Friday, July 29, 2022

カルロ・ロヴェリ「時間の秩序」

 

ロヴェリは随分と詩的な書き方をする人だ。こういう書き方はアメリカの科学ライターたちは滅多にしない。しかしわたしはロヴェリを貶しているわけではない。逆にいろいろ考えるきっかけに充ちていると思った。

本書は時間とは何か、通念とはかけ離れた科学的概念としての時間について書かれたものである。作者はこの数年、英米でも非常によく読まれている科学者で、わたしもガーディアンの書評を読んでからいつか目を通そうと思っていた。読んでみると、なるほど面白い。

わたしが興味を持った点をいくつか列挙する。

1 わたしはシェイクスピアを読んでいるとき、rhythm という概念に興味を持った。シェイクスピアはものにはそれぞれの rhythm があると考えているようだ。この rhythm がそのものの存在のありようを決めている。このリズムとは何なのだろう、おそらく時間と関係があるのではないか、ということはすぐに思いついた。つまりものにはそれぞれ固有の時間があるのではないか。ただあの当時は、それ以上のことをテキストから読み取ることが出来ず、そこで考えるのをやめてしまった。本書を読んで最初に目を惹いたのは、「単一の時間があるのではない、とてつもなくたくさんの時間があるのである」とか「生起するどんな現象にもそれ固有の時間、それ固有のリズムがある」といった表現である。このおかげでわたしは自分の考えと比較しながらこの本を読むことが出来た。そして昔考えたことをさらに推し進めるヒントのようなものを手に入れることが出来た。

2 本論とは関係がないが、ロヴェリはちらりと「科学と革命の親和性」について語っている。科学の本質は、それまでの知識をひっくり返すところにある。コペルニクスにしろ、ガリレオにしろ、ハイゼンベルクにしろ、それまでの常識(支配体制)を打破して新しい科学を打ち立てている。わたしはよく知らないのだが、フランス革命の主導者たちのなかには科学者がかなりいたというではないか。この点から、なぜ日本の科学力が衰えたかということについて考察が可能だろう。つまり新しいもの、外部の文化を拒否して、内に閉じこもり、現状を維持することに汲々としている情況では、革新的な科学思想は生まれてこないということなのではないか。

3 量子力学によると時間も空間も不連続なのだそうだ。そこでわたしが知りたいのは断点がどのような役割をになっているのか、という点である。残念ながらこの断点についてわかりやすい説明を聴いたことがない。おそらく科学者にも不明なのではないか。わたしは「オードリー夫人の秘密」を読んだときに断点の意味について考えた。うんと簡単に言うと、「オードリー夫人」において断点は「目的論的な構えを瓦解させる」力を持っている。さらに断点はこの作品空間(三次元空間)においては「穴」「空隙」という形で表象されている。そんなことを考えた経験から物理学において断点がどのような機能を持つのか、興味津々なのである。

4 「時間性は根本的に混乱と結びついている。混乱はわれわれが世界の微視的詳細について無知だという事実から生じる。物理学における時間はつまるところわれわれの世界に対する無知の謂いである。時間とは無知なのだ」という主張は面白い。時間論を扱った本書の白眉となる部分である。逆に言えば、すべてを理解するなら時間は存在しなくなるということだ。また上述の考え方を引き出した数学者 Alain Connes は友人二人と短い物語を書いているのだそうだ。その主人公は量子力学的な無限の情報を失うや、時間のなかに引き戻される。そして時間がふたたび顕れると、混乱や苦悩や恐怖や疎外の感情が心に湧いてきたというのだ。これはじっくり考えるに価する発想である。

ただ、ラカンなどの考え方と比較したとき、やや保守的な印象を与える考え方だ。すべてを知る、とは、すべてを主体の権能下に治めることであり、他者性を完全に克服することだとするなら、ロヴェリやアラン・コンヌの考えでは他者性は主体の外部に存在することになるだろう。一方ラカンやジジェクは、他者性はまさしく主体の内部に宿り、パラドキシカルにも主体を構成し、主体を不可能にするものとして存在している。わたしが読む限り、ソシュールも時間を完全に排除したはずの言語システムから時間の概念(他者性)が析出されるというパラドクスを提示している。シェイクスピアの作品も、主体内部の本質的な部分として他者性を考えている。時間は本当に「無知」の問題なのか。物理学と人文科学の知見を単純に比較は出来ないが、基本にあるモデルを比較するとき、ロヴェリのモデルはやや単純に見える。

科学者が哲学めいたことをしゃべり出すと、それはほとんど有害と言ってもいいくらいの阿呆陀羅経となるケースが多い。ロヴェリにもその傾向があるけれど、しかし科学的な事実について解説した本書の第一部は刺激的だ。カク・ミチオとは別の角度から物理学を知ることが出来た。

Tuesday, July 26, 2022

ヘンリー・カットナー「妻殺し」

精神分析医マイケル・グレイが活躍するシリーズの第四作。

カレン・チャンピオンは pathological liar つまり病的な嘘つきとして警察には知られていた。彼女は寝ているとき、別居している夫にランプで殴られそうになったと警察に通報したのだが、調べて見ると夫がいた証拠はなにも見つからない。こんなことが何度も前にあったものだから、警察はまた例の病気だろうとタカをくくっていた。


彼女のかかりつけの医者も虚言癖には手を焼いていて、ふと親友のマイケル・グレイなら彼女を助けることができるかもしれないと、彼女にグレイを紹介する。そういう具合にわれらが主人公は事件に巻き込まれていく。

話が面白くなるのは、夫のほうも頭がおかしいとみなされていることがわかったところからである。夫は知り合いと会社を作っているのだが、そのビジネス・パートナーが彼は正常ではないと言うのだ。事件を妻の妄想という観点から見ていたグレイは、この新たな観点の出現にはっとする。わたしも読んでいて、興味を掻き立てられた。正気なのか、狂気なのか、というせめぎ合いは、語りの問題にも直結してくる。そして語りの問題をわたしはずっと考え続けているのだ。

結論からいうと、期待したほどの先鋭な問題にまで発展してはいなかったが、話自体はおもしろかった。とりわけ、愛がないと思われていた夫婦のあいだに本当は愛があり、仲良くやっているように見えた夫婦のあいだになんの愛もなかったという対照をつくりだしたところはよかった。カットナーの才能を感じさせるところだ。

シリーズが進むにつれ、カットナーの書き方は進歩していったようだ。ただし精神分析における転移について書かれた部分はいただけない。あれは嘘である。SFにおける擬似科学的説明みたいなもので、目くじらを立てるほどのものでもないのだろうが、わたしはちょっと鼻白んだ。

Saturday, July 23, 2022

ヘンリー・カットナー「情婦殺し」

精神分析医マイケル・グレイが活躍する第三作。このシリーズの出だしはいつも劇的だ。部屋の中でじっとしている女が登場したかと思うと、じつは彼女が刺殺されていたことが判明する。そしてすぐさま背後で火の手が上がる。誰かが彼女を殺し、火を放ったのだ。途端にどんどんと激しくドアを叩く音。これまた若い女アイリーン・ヘリックが、中でなにが起きているのかを知らずにドアを開けさせようとしている。その騒音に人が集まってくる。そして誰かが気づく。「火事だ!」男がドアを蹴破ると、もうもうたる煙と熱気がアイリーンを襲う。そして顔を火に包まれた女の姿が見える……。


読者を一気に物語に引き込むという点では上々の出だしである。

そしてこのアイリーンがじつはマイケル・グレイの患者なのだ。彼女は真夜中マイケルに電話をし、マイケルは患者を助けようと事件現場へ、そしてアイリーンの実家へと赴く。

話は結構複雑で、登場人物も多い。

シリーズの第一作「エレノア・ポウプ殺し」で、作者は精神分析を推理の中に取り込もうとしてあまりうまくいかなかった。そのせいか第二作と第三作(本書)では精神分析はメインディッシュに対する添え物のような役割にまで引き下げられている。しかしそれで物語的にはちょうどよい。いくら精神分析をやったところで、現実の犯罪捜査においては物的証拠がなければどうにもならないのだ。もしも精神分析をメインディッシュに据えるとなれば、今までにない新しい物語形式を創造しなければならないだろう。精神分析に対する関心をあくまで副次的なものにとどめることで、本作は非常にバランスの取れた面白い作品に仕上がっている。おしむらくは誤植が多いこと。おそらくわたしが買った電子書籍は、OCRを使って本文を読み取っただけで、ろくに校正もしていないのだろう。

Wednesday, July 20, 2022

ヘンリー・カットナー「アン・エイヴェリ殺し」

これまた精神分析家マイケル・グレイが活躍するミステリ。

エディという十七歳の少年が人殺しと窃盗の罪で起訴される。警察の報告によると、彼はある晩アン・エイヴェリという三十七歳の女性に電話で呼び出され、彼女の家を訪ねた。ところが家に誰もいないのでエディは盗みを思い立ったのだという。ところが部屋を荒らしている最中にアンが帰宅し、エディは彼女を殺して逃亡、その後警察に捕まったという話である。


しかしエディはアン・エイヴェリからの呼び出しに応じて彼女の家に行くと、すでに彼女は死んでいたのだという。

精神分析家のマイケルは、この少年を裁くに当たって、少年として対処すべきか、大人として対処すべきか、警察から意見を求められ、そこからこの事件と関わりを持つようになる。彼は少年の態度に納得の行かない何かを感じ、それをあきらかにするために親友のツッカー警部に頼み、事件関係者とつぎつぎ面会していく。

この作品は「エレノア・ポウプ殺し」よりも出来がいい。途中で事件の真相を見抜いてしまう読者は多いと思うが、それでもマイケルが感じる小さな違和感がしだいに明らかにされていく経緯はスリリングだ。カットナーの力が発揮された好作。

Sunday, July 17, 2022

ヘンリー・カットナー「エレノア・ポウプ殺し」

 

ヘンリー・カットナーはパルプ小説を大量に書いている。そのほとんどはSFだが、本書はマイケル・グレイという精神分析医を主人公にしたミステリだ。1956年の作だから、晩年に書かれたものである。

精神分析医マイケルはハワード・ダンという患者がかかえる鬱屈の原因をさぐって治療をはじめる。その一方でダンの義理の妹に当たるエレノア・ポウプの殺害事件を警察のツッカー警部と調べていくことになる。この設定は非常に面白い。患者の心の内奥への探求と、現実の殺人事件がどう切り結ぶのか。しかしこういう物語を成功させるには高度に知的な物語づくりの技術が必要になる。カットナーにそれだけの力量があるだろうか。

わたしの感想としては秀逸とはいいかねるが、悪くはない物語にできあがっている。精神分析医による心理分析は確かにある程度の意外性を持ち、また現実の事件を解く手掛かりになっている。そこは非常にいい。ただし心理分析の考え方が今から見ると古くさくて、俗っぽくて、ちょっといただけない。この欠点は、しかしながら、この時期、心理分析を主眼にして書かれた作品に共通するものではあるけれど。

この作品は精神分析医が患者の治療に当たったり、殺人事件についてツッカー警部と会話する場面のみでできあがっている。つまり冒険談的なアクションがまったくないので、事件解決にむけてどれだけめざましい知的冒険が展開されるかが見せ所となるのだが、時代の枠に制限されているとはいえ、普通以上の出来にはなっていると思う。逆に言うと、普通以上ではあるが、ずば抜けた良さにまでは突き抜けていないという歯がゆさがある。

Thursday, July 14, 2022

新ドイツ語大講座 訳読編

第6課 壺を作るロビンソン

解説:いまの小学上級生や中学生で、ロビンソン・クルーソーの名を知らない者はなかろう。それほどロビンソンの漂流記はおもしろい、おもしろいから有名になったのである。イギリスの Daniel Defoe が „The life and strange surprising adventures of Robinson Crusoe of York“ を出版したのは1719年だが、翌年にはすでにドイツ語に翻訳され、1760年までにドイツだけで約四十種類の翻訳と無数の模倣作が出版されているのを見ても、当時いかにこの作がヨーロッパの読者を夢中にさせたかが想像されよう。「壺を作るロビンソン」はロビンソンが無人島に漂着して煮物をする器にこまり、まず粘土をこねて壺を作り、それを日光にあてて乾かしたうえ、水をいれて火にかけても壊れない焼物に仕上げるまでの苦心談をお話風にまとめたものである。原文は中級程度で「基礎入門編」の文法の知識がほんとうに頭に入っているかどうかを試験してみるのに恰好の読物であると思う。

Robinson als Töpfer

[1] Robinson Crusoe, der Sohn eines Hamburger Kaufmanns1, war seinen Eltern heimlich entlaufen2, um die Welt kennen zu lernen3. Auf seiner Reise erlitt er Schiffbruch4 und die Wogen warfen ihn an den Strand einer unbewohnten Insel.
 Zuerst schien ihm das einsame Leben dort unerträglich. Allmählich aber gewöhnte er sich daran5 und fing an, sich so bequem wie nur möglich6 einzurichten7. Er suchte sich eine Höhle zur Wohnung8, fing wilde Ziegen ein9, verfertigte sich allerlei Geräte und wußte sich sogar Feuer zu verschaffen, so daß er sich Wildbret am Spieß braten10 konnte.

〔訳〕 Robinson als Töpfer 壺作りとしてのロビンソン
 der Sohn eines Hamburger Kaufmanns あるハンブルグの商人の息子[である] Robinson Crusoe ロビンソン・クルーソーは、um die Welt kennen zu lernen 世間を知るために(見聞をひろめるために)、seinen Eltern その両親のもとから heimlich ひそかに war......entlaufen 逃げ出した。er 彼は Auf seiner Reise その旅行の途中で erlitt......Schiffbruch 難破の憂目をみた und そして die Wogen 波浪は ihn 彼を an der Strand einer unbewohnten Insel ある無人島の海浜へ warfen 打ちあげた。
 Zuerst 最初のうちは das einsame Leben dort そこの(その無人島の)孤独な生活は ihm 彼にとって unerträglich 耐えがたく schien 思われた。aber しかし Allmählich 次第に er 彼は gewöhnte......sich daran それに自分を慣らした(その島の生活に慣れてきた) und そして so bequem wie nur möglich できるだけ住み心地よく sich......einzurichten 自分を整えるべく(生活の設計を立てることを) fing an 始めた。Er 彼は eine Höhle 一つの洞穴を zur Wohnung 住居として suchte sich さがし出した、wilde Ziegen 野生の山羊を fing......ein わなで捕え、allerlei Geräte いろいろな道具を verfertigte sich こしらえた und そして sogar その上さらに sich......Feuer zu verschaffen 自分のために火を調達すること[さえ] wußte 知っていた(火をおこすことさえできた)、so daß その結果 er 彼は Wildbret 野獣の肉を am Spieß 串にさして sich......braten konnte 火にあぶることができた(串にさした山羊のあぶり肉を食べることができた)。

〔注〕付加語としての地名【1】eines Hamburger Kaufmanns 地名を付加語にする時は、もちろん二格(-s)も用いるが、もっと名詞と密接な関係を生ぜしめるのは、本文のような -er の語尾である。これは形容詞のごとくであって、そのくせ格語尾の変化をしない:Berliner Akademie 「伯林・アカデミー」、Münchner Bier 「ミュンヒェン・ビール」、Straßburger Münster 「シュトラスブルクの大寺院」。この用法でちょっと注意を要するのは二格の語尾(-s)または von を使う際と -er の語尾を使う際とで、意味に差異があることがある。die Straßen Berlins または die Straßen von Berlin と言えば「ベルリンの街路」だが Berliner Straße と言うと「ベルリン街」となって、普通名詞の Straße までが固有名詞化する。
離格(Ablativ)的三格を伴う動詞:{ent- /ab- }及び nehmen, stehlen, rauben など【2】seinen Eltern......entlaufen 初歩のあいだは形式的に、名詞や代名詞の三格は「に」すなわち与格(Dativ)であるというふうに教えてしまうが、本文のように関係する動詞によっては、逆に「から」を意味することもある。これは与格にたいして離格または奪格(Ablativ)と言われるもので、前綴り ent- または ab- を有する動詞および「奪う」意味を有する nehmen, stehlen, rauben などとともに用いられる場合である(15頁第1課注48参照):
A. ent- なる前綴りを有する動詞を伴う場合(「奪う・取る」の意)
 (1) Seinem Scharfblick entgeht nichts.
  なにものも彼の炯眼を逃れない・彼は炯眼なのでなにものも見逃さない。
 (2) Das Schwert entfiel seiner Hand.
  剣は彼の手からすべり落ちた。
 (3) Er wußte seiner Guitarre gar liebliche Töne zu entlocken.
  彼は彼のギターからとても快よい音を誘いだすことを知っていた・彼はギターを手にとって快よいしらべを奏でた。
 (4) Wunder nennt man eine Erscheinung, die sich unserm Verständnis entzieht.
  われわれの理解力から逃がれる現象をわれわれは奇蹟と呼んでいる・われわれの理解力のおよばない現象は奇蹟と呼ばれる。
B. ab- なる前綴りを有する動詞を伴う際(「奪う・取る」の意)
 (5) Er hat sich das Trinken abgewöhnt.
  彼は飲酒の習慣を自分からとった・飲酒のくせをふっつりやめた。
 (6) Die ganze Geschichte hatte ihm nur ein mitleidiges Lächeln abgenötigt.
  その話は彼から同情的微笑を奪いとったにすぎなかった・その話をきいて彼はただかわいそうにといった微笑を浮かべただけであった。
 (7) Er bekam eine kleine Summe zugeschickt, die seine Eltern sich mühsam abgespart hatten.
  彼の両親が苦労をして[自分の食うのをやめて]貯めた少額の金を送ってもらった。
 (8) Der Bauer muß seinen Lebensunterhalt dem harten Boden abringen.
  農民は[ひたいに汗して]土ととりくんでそこから生計の資を得なければならぬ。
C. 「奪う」の意の nehmn, stehlen, rauben を伴う場合。
 (9) Er nahm mir alles.
  彼は私からすべてを奪った。
 (10) Wem hast du das gestohlen?
  おまえはだれからそれを盗んだのか?
 (11) Diejenigen, die weder rauchen noch trinken, rauben dem Staat die besten seiner indirekten Steuern.
  煙草も酒ものまない人は、国家からその間接税の最上のものを奪うものだ。
entlaufen 三要形:entlaufen, entlief, entlaufen.
【3】die Welt kennen......lernen 「世間を知る・見聞をひろめる・浮世の波風にあたってみる」。
【4】erlitt......Schiffbruch Schiffbruch erleiden = to suffer shipwreck, to be shipwrecked. erleiden の三要形:erleiden, erlitt, erlitten.
【5】gewöhnte......sich daran sich an etwas (四格) gewöhnen = to get accustomed (used) to something.
【6】so bequem wie nur möglich 「できるだけ……」の表現には、本文のように so......wie [nur] möglich の形式と möglichst......の形式とがある。本文も möglichst bequem と言ってもよい。
【7】sich......einzurichten sich einrichten は英語なら to establish oneself であるが、なかなか一回でかんたんに訳語のつけにくい動詞である。「居を定めて毎日の生活をしていけるように設備する」ことである。だから Er hat sich nett eingerichtet. と言えば「子じんまりした家をもった」といった意味になる。
【8】zur Wohnung この zu は目的、または用途を指す用法の zu である:Er nahm sie zum Weib. 「彼は彼女を娶った」、Er gab es mir zum Geschenk. 「彼はそれを私に贈物としてくれた」など。
【9】fing......ein この einfangen は「捕えて」(fangen)「中にいれる」(ein)という構造で、動物でも犯人でも、捕えて逃げられぬようにすることである。三要形:einfangen, fing ein, eingefangen.
【10】braten 三要形:braten, briet, gebraten.

[2] Jedoch es fehlte ihm noch an Kochgeschirren. Zwar hatte er schon öfters versucht, sich aus Tonerde11 Schüsseln und Töpfe herzustellen, indessen hatte es ihm nie geglückt12. Eines Tages aber brachte er endlich einen Topf zustande, der zwar sehr ungeschickt aussah, aber doch vielleicht zu gebrauchen war. „Übung macht den Meister13,“ sagte er fröhlich: „morgen will ich schon14 bessere Töpfe machen.“

〔訳〕Jedoch とはいえ ihm 彼には noch まだ an Kochgeschirren 炊事道具において es fehlte 欠けていた(まだ炊事道具がなかった)。Zwar なるほど er 彼は schon öfters すでにいくども、aus Tonerde 粘土から Schüsseln und Töpfe 鉢や壺を sich......herzustellen こしらえる(粘土で鉢や壺を作る)ことを hatte......versucht 試みはした、indessen しかし hatte es ihm nie geglückt それは彼にとって決してうまくいかなかった(いちども成功したことはなかった)。aber ところが Eines Tages ある日のこと er 彼は endlich ついに einen Topf ひとつの壺を brachte......zustande 作り上げた、der その壺は zwar なるほど sehr ungeschickt 非常に拙劣に aussah 見えた(見たところ非常に不手際なものであった)、aber doch けれども vielleicht ひょっとすると zu gebrauchen war 使用することができた(あるいは役にたつかも知れないものであった)。„Übung 習練は den Meister 名人を macht 作る(努力は上達のもと)“[と] er 彼は fröhlich 上きげんで sagte 言った、„ich ぼくは morgen 明日は schon かならず bessere Töpfe もっとよい壺を will......machen こしらえてみせよう。“

〔注〕【11】Tonerde Ton は粘土、Erde は土、やかましく言えば「礬土(ばんど)」だろうが、ここではそんな学問的な訳語は必要がない。
【12】hatte es ihm......geglückt es glückt einem はすぐ前の„es fehlte ihm......an......“ と同じく非人称的用法。
【13】Übung macht den Meister 英語なら Practice makes perfect. などに相当する諺。
助詞 schon の一用法「もう;実に;きっと」など【14】schon この schon が、時間を示す「すでに」でないことは文脈で明らかである。「明日はもう」とか「明日はきっと」とかいった訳語にあたるもので、したがって ja や doch のもっと強いものである。Er vollends ist schon ein Millionär. 「彼にいたってはじつに百万長者ですぞ」になるともっとはっきりしてきている。日本語でも「そりゃもうどうして」とか「そりゃもうじつに」という表現があるが、この「もう」にあたるのが schon である。ひと皿二十円ぐらいのふかしいもを昼食代わりに食べている男が、たまに一品六十円から百円の中華料理にありつくと、さすがに値段だけのことはある、「こりゃもうまったくものが違う」(Das ist schon was ganz anderes!)と思う。「こうなるともう重役級のランチだな」(Das ist schon das Mittagessen eines Direktors!)「こうなるともう得意にならざるをえない」(Da bildet er sich schon was ein.)「しかし毎日こんなものを食うには、それこそもうどうして月給の十万円ももらわなくちゃ続くまい」(Aber man müßte schon hunderttausend Yen Monatsgehalt beziehen, um jeden Tag so speisen zu dürfen.)そう思ってあたりを見まわすと、金のありそうなのばかりがきている、あのハゲおやじは何だろう? 課長(Sektionschef)ぐらいかな? いや、あのハゲぐあいでみると、「ありゃもうどうして、局長ぐらいにちがいない」(Der da mit der kahlen Platte, der muß schon ein Direktionschef sein.)局長にしても、「じつによくはげたものだなあ!」(Das nenn' ich schon eine Glatze!)

[3] Der Erfolg bestätigte dies auch; denn jeder Topf, der in den folgenden zwei Tagen fertig wurde, geriet15 besser als sein Vorgänger16. Freilich waren die Töpfe nicht so schön rund und glatt, wie sie von unsern17 Töpfern gemacht werden. Aber Robinson hatte ja auch keine Drehscheibe, auf der die Töpfe gemacht zu werden pflegen. Kurz, es hätte ihm leid getan18, wenn er jetzt einen seiner sieben Töpfe beschädigt hätte.

〔訳〕Der Erfolg 結果は auch はたして dies このこと(もっとよい壺を作ってみせるという言葉)を bestätigte 実証した(この言葉がうそでないことが結果によって裏書きされた);denn なぜなれば in den folgenden zwei Tagen つぎの二日の間に fertig wurde できあがった der ところの jeder Topf どの壺も besser als sein Vorgänger その先行者よりもよりよく geriet できあがった(前にこしらえたのより出来栄えがよかった)[からである]。Freilich 言うまでもなく die Töpfe [彼のこしらえた]壺は sie (Töpfe) それが von unsern Töpfern われわれの陶工たちによって gemacht werden 作られる wie ように so schön rund und glatt そんなに円やかでそして滑らか waren......nicht ではなかった(もっとも彼のこしらえた壺は現代の陶工が作る壺のように恰好のよい円味も滑らかさも持っていなかった)。Aber とは言っても Robinson ロビンソンは ja auch 実際また、auf der その上で die Töpfe 壺が gemacht zu werden pflegen 作られることを常とする[ところの](ふつう壺を作る台に使われる) keine Drehscheibe 廻転円板を hatte 持って[いなかったのだから止むをえない]。Kurz これを要するに(それはそれとして)、wenn もしも er 彼が jetzt いま(その時に) einen seiner sieben Töpfe 彼の七つある壺のひとつを beschädigt hätte 破損したとした[ならば]、es hätte ihm leid getan それは彼にとって心痛をなしたであろう(彼は悲観したであろう)。

〔注〕【15】geriet gut geraten 「うまくいく・できばえがよい」、schlecht geraten 「うまくいかない・できばえがわるい」というふうに方法の副詞を伴う。三要形:geraten, geriet, geraten.
【16】sein Vorgänger 前後の関係でこの Vorgänger が、「その前に作られた壺」であることはわかると思うが、この場合注意を要することがある。壺は男性だから Vorgänger でもよいが、もしも壺が女性なら Vorgängerin としなくてはならない。ちかごろ出される翻訳物をみると、たとえば die Zeit 「時代」を人代名詞 sie で受けてあるからといって「彼女は」と訳してあるが、うっかりしていると「時代」は「彼女」つまりなにか女性的なものだときめてしまわれる怖れがある。英語で船や軍艦を女性的なものに扱うと同じように、ドイツ語の場合は先行する名詞そのものの性によって代名詞にしろ言い換えの名詞にしろ、その性がきまるのであるから、壺はなにか男性的なもの、時代は女性的なものと早合点しないことが必要である。
【17】unsern 「われわれの」壺作りというと日本語ではちょっとおかしいが、つまり「当今の」という意味である。
【18】es hätte ihm leid getan es tut ihm leid = it pains (grieves) him 主語の es はつぎの wenn 以下の内容を指す先行詞と考えてよい。(この一文が、例の「約束話法」の典型的な一例であることはあらためて言うまでもあるまい。)

[4] Diese Unannehmlichkeit19 trat nun aber20 doch21 ein. Um die Töpfe trocknen zu lassen, hatte er sie einige Tage in die Sonne gestellt. Da mochte denn22 wohl einer davon zu frisch in die Sonnenhitze gebracht worden sein, denn er hatte einen Riß bekommen23. „Nun,“ tröstete sich Robinson, „ich habe ja noch sechs, und diese scheinen auch24 alle gut zu sein.“ In diesem Glauben wollte er denn25 gleich einen davon benutzen. Er füllte ihn also mit Wasser, tat etwas Salz hinzu und stellte ihn ans Feuer. Aber wie sehr hatte er sich da getäuscht! Es dauerte gar nicht lange, so26 drang das Wasser in den Ton des Topfes ein und zerweichte diesen ganz.

〔訳〕nun aber ところが doch やっぱり Diese Unannehmlichkeit そうした不愉快なことが trat......ein 起こった[のである]。die Töpfe 壺を Um......trocknen zu lassen 乾かすために、er 彼は sie (Töpfe) それらを einige Tage 二三日間 hatte......in die sonne gestellt 日なたへ出しておいた。Da......denn すると einer davon それら[の壺]のひとつが wohl おそらく zu frisch あまりに新鮮[なうちち](作りたてのほやほやのところで・作りたてで水気が多すぎる時に) mochte...... in die Sonnenhitze gebracht worden sein 太陽の熱にさらされたのであろう、 denn その証拠に er (einer davon) その壺は hatte......einen Riß bekommen ひとつの割目を得た(まだよく乾ききらないうちに太陽の熱にあたったためらしいが、壺のひとつに亀裂ができた)。„Nun まあいいさ、“[と] Robinson ロビンソンは tröstete sich 自分を慰めた(気をとり直して言った)、„ich ぼくは noch まだ sechs 六つ[の壺]を habe もっている ja ではないか(まだ六つ残ってるじゃないか)、und そして diese (=sechs)......alle この六つはどれも auch また scheinen......gut zu sein 良いもののように思われる。“ denn じっさい er 彼は In diesem Glauben この信念において(こう信じて) gleich ただちに einen davon 六つの壺のひとつを wollte......benutzen 利用しようとした。also そこで Er 彼は ihn (einen davon) それを mit Wasser 水をもって füllte 満たした(それに水をいっぱい入れた)、etwas Salz いくらかの塩を tat......hinzu 付加し(塩を加え) und そして ihn それを stellte......ans Feuer 火のそばへおいた(火にかけた)。Aber しかし er 彼は da その時 wie sehr いかにはなはだしく hatte......sich......getäuscht 思い違いをしていたことであろう(しかし彼はたいへんな勘ちがいをしていたのであった)! Es dauerte gar nicht lange, so 大して時間が経たないうちに(まもなく) das Wasser 水が in den Ton des Topfes 壺の粘土の中へ drang......ein しみこみ und そして diesen (Topf) 壺を ganz まったく zerweichte ぐじゃぐじゃにしてしまった。

〔注〕【19】Unannehmlichkeit 「不愉快なこと」形容詞は unangenehm (名詞の方とは形がすこしちがう点に注意)。
【20】nun aber この nun aber 「ところが」は、この二語のままを一句としておぼえること。
【21】doch 「やっぱり」この doch は、強く読む。つまり trotzdem 「それにもかかわらず」とでもいうのと同じほど念の入っている語であるから。
【22】da......denn すこし古めかしくはあるが、由緒正しく本格的なドイツ語では、「そのとき」という da には好んでそのうしろに denn を付加するが習慣である。denn だけにとくに意味というほどのものはない。
【23】bekommen 三要形:bekommen, bekam, bekommen.
【24】auch 「また」という auch である。すなわち、まだ六つもあとに残っているし、それに「また」(そのうえさらに)その六つとも立派なものだ……と言って、楽観の資料をふたつならべたから、それを連結するために「また」と言ったわけである。
【25】denn この denn もたいした意味はないが、こういう場合は dann というのとほとんど同じである。denn という語もまた dann から転化したものであることが、こうした使用法でわかる。
【26】Es dauerte gar nicht lange, so 「間もなく……した」という慣用句。本来の場合ならば Es wird nicht lange dauern, so kommen sie zurück. 「まもなくかれらは帰ってくるだろう」。dauern というのは「続く」(すなわち時間が経過すること)という意である。

[5] „Vielleicht werden die Töpfe im Feuer härter als durch die Sonnenhitze.“ So dachte Robinson und schritt sogleich zu einem Versuchte27. Er holte zwei Steine von gleicher Größe herbei, stellte seine fünf Töpfe pyramidenförmig darauf und machte dann ein tüchtiges Feuer darunter28. Kaum aber loderten die Flammen empor, so29 ging's knack! knack30! und einer der Töpfe war zersprungen31.

〔訳〕„Vielleicht おそらく die Töpfe 壺は im Feuer 火の中において(火で焼いた方が) durch die Sonnenhitze 太陽の熱による(日なたで乾かす) als よりも härter もっと固く werden なる[だろう]。“ Robinson ロビンソンは So こう dachte 考えた und そして sogleich ただちに schritt......zu einem Versuche ひとつの試みに向かって歩みを進めた(ひとつの実験にとりかかった)。Er 彼は Zwei Steine von gleicher Größe 同じ大きさのふたつの石を holte......herbei 運んできた、darauf その[石の]上に seine fünf Töpfe 残りの五つの壺を pyramidenförmig ピラミッドの形に stellte 積み上げ und て dann それから darunter その下で ein tüchtiges 猛烈な火を machte おこした。aber ところが die Flammen 焔が loderten......empor 燃えあがる Kaum......so やいなや ging's knack! knack! パチン!パチン!という音がした und そして einer der Töpfe 壺のひとつは war zersprungen こわれてしまった。

〔注〕【27】schritt......zu einem Versuche schreiten は「大またに歩く」という意味だが、本文のように zu etwas schreiten の形をとると to proceed to do something, to set about doing something の意になる。つまり「とりかかる」という邦語に相当する熟語。machte sich an einen Versuch と言うこともできる。schritt の三要形:schreiten, schritt, geschritten.
【28】machte......ein tüchtiges Feuer darunter おなじぐらいの大きさの石をふたつ、底の方にならべて、その間のうつろになった所に火をたいたのである。tüchtig は stark 「強い、猛烈な」とおなじ。
【29】kaum aber......so ging's knack! knack! = Sobald aber die Flammen emporloderten, ging's knack! knack!
擬音詞 Onomatopöie, Onomatopoesie【30】ging's knack! knack! ging's は ging es の省略形、knack は擬音詞(Onomatopöie, Onomatopoesie, Tonnachahmung, Tonmalerei)である。擬音詞は無限にあるのだから、よく使われるものをほんのすこし挙げておく:
 poch! poch! とんとん!かちかち!
 bauz! どたん!ばたり!すってんころり!
 kladderadatsch! がたがたぴしゃん!(砕けくずれる音)
 hui! さっと!ひょいと!すっと!(迅速なるさま)
 husch! さっと!
 piff! paff! ぽんぽん!ずどん!(銃の音)
 hatsch! はっくしょい!
 klinglingling! ちりんちりん!がらんがらん!
 klipp! klapp! がたん!がたん!(水車の音)
 kikeriki! コケコッコー!
 pick! チクッ!(刺す時)
 piep! pieps! ピヨピヨ!
 擬音はよく i-a の音で表わされる:Wirrwarr ごっちゃ、Mischmasch ごったまぜ、Ticktack カチカチ(時計の音)、Zickzack ジグザク、Bimbam ガンガン、ゴンゴン(鐘の音)など。最後に ging's という句の gehen という動詞であるが、こうした音にはたいてい gehen を非人称動詞にして使うのである。ところが、非人称でなく、名詞を主語にすると manchen を用いる:Der Topf machte knack! 「壺がピシンといった」 Die Katze macht miau! 「猫はニャーゴという」など。
【31】zersprungen 三要形:zerspringen, zersprang, zersprungen.

[6] „Wahrscheinlich habe ich das Feuer gleich32 zu stark gemacht,“ dachte Robinson und nahm vorsichtig einige brennende Scheite hinweg33, um die Hitze zu mäßigen. Da blieben denn34 die übrigen Töpfe wirklich unversehrt35, und so konnte das Feuer nach und nach wieder vergrößert werden, bis nach langem, langem Warten der eine Topf endlich anfing zu glühen. Das hielt Robinson für ein gutes Zeichen36, und er setzte daher das Feuern noch so lange fort37, bis38 auch die andern glühend wurden.

〔訳〕„Wahrscheinlich ひょっとすると ich 僕は das Feuer 火を gleich すぐに habe......zu stark gemacht あまり強くおこしすぎたのであろう、“[と] Robinson ロビンソンは dachte 考えた und そこで、 die Hitze 熱を um......zu mäßigen 和らげるために、 vorsichtig 用心深く einige brennende Scheite 二三の燃えている木片を nahm......hinweg 取り除いた。Da すると denn 案のじょう die übrigen Töpfe 残りの壺は wirklich ほんとうに unversehrt 無傷に blieben とどまった(亀裂が生じなかった)、 und so そこで das Feuer 火は nach und nach 次第次第に wieder また konnte......vergrößert werden 拡大されることができた(そこで火をまた次第に強くしていって)、 bis......endlich ついに nach langem, langem Warten 長い、長い待機の後に(長いこと待った後で) der eine Topf ひとつの壺が zu glühen [灼熱して]赤くなり anfing はじめた。Robinson ロビンソンは Das これ(壺のひとつが赤く灼熱したこと)を für ein gutes Zeichen よい徴候として hielt とった(よい前兆と考えた)、 und......daher それゆえ er 彼は das Feuern 火を燃すことを noch なお so lange ひじょうに長く setzte......fort 続けた、 bis ので遂に die andern ほかの壺 auch もまた glühend wurden 灼熱した。

〔注〕【32】gleich 「すぐに」というのは「はやく」、「急に」の意。反対は「徐々に」(nach und nach)。
【33】hinweg 英の away (ほかに fort, weg がある)。
【34】da......denn 前に注したとおり、「そこで」という時に用いる常套形式。
【35】unversehrt 「無事で、無傷で」。
【36】Das hielt Robinson für ein gutes Zeichen etwas für etwas halten = etwas für etwas ansehen = to take one thing for another 「……を……と思う」、「……をもって……となる」という熟語。
【37】setzte fort fortsetzen 「続行する」。fort は weiter とおなじく「つづけて」を意味する前綴り。
【38】bis この接続詞は、後から先に訳して「……するまで」と言ってもよければ(限定的!)、順序どおり前から後へと訳して、「……しているうちについに……した」と言ってもよい(後続的!)

[7] Natürlich konnte er es39 am andern Tage kaum erwarten, bis die Töpfe hinlänglich40 abgekühlt waren, um einen davon in Gebrauch nehmen41 zu können. Als es endlich so weit war42, füllte er wieder einen Topf mit Wasser und stellte ihn ans Feuer. Aber auch diesmal sah er sich getäuscht; denn nur zu bald drang das Wasser an der Außenseite des Topfes hervor43 und drohte44, das Feuer zu verlöschen. Er versuchte es mit45 dem zweiten und dritten Topfe, doch immer zeigte sich derselbe Übelstand46.

〔訳〕 Natürlich むろん er 彼は am andern Tage その翌日、die Töpfe 壺が hinlänglich じゅうぶんに abgekühlt waren 冷却されて、einen davon それらの[壺の]ひとつを in Gebrauch nehmen 使用する um......zu können ことができる bis [ようになる]までは konnte......es......kaum erwarten かろうじて待つことができた(待ちどおしくてならなかった)。endlich [それでも]ようやくのことで es......so weit war そこまできた(壺が冷えて使えるようになった)Als 時、er 彼は wieder またも einen Topf ひとつの壺を füllte......mit Wasser 水をもってみたした。und そして ihn その壺を stellte......ans Feuer 火にかけた。Aber しかしながら auch diesmal こんどもまた er 彼は sah......sich getäuscht 欺かれた自分を見た(見当がはずれたことに気づいた);denn なぜなれば das Wasser 水は nur zu bald ただあまりにも早く(壺を火にかけるやいなや) an der Außenseite des Topfes 壺の外側で drang......hervor にじみ出た und そして das Feuer 火を drohte,......zu verlöschen 消すべく脅かした(いまにも火を消しそうになった。Er 彼は es それを mit dem zweiten und dritten Topfe 第二および第三の壺でもって versuchte 試みた(第二第三の壺を試してみた・さらにふたつの壺に水を入れて火にかけてみた)、doch しかし immer あいかわらず derselbe Übelstand おなじ不都合が zeigte sich 自己を示した(現われた)。

〔注〕【39】es bis 以下の関係分の内容を指す先行詞。
【40】hinlänglich つぎの um......zu の不定句を受けて「そのひとつを使用するにたりるだけ」とつづける。hinreichend、または genugsam とも言う。
【41】in Gebrauch nehmen たんに benutzen と言ってもよい。
【42】so weit war これを「そんなに遠くまでできた」などと考えると見当がちがう。so weit sein は「そこまで事が運ぶ」、「やっと準備がととのう」「用意ができる」という熟語である。Nun bin ich so weit. と言えば「もう用意ができました」という意になる。
【43】drang......hervor 三要形:hervordringen, drang hervor, hervorgedrungen. hervor- は、なんでも隠れたところから眼に見えるところへ現われてくることを意味する前綴りで、英語の forth にあたる。hervortreten 「歩み出る」、hervorquellen 「湧き出る」、hervorragen 「にゆっと突き出ている」など。
【44】drohte,......zu verlöschen 人間以外のものが主語になっている際は、この「zu を伴う不定法」と drohen の結合は英語の to threaten とおなじで「……しそうである・のおそれがある」の意。
【45】versuchte es mit es mit etwas versuchen = to put to (on) trial, to bring (put) to the test 「試してみる・試験する・吟味する」。es はたんなる虚字・填詞(Füllwort)にすぎない。
【46】Übelstand 「不都合」、「まずいこと」、「弊」である。es steht übel mit etwas 「……は悪い状態にある」などと言うから、それを名詞にした語である。

[8] Da wußte er gar nicht mehr, was er tun sollte. Schon wollte er sich drein ergeben47, die Töpfe nicht zum Kochen benutzen zu können, als48 er unter den Kohlen zufällig den Boden des49 zuerst vom Wasser zerweichten Topfes bemerkte. Dieser sah ja ganz anders aus50 als die unversehrt gebliebenen Töpfe; er war fast völlig überglast51 und ließ nicht einen Tropfen Wasser durch. „Halt!“ rief Robinson freudig, „jetzt hab' ich's52! Der Scherben hat unten zwischen den Steinen gelegen53, wo die Hitze mehr zusammengehalten54 wurde, und dadurch wird er so glasig geworden sein.“ Und sogleich nahm er einen neuen Versuch vor55.

〔訳〕 Da そこで er 彼は、was 何を er 彼が tun sollte なすべきであるかを、wußte......gar nicht mehr もはやまったく知らなかった(どうしてよいのかまったく見当がつかなくなった)。Schon すでに er 彼は、die Töpfe 壺を zum Kochen 煮たきに nicht......benutzen zu können 利用することはできない、drein ということの中へ wollte sich......ergeben 自分を任せようと思った(彼はすんでのことに、壺を煮たきに利用することはできないものと締めかけていた)、als その時 er 彼は zufällig 偶然に unter den Kohlen [燃え残りの]炭の下に den Boden des zuerst vom Wasser zerweichten Topfes 最初に水によって軟化された壺(一番はじめに水を入れてこわしてしまった壺)の底を bemerkte 認めた(もうだめだと匙を投げようとしていた時、ふと燃え残りの炭をかきまわしているうちに、その炭灰の中に最初に失敗した壺の底が残っているのに目がとまった)。Dieser (=Boden) この壺底は ja 明らかに die unversehrt gebliebenen Töpfe 損傷なくとどまった(損傷なしにすんだ)壺 als とは ganz anders まったく異なった sah......aus 外観を呈していた; er (Boden) それは fast völlig ほとんど完全に(完全と言ってもいいくらいに) war......überglast ガラスをかぶせたようになっていた und そして nicht einen Tropfen Wasser 一滴の水をも ließ durch 通さ[なかった]。„Halt 待った!“[と] Robinson ロビンソンは freudig よろこんで rief 叫んだ、 „jetzt いまこそ hab' ich's わかったぞ! die Hitze 熱が mehr より多く(比較的) zusammen gehalten wurde 凝集されていた(熱が外部へ散らないように鬱積したまま保たれていた) wo ところの unten zwischen den Steinen 下の方の[ふたつの]石の間に er (Scherben) それは so glasig こんなにガラスのように wird......geworden sein なったのであろう。“ Und そこで er 彼は sogleich すぐに einen neuen Versuch ひとつの新しい実験を nahm......vor 試みた。

〔注〕【47】sich drein ergeben ergeben のかわりに geben, finden fügen, schicken を用いてもおなじで to submit to something, to put up with something, to resign oneself to something, to acquiesce in something 「甘んじて受ける・認めて従う・忍従する」の意。本文では d[a]rein の da (=das) はもちろん、つぎの die Töpfe......zu können なる「zu を伴う不定句」を受ける。
【48】Schon......als = Kaum......als. この als は逐語訳を見ると「その時」となっている。これは一見関係が逆のようであるが、これが「後続的」に訳すべき場合の好例である。
【49】des は数語あとの Topfes の冠詞である。そして、冠詞と名詞との間へ zuerst vom Wasser zerweichten という長い形容句がはいっている。これはすぐ後の die unversehrt gebliebenen Töpfe にもある現象である。(詳しくは「文法詳説編」§123 を参照せよ)。
副文章中の前置詞を伴う文肢【50】sah......aus 三要形:aussehen, sah aus, ausgesehen. この分離前綴 aus- が文章の最後に位置しないで、als 以下の文肢の前におかれていることを不審に思う諸君もあろう。まずつぎに挙げる例を読んだ上で本文を見なおしてほしい:
 (1) Hier ist der alte General, der im Weltkriege unzählige Siege erfochten hat für Gott und Vaterland.
 これは世界大戦中、神と祖国のために、無数の勝利をかち得た老将軍である。
 (副文章の中にある前置詞を伴った文肢または概念の意味を強調して読者の注意をひくために、わざわざ定形のうしろにはじ出させたもの)
 (2) Der Vater hatte dem Sohne die Erlaubnis, einen Ausflug zu machen, gegeben, mit der Bedingung, daß dieser sich nicht allzu sehr von der Stadt entferne.
 父は息子に、町からあまり遠く離れない、という条件で、遠足の許可をあたえた。
 (これは副文章ではないのに、わざわざ追加的にうしろにはみ出させて、読者の注意を要求している)
 文例の (2) でわかるように、関係する副文章を伴った前置詞文肢はかならず文章の外にはみ出る。そもそも前置詞を伴った文肢はひとつのまとまった概念となる傾向をもち、したがって、それだけを特別扱いにする機会が多いわけである。
【51】überglast überglasen は mit Glas überziehen = to glaze over 「ガラスまたは釉薬をかける」「ガラスのようにつやつやにする」ことだが、ここは塩が加わって自然に表面がすべすべとしたことをさしている。
【52】jetzt hab' ich's! この ich hab's! は、なんでも「手にいれた」、「つかまえた」「わかった」(すなわち正体をつかんだ)という時に用いる慣用句である。
【53】gelegen 三要形:liegen, lag, gelegen. これを「置く」の意の legen と混同してはならない。legen ならば規則動詞だから、過去分詞は gelegt となるはずである。
【54】zusammengehalten 三要形:zusammenhalten, hielt zusammen, zusammengehalten.
【55】nahm......vor 三要形:vornehmen, nahm vor, vorgenommen. この語は、実験を試みるとか、説明を試みるとか、抵抗を試みるとかいう「試みる」(すなわちたんに「なす」とおなじ)に相当する語である。

[9] Er grub56 ein ziemlich tiefes Loch mit einigen Stufen in die Erde, legte die beiden Steine hinein und umgab57 die Grube mit Steinen, die er so übereinander setzte, daß58 bei den Stufen eine Öffnung blieb. Dann stellte er seine vier Töpfe auf die Steine und machte zwischen diesen kleines Feuer, das er nach und nach verstärkte. Da trat zwar das Glühen der Töpfe viel eher ein59 als beim vorigen Versuche: doch60 überglast61 wurde keiner von ihnen.

〔訳〕 Er 彼は ein ziemlich tiefes Loch mit einigen Stufen 二三の段々のついた、かなり深い穴を in die Erde 土の中へ grub 掘り die beiden Steine [先の]二つの石を legte......hinein その[穴の]中へ入れ und そして die Grube その穴を umgab......mit Steinen 石で囲んだ、 die その石を er 彼は、 bei den Stufen 段々のところに eine Öffnung 隙間が blieb 残る so......daß ように übereinander setzte 積み重ねた(彼は土にかなり大きい穴を掘り、その内側に段々をつけた、そして前に使った大きさの同じな二つの石を底にすえ、内側には段々に沿って石の壁を築いた、しかし段のところには空気のかよう隙間を作るようにした)。Dann それから er 彼は seine vier Töpfe [残りの]四つの壺を auf die Steine [底のふたつの]石の上へ stellte のせた und そして zwischen diesen [Steinen] このふたつの石の間に ein kleines Feuer 小さな火を machte 起し、 das その火を er 彼は nach und nach すこしずつ verstärkte 強くした。 Da すると das Glühen der Töpfe 壺の灼熱は zwar なるほど beim vorigen Versuche その前の試みの時 als よりも viel eher はるかに早く trat......ein 現われはした; doch しかし keiner von ihnen [四つの]壺のどれひとつとして überglast wurde 表面がガラスのようにはならなかった。

〔注〕結果的補足語(Ergebnisobjekt)を伴う語法【56】grub 三要形:graben, grub, gegraben. この grub ein......Loch 「穴を掘った」という語法に不審を抱かない諸君でも、Wunden schlagen 「打って傷をつける」となるとちょっと変に思いはしないだろうか。この Loch や Wunden を結果的四格または結果的補足語と言って「……して……をこしらえる」という、応用範囲の広いひとつの語法である。つぎの諸例で感じを養ってほしい:
 ein Haus bauen 家を建てる
 Schatten werfen 蔭をなげる
 Pillen drehen 丸薬をひねる
 Wunden schlagen 打って傷つける
 sich einen Buckel lachen 笑って背中を曲げる
 sich eine rote Nase trinken 飲んで鼻頭を赤くする
 sich Mut trinken 飲んで勇気をつける
 sich Tod trinken 飲んで死ぬ
 Tränen weinen 泣いて涙をだす
 Wut schnauben 鼻息を荒くして怒る
 Freude atmen 悦びを発散する
 Liebe lächeln 愛嬌をふりまくようにほほえむ
 Zorn blicken 怒った目つきをする
 Verderben drohen 破滅の恐怖を抱かせる
【57】umgab 三要形:umgeben, umgab, umgeben.
【58】so......daß 「……するように……するために」である。damit または auf daß で書きかえてもよい。
【59】trat......ein 三要形:eintreten, trat ein, eingetreten. 分離前綴り ein- が als 以下の前置詞句の前におかれたことについては注50を参照すること。eintreten の意は beginnen 「はじまる」とおなじ。
【60】zwar......doch...... は zwar......aber...... とおなじで、「……ではあるが、しかし……」の形式。(対照的接続詞)
【61】überglast なる過去分詞の位置に注意。これは強調するためにわざわざ前に置かれたもので、正順ならば keiner von ihnen wurde überglast.

[10] „Woran mag das nur liegen62?“ fragte sich Robinson wiederholt vergebens. Endlich fiel ihm ein63, daß in dem zerweichten Topfe sich Salz befunden64 hatte und dieses vielleicht die Ursache der Verglasung gewesen sein möchte65. „Nun66, das könnte67 ich ja einmal versuchen,“ sagte er zu sich selbst und warf sogleich über die Töpfe eine Handvoll Salz68, das er aus verdunstetem Meerwasser gewonnen69 hatte. Dann feuerte er noch so lange fort, bis er glaubte, daß es genug wäre.

〔訳〕„das そのことは nur そもそも Woran 何に mag......liegen 因るのであろうか(ガラス化の現象が起こらないのはなぜであろうか)?“[と] Robinson ロビンソンは wiederholt いくども vergebens いたずらに fragte sich 自問した。Endlich [しかし]ついに、 in dem zerweichten Topfe [先の]こわれた壺の中に Salz 塩が sich......befunden hatte 入ってい und て dieses この[塩]が vielleicht ひょっとすると die Ursache der Verglasung ガラス化の原因 gewesen sein möchte であったかも知れない daß ということが fiel ihm ein 彼の念頭に浮かんだ。„Nun よし、 ich ぼくは das そのこと(塩を用いること)を ja どうしても einmal 一度 könnte......versuchen 試みてみなくてはなるまい、“[と] er 彼は zu sich selbst 自分自身に向かって sagte 言った und そして sogleich ただちに、 er 彼が aus verdunstetem Meerwasser 蒸発した海水から gewonnen hatte 得た(前に海水を蒸発させて作っておいた) das ところの eine Handvoll Salz ひとにぎりの塩を über die Töpfe 壺の上へ warf かけた。Dann それから er 彼は、 daß es genug wäre もう十分であると so lange, bis er glaubte 思うまで noch なおも feuerte......fort 火を燃やしつづけた。

〔注〕【62】Woran mag das nur liegen? 「その原因は何だろうか?」で、nur (または denn)はたんに疑問詞に添えて意味を強めるだけ。A liegt an B、は「Aの原因はBにある」という熟語。
【63】fiel......ein 三要形:einfallen, fiel ein, eingefallen.
【64】befunden 三要形:befinden, befand, befunden. sich befinden は「ある」(すなわち es gibt と同意)。
【65】möchte:この möchte は想像・推察の意の möchte で、dürfte とも言う。
【66】Nun 英語の well にあたる。
【67】könnte 「これはいちど試しにやってみてもいいな」という意味で könnte を用いたのである。こうした könnte や前注の möchte, dürfte などの用法はなかなか微妙でむずかしい。
【68】eine Handvoll Salz voll は量を表わす任意の名詞に付加することができる。性には影響しない。たとえば「ひとくちの塩を」なら einen Mundvoll Salz、「ひとさじの塩を」なら einen Löffelvoll Salz、「コップいっぱいの塩を」なら ein Glasvoll Salz である。
【69】gewonnen 三要形:gewinnen, gewann, gewonnen. (gewinnen は「得る」である、 erhalten と同じ)。

[11] Über alledem70 war es sehr spät geworden und da Robinson jetzt ohnehin nichts weiter tun konnte, so begab er sich zur Ruhe71. Allein es wollte72 kein Schlaf in seine Augen kommen, weil sein Geist sich noch zu sehr mit der Töpferei beschäftigte. Er hätte gar zu gern sogleich untersucht73, was für einen Erfolg der letzte Versuch gehabt habe. Dennoch beherrschte er seine Ungeduld und blieb liegen74; und nach langer Zeit schlief er endlich ein.

〔訳〕Über alledem そうしたことをいろいろしているうちに war es sehr spät geworden 時間がひじょうにおそくなった und それに Robinson ロビンソンは jetzt その時には ohnehin そうでなくてさえ(日が暮れて暗くならなかったにしても) nichts weiter tun konnte それ以上なにもすることができなかった da ので、 so そこで er 彼は begab......sich zur Ruhe 休息に赴いた(寝床に入った)。Allein しかし kein Schlaf 眠りが in seine Augen 彼の眼の中へ es wollte......kommen 来ようとしなかった(どうしても眠れなかった)、 sein Geist 彼の心は noch まだ zu sehr あまりにもはなはだしく mit der Töpferei 壺焼きのことに sich......beschäftigte 夢中であった(彼はあまり一生懸命に壺焼きのことを考えていた) weil ので der letzte Versuch この最後の試みが was für einen Erfolg どんな結果を gehabt habe かち得たかを、 Er 彼は gar zu gern なにとぞして sogleich すぐにも hätte......untersucht 調べてみたかった。Dennoch けれども er 彼は seine Ungeduld 焦りを beherrschte 抑えつけ und て blieb liegen 横になったままでいた; und そして er 彼は nach langer Zeit 長い時間の後に endlich ついに schlief......ein 眠りこんだ。

〔注〕【70】Über alledem über の三格は「……の間に」を示す:Er hört gar nicht zu, oder schläft gar überm Zuhören ein. 「彼は全然聞いていない、あるいは悪くすると聞いているうちに眠りこんでしまう」。この時間関係の über が因由を示すことになるのも自然である。über dem Spiel die Geschäfte versäumen = to neglect one's business over (for the sake of) playing 「遊びに夢中になって用務を怠る」、über dem Lärm etwas überhören = not to hear something for (on account of) the noise 「騒音のためにある事を聞きのがす」。
【71】begab......sich zur Ruhe sich zur Ruhe begeben = zur Ruhe gehen = schlafen. sich begeben はちょうど「赴く」という邦語に相当する語。begeben の三要形:begeben, begab, begeben.
惰性・傾向を指す wollen【72】es wollte es は形式上(文法上)の主語で、意味上(論理上)の主語が kein Schlaf であることはもうわかっていると思う。ここの wollen は意志を示すものでなく、惰性とか傾向を指す。したがって本文のように否定の際は、思いどおりにいかないことを示す:
 (1) Das Holz will noch immer nicht Feuer fangen.
  この木はどうも一向に燃えそうにない。
 (2) Mir wollte seine Rede gar nicht gefallen.
  彼の話にはどうしても感服できなかった。
【73】hätte gar zu gern......untersucht これは前注で詳しく述べたとおり、約束話法の結論部の独立用法だが、また hätte......gern という成句と考えてもよい。
liege bleiben, schlafen gehen, kennen lernen など【74】blieb liegen 不定法を伴う成句的動詞のうちで、bleiben、gehen、lernen を基礎とするものが一番よく使われるから、つぎにその数例を挙げておこう。これらの成句は類造が容易であるから、もっとふつうな型をしっかりのみこんでおく必要がある:
 1. bleiben
  stehen bleiben 立ったままでいる・中止する
  sitzen bleiben 坐ったままでいる・原級にとどまる
  hangen bleiben 掛かったままでいる
  schweben bleiben 浮動したままでいる
 2. gehen
  spazieren gehen 散歩にいく
  betteln gehen 物ごいをして歩く
  schlafen gehen 寝につく
  baden gehen 入浴にいく
  suchen gehen さがしにいく
  einkaufen gehen 買物にいく
  hausieren gehen 行商する
 3. lernen
  kennen lernen 知合いになる・精通する
  fühlen lernen 感じうるようになる
  verstehen lernen 理解する
  begreifen lernen (同上)
  sehen lernen 見えるようになる
  lügen lernen 嘘をつきはじめる
 4. その他
  spazieren führen 散歩に連れだす
  sich schlafen legen 寝につく
  spazieren fahren 乗り物で散歩する・ドライブする
  spazieren reiten 馬で散策する

[12] Als er erwachte, stand die Sonne bereits hoch am Himmel, und er mußte daher eilen, seine Ziegen zu besorgen. Kaum war dies geschehen75, so ging er zum Brennofen, und -- wer beschreibt seine Freude76? Er hatte vier gut glasierte77 Töpfe! So konnte er denn78 zum ersten Male kochen! Und das tat er auch sogleich, wenn schon79 die Mittagszeit noch fern war. In einem Topfe mit Wasser setzte er ein tüchtiges Stück Fleisch, in einem andern aber frische Bataten ans Feuer80, und nach zwei Stunden hatte er seit langer, langer Zeit wieder eine gekochte Mahlzeit vor sich stehen81.

〔訳〕 er 彼が erwachte 目を覚ました Als 時には、 die Sonne 太陽は bereits すでに hoch am Himmel 空高く stand [上って]いた、 und......daher それゆえ er 彼は、 seine Ziegen 山羊の zu besorgen 世話をするために、 mußte......eilen 急がねばならなかった。dies このこと(山羊に飼料をやること)が war......geschehen 行なわれる Kaum......so やいなや(山羊に飼料をやってしまうとただちに) er 彼は zum Brennofen 窯のところへ ging 行った、 und そして――wer だれが seine Freude 彼の喜びを beschreibt 叙述するだろうか(その時の彼の喜びは筆紙につくせないぐらいであった)! Er 彼は vier gut glasierte Töpfe 四つの立派にガラス化された壺を hatte もった(見ると四つとも表面がきれいにガラス化しているではないか)! So......denn かくして er 彼は zum ersten Male 果してまた er 彼は、 die Mittagszeit 昼食の時間が noch まだ fern 離れて war いた wenn schon けれども(昼飯までにはまだ間があったけれども)、 sogleich ただちに das そのことを tat なした(事実またすぐに煮てみた)。In einem Topfe mit Wasser 水の入ったひとつの壺に er 彼は ein tüchtiges Stück Fleisch 大きな肉きれを[いれ]、 in einem andern [Topfe] もうひとつの[壺]には aber しかし frische Bataten 新鮮なさつまいもを[いれて] setzte......ans Feuer 火にかけた、 und そして nach zwei Stunden 二時間の後に er 彼は seit langer, langer Zeit ひさしぶりで wieder ふたたび eine gekochte Mahlzeit 煮た料理を hatte......vor sich stehen 自分の前においた(こうして二時間の後には、ひさしぶりでまた煮た食事をとることができた)。

〔注〕【75】geschehen 三要形:geschehen, geschah, geschehen.
【76】wer beschreibt seine Freude? 「ヤギに飼料をやってしまうやいなや彼は壺を焼いているところへ行った、そして――」と作者は、四つの壺の表面が釉薬をかけたように見事につやつやしているのを見て欣喜雀躍するロビンソンの姿を描こうとしたのだが、いちいち事細かに述べるのをさけて、一筆で註釈的に「だれが彼の悦びをよく描くことができよう!」と逃げたのである。beschreiben の三要形:beschreiben, beschrieb, beschrieben.
【77】glasierte 語尾 -ieren を有する動詞が過去分詞において ge- をとらぬことは「基礎入門編」でごぞんじのはず。glasieren = überglasen.
【78】so......denn 前に出たことのある da......denn......と同じで、denn は別に意味はない。
【79】wenn schon 「たとえ……にせよ」、「……にかかわらず」という接続詞(wenn auch とおなじ)――schon だけを「すでに」と考えてはいけない。すぐつぎの noch とくいちがうからおかしいことはすぐわかるであろうが。
【80】In einem Topfe......auns Feuer ここの ans Feuer setzen 「火にかける」という他動詞の目的語は、それぞれ ein tüchtiges Stück Fleisch および frische Bataten である。In einem Topf mit Wasser 「水のはいったひとつの壺のなかに」および in einem andern 「もうひとつの壺の中に」は、それぞれ Fleisch および Batanen の規定句で、先置強調して「壺のなかにいれて」の意に用いたもの。
haben と四格主語を伴う不定法【81】hatte er......eine gekochte Mahlzeit......stehen mahlzeit は haben の目的語で四格であるが、stehen という述語の主語である。このように四格主語の述語になっている不定法は、わざわざ訳出する必要がないことが多い:
 (1) Er hat einen Geldschrank zu Hause stehen.
  彼は家に金庫をもっている。
 (2) Er hat mein Manuskript in der Schublade liegen.
  彼は僕の原稿をひきだしにしまっている。
 (3) Er hat eine goldene Kette am Bauche baumeln.
  彼は金鎖をおなかのところにぶらさげている。
 (4) Er hat einen Trauring am Finger stecken.
  彼はエンゲージ・リングを指にはめている。
 (5) Er hat einen Säbel an der Seite hängen.
  彼は剣を腰にさげている。

[13] Um wie vieles82 war seine Lage nun besser geworden! Jetzt konnte er zahlreiche Speisen bereiten, die er vorher entbehren83 mußte; er konnte das Brot besser backen; er konnte aber auch84 noch mancherlei85 andere Gefäße machen, die zur Aufbewahrung von Mehl, Salz, Milch und andern Dingen notwendig waren, und sich überhaupt86 viele Annehmlichkeiten87 schaffen88.

〔訳〕nun いまや seine Lage 彼の境遇は Um wie vieles どんなにか war......besser geworden よくなったことであろう(これで彼の境遇は幾倍となくらくになった)! Jetzt いまでは er 彼は、er 彼が vorher その前には entbehren mußte 無くてすまさなくてはならなかった die ところの zahlreiche Speisen たくさんの料理を konnte......bereiten 調理することができた;er 彼は das Brot パンを besser もっとよく konnte......backen 焼くことができた;er 彼は aber auch また noch [そのほかにも]なお zur Aufbewahrung von Mehl, Salz, Milch und andern Dingen 穀物の粉、塩、乳およびその他のものを貯蔵するのに notwendig waren 必要である die ところの mancherlei andere Gefäße いろいろな他の容器を konnte......machen 作ることができた、 und そして überhaupt そもそも viele Annehmlichkeiten いくたの便宜を [konnte]......sich......schaffen 獲得することができた。

〔注〕【82】Um wie vieles 比較する際の「差」を示すには、(すなわち、たとえば「私の方が三年だけ年上である」と言う際の「だけ」のごとき)前置詞 um を用いる:Ich bin um zwei Jahre jünger als er. 「私は彼よりも二才だけ年下である」、――ただし、 um を用いずたんに四格でもよい:Ich bin zwei Jare jünger als er.――けれども本文のような場合には、um があった方がハッキリするわけである。
【83】entbehren 「……を欠乏する」、「……なしでまにあわせる」、「……なしで辛抱する」ことをいう。したがって unentbehrlich は「不可欠の」(英:indispensable)。
【84】aber auch 両語で「同時にまた」(aber だけをきりはなして「しかし」と読むべからず)。
【85】mancherlei manche と言ってもおなじ。ただ -erlei という語尾がつくと「種類」の意味が生ずる。そしてこの語尾は格変化をしない。vielerlei Arten 「多くの種類」、dreierlei Richtungen 「三種の方向」など。
【86】überhaupt 「そもそも」(すなわち「一般的に言って」の意)。ここでは、前にいろいろな具体的なことを言った後であるから、それをうちきって、一般的に総括しようとしてこの語を用いたのである。
-heiten, -keiten の意味【87】Annehmlichkeiten (便宜、ぜいたく、英語 comforts、詳しく言うと、生活を快適にする資料で、われわれの生活で言えば暖炉とか、自転車とか、ラジオセットとかいったようなものである。必需品では言いたりない、ぜいたくはすこし言いすぎであろう)――前に Unannehmlichkeit 「不都合・不便」という語が出たことがある。それから、この -keit(-heit も然り)の語尾に注意! 本来 -keit や -heit は抽象名詞で「安易なこと・愉快なこと」を意味するが、本文のように複数になると具体概念に転化して「生活を安易にするもの・生活の利便」を意味するようになる。つぎに -keit、-heit について例で示してみよう:
Gesundheiten ausbringen 「健康を祝して飲む」、über Kleinigkeiten mit einem in Streit geraten 「くだらぬことでひとと争う」、einer Frau Artigkeiten zuflüstern 「婦人に嬉しがらせを言う」、viel Damenbekanntschaften haben 「婦人の知合いをたくさんもっている」、mit allen Reisebequemlichkeiten ausgerüstet sein 「いっさいの旅行用品を用意している」、die Sehenswürdigkeiten einer Stadt 「ある都市の名所」。――単数はたいてい抽象名詞になるが、しかし Flüssigkeit 「液体」といったような例外もある。
【88】sich etwas schaffen = sich etwas anschaffen 「ものを調達する」。

Monday, July 11, 2022

英語読解のヒント (17)

17. and that

基本表現と解説

  • I must tell him, and that at once. 「彼に教えなければ。しかもすぐに」
この and that は「しかも」「そのうえ」などの意。

例文1

While I was wondering — and that with no little uneasiness — what on earth they could be doing there, suddenly I heard a wild cry to the right and left of me.

H. Rider Haggard, Allan's Wife

いったい連中は何をしているのだろうとあやしんで……しかも少なからぬ不安を抱いて……いたところ、突然わたしの右と左のほうから荒々しい叫び声が聞こえた。

例文2

There is a river, the streams whereof shall make glad the city of God, the holy place of the tabernacles of the most High. God is in the midst of her; she shall not be moved: God shall help her, and that right early.

King James Bible

一つの川がある。その流れは神の都を喜ばせ、いと高き者の聖なるすまいを喜ばせる。神がその中におられるので、都はゆるがない。神は朝はやく、これを助けられる。(1954年版口語訳新約聖書)

例文3

Lord John Russell once made a similar statement to a body of working men who waited upon him for the purpose of asking relief from taxation. "You complain of the taxes," he said; "but think of how you tax yourselves. You consume about fifty millions yearly in drink. Is there any Government that would dare to tax you to that extent? You have it in your own power greatly to reduce the taxes, and that without in any way appealing to us."

Samuel Smiles, Thrift

ジョン・ラッセル卿がかつて減税の陳情に来た労働者の一団に、似たようなことを言ったことがある。「きみらは税金の不平を言うが、しかしきみらが自分自身にどれほど税金を課しているか考えて見たまえ。きみらは一年に五千万ポンドもの酒を消費するんだよ。そんな税金を課す政府がどこにあるかね。きみらには大いに税金を減らす力がある。しかもいかなる陳情もせずに減らす力が」

Friday, July 8, 2022

英語読解のヒント (16)

16. and so on / and so forth

基本表現と解説

  • “Ten hours the first day,” said the Mock Turtle: “nine the next, and so on.” 「最初の日は十時間、つぎの日は九時間、という具合さ」とニセウミガメは言った。
  • He is very resigned and loving, and so forth. 「彼はひどく従順で、愛情深くて、といった性質の人だ」
事物を列挙し、自余のものを省略するのに用いる。

例文1

They will embrace professions, be writers, lawyers, artists, doctors, professors, and so on.

Max O'Rell, Rambles in Womanland

彼らは職業につき、文士、弁護士、芸術家、医者、教授などになる。

例文2

And now at last he raises his eyes. Slowly at first and cringingly, as if dreading what they might see. Upon the board at his feet they rest for a moment, and then glide to the next board, and so on, until his coward eyes have covered a considerable portion of the floor.

Margaret Wolfe Hungerford, The Haunted Chamber

そしてとうとう彼は目をあげた。なにが視界に入るやもしれぬと恐れるように、最初のうちはそろそろと、びくびくしながら。彼の視線はまず足許の床板を見つめ、それから次の板に移り、また次に移るという次第で、ついにその視線は床の大部分を蔽うにいたった。

例文3

So we find cells of one type in glands, of another type in the brain, of another type in bones, of another type in blood, and so forth.

Gerald Leighton, Embryology

というわけで、腺にはあるタイプの細胞が、脳にはべつのタイプの細胞が、骨にはまた異なる細胞が、血液にはさらにまたちがう細胞が見つかるという具合だ。

Tuesday, July 5, 2022

英語読解のヒント (15)

15. and all that

基本表現と解説
  • Tell her about the reason and all that. 「理由とか説明してやりな」

直前に言及された事柄に類することを示唆する表現。「などなど」「~とかその手のこと」。

例文1

"The girl likes him pretty well, and her people approve of him and all that, you know."

Anthony Hope, Frivolous Cupid

「女の子は彼がとても気に入っていて、女の子の家族も彼を好意的に見ていて、ってな感じなの」

例文2

"Introduce you! I thought you had been travelling together, and staying at the same hotel, and all that."

Anthony Trollope, Christmas at Thompson Hall

「ご紹介ですって! あなたがたは一緒に旅をなさったり、おなじ宿にお泊まりになったりしていたんじゃないんですか」

例文3

"I didn't ever tell you how envious I used to be when you were studying Greek with that old codger in Rivervale, and could talk about Athens and all that. "

Charles Dudley Warner, The Fortune

「言わなかったけど、ぼくはきみがリヴァーヴェイルの爺さんからギリシャ語を学んで、アテネとかについておしゃべりができるのが羨ましくてならなかったんだ」

Saturday, July 2, 2022

英語読解のヒント (14)

14. 名詞 + and all

基本表現と解説
  • He will devour you, skin and all. 「やつはおまえなんか皮ごとむさぼり食うぞ」

このような all は「~をはじめ全て」「~もろとも」「~ぐるみ」「~ごと」などという意味になる。

文例1

"I shall traverse every inch of that old tower — haunted room and all — before I am a week older," declares Florence defiantly.

Margaret Wolfe Hungerford, The Haunted Chamber

「わたしは一週間以内にその古い塔を、幽霊の出る部屋も含めて、隅から隅まで歩き回っているでしょうね」とフローレンスは挑戦するように言った。

文例2

I asked for nothing better than to throw myself down, damp clothes and all, upon that snowy coverlet; but for the instant my curiosity overcame my fatigue.
 "I am much indebted to you, sir," said I. "Perhaps you will add to your favours by letting me know where I am."

Arthur Conan Doyle, Uncle Bernac

わたしはその雪のような布団の上に、濡れた服ごと倒れ込みたかったのだが、一瞬、好奇心が疲労に打ち勝った。
 「お世話になります」とわたしは言った。「よろしければついでにここがどこか教えていただけませんか」

文例3

For the moment my wounds and my troubles had brought on a delirium, and I looked for nothing less than my five hundred hussars, kettle-drums and all, to appear at the opening of the glade.

Arthur Conan Doyle, The Exploits of Brigadier Gerard

しばらくは傷と困難のために昏睡状態におちいり、部下の五百の軽騎兵がドラムもろとも空き地の入口にあらわれるのを待つしかなかった。

英語読解のヒント(111)

111. never so / ever so (1) 基本表現と解説 He looked never so healthy. 「彼がそのように健康そうに見えたことは今までになかった」 He looked ever so healthy. 「彼はじつに健康そうに見...