだろうか。それはともかく、この本を読みながら、わたしは思わず日本にある米軍基地のことを考えざるを得なかった。ロシアの屋敷と同様に外交特権を持ち、消化剤かなにか知らないが、それを地下水に混ぜてPFAS汚染を引きおこした。しかも日本は政府自体が健康被害を認めないのだから、小説以上に悪い事態が起きているわけだ。

作者のオブライエンは児童文学を主に書いた人だが、本書と Z for Zachariah という二作だけ大人向けのサスペンス小説を書いている。


Saturday, June 17, 2023

R.L. ゴールドマン「保釈」

 


アンバーソンという医者が自宅の書斎で殺害され、金庫のなかが荒らされていた。警察はアンバーソンの知り合いのジェイソンという若い医者を逮捕する。現場にエーテルを含んだ彼のハンカチが落ちていて、金庫からなくなっていたのが、ジェイソンがアンバーソンから借りていた借金の一覧だったからである。警察は巨額の借金を返済したくなかったジェイソンが、アンバーソンにエーテルをかがせ、そのあげく殺したと考えたのだ。

しかしアンバーソンは無実だった。一度は逮捕され拘留されたものの、金を払って保釈された彼は、アンバーソンの娘メアリや、友人の弁護士の力を借りて、数カ月後に始まる裁判の前に真犯人を見つけ出そうとする。そしてアンバーソンという男の知られざる側面を知ることになる。

著者のレイモンド・レスリー・ゴールドマン(1895-1950)はイギリスの作家らしいが、詳しいことは分からない。ひどく英語の読みやすい人だ。文法を一応マスターした人ならそれほど困難もなく読めるだろう。ただし彼には語りの技術がない。一本調子で話をたんたんと進めていくので、どうも盛りあがらない。やはりドラマチックな部分、落ち着いた部分など、めりはりをつけてくれなくては。登場人物の性格もひどく単純である。後半はノワール的な味わいと出そうとしているのだが、正直、期待はずれな出来だった。

Thursday, June 15, 2023

独逸語大講座(9)

第六課

複数三格の語尾及び können と müssen (副文章の語順は日本語と同様)
Bett, n. [bed]obgleich ……にも拘わらず
Krieg, m. 戦争ob....? [whether....?]
kaufen 買うreich (形)[rich]
glauben 信ずるeuch (ihr の三格と四格)汝等を、に
behaupten 主張するdich (du の四格)汝を
fragen 問うmir (ich の三格)私に
weil [because]überhaupt 抑も
da [as]gern 好んで

1. Er sagt, daß er jetzt kein Geld hat. 2. Ich werde meinen Freunden Briefe schreiben. 3. Dein Onkel kommt mit seinen Kindern. 4. Ich frage euch, ob ihr einen Brief schreiben könnt. 5. Man sagt, daß Du Dein Weib nicht liebst. 6. Die Leute sagen, daß ihr mit euren Brüdern reist. 7. Er fragt uns, ob wir überhaupt schreiben können. 8. Sie müssen zum Arzte gehen, weil Sie krank sind. 9. Ich fürchte, daß er vielleicht mein Feind wird. 10. Er will ein Pferd kaufen, obgleich er kein Geld hat.

【訳】1. 彼は(er)〔最初の er〕彼が(er)今(jetzt)一文の銭をも持たない(kein Geld hat)と(いう事を)(daß)云う(sagt)2. 私は(ich)私の友人等に(meinen Freunden)手紙を(Briefe)書く(schreiben)でしょう(werde)3. 君の叔父は(Dein Onkel)彼の子供達と共に(mit seinen Kindern)来る(kommt)4. 私は(ich)汝等が(ihr)手紙を(einen Brief)書くことが(schreiben)出来る(köんt)かどうかを(ob)汝等に(euch)註1問う(frage)5. 世人は(man)君が(Du)君の細君を(Dein Weib)愛さ(liebst)ない(nicht)と(daß)云う(sagt)6. 人々は(die Leute)汝等が(ihr)汝等の兄弟達と共に(mit euren Brüdern)旅行する(reist)と(daß)云う(sagen)7. 彼は(er)我々が(wir)抑も(überhaupt)(字を)書くことが(schreiben)出来る(können)かどうかを(ob)我々に(uns)註1問う(fragen)8. 貴君は(二つ目の Sie)病気で(krank)ある(sind)から(weil)貴君は(最初の Sie)医者の所へ(zum Arzte)行か(gehen)なければならぬ(müssen)9. 私は(ich)彼が(er)恐らく(vielleicht)私の敵に(mein Feind)なる(wird)という事を(daß)恐れる(fürchte)10. 彼は(er)自分が(二つ目の er)一文の銭をも持たない(kein Geld hat)にも拘わらず(obgleich)一頭の馬を(ein Pferd)買おうと(kaufen)欲する(will)

11. Er schreibt mir, daß er noch immer gesund ist. 12. Ich will euch lieben, weil ihr meine Freunde seid. 13. Ich kann nicht glauben, daß sie so reich sind. 14. Wir können diesen Leuten nicht glauben. 15. Sie fragt ihn, welches Haus er kaufen will. 16. Eure Freunde wollen euch Bücher schicken. 17. Arbeitest Du überhaupt gern, Kamerad? 18. Man sagt, daß sie jetzt im Garten arbeitet. 19. Ich kann nicht glauben, daß Du so krank bist. 20. Sie behauptet, daß sie ganz schön schreiben kann.

【訳】11. 彼は(er)彼が(二つ目の er)相変わらず(noch immer)丈夫で(gesund)ある(ist)と(daß)私に(mir)書いて寄越す(schreibt)12. 私は(ich)汝等が(ihr)私の友人で(meine Freunde)ある(seid)から(weil)汝等を(euch)愛そうと(lieben)思う(will)13. 私は(ich)彼等が(sie)そんなに(so)富んで(reich)いる(sind)とは(daß)信ずることが(glauben)出来(kann)ない(nicht)14. 我々は(wir)之等の人々の言葉に(diesen Leuten)註2信ずることは(glauben)出来(können)ない(nicht)15. 彼女は(sie)彼が(er)どの家を(welches Haus)註3買わんと(kaufen)欲する(will)〔かを〕彼に(ihn)問う(fragt)16. 汝等の友人達は(eure Freunde)汝等に(euch)本を(Bücher)送らんと(schicken)欲する(wollen)17. 君は(Du)抑も(überhaupt)好んで(gern)働くか(arbeitest)?同輩よ(Kamerad)18. 彼女は(sie)今(jetzt)庭園(の中)で(im Garten)働いている(arbeitet)と(daß)人は(man)云う(sagt)19. 私は(ich)君が(Du)そんなに(so)病気で(krank)ある(bist)とは(daß)信ずることが(glauben)出来(kann)ない(nicht)20. 彼女は(sie)彼女が(二つ目の sie)全く(ganz)美しく(schön)書くことが(schreiben)出来る(kann)と云うことを(daß)主張する(behauptet)

21. In den Gärten stehen Bäume und Gartenhäuser. 22. Er muß ganz reich sein, da er Pferde kaufen kann. 23. Ihre Frau arbeitet immer mit ihren Mägden. 24. Auch Könige müssen ihre Kinder lieben. 25. Ich will nicht behaupten, daß ich reich bin. 26. Ob er überhaupt kommt, ist nicht ganz sicher. 27. Sie schreibt uns, daß ihr Kind sehr schön ist. 28. Dieser Arbeiter muß in die Fabrik gehen, obgleich sein Weib mit ihren Kindern krank im Bette liegt. 29. Man lacht, weil ein General den Krieg fürchtet. 30. Die Lehrer behaupten, daß diese Knaben gar nicht arbeiten wollen.

【訳】21. 庭園の中に(in den Gärten)樹(Bäume)及び(und)園庭が(Gartenhäuser)立っている(stehen)22. 彼は(二つ目の er)数頭の馬を(Pferde)買うことが(kaufen)出来る(kann)から(da)彼は(er)全く(ganz)富んで(reich)いる(sein)に相違ない(muß)23. 貴君の細君は(Ihre Frau)いつも(immer)彼女の女中等と共に(mit ihren Mägden)働く(arbeitet)24. 王達(Könige)も亦(auch)彼等の子供等を(ihre Kinder)愛さ(lieben)なければならぬ(müssen)25. 私は(最初の ich)私が(二つ目の ich)富んで(reich)いる(bin)と云う事を(daß)主張する事を(behaupten)欲し(will)ない(nicht)26. 彼が(er)抑も(überhaupt)来る(kommt)かどうかは(ob)全くは(ganz)註4確か(sicher)でない(ist nicht)註427. 彼女は(sie)彼女の子供が(ihr Kind)大層(sehr)美しく(schön)ある(ist)と(daß)我々に(uns)書いてよこす(schreiben)(手紙でその事を云って寄越した意)28. 此の労働者は(dieser Arbeiter)彼の妻が(sein Weib)彼女の子供等と共に(mit ihren Kindern)病気で(krank)床の中に(im Bette)臥ている(liegt)に拘わらず(obgleich)工場へ(in die Fabrik)行か(gehen)なければならぬ(muß)29. 将軍が(ein General)戦争を(den Krieg)恐れる(fürchtet)から(weil)世人が(man)笑うのだ(lacht)30. 先生達は(die Lehrer)之等の少年が(diese Knaben)全然(gar)勉強することを(arbeiten)欲し(wollen)ない(nicht)と(daß)主張する(behaupten)

31. Wir wollen gern glauben, daß auch Du Deine Feinde lieben kannst. 32. Sind in diesen Ländern noch Städte und Häuser? 33. Man sagt, daß die Straßen dieser Stadt sehr schön sind. 34. Du glaubst, daß diese Leute Arbeiter sind. 35. Das Weib jenes Arbeiters schreibt mir, daß ihr Mann dieses Jahr noch keine Arbeit bekommt. 36. Der Arbeiter fragt seine Kameraden, ob sie Geld haben. 37. Er will in den Krieg, obgleich er kein Soldat ist. 38. Wir wollen heute mit unsern Kindern spielen. 39. Du mußt im Bette liegen, weil Du etwas krank bist. 40. Man sagt, daß dieser Soldat keinen Mut hat. 41. Die Knaben kommen mit ihren Büchern nach Hause. 42. Die Erde gehört den Menschen und die Luft den Vögeln.

【訳】31. 我々は(wir)君(Du)も亦(auch)君の敵を(Deine Feinde)愛することが(lieben)出来る(kannst)という事を(daß)好んで(gern)信ぜんと(glauben)欲する(wollen)32. 之等の国々の中には(in diesen Ländern)まだ(noch)市(Städte)及び(und)家が(Häuser)あるか(sind)?33. 此の市の(dieser Stadt)街道は(die Straßen)大層(sehr)美しく(schön)ある(sind)と(daß)世人は(man)云う(sagt)34. 君は(Du)之等の人々が(diese Leute)労働者で(Arbeiter)ある(sind)と(daß)信ずる(glaubst)35. あの労働者の(jenes Arbeiters)妻は(das Weib)彼女の良人が(ihr Mann)今年(dieses Jahr)まだ(noch)一つの仕事をも得ない(keine Arbeit bekommt)と云う事を(daß)私に(mir)書く(schreit)36. 労働者は(der Arbeiter)彼の同僚に(keine Kameraden)彼等が(sie)銭を(Geld)持っている(haben)かどうかを(ob)問う(fragt)37. 彼は(二つ目の er)兵士でない(kein Soldat ist)にも拘わらず(obgleich)彼は(最初の er)戦争に出でんと(in den Krieg)註5欲する(will)38. 我々は(wir)今日(heute)我々の子供等と共に(mit unsern Kindern)遊ぼうと(spielen)欲する(wollen)39. 君は(二つ目の Du)少し(etwas)病気で(krank)ある(bist)から(weil)君は(Du)床の中に(im Bette)臥せてい(liegen)なければならぬ(mußt)40. 此の兵士は(dieser Soldat)勇気を(keinen Mut)持た(hat)〔ない〕と(daß)世人は(man)云う(sagt)41. 少年等は(die Knaben)彼等の本を持って(mit ihren Büchern)家へ(nach Hause)来る〔帰る〕(kommen)42. 大地は(die Erde)人間に(den Menschen)属し(gehört)そして(und)空中は(die Luft)鳥に(den Vögeln)〔属する〕註6

【註】〔1〕euch は「汝等に問う」と、日本語に訳すが、euch は、四格である。即ち fragen が四格の補足語をとる動詞である。uns も同様四格である。
〔2〕diesen Leuten glauben の diesen Leutenは、複数三格、つまり glauben は(人を表す)三格の補語をとるのです。
〔3〕welches Haus.... 此の副文章は、間接疑問文章です。
〔4〕nicht ganz の nicht は ganz を打消しているので、「全然確かでない」と云う意味でなく「全くは確かでない」即ち「少し不確かである」と云う意味である。之れはよく出逢う文句で、しかも訳しにくいものであるから御注意。
〔5〕in den Krieg は in den Krieg gehen の略である。云わなくても分かりきっている時には gehen 等という字をよく略す。
〔6〕gehört が省略されている。即ち die Luft gehört den Vögeln が、完全なる文章である。

Sunday, June 11, 2023

英語読解のヒント(62)

62. Who knows but (that / what)

基本表現と解説
  • Who knows but (that / what) he did it? 「おそらく彼がやったのだろう」

but that は that...not ということ、つまり例文は Who knows that he did not do it? と書き換えられる。うっかり間違って that / what 以下に否定を付加するケースがあるので注意。たとえば

  • Who knows but that the whole history of the Conference might not have been changed?

H. W. Fowler, A Dictionary of Modern English Usage

のように。この might not は might の間違い。

例文1

He was evidently a man of importance; "well-to-do in the world;" accustomed to be promptly waited upon; of a keen appetite, and a little cross when hungry; "perhaps," thought I, "he may be some London Alderman; or who knows but he may be a Member of Parliament?"

Washington Irving, "The Stout Gentleman"

明らかに彼は名士のようであった。裕福で、間髪を入れずしもべに世話されることに慣れ、食慾旺盛で、腹が空くと少々機嫌が悪くなる。わたしは思った。ひょっとしたら彼はロンドン市の参事会員かもしれない。あるいは国会議員かもしれない。

例文2

When my cat and I entertain each other with mutual apish tricks, as playing with a garter, who knows but that I make my cat more sport than she makes me?

Michel de Montaigne, Essays

ネコとわたしが靴紐なんぞを使ってくだらないお遊びをするとき、たぶんわたしがネコを見て楽しむというより、ネコのほうがわたしを見て楽しんでいるのだろう。

例文3

"Now," — continued the old woman, with singular earnestness, yet smiling strangely at her own folly, — "I want one of you, my children — when your mother is dressed and in the coffin — I want one of you to hold a looking-glass over my face. Who knows but I may take a glimpse at myself, and see whether all's right?"

Nathaniel Hawthorne, "The Ambitious Guest"

「それでね」と老婆は異様なくらい熱心な口調で、しかしながら自分の愚かしさにたいして奇妙な笑みを浮かべながらつづけた。「子供たちよ、おまえたちのうちの一人に……わたしが死装束を着せられ、棺桶に入れられたときだけど……おまえたちのうちの一人に鏡を顔の前にかかげてほしいんだよ。そうしてくれたら、たぶんわたしは自分の姿を見て、すべてがちゃんとととのっているか確認できるだろうから」

Thursday, June 8, 2023

英語読解のヒント(61)

61. burst out

基本表現と解説
  • She burst out weeping / laughing.

前項とおなじく「わっと泣き出す / どっと笑い出す」という意味。

例文1

Gagin met me in friendly fashion, and overwhelmed me with affectionate reproaches; but Acia, as though intentionally, burst out laughing for no reason whatever, directly she saw me, and promptly ran away, as she so often did.

Ivan Turgenev, Acia (translated by Constance Garnett)

ガギンは愛想よくわたしを迎え、悪気のない調子でさんざん嫌みを言った。アシアはわたしを見るなり理由もなくわざと笑いだし、いつもよくやるように急いで走ってむこうへ行った。

例文2

She [= a lioness] would whine and shriek with pain, and then burst out into perfect volleys of roaring that shook the whole place.

Henry Rider Haggard, A Tale of Three Lions

雌ライオンは苦痛のためにあわれにも泣き叫び、それからあたりが震動するほど何遍となく咆哮した。(註 would は行為の反覆を示す)

例文3

"I can't tell you about it now," she said; "I shall burst out crying if I tell you now — later, Marian, when I am more sure of myself.

Wilkie Collins, The Woman in White

「いまはお話できません。今話すと、わたし、泣き出してしまいます……あとにしましょう、マリアン、もっと気が落ち着いたときに」

Monday, June 5, 2023

新刊本のお知らせ

チャールズ・ペリーの「溺れゆく若い男の肖像」を翻訳し、アマゾンから出版した。
ブルックリンのスラム街に育った少年がギャング団に入り、殺し屋としてのしあがっていく物語だが、タイトルからもわかるようにジェイムズ・ジョイスの高名な作品へのオマージュともなっている。いくつかのイメージが反覆され、その意味が次第に明らかになっていくのだが、とても作者の長編第一作とは思えない巧みさで構成されている。ジョイスの先行作に深く親しんだからこそできたことだろう。 性と暴力を結び附けたかなり衝撃的な内容だ。一読願えれば幸いである。

Friday, June 2, 2023

英語読解のヒント(60)

60. burst into tears / laugh

基本表現と解説
  • She burst into tears. 「わっと泣き出した」

break into tears とおなじ表現。

例文1

She burst into hot tears again when I declared that it would be better for us to return again to the obscurity of Camberwell.

William Le Queux, Whatsoever a Man Soweth

カンバーウェルでのひっそりした暮らしに戻ろうと言うと彼女はまた熱い涙を流した。

例文2

He avoided the Doctor with a febrile movement, and, throwing himself upon the floor, burst into a flood of weeping.

Robert Louis Stevenson, New Arabian Nights

彼は熱にうかされているみたいにふらふらしながら医者の手をのがれ、床に身を投げだし、おいおいと泣き出した。

例文3

She burst into her little laugh. "Are you afraid you'll get lost — or run over?"

Henry James, Daisy Miller

彼女はいつものようにくすりと笑った。「道に迷うのがこわいの? それとも馬車に轢かれるとでも思っているの?」

 burst into a little laugh と burst into her little laugh の差に注意。

英語読解のヒント(111)

111. never so / ever so (1) 基本表現と解説 He looked never so healthy. 「彼がそのように健康そうに見えたことは今までになかった」 He looked ever so healthy. 「彼はじつに健康そうに見...