Saturday, March 20, 2021

関口存男「趣味のドイツ語」

Es ist ein Gott

Paul ist ein armer1 Tagelöhner2. Seit3 ein paar4 Wochen5 ist er krank. Er kann nicht arbeiten6. Er kann nicht einmal7 zum8 Arzte9 gehen. Dazu10 braucht man Geld. Und Geld ist ohne11 Arbeit nicht zu12 haben.

逐語訳: Paul パオルは ein armer Tagelöhner 一人の貧しい日傭人足 ist である。Seit ein paar Wochen 数週以来 er かれは krank 病気 ist である。Er かれは arbeiten 働くことが kann でき nicht ない。Er かれは zum Arzte 医者の所へ gehen 行くこと einmal すら kann でき nicht ない。Dazu そのためには man 人は Geld 金を braucht 必要とする。Und ところが Geld 金は ohne Arbeit 労働なくしては zu haben 持つべく ist nicht ない。

:【1】arm: 英の poor と同じく、「貧乏な」と意と「哀れな」の意とがある。ここは前者。
【2】Tagelöhner: Tag (日)、Lohn (賃金)。
【3】seit: は前置詞で、この前置詞の次におく名詞は必ず三格形。これを三格支配の前置詞という。意味は英の since (……以来、……このかた)
【4】ein paar: は「二三の」、「いくらかの」という熟語。
【5】Wochen: die Woche (週)の複数形で、前に seit があるから文法上では三格というわけ。
【6】arbeiten: アクセントに注意! ルバイテン!(アルイテインではない)「労働」という名詞も die Arbeit [ルバイト]です。ちかごろいうアルバイトは、学生の金儲けの仕事のことですが、ドイツ語では単に「労働」、「仕事」の意味しかありません。
【7】nicht einmal は熟語で、『……すら……しない』の意。例:Er hat nicht einmal Geld (あいつはお金すら持たぬ)、Er ist nicht einmal krank (あいつは病気ですらないんだ)、Ich kann nicht einmal Englisch (僕は英語すらできないのです)。
【8】zum は zu と dem とがいっしょになった形。(in dem = im. an dem = am. von dem = vom. zu der =zur. in das = ins. an das = ans.)
【9】Arzt, m. (医者)発音に注意! Aは長綴ゆえアルツトではなくールツト。e がついて Arzte となっているのは三格だから。(もちろん e はなくてもいいことになっています)
【10】dazu: (そのために、そのためには)同じようなものの例:davon (それについて、それの、それから)、damit (それをもって)、darin (その中に)、darauf その上に、darunter (その下に)、dazwischen (そのあいだに)。
【11】ohne: 英の without. (ohne Arbeit, 労働なしには、働かねば)
【12】ist nicht zu haben: 「持つべくない」というのは、手に這入らない、ということ。haben は不定形です。haben は「持つ」ですが、詳しくいうと「手に入れる」ということを haben というのです。

Auch13 seine Frau ist in Verzweiflung14. Sie weint den ganzen Tag15. Sie betet nicht mehr16 zu Gott17. Sie glaubt nicht mehr an18 seine Existenz19. Sie sagt: „Es ist20 kein Gott21.“

:【13】auch: 「も」、「も亦」(即ち英の too)――Auch seine Frau = His wife, too
【14】Verzweiflung, f. = 絶望(英:despair)in Verzweiflung は英 in despair と同じく「絶望の状態に」(ある、陥入る、など)という熟語。>
【15】den ganzen Tag: 「全一日を」即ち「朝から晩まで」。
【16】nicht mehr: 英:no more, no longer, (または not......any more)――これは「もはや……せぬ」という熟語としておぼえること。
【17】zu Gott: 冠詞をつけて zum Gott とは云わない。キリスト教の神を指す Gott には冠詞をつけないのがヨーロッパ各国語の習慣です。特に冠詞をつけるときには何か別に意味があります。たとえば Es ist ein Gott (神さま「というもの」がある)など。
【18】an という前置詞がついているのは glauben (信じる)という動詞の使い方から来ています。「神を信ずる」は an Gott glauben というのです。
【19】die Existenz は「存在」。英:existence.
【20-21】Es ist kein Gott = There is no God. (ここで特に御注意ねがいたいのは、「存在する」という英語の There is, There are をドイツ語では Es ist, Es sind ということもあるという点です。英の There is God は「神というものが世にはある」で、別に其処に神がいるとか其処は神であるとかいうのではありません。ドイツ語の Es ist ein Gott (此のテキストの標題)も、うっかりすると「それは神である」などと読み誤りそうです。とにかく英語の或種の there は、ドイツ語では es となることに御注目下さい。There came a storm (嵐がやってきた)は、文字通り Da kam ein Sturm とも云いますが、また Es kam ein Sturm ともいうのです。(此の、英語の there にあたる es を、文法では「非人称主語の es」といいます)

逐語訳: seine Frau かれの妻 Auch も亦 in Verzweiflung 絶望に於て ist ある。Sie 彼女は den ganzen Tag 全一日を weint 泣いている。Sie 彼女は mehr もはや zu Gott 神にむかって betet 祈ら nicht ない。Sie 彼女は mehr もはや an seine Existenz かれ(=神)の存在を glaubt 信じ nicht ない。Sie sagt 彼女は云う: Es ist kein Gott 神は存在しない[と]。

„Doch!22“ sagt Paul, „Es ist ein Gott. Unser Pfarrer23 ist ein gelehrter24 Mann, er kann25 nicht lügen.“

逐語訳: „Doch!“ [存在]する[と] sagt Paul パオルは云う。Es ist ein Gott 神は存在する。Unser Pfarrer 我々の牧師は ein gelehrter Mann 一人の学識ある人で ist ある。Er かれは lügen 嘘を吐く kann nicht 筈がない、[と]。

:【22】doch! 日本では肯定するときにも「いや」を使って、「いや、ある」、「いや、行く」、「いや、わかる」などと云いますが、その「いや」がドイツ語では doch です。(否定の方のいやは、もちろん nein です:「いや、私は行かぬ」は Nein, ich gehe nicht)――例:「いや、神はある!」=Doch, es ist ein Gott! 「いや、私は働く!」=Doch, ich arbeite! 「いや、おれはお祈りしよう」=Doch! ich will beten! ――こういう doch は副詞として文の中へ入れると「やっぱり」と訳することができます:Es ist doch ein Gott (神はやっぱり存在する);Ich arbeite doch (おれはやっぱり働くぞ);Ich will doch beten! (わたしはやはりお祈りするとしよう)
【23】Pfarrer, m. (牧師)は Pastor (ストル)ともいう。
【24】gelehrt: lehren (教える)という動詞の過去分詞も gelehrt (教えられた)ですが、此処の gelehrt はそれとは別の「学問のある」、「博識な」という形容詞です。
【25】kann: 「嘘を吐くことができない」ではなく、「嘘を吐くはずがない」の意。können (できる)という助動詞はそういう用法があるのです。「そんなことが可能だ」、「不可能だ」という時にも使うのです。

„Wenn es einen Gott gibt26“, eifert27 sie, „warum hilft28 er uns29 nicht in unserer30 Not? Beten wir nicht Tag und Nacht zu ihm? Er ist allmächtig31 und32 kann uns nicht helfen? Ist das nicht Beweis genug33, daß es keinen Gott gibt?“

逐語訳: „Wenn もし es それが einen Gott 一人の神を gibt“ 与える[ならば]、sie [と]彼女は eifert むきになる、„warum 何が故に er かれは uns 我々に in unserer Not われわれの困窮に於て hilft 助け nicht ないのか? wir 我々は Tag und Nacht 日も夜も zu ihm かれにむかって beten 祈っている[ではないか]? Er かれは allmächtig 全能で ist あって und そして[しかも] uns 我々に helfen 助けることが kann でき nicht ない[のか]? das それは daß es keinen Gott gibt それが何等の神をも与えないという事の Beweis genug 充分の証明 ist nicht ではないか?

:【26】Wenn es einen Gott gibt は Wenn ein Gott da ist (もし神があるとすれば)というに同じ。此の「それが云々を与える」というドイツ語特有の云い廻しに注意しましょう。Es gibt と、名詞の四格を用います。例:Es gibt keine Arbeit (仕事が無い);Es gibt Geld (金がある)、Gibt es einen Streik? (争議があるのですか?)
【27】eifern: 「やっきになる」、「やいやい云う」、「がみがみいう」という動詞。
【28】hilft の不定形は helfen (助ける)(三人称単は er helft でなく er hilft となるところに注意。つまり geben (与える)が es gibt と変化するのと同じ型に属します。こんな動詞がドイツ語には相当あります。二人称単も hilfst や gibst となり、ich, wir, ihr, sie のところは e です。)
【29】uns: これは三格の uns です。helfen (助ける)の用法は「或人を助ける」ではなく、「或人に助ける」です。こんな所が日本語とはだいぶちがっています。
【30】unser-er: 英 our にあたる部分は unser までで、そのあとの -er は、女性三格の語尾です。(次の Not、困窮、は女性)
【31】allmächtig = 英 almighty. 英独の似ている点は両方とも二綴目にアクセントが来る点。ちがうのは英語では all (すべて)が al- となる点です。(英の welcome もドイツ語では willkommen、これもドイツ語の方は l を省きません)
【32】und には「しかも」、「それに」、「そのくせ」(und doch, 英:and yet)という用法あり。
【33】Beweis genug: Beweis が「証明」で genug が「充分」ですが、「充分な証明」を Beweis genug というのです。逆のようですが、これが普通なのです。英の enough と同様、genug [ゲーク]はよくうしろに来るということを記憶して下さい。たとえば「われわれは充分な時間を持っている」は Wir haben genug Zeit でも Wir haben Zeit genug でもよろしい(英も We have enough time; We have time enough

Paul weiß34 nicht mehr, was er dazu sagen soll35. Hat seine Frau etwa36 recht37? Nein, dan kann nicht sein38. Aber was39 sie sagt, hat Hand und Fuß40. Was soll er davon halten41?

逐語訳: Paul パオルは er かれが dazu それに対して was 何を sagen 云う soll べきである[かを] mehr もはや weiß 知ら nicht ない。etwa ひょっと seine Frau かれの妻が recht 理を hat 持つ[のでもあろうか]? Nein, 否、das そんなことは sein あり kann 得 nicht ない。Aber しかし sie 彼女が sagt 云う was ところの事は Hand 手 und と Fuß 足を hat 持っている。Was 何を er かれは davon これについて halten 考える soll べき[か]?(halten = denken)“

:【34】weiß (知っている)の不定形は wissen.
【35】soll: 英 shall (云々す可きである、などという「可き」です)
【36】etwa: 「ひょっと(……でもあろうか)」
【37】recht: これは recht haben (英 be right)という熟語動詞で、『云い分が正しい』、『理がある』、『正しい』、『もっともである』の意。たとえば、会話で「それはごもっともです」、「あなたの仰せの通りです」という時に、英語では You are right といいますが、ドイツ語では You have right すなわち Sie haben recht というのです。(此の recht は「正しき」という recht ではなくて、「正しさ」即ち大文字の Recht だったのが、いつの間にか小文字になったものです)
【38】Das kann nicht sein (それは有り得べからざることだ)は成句としてよく出てきますから此のままをおぼえること。sein は英の his ではなく be にあたる方の sein です。sein には二つちがった場合があるから注意。
【39】was sie sagt = what she says.
【40】hat Hand und Fuß (手と足を持っている)というのは辻褄が合っている」という熟語。つまり手足を具えている、間然するところなしということです。
【41】was soll er davon halten? (彼はそれに就て何を考えるべきか)とは、「さて之れを何と考えたらいいのか」、「こいつは一寸問題だ」ということ。

Er geht schließlich42 mit seiner Frau zum Pfarrer und klagt43 ihm seine Not. „Ich muß wissen,“ sagt er, „ob44 es wirklich Gott gibt oder nicht. Gibt45 es Gott, dann gut. Gibt es keinen46, dann will ich stehlen! Sagen sie47 uns also48 klipp and klar49: Gibt es einen Gott oder nicht?“

逐語訳: Er かれは schließlich 結局 mit seiner Frau かれの妻と共に zum Pfarrer 牧師のところへ geht 行く und そして ihm かれに(=牧師に) seine Not かれの苦境を klagt 嘆く。„Ich わたしは wissen 知ら muß ねばなりません er [と]かれは sagt 云う。“ es それが wirklich 本当に Gott 神を gibt 与える[か] oder それとも nicht [与え]ない ob か[ということを]。es それが Gott 神を gibt 与えるか?(与えるならば、と同じ) dann 然らば gut よろしい。es それが keinen 何らの[神]をも Gibt 与え[ない]か?(与えないとすれば、と同じ)dann 然らば ich 私は stehlen 盗もうと will おもう。also では uns 我々に klipp und klar はっきりと Sagen sie 云ってください:es それが einen Gott 一人の神を gibt 与える[か] oder それとも nicht [与え]ない[か]?

:【42】schließlich: 「けっきょく」、「あげくのはては」「とどのつまりは」、「とうとう」(am Ende ともいう)
【43】klagt: 不定形は klagen (うったえる、なげく、こぼす)
【44】ob は英の whether で、「……かどうか」、「はたして……なりや」という文に用いる接続詞です(語源は英の if と同一物、現に if もそういう時に使います)。
【45】Gibt es Gott: (もし神ありとせば):これは Gibt es Gott? という疑問文から来ています。ドイツ語では此のように質問の形を wenn (もしも……)と同意に使うことが非常に多いのです。Wenn es Gott gibt というのと全然同じです。邦語でも、「神ありとせんか、然らば……」などと現に「か」という質問形を用いることがあります。
【46】Gibt es keinen: 次に Gott を省いたもの。
【47】Sagen Sie という形には「云いますか?」という場合と、「云え!」という場合とがあります。ここのは後者。(Gehen Sie? あなたは行きますか? Gehen Sie! 行きなさい!)
【48】also は英の also (オールソウ)と形は同じですが意味がちがいますから御注意。「では行ってまいります」などという「では」です。
【49】klipp und klar: これは熟語で、「きっぱりと」、「はっきりと」、「明瞭に」

„Ja, antworten Sie50 uns nur ganz kurz, mit Ja oder Nein,“ schreit seine Frau, „Gibt es einen Gott oder nicht?“

逐語訳: Ja, そうです、uns 我々に nur ただ ganz 極く kurz 短く、Ja 然り oder と Nein 否 mit をもって antworten Sie 答えてください:seine Frau [と]かれの妻は schreit 叫ぶ。es それが einen Gott 一人の神を gibt 与える[か] oder それとも nicht [与え]ない[か]?

:【50】antworten Sie: 前出の Sagen Sie と同じく、命令の形です。「答えて下さい!」

Da51 blickt52 der gute Mann zum Himmel hinauf53, schlägt54 die Hände55 vor56 der Brust57 zusammen58 und sagt:

逐語訳: Da すると der gute Mann その良き人は zum Himmel 天に向って blickt hinauf 見上げ(眼をあげ) die Hände 手を vor der Brust 胸の前で schlägt zusammen 打ちあわせ und そして sagt 云う:

:【51】da は、(英の there)「其処で」ですが、ここは場所をいう「其処で」ではなく、時の意の「そこで」、「すると」です。
【52】blickt: 不定形 blicken (見る、にらむ)
【53】hinauf は、分解すると hin (彼方の方へ) auf (上方へ)です。blickt hinauf の二つで「眼をあげる」、「上眼を使う」、「上を見る」です。blickt zum Himmel hinauf で「天を仰ぐ」。
【54】schlägt: 不定形 schlagen. (a が ä にかわるところに注意。)schlagen だけの意味は「打つ」。
【55】die Hände は die Hand (手)の複数形。
【56】vor は「前」という前置詞。
【57】die Brust: 胸。(der とあるのは三格。)
【58】zusammen: 英の together. schlägt zusammen は「打ち合わす」。
「天を仰いで手を打ち合す」という動作――さてここでちょっと、此処で牧師のやっている西洋人独特の科について説明を加えておきます。これは決して神さまを拝んでかしわ手を打っているわけではありません。西洋人はかしわ手を打ったりしません。これは単に「なアーるほど!」といって感心しているだけのことなのです。西洋人は、何かに呆れたり、びっくりしたり、感服したりすると、思わず上わ目を使って白眼をむき出し(同時に頭をチョット横へかしげます)、そして大袈裟に両手をパチンと打ちあわせます。日本人なら、両手を組んで「ふふーん!」というところです。ここで牧師がこんな動作をしておどろくのは何故かというと、不時の収入があった日に、ちょうどそれを恵むのに都合の好い人が来たからです。「ちょうど巧い具合になるものだ!」と思って感心したわけです。

„Ja freilich59 gibt es einen Gott! Und hier auf dem Tische seht ihr sogar60 den Beweis dazu61.“ Der fromme Mann deutet62 auf63 eine Banknote64, die65 vor ihnen auf dem Tische liegt.

逐語訳: Ja freilich 然り勿論 es それは einen Gott 一人の神を gibt 与える。Und そして[しかも] hier 此処に auf dem Tische 机の上に ihr あなたがたは dazu その事への den Beweis 証明を sogar すら seht ごらんになる。Der fromme Mann その敬虔な人は vor ihnen かれらの前に auf dem Tische 机の上に liegt 横たわる die ところの auf eine Banknote 一枚の紙幣を deutet 指さす。

:【59】ja freilich (そうですとも)はよく使う熟語。
【60】sogar は「おまけに」、「……まで」、「あまつさえ」
【61】Beweis dazu (それへの証明)とは「それに対する証明、その証明」。
【62】deuten (指す、示す、指し示す)は zeigen と同じ。
【63】auf はここでは英の at. (示す、見る、等の動作には auf を使うことが多いのは英の look at などと同じです)。
【64】Banknote, f. Bank は「銀行」、Note は「券」です。
【65】die は関係代名詞、(前の Banknote を指すから女性)関係代名詞は大体定冠詞と同じものを用います。

„Wie meinen66 Sie das, Ehrwürden67?“

逐語訳: Wie 如何に Sie あなたは das それを meinen 意味する[か]、Ehrwürden 先生よ?

:【66】meinen は、「私の」などという mein の変化したものではなく、英の mean にあたる動詞です。
【67】Ehrwürden (先生)は特に牧師神父に対して用いる語です。

„Ich bin ein armer Pfarrer und helfe den Leuten68 gewöhnlich nur mit Worten69. Aber diesmal kann ich euch mit Geld helfen. Denn heute habe ich zufällig Geld. Gott hat es mir gegeben70, damit71 ich euch helfen kann. Es ist mein Extra-Verdienst72 und ich kann ihn gut73 entbehren74. Nun75, gibt es einen Gott oder nicht?“

逐語訳: Ich 私は ein armer 一人の貧しい Pfarrer 牧師 bin である und そして den Leuten 人々に gewöhnlich 普通は nur ただ mit Worten 言葉をもって helfe 助ける。aber しかし diesmal このたびは ich 私は euch あなたがたに mit Geld お金をもって helfen 助けることが kann できる。Denn 何故かというに heute 今日は ich 私は zufällig 偶然 Geld お金を habe 持っている。ich 私が euch あなたがたに helfen 助ける kann ことができる damit ように[と] Gott 神が es それを mir 私に gegeben (geben の過去分詞)与え hat た。Es それは mein わたしの Extra-Verdienst 特別所得 ist である。und そして ich 私は ihn それを gut よく(大丈夫) entbehren 欠く(無しにすませる)ことが kann できる。Nun さて(どうだ)、es それが einen Gott 一人の神を gibt 与える[か] oder それとも nicht [与え]ない[か]?

:【68】Leuten Leute (英 people)の三格、此の語は「人々」の意で、単数形はありません。
【69】Worten: 単数: Wort, 複数は Worte、(それが三格になって Worten)。
【70】hat......gegeben = has given. (英なら単に gave というところ)gegeben は geben (与える)の過去分詞。
【71】damit: 「……せんがために」の意の接続詞。
【72】Extra-Verdienst: Extra は英の extra と同じで、「臨時の」、「不時の」、「特別の」(特配などの特です)。Verdienst は「儲け」。
【73】gut (よく)とは「結構」、「大丈夫」(……してさしつかえない)。
【74】entbehren は「……無しに間に合わせる」、「……を必要としないですます」、「……なしにすます」という、ちょっと日本語にはない動詞です。
【75】Nun は英の well, 「どうだ」(ときめつける場合)、「いかがでござる」というやつ。

Das Ehepaar ist ganz verwirrt. Sie stammeln einige76 unverständliche Dankesworte und tragen77 die Banknote nach Hause, den sicht- und greifbaren78 Beweis von der Existenz Gottes.

逐語訳: Das Ehepaar その夫婦は ganz すっかり verwirrt 混乱して ist いる。Sie かれらは einige 若干の unverständliche わけのわからない Dankesworte 感謝の言葉を stammeln どもる und そして die Banknote その紙幣[すなわち] Gottes 神の von der Existenz 存在についての den sicht-[baren] 眼に見える und そして greifbaren 掴むことのできる Beweis 証明を nach Hause 家へ tragen 運ぶ。

:【76】einige = ein paar.
【77】tragen: これは「持って行く」「運ぶ」という tragen.
【78】sicht- und greifbaren: 完全にいうと sichtbaren und greifbaren です。共通の語尾を省くときには - の印を用います。-bar という語尾は「……することの出来る」「……可能な」を意味します。「可視」の可です。sicht は英の sight ですが、sichtbar は visible にあたります。-bar は、つまり英の ible, able などです。greifbar の greif- は greifen (掴む)から来ています。

Am andern79 Morgen kommt ein Arbeiter zum Pfarrer. Es ist Pauls Nachbar80. Auch er klagt dem frommen Manne seine Not und sagt: „Ich kann nicht mehr an Gott glauben, denn es gibt keinen Gott. Oder können Sie mir einen Beweis geben, daß es einen Gott gibt? Einen Beweis, den man mit Augen sehen und mit Händen greifen kann?“

逐語訳: Am andern Morgen 他の(次の)朝に於て ein Arbeiter 一人の労働者が zum Pfarrer 牧師のところへ kommt 来る。Es それは Pauls パオルの Nachbar 隣人 ist である。Auch er かれも亦 dem frommen Manne この敬虔な人に seine Not かれの苦境を klagt なげく und そして sagt 云う:Ich 私は mehr もはや an Gott 神を glauben 信ずることが kann nicht できない、denn なぜなれば es gibt keinen Gott 神というものは存在しない[から]。Oder それとも Sie あなたは mir 私に daß es einen Gott gibt 神が存在するという einen Beweis 一つの証明を geben 与えることが können できます[か]? man 人が mit Augen 眼をもって sehen 見ることが und そして mit Händen 手をもって greifen つかむことが kann できる den ところの Einen Beweis 一つの証明を?

:【79】andern = 英 other.
【80】Nachbar = 英 neighbor. 近所の人、同じ町内の人。

„Nein, das kann ich leider81 nicht,“ antwortet ihm der fromme Mann, „Dafür habe ich hier auf dem Tische einen Beweis, den man weder82 mit Augen sehen noch mit Händen greifen kann. Oder sehen Sie hier auf dem Tische etwa eine Banknote?“

逐語訳: Nein, 否、das その事を ich 私は leider 残念ながら kann nicht できない、[と] ihm かれに der fromme Mann その敬虔な人は antwortet 答える、Dafür その代りに ich わたしは hier 此処に auf dem Tische 机の上に man 人が mit Augen 眼をもって sehen 見ること weder も[出来]ず mit Händen 手をもって greifen つかむことも kann でき noch ない den ところの einen Beweis 一つの証明を habe 持っています。Oder それとも Sie あなたは hier 此処に auf dem Tische 机の上に eine Banknote 一つの紙幣を etwa でも sehen 見ます[か]?

:【81】leider: 「遺憾ながら」という副詞。
【82】weder......noch...... は英の neither......nor......(『……も……も』と打ち消す時に用います。これを使うと否定詞は他に不要)。

„Eine Banknote? Nein.“

逐語訳: Eine Banknote? 紙幣を? Nein いいえ。

„Nein. Sie sehen hier keine Banknote. Auch ich sehe keine. Und wenn wir beide83 keine sehen, dann ist es keine Augentäuschung84. Nun sagen Sie mir selbst: Gibt es einen Gott oder nicht?“

逐語訳: Nein いいえ。Sie あなたは hier ここに keine Banknote 何等の紙幣をも sehen 見[ない]。Auch ich 私も sehe 見 keine ません。Und そして wir われわれが beide 両人とも sehen 見 keine ない wenn ならば、dann 然らば es それは keine Augentäuschung 眼の錯覚では ist ありません。Nun では mir 私に selbst 御自身で sagen Sie おっしゃって下さい:Gibt es einen Gott oder nicht? 神は存在しますかしませんか?

:【83】beide, 英:both.
【84】Augen (眼)、Täuschung (錯覚)。

Der arme Sünder85 wird86 rot wie eine Tomate und sagt: „Es gibt einen Gott, Ehrwürden.“

逐語訳: Der Arme Sünder 哀れなる罪びとは eine Tomate トマト wie の如く rot 赤く wird なる、und そして sagt 云う:Es gibt einen Gott 神は存在します、Ehrwürden 先生。

:【85】Sünder (罪人)、英 sinner. (罪は die Sünde、英 sin
【86】wird: 不定形 werden (成る、英 become)。この動詞は人称変化がすこぶる不規則で、du wirst, er wird となります。

意訳:パオルは貧しい日やとい人足です。数週前からかれは病気をしています。かれは働くことができません。医者の所へ行くことすらできません。医者の所へ行くには金が要ります。ところが金というやつは働かないと這入らないのです。
 かれの妻君も困っています。一日泣き通しです。彼女はもうお祈りなんかしません。もう神の存在なんか信じなくなったのです。彼女は『神なんてありゃしないわよ』と申します。
 『あるさ!』とパオルは云います、『神というものはある。おれたちの牧師さまは学問のあるお方だ。あの方が嘘をおっしゃるわけがない』。
 『神さまというものがあるなら、』彼女はむきになりました、『わたしたちがこんなに困っているときに、どうして助けて下さらないの? わたしたちはこれで明けても暮れても神さまにお祈りのし通しでしょう? 全能だというのに、いっこう助けるだけの腕がないじゃありませんか。これが神さまなんてものは無いと云う何よりの証拠でしょう?』
 これにはパオルもグウの音も出なかった。すると彼女のいうことが本当かしら? いや、まさかそんなことのあろう筈がない。しかし、それにしても云うことが立派に筋路が通っている。こりゃあいったいどう考えたらいいのかしら?
 かれは、とどのつまり、妻君をつれて牧師さんのところへでかけ、自分たちの苦境を訴えました。『実はですね、』と彼は云いました、『神というものは本当にあるのだかどうだか、それを伺いたいんですよ。ありゃあようがす。けれども、もし無いというのなら、いっそう泥坊でも働こうかと思うんです。だから一つ、ハッキリしたところを伺わして下さい、神さまというものは有るんですかそれとも無いんですか。』
 『えゝ、そうです』と彼女は大きな声でどなりました、『有るなら有る、無いならない、と、ごく簡単なところをおねがいします。神様はいったい有るのですか無いのですか。』
 すると牧師さんは、まず眼を天に向け、胸の前で両手をパチと打ち合わせたのち、かく申しました:
 『いや、たしかに神さまというかたはいらっしゃる! しかも、いらっしゃるという現の証拠がチャンと此の机の上にあるじゃないか』こう云って牧師さまは両人の前の机の上においてあった一枚の紙幣を指しました。
 『それは先生いったいどういう意味ですか?』
 『わたしは御存じの通り貧乏牧師で、普通はただ口だけ動かして人助けをしているが、こんどだけは金を出しておまえさんがたを助けてあげることができるんだ、というのは、今日に限って不思議にお金が這入ってきたんだ。これはおそらく、おまえさんがたを助けてあげろと云って神さまが下さったものに相違ない。これはあてにしていなかった収入なんで、あげたって一向困りはしない。どうだ、神さまという方があると思うか、それとも無いと思うか?』
 夫婦はドギマギしてしまいました。お礼のことばもシドロモドロに、何だかわけのわからないことを云いながら、神の存在に対する眼にも見え手にも握れる証明であるところのその札を頂いてかえりました。
 その翌朝、また一人の労働者が牧師さんのところへやって来ました。それはパオルの近所に住んでいる男です。この男も牧師さんにむかって色々と愚痴をこぼしたのち、こう申します:『わたしはもう神さまなんてものは信じられなくなりました。だってそんなものは無いと思うんです。それとも何か、神というものがあるという証明がございますか? 此の眼に見え、此の手につかめるような具体的な証明がございますか?』
 『いや、そんなのはお相憎とないんだがね、』牧師さんは答えました、『その代り、眼にも見えず、手にも掴めぬという証明が現に此の机の上にある。それとも此の机の上にお札でも見えるかね?』
 『お札ですか? 見えませんな。』
 『見えん。お札なんてものは一向見えん。わしにも見えん。おまえさんにも見えずわしにも見えんというのだから、まさか眼の加減ではなかろう。ではわしの方からおまえさんに問うが、どうだ、神さまというものは有ると思うか、無いとおもうか?』
 哀れなる罪びとは、まるでトマトのように真赤になって、申しました:『あると思います。』

独逸語大講座(20)

Als die Sonne aufging, wachten die drei Schläfer auf. Sofort sahen sie, wie 1 schön die Gestalt war. Jeder von ihnen verliebte sich in 2 d...