Wednesday, March 31, 2021

ニコラス・ブレイク「ナイフを手に微笑む者」(1939)

本編の主人公はナイジェル・ストレンジウエイズではなく妻のジョージアのほうである。彼らが庭仕事をしていたとき、写真を入れて首に掛けるロケットを見つける。それがきっかけとなって、彼らはイギリスを独裁国家に変えようとする政治的陰謀の存在に気づくのである。そしてジョージアは夫の伯父であり時の政府の要人でもあるジョン・ストレンジウエイズに促されて、この秘密組織に潜入することになった。ジョージアは世界を股にかける冒険家だったが、今回は内なる(つまり国内に於ける)冒険へと出掛けるわけだ。

そういうわけでこの作品はミステリというよりはスリラーとか冒険小説、あるいはスパイ小説に近い。もっともル・カレみたいな筋の入り組んだものではなく、たんたんと読み進められる平易さを持っている。

この作品はいくつかの点で興味を惹く。まずは独裁主義への不安。この作品が出た1939年といえばヒトラー率いるドイツがポーランドに侵攻した年である。イギリスにはその七年前の1932年にファシスト党が成立していた。独裁主義はこの当時の時局的な話題だったし、文学や映画によってよく取り上げられた主題だったのだが、ニコラス・ブレイクもこの手の作品を書いていたとは知らなかった。

ニコラス・ブレイクの描く独裁者はその性格がじつによく伝わってくる。このあたりの書き方はさすが桂冠詩人と感心せざるを得ない。ゴルフコースや地球儀の謎、飛行機をクリケット場に着陸させるエピソード、いずれも彼の支配欲、自己顕示欲が巧みに表現されている。(ついでにいえば、独裁者の視線とは「俯瞰する視線」なのだということがこれらのエピソードを通じてわかる)

次に女性の活躍が目を惹く。ジョージアは冒険家だけあって胆力があり、しかも夫に負けないくらい知的な鋭さを持っている。自分の生き方にこだわりを持ち、そのためなら離婚も考える、独立心にとんだ女性である。冒険小説で女性が活躍するというのはこの時期ではまだ珍しいのではないだろうか。探偵ならヴィクトリア朝時代から作品があるけれど。

最後に会話がなかなか気が利いている。秘密組織に潜入するジョージアと独裁者を目指す組織の首領キャンテロウ卿の会話を引いてみる。

 「どうしてわたしをそんな眼で見るの?」ジョージアは振り返って彼を見つめた。

 「わたしはどんなふうにあなたを見ているのですか」

 「先生が黒板に書きつけた新しい公式を見るみたいに見ている」

 「たぶんあなたは新しい公式なんでしょう。わたしにはあなたを位置づけることができない」

 「いつも人を位置づけているの?」

 「危険かもしれない人々の場合はね」

俯瞰する視線とは位置づけようとする視線だが、そのような視線がいつも魅了され、挫折させられるポイントがある。それが位置づけのできないシニフィアン(新しい公式)なのだ。引用した会話はちょっと読むと映画的な粋な会話のように読めるが、じつは作品全体を通じて示される主題と関係していて、それゆえ浮いた印象がないのである。

Saturday, March 27, 2021

「悪い種子」発売のお知らせ

先日ウィリアム・マーチ作「悪い種子」の書評をこのブログに掲載したが、あの小説を戯曲化した作品を翻訳して出版することにした。作者はマクスウェル・アンダーソン。彼は生前は非常に評価の高い劇作家だった。死後はなぜかアメリカ文学のキャノンからはずされてしまったが、政治を題材にしたよい作品をいくつか書いている。「悪い種子」もブロードウェイで当たりを取り、ピューリッツァー賞の候補にもなった。


「悪い種子」は八歳の美少女が連続殺人を犯すという衝撃的な内容の話で、フェミニストたちも着目する作品だ。1950年代には映画化もされている。主人公の少女ローダを演じたパティ・マコーマックがすばらしい演技を見せているが、アメリカ映画の悪弊で、原作のインパクトが弱まるような物語に作り替えられている。ぜひとも小説版あるいは戯曲版を読んでもらいたいと思う。

小説の新訳を出そうかなとも思ったのだけれど、商業出版されたものとはよほどのことがないかぎりかち合わないようにするのが私の方針。それに原作を書いたウィリアム・マーチは他の作品を訳すかも知れないので、今回は見送ることにした。

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Tuesday, March 23, 2021

ゲーム実況者のための英語 (3)

ゲーム実況者スキッド氏はパズルゲームをとくのが恐ろしくうまい。The Last Guardian は彼にとってベスト・ゲームの一つであると言っているが、その実況もゲームに対する愛情が伝わるすばらしいもの。話し方も落ち着いていて品がある。

What the hell

Hey, Triko, you had a nice nap1? Oh, (it) looks like you... your horns are cracked2. Whoa, what the hell?3 Don't eat me. Should I shine the light? Whoa! The lightning that flew from the beast's tail took me greatly by surprise. Yeah, it did. Could it really have been summoned4 by the mirror? Was it?5

ヘイ、トリコ、よく寝られたかい? おや、角が折れているようだ。 おお、なんなんだ? おれを食べないでくれよ。 さあて……明かりで照らしたらいいのかな。 ワオ! (ナレーション)獣の尻尾から飛び出した雷はわたしを大いに驚かせた。 ああ、まったくだ。 (ナレーション)それ(雷)は鏡によって呼び出されたのだろうか? そうだったのか?

1. have a nap で「昼寝する」。"have a nice [noun]" という形はよく使われるのでこの際いくつかまとめて覚えてしまおう。
Did you have a nice time? 楽しいひとときが送れましたか。
Did you have a nice trip? 楽しい旅ができましたか。
Did you have a nice weekend? 楽しい週末が送れましたか。
Did you have a nice holiday? 楽しい休暇が過ごせましたか。
Did you have a nice spring break? 楽しい春休みが過ごせましたか。

2. (it) looks like 「見たところ……のようだ」。it は文法的には主語として必要だが、口語では省略されることもある。"Looks like they are having fun." 「見たところ彼らは楽しんでいるようだ」。I got it. 「わかった」というような表現も口語では Got it. とよく主語を省略する。また "you... your horns" という部分は、一度 you と言いかけて、すぐに your horns と言い直したもの。

3. What the hell 「なんなんだ?」。トリコの異様な反応にぎょっとして発した言葉。前回のテキストで見たように What the hell is happening? と補って考えればよい。非常によく用いられるフレーズ。

4. summon 「呼び出す」。「悪魔を呼び出す」という場合にも summon を使う。He tried to summon the devil with a pentagram. (彼はペンタグラムで悪魔を呼び出そうとした)。

5. Was it? は Was it summoned by the mirror? ということ。

Saturday, March 20, 2021

関口存男「趣味のドイツ語」

Es ist ein Gott

Paul ist ein armer1 Tagelöhner2. Seit3 ein paar4 Wochen5 ist er krank. Er kann nicht arbeiten6. Er kann nicht einmal7 zum8 Arzte9 gehen. Dazu10 braucht man Geld. Und Geld ist ohne11 Arbeit nicht zu12 haben.

逐語訳: Paul パオルは ein armer Tagelöhner 一人の貧しい日傭人足 ist である。Seit ein paar Wochen 数週以来 er かれは krank 病気 ist である。Er かれは arbeiten 働くことが kann でき nicht ない。Er かれは zum Arzte 医者の所へ gehen 行くこと einmal すら kann でき nicht ない。Dazu そのためには man 人は Geld 金を braucht 必要とする。Und ところが Geld 金は ohne Arbeit 労働なくしては zu haben 持つべく ist nicht ない。

:【1】arm: 英の poor と同じく、「貧乏な」と意と「哀れな」の意とがある。ここは前者。
【2】Tagelöhner: Tag (日)、Lohn (賃金)。
【3】seit: は前置詞で、この前置詞の次におく名詞は必ず三格形。これを三格支配の前置詞という。意味は英の since (……以来、……このかた)
【4】ein paar: は「二三の」、「いくらかの」という熟語。
【5】Wochen: die Woche (週)の複数形で、前に seit があるから文法上では三格というわけ。
【6】arbeiten: アクセントに注意! ルバイテン!(アルイテインではない)「労働」という名詞も die Arbeit [ルバイト]です。ちかごろいうアルバイトは、学生の金儲けの仕事のことですが、ドイツ語では単に「労働」、「仕事」の意味しかありません。
【7】nicht einmal は熟語で、『……すら……しない』の意。例:Er hat nicht einmal Geld (あいつはお金すら持たぬ)、Er ist nicht einmal krank (あいつは病気ですらないんだ)、Ich kann nicht einmal Englisch (僕は英語すらできないのです)。
【8】zum は zu と dem とがいっしょになった形。(in dem = im. an dem = am. von dem = vom. zu der =zur. in das = ins. an das = ans.)
【9】Arzt, m. (医者)発音に注意! Aは長綴ゆえアルツトではなくールツト。e がついて Arzte となっているのは三格だから。(もちろん e はなくてもいいことになっています)
【10】dazu: (そのために、そのためには)同じようなものの例:davon (それについて、それの、それから)、damit (それをもって)、darin (その中に)、darauf その上に、darunter (その下に)、dazwischen (そのあいだに)。
【11】ohne: 英の without. (ohne Arbeit, 労働なしには、働かねば)
【12】ist nicht zu haben: 「持つべくない」というのは、手に這入らない、ということ。haben は不定形です。haben は「持つ」ですが、詳しくいうと「手に入れる」ということを haben というのです。

Auch13 seine Frau ist in Verzweiflung14. Sie weint den ganzen Tag15. Sie betet nicht mehr16 zu Gott17. Sie glaubt nicht mehr an18 seine Existenz19. Sie sagt: „Es ist20 kein Gott21.“

:【13】auch: 「も」、「も亦」(即ち英の too)――Auch seine Frau = His wife, too
【14】Verzweiflung, f. = 絶望(英:despair)in Verzweiflung は英 in despair と同じく「絶望の状態に」(ある、陥入る、など)という熟語。>
【15】den ganzen Tag: 「全一日を」即ち「朝から晩まで」。
【16】nicht mehr: 英:no more, no longer, (または not......any more)――これは「もはや……せぬ」という熟語としておぼえること。
【17】zu Gott: 冠詞をつけて zum Gott とは云わない。キリスト教の神を指す Gott には冠詞をつけないのがヨーロッパ各国語の習慣です。特に冠詞をつけるときには何か別に意味があります。たとえば Es ist ein Gott (神さま「というもの」がある)など。
【18】an という前置詞がついているのは glauben (信じる)という動詞の使い方から来ています。「神を信ずる」は an Gott glauben というのです。
【19】die Existenz は「存在」。英:existence.
【20-21】Es ist kein Gott = There is no God. (ここで特に御注意ねがいたいのは、「存在する」という英語の There is, There are をドイツ語では Es ist, Es sind ということもあるという点です。英の There is God は「神というものが世にはある」で、別に其処に神がいるとか其処は神であるとかいうのではありません。ドイツ語の Es ist ein Gott (此のテキストの標題)も、うっかりすると「それは神である」などと読み誤りそうです。とにかく英語の或種の there は、ドイツ語では es となることに御注目下さい。There came a storm (嵐がやってきた)は、文字通り Da kam ein Sturm とも云いますが、また Es kam ein Sturm ともいうのです。(此の、英語の there にあたる es を、文法では「非人称主語の es」といいます)

逐語訳: seine Frau かれの妻 Auch も亦 in Verzweiflung 絶望に於て ist ある。Sie 彼女は den ganzen Tag 全一日を weint 泣いている。Sie 彼女は mehr もはや zu Gott 神にむかって betet 祈ら nicht ない。Sie 彼女は mehr もはや an seine Existenz かれ(=神)の存在を glaubt 信じ nicht ない。Sie sagt 彼女は云う: Es ist kein Gott 神は存在しない[と]。

„Doch!22“ sagt Paul, „Es ist ein Gott. Unser Pfarrer23 ist ein gelehrter24 Mann, er kann25 nicht lügen.“

逐語訳: „Doch!“ [存在]する[と] sagt Paul パオルは云う。Es ist ein Gott 神は存在する。Unser Pfarrer 我々の牧師は ein gelehrter Mann 一人の学識ある人で ist ある。Er かれは lügen 嘘を吐く kann nicht 筈がない、[と]。

:【22】doch! 日本では肯定するときにも「いや」を使って、「いや、ある」、「いや、行く」、「いや、わかる」などと云いますが、その「いや」がドイツ語では doch です。(否定の方のいやは、もちろん nein です:「いや、私は行かぬ」は Nein, ich gehe nicht)――例:「いや、神はある!」=Doch, es ist ein Gott! 「いや、私は働く!」=Doch, ich arbeite! 「いや、おれはお祈りしよう」=Doch! ich will beten! ――こういう doch は副詞として文の中へ入れると「やっぱり」と訳することができます:Es ist doch ein Gott (神はやっぱり存在する);Ich arbeite doch (おれはやっぱり働くぞ);Ich will doch beten! (わたしはやはりお祈りするとしよう)
【23】Pfarrer, m. (牧師)は Pastor (ストル)ともいう。
【24】gelehrt: lehren (教える)という動詞の過去分詞も gelehrt (教えられた)ですが、此処の gelehrt はそれとは別の「学問のある」、「博識な」という形容詞です。
【25】kann: 「嘘を吐くことができない」ではなく、「嘘を吐くはずがない」の意。können (できる)という助動詞はそういう用法があるのです。「そんなことが可能だ」、「不可能だ」という時にも使うのです。

„Wenn es einen Gott gibt26“, eifert27 sie, „warum hilft28 er uns29 nicht in unserer30 Not? Beten wir nicht Tag und Nacht zu ihm? Er ist allmächtig31 und32 kann uns nicht helfen? Ist das nicht Beweis genug33, daß es keinen Gott gibt?“

逐語訳: „Wenn もし es それが einen Gott 一人の神を gibt“ 与える[ならば]、sie [と]彼女は eifert むきになる、„warum 何が故に er かれは uns 我々に in unserer Not われわれの困窮に於て hilft 助け nicht ないのか? wir 我々は Tag und Nacht 日も夜も zu ihm かれにむかって beten 祈っている[ではないか]? Er かれは allmächtig 全能で ist あって und そして[しかも] uns 我々に helfen 助けることが kann でき nicht ない[のか]? das それは daß es keinen Gott gibt それが何等の神をも与えないという事の Beweis genug 充分の証明 ist nicht ではないか?

:【26】Wenn es einen Gott gibt は Wenn ein Gott da ist (もし神があるとすれば)というに同じ。此の「それが云々を与える」というドイツ語特有の云い廻しに注意しましょう。Es gibt と、名詞の四格を用います。例:Es gibt keine Arbeit (仕事が無い);Es gibt Geld (金がある)、Gibt es einen Streik? (争議があるのですか?)
【27】eifern: 「やっきになる」、「やいやい云う」、「がみがみいう」という動詞。
【28】hilft の不定形は helfen (助ける)(三人称単は er helft でなく er hilft となるところに注意。つまり geben (与える)が es gibt と変化するのと同じ型に属します。こんな動詞がドイツ語には相当あります。二人称単も hilfst や gibst となり、ich, wir, ihr, sie のところは e です。)
【29】uns: これは三格の uns です。helfen (助ける)の用法は「或人を助ける」ではなく、「或人に助ける」です。こんな所が日本語とはだいぶちがっています。
【30】unser-er: 英 our にあたる部分は unser までで、そのあとの -er は、女性三格の語尾です。(次の Not、困窮、は女性)
【31】allmächtig = 英 almighty. 英独の似ている点は両方とも二綴目にアクセントが来る点。ちがうのは英語では all (すべて)が al- となる点です。(英の welcome もドイツ語では willkommen、これもドイツ語の方は l を省きません)
【32】und には「しかも」、「それに」、「そのくせ」(und doch, 英:and yet)という用法あり。
【33】Beweis genug: Beweis が「証明」で genug が「充分」ですが、「充分な証明」を Beweis genug というのです。逆のようですが、これが普通なのです。英の enough と同様、genug [ゲーク]はよくうしろに来るということを記憶して下さい。たとえば「われわれは充分な時間を持っている」は Wir haben genug Zeit でも Wir haben Zeit genug でもよろしい(英も We have enough time; We have time enough

Paul weiß34 nicht mehr, was er dazu sagen soll35. Hat seine Frau etwa36 recht37? Nein, dan kann nicht sein38. Aber was39 sie sagt, hat Hand und Fuß40. Was soll er davon halten41?

逐語訳: Paul パオルは er かれが dazu それに対して was 何を sagen 云う soll べきである[かを] mehr もはや weiß 知ら nicht ない。etwa ひょっと seine Frau かれの妻が recht 理を hat 持つ[のでもあろうか]? Nein, 否、das そんなことは sein あり kann 得 nicht ない。Aber しかし sie 彼女が sagt 云う was ところの事は Hand 手 und と Fuß 足を hat 持っている。Was 何を er かれは davon これについて halten 考える soll べき[か]?(halten = denken)“

:【34】weiß (知っている)の不定形は wissen.
【35】soll: 英 shall (云々す可きである、などという「可き」です)
【36】etwa: 「ひょっと(……でもあろうか)」
【37】recht: これは recht haben (英 be right)という熟語動詞で、『云い分が正しい』、『理がある』、『正しい』、『もっともである』の意。たとえば、会話で「それはごもっともです」、「あなたの仰せの通りです」という時に、英語では You are right といいますが、ドイツ語では You have right すなわち Sie haben recht というのです。(此の recht は「正しき」という recht ではなくて、「正しさ」即ち大文字の Recht だったのが、いつの間にか小文字になったものです)
【38】Das kann nicht sein (それは有り得べからざることだ)は成句としてよく出てきますから此のままをおぼえること。sein は英の his ではなく be にあたる方の sein です。sein には二つちがった場合があるから注意。
【39】was sie sagt = what she says.
【40】hat Hand und Fuß (手と足を持っている)というのは辻褄が合っている」という熟語。つまり手足を具えている、間然するところなしということです。
【41】was soll er davon halten? (彼はそれに就て何を考えるべきか)とは、「さて之れを何と考えたらいいのか」、「こいつは一寸問題だ」ということ。

Er geht schließlich42 mit seiner Frau zum Pfarrer und klagt43 ihm seine Not. „Ich muß wissen,“ sagt er, „ob44 es wirklich Gott gibt oder nicht. Gibt45 es Gott, dann gut. Gibt es keinen46, dann will ich stehlen! Sagen sie47 uns also48 klipp and klar49: Gibt es einen Gott oder nicht?“

逐語訳: Er かれは schließlich 結局 mit seiner Frau かれの妻と共に zum Pfarrer 牧師のところへ geht 行く und そして ihm かれに(=牧師に) seine Not かれの苦境を klagt 嘆く。„Ich わたしは wissen 知ら muß ねばなりません er [と]かれは sagt 云う。“ es それが wirklich 本当に Gott 神を gibt 与える[か] oder それとも nicht [与え]ない ob か[ということを]。es それが Gott 神を gibt 与えるか?(与えるならば、と同じ) dann 然らば gut よろしい。es それが keinen 何らの[神]をも Gibt 与え[ない]か?(与えないとすれば、と同じ)dann 然らば ich 私は stehlen 盗もうと will おもう。also では uns 我々に klipp und klar はっきりと Sagen sie 云ってください:es それが einen Gott 一人の神を gibt 与える[か] oder それとも nicht [与え]ない[か]?

:【42】schließlich: 「けっきょく」、「あげくのはては」「とどのつまりは」、「とうとう」(am Ende ともいう)
【43】klagt: 不定形は klagen (うったえる、なげく、こぼす)
【44】ob は英の whether で、「……かどうか」、「はたして……なりや」という文に用いる接続詞です(語源は英の if と同一物、現に if もそういう時に使います)。
【45】Gibt es Gott: (もし神ありとせば):これは Gibt es Gott? という疑問文から来ています。ドイツ語では此のように質問の形を wenn (もしも……)と同意に使うことが非常に多いのです。Wenn es Gott gibt というのと全然同じです。邦語でも、「神ありとせんか、然らば……」などと現に「か」という質問形を用いることがあります。
【46】Gibt es keinen: 次に Gott を省いたもの。
【47】Sagen Sie という形には「云いますか?」という場合と、「云え!」という場合とがあります。ここのは後者。(Gehen Sie? あなたは行きますか? Gehen Sie! 行きなさい!)
【48】also は英の also (オールソウ)と形は同じですが意味がちがいますから御注意。「では行ってまいります」などという「では」です。
【49】klipp und klar: これは熟語で、「きっぱりと」、「はっきりと」、「明瞭に」

„Ja, antworten Sie50 uns nur ganz kurz, mit Ja oder Nein,“ schreit seine Frau, „Gibt es einen Gott oder nicht?“

逐語訳: Ja, そうです、uns 我々に nur ただ ganz 極く kurz 短く、Ja 然り oder と Nein 否 mit をもって antworten Sie 答えてください:seine Frau [と]かれの妻は schreit 叫ぶ。es それが einen Gott 一人の神を gibt 与える[か] oder それとも nicht [与え]ない[か]?

:【50】antworten Sie: 前出の Sagen Sie と同じく、命令の形です。「答えて下さい!」

Da51 blickt52 der gute Mann zum Himmel hinauf53, schlägt54 die Hände55 vor56 der Brust57 zusammen58 und sagt:

逐語訳: Da すると der gute Mann その良き人は zum Himmel 天に向って blickt hinauf 見上げ(眼をあげ) die Hände 手を vor der Brust 胸の前で schlägt zusammen 打ちあわせ und そして sagt 云う:

:【51】da は、(英の there)「其処で」ですが、ここは場所をいう「其処で」ではなく、時の意の「そこで」、「すると」です。
【52】blickt: 不定形 blicken (見る、にらむ)
【53】hinauf は、分解すると hin (彼方の方へ) auf (上方へ)です。blickt hinauf の二つで「眼をあげる」、「上眼を使う」、「上を見る」です。blickt zum Himmel hinauf で「天を仰ぐ」。
【54】schlägt: 不定形 schlagen. (a が ä にかわるところに注意。)schlagen だけの意味は「打つ」。
【55】die Hände は die Hand (手)の複数形。
【56】vor は「前」という前置詞。
【57】die Brust: 胸。(der とあるのは三格。)
【58】zusammen: 英の together. schlägt zusammen は「打ち合わす」。
「天を仰いで手を打ち合す」という動作――さてここでちょっと、此処で牧師のやっている西洋人独特の科について説明を加えておきます。これは決して神さまを拝んでかしわ手を打っているわけではありません。西洋人はかしわ手を打ったりしません。これは単に「なアーるほど!」といって感心しているだけのことなのです。西洋人は、何かに呆れたり、びっくりしたり、感服したりすると、思わず上わ目を使って白眼をむき出し(同時に頭をチョット横へかしげます)、そして大袈裟に両手をパチンと打ちあわせます。日本人なら、両手を組んで「ふふーん!」というところです。ここで牧師がこんな動作をしておどろくのは何故かというと、不時の収入があった日に、ちょうどそれを恵むのに都合の好い人が来たからです。「ちょうど巧い具合になるものだ!」と思って感心したわけです。

„Ja freilich59 gibt es einen Gott! Und hier auf dem Tische seht ihr sogar60 den Beweis dazu61.“ Der fromme Mann deutet62 auf63 eine Banknote64, die65 vor ihnen auf dem Tische liegt.

逐語訳: Ja freilich 然り勿論 es それは einen Gott 一人の神を gibt 与える。Und そして[しかも] hier 此処に auf dem Tische 机の上に ihr あなたがたは dazu その事への den Beweis 証明を sogar すら seht ごらんになる。Der fromme Mann その敬虔な人は vor ihnen かれらの前に auf dem Tische 机の上に liegt 横たわる die ところの auf eine Banknote 一枚の紙幣を deutet 指さす。

:【59】ja freilich (そうですとも)はよく使う熟語。
【60】sogar は「おまけに」、「……まで」、「あまつさえ」
【61】Beweis dazu (それへの証明)とは「それに対する証明、その証明」。
【62】deuten (指す、示す、指し示す)は zeigen と同じ。
【63】auf はここでは英の at. (示す、見る、等の動作には auf を使うことが多いのは英の look at などと同じです)。
【64】Banknote, f. Bank は「銀行」、Note は「券」です。
【65】die は関係代名詞、(前の Banknote を指すから女性)関係代名詞は大体定冠詞と同じものを用います。

„Wie meinen66 Sie das, Ehrwürden67?“

逐語訳: Wie 如何に Sie あなたは das それを meinen 意味する[か]、Ehrwürden 先生よ?

:【66】meinen は、「私の」などという mein の変化したものではなく、英の mean にあたる動詞です。
【67】Ehrwürden (先生)は特に牧師神父に対して用いる語です。

„Ich bin ein armer Pfarrer und helfe den Leuten68 gewöhnlich nur mit Worten69. Aber diesmal kann ich euch mit Geld helfen. Denn heute habe ich zufällig Geld. Gott hat es mir gegeben70, damit71 ich euch helfen kann. Es ist mein Extra-Verdienst72 und ich kann ihn gut73 entbehren74. Nun75, gibt es einen Gott oder nicht?“

逐語訳: Ich 私は ein armer 一人の貧しい Pfarrer 牧師 bin である und そして den Leuten 人々に gewöhnlich 普通は nur ただ mit Worten 言葉をもって helfe 助ける。aber しかし diesmal このたびは ich 私は euch あなたがたに mit Geld お金をもって helfen 助けることが kann できる。Denn 何故かというに heute 今日は ich 私は zufällig 偶然 Geld お金を habe 持っている。ich 私が euch あなたがたに helfen 助ける kann ことができる damit ように[と] Gott 神が es それを mir 私に gegeben (geben の過去分詞)与え hat た。Es それは mein わたしの Extra-Verdienst 特別所得 ist である。und そして ich 私は ihn それを gut よく(大丈夫) entbehren 欠く(無しにすませる)ことが kann できる。Nun さて(どうだ)、es それが einen Gott 一人の神を gibt 与える[か] oder それとも nicht [与え]ない[か]?

:【68】Leuten Leute (英 people)の三格、此の語は「人々」の意で、単数形はありません。
【69】Worten: 単数: Wort, 複数は Worte、(それが三格になって Worten)。
【70】hat......gegeben = has given. (英なら単に gave というところ)gegeben は geben (与える)の過去分詞。
【71】damit: 「……せんがために」の意の接続詞。
【72】Extra-Verdienst: Extra は英の extra と同じで、「臨時の」、「不時の」、「特別の」(特配などの特です)。Verdienst は「儲け」。
【73】gut (よく)とは「結構」、「大丈夫」(……してさしつかえない)。
【74】entbehren は「……無しに間に合わせる」、「……を必要としないですます」、「……なしにすます」という、ちょっと日本語にはない動詞です。
【75】Nun は英の well, 「どうだ」(ときめつける場合)、「いかがでござる」というやつ。

Das Ehepaar ist ganz verwirrt. Sie stammeln einige76 unverständliche Dankesworte und tragen77 die Banknote nach Hause, den sicht- und greifbaren78 Beweis von der Existenz Gottes.

逐語訳: Das Ehepaar その夫婦は ganz すっかり verwirrt 混乱して ist いる。Sie かれらは einige 若干の unverständliche わけのわからない Dankesworte 感謝の言葉を stammeln どもる und そして die Banknote その紙幣[すなわち] Gottes 神の von der Existenz 存在についての den sicht-[baren] 眼に見える und そして greifbaren 掴むことのできる Beweis 証明を nach Hause 家へ tragen 運ぶ。

:【76】einige = ein paar.
【77】tragen: これは「持って行く」「運ぶ」という tragen.
【78】sicht- und greifbaren: 完全にいうと sichtbaren und greifbaren です。共通の語尾を省くときには - の印を用います。-bar という語尾は「……することの出来る」「……可能な」を意味します。「可視」の可です。sicht は英の sight ですが、sichtbar は visible にあたります。-bar は、つまり英の ible, able などです。greifbar の greif- は greifen (掴む)から来ています。

Am andern79 Morgen kommt ein Arbeiter zum Pfarrer. Es ist Pauls Nachbar80. Auch er klagt dem frommen Manne seine Not und sagt: „Ich kann nicht mehr an Gott glauben, denn es gibt keinen Gott. Oder können Sie mir einen Beweis geben, daß es einen Gott gibt? Einen Beweis, den man mit Augen sehen und mit Händen greifen kann?“

逐語訳: Am andern Morgen 他の(次の)朝に於て ein Arbeiter 一人の労働者が zum Pfarrer 牧師のところへ kommt 来る。Es それは Pauls パオルの Nachbar 隣人 ist である。Auch er かれも亦 dem frommen Manne この敬虔な人に seine Not かれの苦境を klagt なげく und そして sagt 云う:Ich 私は mehr もはや an Gott 神を glauben 信ずることが kann nicht できない、denn なぜなれば es gibt keinen Gott 神というものは存在しない[から]。Oder それとも Sie あなたは mir 私に daß es einen Gott gibt 神が存在するという einen Beweis 一つの証明を geben 与えることが können できます[か]? man 人が mit Augen 眼をもって sehen 見ることが und そして mit Händen 手をもって greifen つかむことが kann できる den ところの Einen Beweis 一つの証明を?

:【79】andern = 英 other.
【80】Nachbar = 英 neighbor. 近所の人、同じ町内の人。

„Nein, das kann ich leider81 nicht,“ antwortet ihm der fromme Mann, „Dafür habe ich hier auf dem Tische einen Beweis, den man weder82 mit Augen sehen noch mit Händen greifen kann. Oder sehen Sie hier auf dem Tische etwa eine Banknote?“

逐語訳: Nein, 否、das その事を ich 私は leider 残念ながら kann nicht できない、[と] ihm かれに der fromme Mann その敬虔な人は antwortet 答える、Dafür その代りに ich わたしは hier 此処に auf dem Tische 机の上に man 人が mit Augen 眼をもって sehen 見ること weder も[出来]ず mit Händen 手をもって greifen つかむことも kann でき noch ない den ところの einen Beweis 一つの証明を habe 持っています。Oder それとも Sie あなたは hier 此処に auf dem Tische 机の上に eine Banknote 一つの紙幣を etwa でも sehen 見ます[か]?

:【81】leider: 「遺憾ながら」という副詞。
【82】weder......noch...... は英の neither......nor......(『……も……も』と打ち消す時に用います。これを使うと否定詞は他に不要)。

„Eine Banknote? Nein.“

逐語訳: Eine Banknote? 紙幣を? Nein いいえ。

„Nein. Sie sehen hier keine Banknote. Auch ich sehe keine. Und wenn wir beide83 keine sehen, dann ist es keine Augentäuschung84. Nun sagen Sie mir selbst: Gibt es einen Gott oder nicht?“

逐語訳: Nein いいえ。Sie あなたは hier ここに keine Banknote 何等の紙幣をも sehen 見[ない]。Auch ich 私も sehe 見 keine ません。Und そして wir われわれが beide 両人とも sehen 見 keine ない wenn ならば、dann 然らば es それは keine Augentäuschung 眼の錯覚では ist ありません。Nun では mir 私に selbst 御自身で sagen Sie おっしゃって下さい:Gibt es einen Gott oder nicht? 神は存在しますかしませんか?

:【83】beide, 英:both.
【84】Augen (眼)、Täuschung (錯覚)。

Der arme Sünder85 wird86 rot wie eine Tomate und sagt: „Es gibt einen Gott, Ehrwürden.“

逐語訳: Der Arme Sünder 哀れなる罪びとは eine Tomate トマト wie の如く rot 赤く wird なる、und そして sagt 云う:Es gibt einen Gott 神は存在します、Ehrwürden 先生。

:【85】Sünder (罪人)、英 sinner. (罪は die Sünde、英 sin
【86】wird: 不定形 werden (成る、英 become)。この動詞は人称変化がすこぶる不規則で、du wirst, er wird となります。

意訳:パオルは貧しい日やとい人足です。数週前からかれは病気をしています。かれは働くことができません。医者の所へ行くことすらできません。医者の所へ行くには金が要ります。ところが金というやつは働かないと這入らないのです。
 かれの妻君も困っています。一日泣き通しです。彼女はもうお祈りなんかしません。もう神の存在なんか信じなくなったのです。彼女は『神なんてありゃしないわよ』と申します。
 『あるさ!』とパオルは云います、『神というものはある。おれたちの牧師さまは学問のあるお方だ。あの方が嘘をおっしゃるわけがない』。
 『神さまというものがあるなら、』彼女はむきになりました、『わたしたちがこんなに困っているときに、どうして助けて下さらないの? わたしたちはこれで明けても暮れても神さまにお祈りのし通しでしょう? 全能だというのに、いっこう助けるだけの腕がないじゃありませんか。これが神さまなんてものは無いと云う何よりの証拠でしょう?』
 これにはパオルもグウの音も出なかった。すると彼女のいうことが本当かしら? いや、まさかそんなことのあろう筈がない。しかし、それにしても云うことが立派に筋路が通っている。こりゃあいったいどう考えたらいいのかしら?
 かれは、とどのつまり、妻君をつれて牧師さんのところへでかけ、自分たちの苦境を訴えました。『実はですね、』と彼は云いました、『神というものは本当にあるのだかどうだか、それを伺いたいんですよ。ありゃあようがす。けれども、もし無いというのなら、いっそう泥坊でも働こうかと思うんです。だから一つ、ハッキリしたところを伺わして下さい、神さまというものは有るんですかそれとも無いんですか。』
 『えゝ、そうです』と彼女は大きな声でどなりました、『有るなら有る、無いならない、と、ごく簡単なところをおねがいします。神様はいったい有るのですか無いのですか。』
 すると牧師さんは、まず眼を天に向け、胸の前で両手をパチと打ち合わせたのち、かく申しました:
 『いや、たしかに神さまというかたはいらっしゃる! しかも、いらっしゃるという現の証拠がチャンと此の机の上にあるじゃないか』こう云って牧師さまは両人の前の机の上においてあった一枚の紙幣を指しました。
 『それは先生いったいどういう意味ですか?』
 『わたしは御存じの通り貧乏牧師で、普通はただ口だけ動かして人助けをしているが、こんどだけは金を出しておまえさんがたを助けてあげることができるんだ、というのは、今日に限って不思議にお金が這入ってきたんだ。これはおそらく、おまえさんがたを助けてあげろと云って神さまが下さったものに相違ない。これはあてにしていなかった収入なんで、あげたって一向困りはしない。どうだ、神さまという方があると思うか、それとも無いと思うか?』
 夫婦はドギマギしてしまいました。お礼のことばもシドロモドロに、何だかわけのわからないことを云いながら、神の存在に対する眼にも見え手にも握れる証明であるところのその札を頂いてかえりました。
 その翌朝、また一人の労働者が牧師さんのところへやって来ました。それはパオルの近所に住んでいる男です。この男も牧師さんにむかって色々と愚痴をこぼしたのち、こう申します:『わたしはもう神さまなんてものは信じられなくなりました。だってそんなものは無いと思うんです。それとも何か、神というものがあるという証明がございますか? 此の眼に見え、此の手につかめるような具体的な証明がございますか?』
 『いや、そんなのはお相憎とないんだがね、』牧師さんは答えました、『その代り、眼にも見えず、手にも掴めぬという証明が現に此の机の上にある。それとも此の机の上にお札でも見えるかね?』
 『お札ですか? 見えませんな。』
 『見えん。お札なんてものは一向見えん。わしにも見えん。おまえさんにも見えずわしにも見えんというのだから、まさか眼の加減ではなかろう。ではわしの方からおまえさんに問うが、どうだ、神さまというものは有ると思うか、無いとおもうか?』
 哀れなる罪びとは、まるでトマトのように真赤になって、申しました:『あると思います。』

Wednesday, March 17, 2021

COLLECTION OF ENGLISH IDIOMS

早稲田大學敎授 深澤裕次郎著

應用英文解釋法

東京英文週報社發行


(p. 147-152)


範例

I

(a) Who knows but (that) he did it?

(b) Who knows but (what) he did it?

  彼が爲しゝ(事の)外誰が知るか。

(a) I don't know but that he did it.

(b) I don't know but what he did it.

     彼が爲しゝ事の外我は知らず。


II

(a) Not but that he did it.

(b) Not but what he did it.

    彼が爲しゝ外(我は知ら)ず。


I & II

= Probably he did it.

= He may have done it.

彼が爲しゝならん。


解説

 本文の如く But that (what) に導かるゝ Noun Clause の前に在る who knows.......? 又は not say, see, know, think 等の Verb の後には anything を補ひて解す可し、即ち

  Who knows anything but (that, what)......?

    I don't know anything but that (what) ......

    = In all probability; probably; perhaps

       大方、多分、恐らくは。

 猶ほ (b) のbut what は (a) の but that の誤りて生じたるものなり。

 また II は I の初の Clause を縮約して主要の語 not を殘したるものなり(Who knows ......? も反語の疑問なるが故に No one knows 又は I do not know と同じ意なり)而て Not but that (what) は前後の關係に依り

    Not to say but that......

    I do not admit (see, know, think, etc.) but that......

の如く解す可し。

 [註] Not but that (what) は「……と云ふ事なきにあらねど」と云ふ意故、次に示すが如き構文にありては though の意に解するを得。


(a) Thus we lived several years in a state of much happiness; not but that we sometimes had those little rubs which providence sends to enhance the value of its favours.

    O. Goldsmith.

斯様にして自分等は婦夫頗る睦まじく數年間を過ごした。無論、時には彼の天がその恩寵の有難味を増す爲に下し給ふ些細な不快な事は無いではなかつたが。

Providence 天帝、神。its は Providence を受く。


(b) The right thigh-bone is decayed, has not got worse these nine years. Therefore I conclude that I may live -- say other thirty years. I should _like_, at all events, for life _is_ sweet even at this cost; not but what I could die quietly enogh, I dare say.

    P. G. Hamerton

右の大腿骨は腐つて了つたが、この九年と云ふものはそれ以上惡くはならない。それ故もう三十年位は生きられると思ふ。兎に角、私は生きたい。と云ふのは、斯様な苦痛を忍んでも生きて居るのは善いものであるからだ。勿論、今でも死なうと思へば心靜かに死ねるのではあるが。

say 云はゞ。ぐらゐ。 I shall like の次には to live を補ひ見よ。at all events 兎に角。at this cost 「この價にても」とは身に大患を抱いて居ても。I dare say = perhaps.


(c) As for his speculations, notwithstanding the several obsolete words and obscure phrases of the age in which he lived, we still understand enough of them to see the diversions and characters of the English nation in his time: not but that we are to make allowance for the mirth and humour of the author, who has doubtless strained many representations of things beyond the truth.

    J. Addison

彼の思索は分かるかと云ふに、當時の廢語や不明の句が文中に數多有るにも拘らず、その頃の英國民の娯樂性情が窺はれる位には讀める。無論、作者一流の滑稽諧謔を以て、事物の描寫を事實以上に誇張して居るから、それに對して幾分斟酌はせねばならないが。


比較

   Who knows (anything) but he may be a good man?

   For anything I know, he may be a good man.

   彼は多分善い人で有らう。


用例

I

1.  Who knows but he will come yet?

  多分、まだ彼は來るで有らう。


2.  Who knows but he may be a Member of Parliament?

    W. Irving

    多分彼は國會議員で有らう。


3.  Who knows but I may take a glimpse at myself, and  see whether all's right?

    妾は自分の姿を見て皆ちやんとして居るかどうか見よう。

take a glimpse at をちよいと見る。all's right 異状が無い、無事。


4.  Who knows but I may light upon some legendary traces of Dame Quickly and her guests?

    W. Irving

    事に依つたら私はクイクリ夫人と其客人の小説的事蹟に出會ふかも知れない。

light upon は come across (偶然に出會ふ)の意、それより discover (發見す)の意を生ず。


5.  Who knows but we make an agreeable and permanent acquaintance with this interesting family?

    T. Hook

    大方、私共はこの愉快な家族といついつ迄も面白く近づきになりませう。

make an acquaintance of と相識になる。


6.  "If so," murmurs Florence, falling upon her knees before her, "do not hesitate; follow up this instinctive feeling, and who knows but something may come of it!"

    The Duchess

    フローレンスは彼女の前に跪いて低い聲で「若しさうなら躊躇なさるな、本能的に御感じになるやうになさいまし、どうにかなりませうから」。

falling upon her knees 跪いて。follow up やめずにその通りにする。instinctive feeling 「本能的の感情」とは理屈も何もなく唯斯うしたがよいと心に感ずるまゝを云ふ。


7.  We did not know but that he might come.

    E. A. Abbott

    大方彼は來るで有らう。


8.  It cannot be but that the man is honest.

    其男は正直であるに相違ない。


9.  I cannot be persuaded but that he meant mischief.

  彼は惡い事をする考としか思へない。

  E. A. Abbott


10. How could he tell but that Miedred might do the same?

    Blackwood Magazine

    ミードレツドも大方同じ事を爲すで有らう。

 

11. Such was the heartbreaking story, and there was not a word of it but what was true.

    その哀れな話は以上の通りであつて、一言一句僞はない。


12. Nay, who knows but that it is a defect of my not understanding her language that we agree no better.

    I. Wolton

    否、我々がこれ以上意見が合はないのは彼の女の云ふ事が私に分らない爲で有らう。


13. I don't know but what I will.

    Standard Dictionary

    私がしても構はぬ。


14. I cannot say but what you may be right.

    J. C. Nesfield

    大方あなたの云ふ事は正しからう。


15. Never fear but what our kite shall fly as high.

    Lytton

    大丈夫我々の紙鳶もその位高く揚らう。


16. Not but that they were worthy men.

    R. Brooke

    大方、彼等は立派な人々で有つたらう。


17. Not but that your father had good qualities.

    Bickerstaff

    多分あなたの父君は善い性質を持て居たで有らう。


18. Not but that they thought me worth a ransom.

    S. Butler

    恐らく彼等は私が償金を取る値が有ると思つたので有らう。


19. Not but that I should have gone if I had had chance.

    機會が有つたら多分私は行つたで有らう。


20. Not but that he (Spenser) may be thought imperfect on some few points.

    A. Pope

   恐らく二三の點に就ては彼(スペンサー)は不完全と思はれるで有らう。


21. Not but what he did his best.

    J. C. Nesfield

    彼は全力を盡したので有らう。


22. Not but what he meant mischief.

    E. A. Abbott

    彼は惡い事をする積りで有つたのだらう。


23. Not but that Malthy had some poetry, too; but it was of a kind that I could understand.

    R. L. Stevenson

    マルシーにも多少は詩情が無いではなかつたが、併しそれは私に了解の出來る種類のものであつた。


Sunday, March 14, 2021

ジョン・ラッセル・ファーン「イージャックスの奴隷たち」(1947)

 ジョン・ラッセル・ファーンはパルプ小説を書き出した最初のイギリス人の一人で、大量の作品を残しているのだが、日本では翻訳はほとんど出てないと思う。SFもミステリも、両者が混淆したような作品もある。筋立てはとびきりのパルプで、合理性とかリアリズムなど糞喰らえという内容だ。たとえば「ネビュラ」(1950)という小説に附された Linford Edition の惹き句は

物理学者ランス・バーレイは実験室にほとんど裸の女がいる理由を説明できなかった。彼にとっては重大問題だった。実験室は堅固に施錠されていたはずだからである。誰にも中に入ることは不可能。しかも発電機を動かす前に、実験室には人っ子一人いなかったのだ。ところが実験を終えて明かりをつけると……彼女がいたのだ。魅力あふれる美少女。しかし彼女は恐るべき殺人者でもあった!

パルプファンなら思わず本を手に取り買ってしまいそうな宣伝文句だ。中身も惹き句に負けないくらいチープで(この場合「チープ」というのは褒め言葉だ)、読後感は爽快であり痛快である。

「イージャックスの奴隷たち」(Slaves of Ijax)はSFで、ピーター・カーゾンという男が七百年ほど未来の世界に送り込まれ、その世界を支配しているイージャックスという神の陰謀をあばき阻止するという物語だ。

どういう陰謀なのか。イージャックスは神のような力でもって全世界の人々の心に話しかけある仕事(タスク)をやらせるのだが、じつはこの神さまは、月にいるマッドサイエンティストが天才的な科学力ででっちあげた神さまであって、世界中の人々が唯々諾々と従事している仕事(タスク)は世界を崩潰させるものなのである。ところが人々は洗脳されてしまってそのことに気づかない。それに気づいたのは七百年前の過去世界から来たピーターだけなのだ。

むろんピーターは周囲の人々を目覚めさせようと努力し、二人の協力者を得る。しかしほかのすべての人は依然としてイージャックスを信じている。はたして彼は地球を崩壊の危機から救うことができるか。

なんだか中学生向け月刊誌の付録にでもついてきそうなお話だ。イデオロギーにとらわれた人々の寓話みたいな側面もあるが、ちょっと単純すぎるという不満がある。イージャックスを信じていた人々は、ピーターがそれが陰謀であると主張すると、証拠を示したなら陰謀論を信じようと言う。そして証拠が示されるとすぐさま彼らはイージャックスが偽物であると信じてしまう。こんなことは現実にはありえない。

似非マルクス主義のイデオロギー論によると、イデオロギーにとらわれている人々はひとたび真の姿に気づくやイデオロギーを捨て去るというような議論をするが、とんでもない。イデオロギーというのは、それが瓦解する瞬間にもっとも強力な力を発揮するものなのである。アメリカのトランプ主義を見ればいい。トランプが選挙に負け社会的・象徴的役割を終えた瞬間にこそトランプ主義は絶大な力をふるいはじめた。トランプ支持者が真の姿を見せつけられた時、彼らはそれを敵の陰謀の絶大なることの証拠としてますますトランプを支持しはじめた。小説家がイデオロギーを描こうとするなら、こうした現象にこそ着目しなければならない。

作者ファーンが書いたのは単なるパルプ小説。そんな難しい認識など求めるべくもない、などと言ってはいけない。上質の娯楽小説はそうした認識の鋭さも兼ね備えているものなのである。

Wednesday, March 10, 2021

ウィリアム・マーチ「悪い種子」(1954)

ゴールディングの「蝿の王」とかレッシングの「五番目の子」とか、子供と暴力のつながりを描いた作品はどれも面白い。子供イコール無垢という図式をひっくり返すわけだが、どの作品にもその主題にたいする作者の緊張感が感じられる。

ウィリアム・マーチの「悪い種子」もその一つである。こうした作品は第二次大戦以後に目立って書かれるようになり、「蝿の王」の場合は明瞭に戦争の記憶が意識されているが、「悪い種子」にも戦争への言及がいくつか見られる。第一次大戦も悲惨だったが、ある意味では古いものの破壊、新しいものの創造というポジティブな意味も持ち得た。しかし第二次大戦は人間から無垢の可能性すら奪ったのだ。

主人公はローダという八歳の女の子だ。年齢に比して頭が良く、いろいろな点において模範的な子供なのだが、しかし彼女はそれを「演技」としてやっているのである。しかも所有欲が異常に強く、ほしいと思ったものを手に入れるためなら殺人でも犯す。

物語はまずローダが遠足に行く場面からはじまる。その遠足において彼女のクラスメイトが死亡する。このクラスメイトはお習字で一等を取り、金のメダルを先生からもらうのだが、ローダはそれがほしくてならなかった。だから彼女はこのクラスメートを遠足のあいだじゅうつけ回し、メダルをよこせと脅すのだ。しかし彼女がクラスメイトに肉体的危害を加えるところはだれも見ていない。

しかしローダの母クリスチーンはついに真相を知る。ローダはクラスメートを殺し、その犯罪の証拠となるものを隠滅しようとしていたのだ。それだけではない。ローダを憎み、彼女の犯行に気づいた男を焼き殺してしまったのである。クリスチーンは絶望し、とうとう最後の手段に訴えることとなる。

わたしは最近村上春樹の小説を読み返したのだが、彼の作品はわたしの心になんの傷跡も残さない。ウィリアム・マーチの作品は技術的には村上に劣るところもあるのだが、しかし強烈なインパクトを与える。わたしは後者のような作品が好みだ。

本作はマクスウエル・アンダーソンによって戯曲化されている。また何度か映画化もされているらしい。

Sunday, March 7, 2021

ゲーム実況者のための英語 (2)

PewDiePie 氏がゲームをしながらやってのける一人芝居は子供じみた印象はぬぐえないものの驚くほどエンターテイニングである。テキストは Tha Last Guardian の実況から取った。

What the hell......?

Okay, let's go down. Okay, what if1 we2 use it... Whoa! Whoa, whoa! What the hell is happening?3! The lightning that flew from the beast's tail took me greatly by surprise4. O, yeah, it did5. He can shoot fucking6 lightning? What the hell is this?7 That's a surprise.

よし、下に降りよう。 で、これ(不思議な鏡)を使うとどうなるかな。 ウォ! ウォ、ウォ! いったいぜんたい何が起きているだ? (ナレーション)獣の尻尾から飛び出した雷はわたしを大いに驚かせた。 ああ、たしかに驚いたよ。 彼は雷を発射できるのか? いったい何なんだ、これは。 びっくりだな。

1. What if... は「……したらどうなるだろうか」

2 we ゲーム実況者は実況の最中、 I の代わりに we を使うことが多い。視聴者を代表してゲームをしているという意識があるのだろう。新聞の社説などで「われわれは政府に減税を求めねばならない」などと書かれるが、あの「われわれ」も立場をおなじくする人々を代表しているという書き手の意識のあらわれである。

3. What the hell is happening? What is happening? 「何が起きているんだ?」でも意味は同じだが、the hell を付加すると「いったいぜんたい何が起きているんだ」という強意を含ませることができる。さらに What the hell! だけでも「なんじゃ、こりゃ」という驚きの表現として使える。

4. X takes Y by surprise 「XはYを驚かす」という熟語表現。X surprises Y でも同じ。

5. O, yeah, it did. ナレーションの言葉に反応して it (獣の尻尾から飛び出した雷は) did (took me greatly by surprise わたしを大いに驚かした)と答えたもの。

6 fucking lightning この fucking にとくに意味はない。毒づくのが好きな人、かっこいいと思っている人はこの形容詞を名詞につけまくる。I need my fucking water (水がほしい)のように。fucking は品がよいとは言えないが、女性実況者もけっこう使っている。もちろん怒りをこめてこの語を使うケースがいちばん多い。たとえば Stop that fucking music! (そのクソ音楽を止めろ)など。また son of a bitch という表現は誰でも知っていると思うが、さらに意味を強めたいときは fucking son of a bitch とする。けなすときだけでなく、褒めるときにも使える。たとえば very good という表現の代わりに fucking good という言い方を覚えておこう。This coffee is fucking good. (このコーヒーはスゲーうまい)。That was a fucking good show. (あれはメッチャいいショーだった)。

7. What the hell is this? 註の3とおなじで、What is this? に強意の the hell を追加した形。

Thursday, March 4, 2021

関口存男「趣味のドイツ語」

Professor Meier

Hier ist ein Mann. Das1 ist unser2 Lehrer. Er lehrt3 uns4 Deutsch. Sein5 Kopf5 hat nur hinten Haar5. Er heißt6 Professor Meier.

Professor Meier ist sehr pünktlich7. Klinglingling! -- und schon ist er da8. Darum nennen wir ihn „Leiterwagen.“9 Ihr wißt10 doch11, was ein Leiterwagen ist? Auch ist er12 so lang wie13 eine mechanische14 Leiter.

Ich lerne mein Deutsch ganz15 fleißig. ich kann schon richtig deklinieren16: der Mann, des Mannes, dem Manne, den Mann. Ich antworte17 immer richtig, wenn18 Professor Meier mich19 fragt. Er sagt dann20: „Sehr gut!“ und lobt mich. Ich bin Professor Meiers21 Liebling.

Meine Kameraden22 beneiden mich, weil ich Professor Meiers Liebling bin. Aber ich meinerseits23 muß24 sie25 beneiden, daß26 sie nicht27 Professor Meiers Lieblinge28 sind29. Ihr fragt, warum? Nun30, das ist eine delikate31 Frage.

Seht32 doch33 auf meinen34 Nebenmann! Er nickt35 verständig36. Er nickt in einem fort37. Nickt er aber zu dem38, was der Professor sagt? Mit nichten!39

Ganz hinten40 übt41 einer42 die Aussprache des „ch.“43 Er macht44 ch! ch! ch! Will er etwa45 die Aussprache des Professors nachahmen?46 Hat er etwa ein so großes47 Interesse an48 der deutschen Aussprache?49 Mit nichten!

Am Ende50 schnarcht er ganz laut51. Mir52 steht das Herz still53. Die ganze Klasse lacht. Der Peter54 wiehert wie ein Pferd. Auch Professor Meier lacht mit55. Er denkt: „Mein Witz war56 gut!“

Ach, der süße57 Schlaf! Er ist aber ganz besonders58 süß, wenn Professor Meier spricht59. Und es ist so angenehm, mit60 dem süßen Schlaf zu kämpfen61. Angenehmer62 noch63, ihm zu erliegen!64

Aber ich darf65 es nicht, weil ich Professor Meiers Lieblingsschüler bin. Ich muß meine Kameraden beneiden, daß sie es nicht sind66.

逐語訳:Hier ここに ein Mann 一人の男が ist います。Das それは unser われわれの Lehrer 先生 ist であります。Er かれは uns 我々に(但し格は四格) Deutsch ドイツ語を lehrt 教えます。Sein かれの Kopf 頭は hinten 後方に nur のみ Haar 髪の毛を hat 持ちます。Er かれは Professor Meier マイエル教授 heißt という名です。
 Pr. Meier マイエル教授は sehr 非常に pünktlich (時間が)正確 ist です。Klinglingling! ガランガランガラン!(と鐘が鳴る) und すると schon もう er かれは ist da 其処にいます。Darum それ故 wir われわれは ihn かれを „Leiterwagen“ 「消防自動車」と nennen 名づけます。Ihr 諸君は doch もちろん ein Leiterwagen 消防車とは was 何で ist あるかを wißt? 知っているでしょうね? Auch また er かれは eine mechanische Leiter 機械仕掛けの梯子 wie のごとく so そんなに lang 長く ist あります。
 Ich 私は mein Deutsch 私のドイツ語を ganz 極く fleißig 勤勉に lerne 学びます。Ich 私は schon すでに richtig 正しく deklinieren 格変化すること kann ができます。der Mann 男が、des Mannes 男の、dem Manne 男に、den Mann 男を、と。Prof. M. マ教授が mich 私を fragt 試問する wenn ならば ich 私は immer いつも richtig 正しく antworte 答えます。dann すると er かれは „Sehr gut!“ 非常によろしい! sagt と云って und そして mich 私を lobt 褒めます。Ich 私は Pr. Meiers マ教授の Liebling 寵児 bin であります。
 ich 私が Pr. Meiers Liebling マ教授の寵児 bin である weil から Meine Kameraden 私の同輩たちは mich 私を beneiden 羨みます。Aber しかし ich 私は meinerseits 私の側として daß sie nicht Pr. Meiers Leiblinge sind はかれらがマ教授の寵児でないということ(に就て) sie かれらを beneiden 羨ま muß ざるを得ません。Ihr 諸氏は warum 何故と fragt? お問いですか? Nun, さて das それは eine 一つの delikate デリケートな Frage 問題 ist であります。
 doch まあ auf meinen Nebenmann 私の隣の男を seht ごらんなさい! Er かれは verständig 理解的には nickt うなづきます。Er かれは in einem fort たてつづけに nickt うなづきます。aber けれども er かれは der Professor 教授が sagt 云う was ところの dem そのこと zu に対して Nickt うなづくのでしょうか? Mit nichten! どう致しまして!
 Ganz hinten ずっとうしろの方では einer 誰か一人の者が die Aussprache des „ch“ ツェーハーの発音を übt 練習しています。Er macht ch! ch! ch! かれは ch! ch! ch! とやっています。er かれは etwa ひょっと des Professors 教授の die Aussprache 発音を nachahmen 真似ようと Will しているのでしょうか? er かれは etwa ひょっと an der deutschen Aussprache ドイツ語の発音について ein so großes Interesse 一つの左様に大なる関心を Hat 持っているのでしょうか? Mit nichten! 滅相もない!
 Am Ende 最後には er かれは ganz laut 極く高声に schnarcht 鼾をかきます。Mir 私には das Herz 心臓が steht still 停ります。Die ganze Klasse 全クラスが lacht 笑います。Der Peter ペーテルの奴と来たら wie ein Pferd まるで馬のように wiehert いななきます。Auch Pr. Meier マ教授も lacht mit いっしょに笑います。Er かれは mein Wits おれの洒落が gut 良 war かった(のだと) denk 考えます。
 Ach ああ der süße Schlaf 甘き眠り! Er (=Schlaf) それは aber しかし wenn Pr. M spricht マ教授が語りつつある時に ganz besonders 全く特に süß 甘く ist あります。Und そして mit dem süßen Schlaf 甘き眠りと zu kämpfen 闘うということは es それは so とても angenehm 快く ist あります。ihm (=dem süßen Schlaf) それに zu erliegen 打ち負けることは noch 更に一層 angenehmer より快(くあります)。
 Aber ところが ich わたしは Prof. Meiers Lieblingsschüler マ教授の寵児 bin である weil ために es それを darf nicht (しては)なりません。Ich 私は sie かれらが es それで nicht sind ない daß ということ(に就て) meine Kameraden 私の同輩たちを muß beneiden 羨まざるをえません。

註:【1】Das: 中性冠詞の das ではなく、「それ」(英:it または that)という代名詞。こんな時には er (英:he)というよりは das の方がよろしい。
【2】Unser = our.
【3】lehrt: 不定形は lehren (teach).
【4】uns = us. (uns は「我々を」という時にも「我々に」という時にも用いるから、形だけ見ると三格か四格がわからないわけですが、ここは実は四格なのです。これは lehren (教える)という動詞の用法からそうなるので、日本語では「かれは私にドイツ語を教える」と云いますが、ドイツ語は妙で「かれは私をドイツ語を教える」というのです。初歩の時にはこんな事を正確におぼえておく必要があります。
【5】sein = his.
【5】Kopt, m.: 「頭」です。pf の発音は p と f との中間を発音するというむづかしい音です。仮名ではフとやっておきます。
【5】Haar, n (髪の毛)英 hair.
【6】heißt: 不定形 heißen (……と呼ばれる、……と云う名である)
【7】pünktlich: 英 punctual. 几帳面な、主として時間を厳守することを pünktlich という。
【8】da = there.
【9】Leiterwagen, m: die Leiter (梯子)と der Wagen (車)との合成語で、すなわち消防自動車の畳み梯子をつけているやつ。あれを延ばすと五階にでも六階にでも届くのです。日本では高層建築が少ないのでまだあまり沢山みかけません。
【10】wißt: 不定形は wissen (知る)で、此の動詞は人称変化が不規則:ich weiß, du weißt, er weiß, wir wissen, ihr wißt, sie wissen.
【11】doch: これは「きっと斯う斯うでしょうね?」、「もちろん云々でしょうね?」というときの「きっと」や「もちろん」にあたる語です。
【12】auch ist er: 正規の順では Er ist auch です。Auch を前に持ってくると ist と er が逆になります。
【13】so lang wie: は英の as long as にあたります。分解は逐語訳で! 例:Ich bin so alt wie er. (私は彼と同年配です)
【14】mechanisch: 英の mechanical で、「機械の」「機械仕掛けの」という形容詞。うしろに -e という語尾がついているのは、eine の次では形容詞に必ず -e をつけることになっているからです。mechanische Leiter (機械仕かけの梯子)。
【15】ganz: 「全く」という意の語ですが、こういう時には sehr を使うのと同じ。
【16】deklinieren: 「格変化する」という動詞の不定形です。同じく変化するのでも、動詞の場合、すなわち「人称変化する」の方はちがった語を使って konjugieren [コンユギーレン]するといいます。
【17】antworte: 「答える」という antworten の発音に注意! すなわちアクセントは wor の方にではなく、ant の方にあります。「答」という名詞は die Antwort [ントヴォルト]。
【18】wenn: 英の when. (wenn は英の when にも if にもあたります)
【19】mich: 英 me. 此の mich fragt (私を問う)という使い方にも注意して下さい。これも前の lehren と同じく「或人に問う」と云わないで、「或人を問う」というのがドイツ語の習慣です。(mich, 私を、と mir, 私に、とを区別しておぼえること。)
【20】dann: 英 then.
【21】Meiers: 此の -s の語尾は英と同じで、「……の」の意。
【22】Kameraden: これは複数形で、単数は der Kamerad [カメート]、即ち英の comrade [ムレイドまたはムリッド]です。同輩、仲間、の意。Meine は mein の複数です。英語の my は、後に単数がきても複数が来ても my ですが、ドイツ語はそうは行きません。
【23】meinerseits (私の側では):これは ich meinerseits とつづけて、これを「私は私で」の意とおぼえるのが実用的です。(muß という助動詞の位置が ich のすぐ次に来ていないのでも ich meinerseits が密接に結びついていることがわかりましょう。
【24】muß: 英 must.
【25】sie: sie には色々ありますが、これは them にあたる sie.
【26】daß: 英 that (……ということを)。
【27】nicht:字と字との間があいています。これは特に強調するためです。これを隔字(Sperrschrift)といいます。特に強調するためには、日本語では点を打ったり「 」でかこったりします、英語ではイタリックといって斜体活字(not など)を用い、ドイツ語では此の隔字を用いるのが普通なのです。
【28】Lieblinge: -e という複数語尾に注目。
【29】sind: ist でないのは、この主語は sie (かれら)だからです。またこの動詞がいちばん最後に来ていることに注目して下さい。ドイツ語では、daß...... とか weil とかではじまっている文は、動詞を日本語と同じようにいちばん最後にもってくるのです。
【30】Nun は英の well に相当する間投詞です。なにかむつかしい問題に面して、急になんと云っていいかわからない時には、日本人なら「えゝと……」とか「そうですねえ……」とか云いますが、英米人は well......、ドイツ人は nun...... というのです。(nun は英の noon ではありません、now に当ることばです)
【31】delikate: 元の形は delikat [デリート]で、-e は女性語尾。英の delicateリキット)です。日本語ではデリケートなどと普通云っています。「一寸一口では云われない」、「微妙な」、つまり何でも荒っぽく取り扱われてはこまる、よほど慎重にソーッと取り扱わないと困る事柄のことを「デリケート」といいます。
【32】Seht: sehen (見る)の命令形(複数)です。Seht auf で英の look at にあたります。英語でも、単に look this book! といえばよさそうな時に at をつけて look at this book! といいますが、ドイツ語も同じです。auf は文字としては英語の upon にあたります。
【33】doch は、命令法を強めるために入れる助詞にすぎません。ドイツ語では命令文には、弱い時には mal (ちょっと)とか nur (まあ)とかを入れますが、強いときには doch を入れるのです。Komm mal! (ちょっとおいで!)Komm nur! (まあいらっしゃい)Komm doch! (来給えよ! 来給えってば!)
【34】meinen: mein (my) の男性四格形。
【35】nicken: 英の nod (うなづく)
【36】verständig: 「理解的に」(すなわち、いかにも万事承知したといったように、です。正にその通り、よくわかりました、なるほど御もっとも、といったようにうなづいているわけです)
【37】in einem fort: これは熟語ですから、三語いっしょにして「たてつづけに」という意味だと覚えること。
【38】zu dem, was......: この dem は das (そのこと)という、すなわち das ist (that is) の das に対する三格の形です。(従って冠詞ではありません)なぜ三格形を用いるかというと、その前の zu という前置詞(英の to または at)が、三格支配の前置詞だからです。das, was...... は「……するところのその事」で、英語の that which...... です。このへんは逐語訳の所を見てよく研究すること。
【39】Mit nichten! これは「決して!」「どう仕りまして!」という熟語ですから、このままの形をそういうものとしておぼえること。
【40】Ganz hinten: 文字通りに訳すれば「ごくうしろに」、意訳すれば「ずっとうしろの方で」
【41】übt: 「ープト」と発音します。なぜユーを長く発音するかというと、それは不定形が üben 「ーベン」(練習する)だからです。
【42】einer: 「ひとりの人間」、「ある人」、「誰かが」で、英の someone にあたります。不定冠詞にあらず。
【43】des „ch“: ch といったような、その時々の勝手なものを名詞として用いる時にはすべて中性として扱います。従って一格なら das „ch“ となるところです。こんなものは、二格では des chs と s をつけないで、大抵無語尾のままにしておくのが習慣です。
【44】macht: 英の make に相当する machen ですが、ここは別に「作る」などという意味はなく、なんでも「……という声を発する」ということを macht というのです。Die Katze macht miau! (猫はニャーゴという)
【45】etwa: 「ひょっと……でもあろうか」というときに入れる助詞です。etwa ich といえば「私でも」、etwa mir といえば「私にでも」となります。つまり日本語の「でも」にあたる軽い語です。(etwas, 英 something と混同しないこと)
【46】nachahmen (真似る)、ハアーメンに非ず、ーハアーメン。nach は大抵長く発音します。(ただ Nachbar, ハバール、隣人、だけは例外)
【47】großes: groß (大きな)に -es という中性語尾がついているのは、次の Interesse (関心、興味)という名詞が中性だからです。
【48】Interesse an......: これも「……に関する関心」とおぼえること。an は前置詞ですが、前置詞の用法はこうした具体例をよく覚えるのがいちばん早道です。
【49】der deutschen Aussprache は三格(女性)。
【50】Am Ende (最後に):das Ende は「終」で、それに an がつくと am Ende となります。これも熟語として分解しないでおぼえること。
【51】laut: 英の loud です。ここでは loudly にあたります。――英語は形容詞に -ly をつけて副詞を造りますが、ドイツ語は形容詞に何の語尾もつけないで、そのままの形が副詞としても用いられます。
【52】Mir steht das Herz still (私には心臓が停止する)とは Mein Herz steht still (私の心臓が停止する)というのと同じことです。
【53】still: 語としては「しずかに」の意(英の「まだ」という still ではありません)ですが、steht still (しずかに立つ)の二語で「停止する」という熟語です。不定形は stillstehen と一語をなします。
【54】Der Peter: Peter は名前です。英語では人名に定冠詞はつけませんが、ドイツ語では「例の誰それ」とか、「誰それの奴」とか、少しなれなれしく人名を引用するときには定冠詞をつけます。
【55】mit (いっしょに)は、普通は前置詞ですが、ここはそうではなく、副詞のようなものです。lacht mit で「いっしょに笑う」です。不定形は mitlachen (共笑いする)
【56】war: 英 was. (ist に対する過去形)
【57】süß: 英 sweet.
【58】besonders: 特に、殊に、特別に。
【59】spricht: 不定形は sprechen. (これは er sprecht とはならず er spricht となります)
【60】mit: 英 with. これは前置詞です。
【61】zu kämpfen: 「闘うということ」(「……ということ」というときには動詞の不定形に zu をつけることがあります。英語でも to fight です。ただし文章中にこれを置く位置が、英語ではずっと前になり、ドイツ語はいちばんあとというわけです。)
【62】angenehmer: これは angenehm に -er という比較級語尾(より云々)がついた形です。
【63】noch (なお、更に、一層)は angenehmer の前に置いても後に置いても同じことです。
【64】erliegen: 「敗ける」という動詞。ihm erliegen で「かれに負ける」です。
【65】darf は不定形 dürfen (英 may)で、云々して宜しい、という助動詞。ただし此処では動詞の方は省いてあります。入れるとすれば Ich darf es nicht tun (I may not do it すなわち I must not do it の意)です。
【66】daß sie es nicht sind (かれらがそれでないことを):日本語でも英語でも「そう」でないことを、といいますが、ドイツ語でこういう時には es (それ、it)を使います。

意訳:ここに一人の男がいます。それは僕たちの先生です。かれは僕たちにドイツ語を教えます。かれの頭は後方にのみ毛があります。かれはマイエル教授と云います。
 マイエル教授は非常に時間が正確です。ガランガランと鐘が鳴るともう来ています、だから僕たちは此の人のことを消防自動車と云っています。諸君は消防自動車というのを御存じでしょう? それに此の人は消防自動車の救命梯子のように背が高いのです。
 僕は一生懸命にドイツ語を勉強します。僕は、デルマン、デスマンネス、デムマンネ、デンマンといったように、もう間違いなく格変化ができるのです。マ教授が僕に質問しても僕はいつも正しい答をします。すると教授は「非常によろしい!」と云って褒めます。僕はマ教授のお気に入りなんです。
 僕の同輩たちは、僕がマ教授のお気に入りだというので、羨ましがります。けれども、僕にしてみると、かれらがマ教授のお気に入りで「ない」ということが羨ましくてたまらないのです。何故ですって? そうですね、それはちょっとデリケートな問題なんですがね。
 ちょっと僕の横にいる男をごらんなさい。かれは、えらいわかったように、うなづいています。たてつづけにコクリコクリとうなづいています。しかしそれははたしてマ教授の云っていることに対してうなづいているのでしょうか! どう致しまして!
 ずっとうしろの方で、誰かしきりに ch の発音を練習しています。フー、フー、フーとやっています。マ教授の発音をその通り真似しようと云うのでしょうか? ドイツ語の発音に対してそんなに興味があるのでしょうか? 飛んでもないこと!
 お仕舞にはとうとう大きな声で鼾をかきました。僕はドキッとして心臓がとまるかと思いました。全クラスがドッと笑います。ペーテルの奴、まるで馬の嘶くような声を発して笑うじゃありませんか。マ教授もいっしょになって笑いました。自分の云った駄洒落が上出来だったと思ったんでしょう。
 いや、眠くなるとたまらない好い気持なものです。マ教授の講義を聞きながら眠ると殊に好い気持です。その好い気持の眠気と闘うのが、これまた何とも云えません。闘って利あらざれば尚さら好い気持になってしまうのです!
 ところが、僕はマ教授のお気に入りであるために、それができないんです。だから僕は、僕の同輩たちがマ教授のお気に入りでないことを羨ましく思うのです。

Tuesday, March 2, 2021

COLLECTION OF ENGLISH IDIOMS

早稲田大學敎授 深澤裕次郎著

應用英文解釋法

東京英文週報社發行


(p. 142-147)


範例

I

She burst into tears.

She burst out weeping.

(わっと)泣き出せり。


II

She burst into a laugh.

She burst out laughing.

(どつと)笑ひ出せり。


解説

To burst into tears, laugh, etc.

To burst out weeping, laughing, etc.

  =To break into tears, laugh, weeping, laughing, etc.

(わつと)泣き出す、(どつと)笑ひ出す、等。


To burst into|

To burst out | =To break into.=急に……す。


用例

I

1.  And she burst into hot tears.

    Max O'Rell

    さう云つて彼女は熱い涙を流して泣き出した。


2.  And when I told her what I had heard, she burst into weeping.

    J. E. Muddock

    そして自分が親しく聞いた事を細君に話すと彼女は泣き出した。


3.  He tried to murmur some consolatory words, and burst into tears.

    R. L. Stevenson

    彼は何か低い聲で慰めようとして泣き出した。


4.  Mercédès, however, could not believe this, and now burst forth into sobs.

    A. Dummas

    けれどもマーセデスは之を信じ得なかつた、そして今しやくり泣きに泣き出した。


5.  He avoided the doctor with a febrile movement, and, throw himself upon the floor, burst into a flood of weeping.

R. L. Stevenson

  彼はぶるぶると物怖ぢするやうに醫者を避け、床の上に身を投げ伏しておいおいと泣き出した。

febrile=feverish=restless.


6.  She would whine and shriek with pain, and then burst out into perfect volleys of roaring that shook the whole place.

    H. R. Haggard

    獅子は苦痛の爲に哀れな聲を出し悲鳴の聲を揚げ、それからあたりも震動するほど何遍となく咆哮した。


7.  "Oh, for my sake don't," he said, too weak to hold out, and bursting into a flood of tears; "you'll kill me if you do."

    Dean Farrar

    彼は弱つて了つて何處までも云ひ張る事も得せず、わつと泣き出して「どうかそんな事はせずに居て呉れ、そんな事をすると僕は死んで了ふ」。

hold out 云ひ張る。


8.  But suddenly she feels two soft arms close around her, and Florence, bursting into tears, lays her head upon her shoulder.

    The Duchess

    併し兩つの柔かい腕が急に自分を抱いたかと思ふと、フローレンスが泣き出し乍ら彼の肩に頭を載せた。


9.  After saying this the old man burst into sobs; he took Marius's head and pressed it to his old bosom, and both began weeping.

    V. Hugo

    斯う云つたあとで老人はしやくり泣きを始めた、彼はマリアスの頭を取つて自分の老の胸に押しつけ兩人とも泣き出した。


10. The extraordinary creature flung herself from the horse and literally grovelled on the ground before her mistress and burst into tears.

    H. R. Haggard

    この不思議な人間は馬から飛び下り、主人の前に実際地べたにへたばつて泣き出した。

literally grovelled 「文字通りに這つた」形容して云ふに非ず、実際這つたのである、の意。


11. The stranger lifted the glass of water to her mouth, without raising the veil; put it down again, untasted and burst into tears.

    C. Dickens

    その怪しの老女はヴェールを被れるまゝ洋盞を口に上げしが其儘下に置き、よゝと計りに泣き出しぬ。


12. "I can't tell you about it now," she said, "I shall burst out crying if I tell you now--later, Marian, when I am more sure of myself."

    W. Collins

    「今は話は出來ません、今お話しますと私は泣き出して了ひます、もつと氣が落着いてから後にお話し致します」。

am more sure of myself 「もつと氣が確かになる」 am mistress of myself など云ふ句を思ひ合す可し。


13. The kind tone of this answer, the sweet voice, the gentle manner, the absense of any accent of haughtiness or displeasure, took girl completely by surprise, and she burst into tears.

    D. Dickens

    この返辭の語氣が親切であるし、聲は美しいし、態度はしとやかだし、傲慢な様子も不興氣な様子もないので娘は全く驚いて了つて泣き出した。

took......by surprise 不意を打つ。


14. It is a curious thing to understand, for I had certainly never liked the man, though of late I had began to pity him, but as soon as I saw that he was dead, I burst into a flood of tears.

    R. L. Stevenson

    近頃は可哀想にはなうて來たが元來この男は好かなかつたのだから不思議でならないが、愈死んだと云ふ事が分ると私はわつと泣き出した。


II

1.  Then he burst into a bitter laugh.

    C. Doyle

    それから彼は冷笑的に笑い出した。


2.  The man from Saint-Malo burst out laughing.

    V. Hugo

    セントマローから來た人は吹き出した。


3.  Then she burst into a laugh.

    V. Hugo

    と云つて彼女は笑ひ出して市長の面に唾した。


4.  She burst into her little laugh. "Are you afraid you'll get lost--or run over?"

    H. James

    美人はフフゝと吹き出して「貴郎、迷子になるのが怖(こわ)くつて?馬車に轢かれるのがおつかないの?」

get lost なくなる、迷子になる。run over 轢かれる。


5.  She burst into a loud laugh, and went out into the street, still laughing and singing.

    V. Hugo

    彼女は大きな聲で笑ひ出した、それから猶も笑つたり歌つたりし乍ら外へ出て行つた。

into the street 外へ。


6.  Holmes thought a little, and then burst out laughing. "No, don't," said he. "I shall write to you about it."

    C. Doyle

    ホームスは少々考へ、それから笑ひ出した「いゝえ、そんな事はし給ふな、わしがそれに就て君の所へ手紙を出さう」。


7.  She looked at him a moment, and then burst into a little laugh, "I like to make you say those things! You are a queer mixture!"

    L. James

    女はちよいと彼を見てそれからホホゝと笑ひ出した「わたしは貴郎にそんな事を云はして見たいの、貴郎も随分變梃な人間ね」。

a queer mixture 色々の性質の一緒になつた變な人。


8.  I burst out laughing out of sympathy with her merriment, but Grant Munro stood staring, with his hand crutching at his throuat.

    C. Doyle

    私は彼女の可笑しさに同情して笑ひ出した、併しグラント・マンローは自分の手で咽喉を抑へ乍ら目を睜つて立つてゐた。

out of sympathy 貰ひ笑ひの意。


9.  And yet I could not get over what I had seen with my own eyes, and so I stared at him in such bewilderment that he broke once more into one of his smiles.

    C. Doyle

    併し私は自分の眼で見た事は忘れる事は出來なかつた、それで私は不審で堪らずぢつと彼を眺めると彼はまた笑ひ出した。

get over 何とも思はなくなる。


10. "Let me go!" she said, as she burst into a laugh, "how are you shaking me! Yes, yes, I promise it, I swear it! how does it concern me? I will not tell my father the address."

    V. Hugo

    彼の女は吹き出し乍ら云つた「放して下さい! 何だつてそんなに私を揺ぶるの。ハイ、ハイ、約束します、誓ひます! 自分の事では無し、番地をお父さんには話しはしませんよ」。


11. On the third night the moon was beginning to rise later, and it might be about one in the morning when she heard a hearty burst of laughter, and her father's voice calling her,--"Cosette!"

    V. Hugo

    三日目の晩には月の出が遅くなりはじめた、そして午前一時と覺しき頃、誰とは知らず心から笑ひこけるやうな聲がし、それから父の聲で「コセツト!」と自分を呼ぶのが聞えた。


12. Gagin met me in friendly fashion, and overwhelmed me in affectionate reproaches; and Acia, as though intentionally, burst out laughing for no reason whatever, directly she saw me, and promptly ran away, as she so often did.

    Turgenev

    カギンは親切に私を迎へ愛情の籠つたいやみで色々云つたがアシアは私を見るや否や何にも理由はないのにわざとらしく笑ひ出して、いつもよくやるやうに、急いで走つて行つた。

as though の次には she did so を補ひ見よ。whatever は at all よりも強く前の no を強むるもの、元來は whatever it was の it was が略されたるものなりと云ふ。directly は as soon as の意、directly when の when が略されたるものなり、元來は英語用語なりしが今は米國出版のものにも盛に用ひらる。

英語読解のヒント(111)

111. never so / ever so (1) 基本表現と解説 He looked never so healthy. 「彼がそのように健康そうに見えたことは今までになかった」 He looked ever so healthy. 「彼はじつに健康そうに見...