Tuesday, June 27, 2023

エリザベス・サンクセイ・ホールディング「死への欲望」

 

ホールディングは心理的サスペンスの先駆者で、チャンドラーが高く評価していた作家である。「死の欲望」は彼女の作品のなかでもかなり出気のいいほうだと思う。

ディランシーは金持ちの女と結婚した、人のいい男だ。町の人みんなに愛されている。彼にはホワイトストーンという画家の友人がいる。画家は貧乏で、自分が画家として大成できないのは妻のせいだといつも文句を言っている。このホワイトストーンがあるとき十歳も年下の美少女エルジーと出会い、彼女に愛を告白される。その瞬間から彼は妻の殺害を計画するようになり、ついにはそれを実行に移すのだ。親友のディランシーはショックを受けるが、じつに興味深いことに、彼はこの事件を通して、自分も妻に強い不満を抱いているという事実に気がつくのである。そして彼も妻の殺害を画策する。

ミステリにおいては二組のカップルが登場し、一方のカップルが他方のカップルの無意識の欲望を現実の行為として表出するという設定がよく用いられる。ディランシー夫婦とホワイトストーン夫婦の関係は、まさにそれで、ディランシーは「死への欲望をホワイトストーンから受け取った」と言っている。

しかしホワイトストーンが妻の殺害を決心したのは、美少女エルジーに出合ったからである。つまりエルジーはホワイトストーンに潜在していた死への欲望に確乎とした形を与えたわけだ。彼女はファムファタール的な性格を持っている。

さらにホワイトストーンやディランシーの犯罪を独自に調べようとするヒューという青年も興味深い。彼は大金持ちの父親を持ち、ブルジョア的な価値観を強く信じている。これに反して芸術家の父を持つエルジーは金や物質的成功にではなく、芸術に価値を見出している。ヒューはエルジーに魅力を感じ、物語の最後では結婚を示唆さえするが、エルジーは断固それを拒否する。エルジーからすると、芸術のためであれば殺人も許されるのだが、ヒューのブルジョア的価値観はそれを許さない。この複雑な対立が物語に深みを与えている。

物語の最後にはあっと思わせられるひねりが用意されている。それも死への欲望を深く考えさせるもので、フロイト的なタイトルを持つこの作品はわたしにとって突出して印象的な作品となりそうである。

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