Tuesday, July 26, 2022

ヘンリー・カットナー「妻殺し」

精神分析医マイケル・グレイが活躍するシリーズの第四作。

カレン・チャンピオンは pathological liar つまり病的な嘘つきとして警察には知られていた。彼女は寝ているとき、別居している夫にランプで殴られそうになったと警察に通報したのだが、調べて見ると夫がいた証拠はなにも見つからない。こんなことが何度も前にあったものだから、警察はまた例の病気だろうとタカをくくっていた。


彼女のかかりつけの医者も虚言癖には手を焼いていて、ふと親友のマイケル・グレイなら彼女を助けることができるかもしれないと、彼女にグレイを紹介する。そういう具合にわれらが主人公は事件に巻き込まれていく。

話が面白くなるのは、夫のほうも頭がおかしいとみなされていることがわかったところからである。夫は知り合いと会社を作っているのだが、そのビジネス・パートナーが彼は正常ではないと言うのだ。事件を妻の妄想という観点から見ていたグレイは、この新たな観点の出現にはっとする。わたしも読んでいて、興味を掻き立てられた。正気なのか、狂気なのか、というせめぎ合いは、語りの問題にも直結してくる。そして語りの問題をわたしはずっと考え続けているのだ。

結論からいうと、期待したほどの先鋭な問題にまで発展してはいなかったが、話自体はおもしろかった。とりわけ、愛がないと思われていた夫婦のあいだに本当は愛があり、仲良くやっているように見えた夫婦のあいだになんの愛もなかったという対照をつくりだしたところはよかった。カットナーの才能を感じさせるところだ。

シリーズが進むにつれ、カットナーの書き方は進歩していったようだ。ただし精神分析における転移について書かれた部分はいただけない。あれは嘘である。SFにおける擬似科学的説明みたいなもので、目くじらを立てるほどのものでもないのだろうが、わたしはちょっと鼻白んだ。

英語読解のヒント(145)

145. 付帯状況の with 基本表現と解説 He was sitting, book in hand, at an open window. 「彼は本を手にして開いた窓際に座っていた」 book in hand は with a book in his hand の...