Saturday, October 29, 2022

平林たい子「地底の歌」

これは戦時中のやくざの生態を描いた小説だ。平林がこんな作品を書いているとは知らなかった。唐突な終わり方をしていて、もしかしたら執筆上のさまざまな条件から作者としては不本意な終わりかたをせざるをえなかったのかもしれないが、わたしは興味深く読んだ。

鉄火場におけるいかさま博打、組同士の争い、獄中生活、任侠小説に出て来るトピックはだいたい扱われている。しかしいちばん面白いのは女学校の生徒三名の変化である。小説の最初では世間知らずの純情な乙女だった彼らが、やくざと関わりを持つようになり、どんどんその生活にのめり込んでいく。とりわけ山田花子(何て名前だろう)は、コケティッシュな自分の魅力を利用してやくざのみならず、警察までも自分の掌の上で踊らせようとするのだが、ちんけなやくざの計略に引っかかり、料亭に売られてしまう。しかし政治家のたまごとなるやくざ者と結婚し、元気にのしあがっていくのである。平林本人並みのあきれたヴァイタリティーだ。

終戦はやくざ社会にも激変をもたらした。闇市ができ、国粋主義から民主主義に、ほぼ百八十度舵を切った日本では、もう古い任侠道は通用せず、新しいタイプのしのぎができる、目端の利く連中が活躍する時代になってしまったのだ。古いタイプのヤクザ者鶴田は、刑務所から出て来ていきなり変化した日本のありように直面し、茫然とする。自分の信条を通し、時代にあらがって苦しい生き方をするのか、それとも時代にしたがってカメレオンのように自分を変え、(山田花子のように)たくましく生きていくのか、戦中から戦後への転換は人間の生き様が如実に問われる時代の変化だったのだと、あらためて思う。

Wednesday, October 26, 2022

チャールズ・ペリー「溺れる若い男の肖像」

ジェイムズ・ジョイスの「若き日の芸術家の肖像」に影響を受けて、チャールズ・ペリーも文体を変化させながら一人の男の幼少時代から若くして破滅するまでの物語を書いた。ジョイスの作品はイカロス神話をもとにしているが、ペリーもこの神話を念頭に置いていたのだろう。太陽まで天翔けようとして熱に羽が溶け、海へ落下するという青春の悲劇が「溺れる」という言葉にあらわされている。


主人公の名前はハリー・オドゥム。大恐慌の時期にブルックリンのスラム街に生まれた。父親のハップは母親のケイトと仲がうまくいかず家出をしたり、また戻ってきたりを繰り返している。ハリーは不良仲間と小さい頃から付き合いがあり、彼らがギャングの使いっ走りをするようになると、自然とハリーもギャングと付き合いをはじめるようになった。そして彼が持つある種の「狂気」がギャングの世界で彼をのしあがらせることになる。彼は地元のギャング団のトップから目をかけられ、殺人を含めたさまざまな悪事に手を染める。

暴力と並んでもう一つ大きなテーマとなっているのが性の問題である。ハップがいるときはのめりこむようにハップを愛し頼っていたケイトだが、彼女はハップが家出すると息子のハリーに異常な愛情をそそぐようになる。そのためなのだろう、ハリーは性的不能に陥り、不気味な二重人格を持つに至る。そして最後には……。いやいや、ここは実際に本を読んでいただいたほうがいい。性と暴力がないまぜになった物語にふさわしい、すさまじくも悲しい結末が読む人を待っている。

これは驚くべき作品である。どうしてこれだけの作品が埋もれたままになっているのか、理解がゆかない。

Sunday, October 23, 2022

アーサー・エッカスレイ「錠剤」

一幕物の戯曲。作者についてはあまりよくわからないが、二十世紀初頭に映画のシナリオを書いていたらしい。

登場人物はたったの三人。大当たりのドラマを書いて時の人となったシャーウッドという劇作家、その友だちのナイト、そして年老いた役者のソーンダイクである。まずはシャーウッドとナイトが酒場からシャーウッドの部屋へ戻ってきた場面からはじまる。シャーウッドはヒット作のあとにどんな芝居を書こうかと頭を悩ましている。いや、殺人者を主人公にするところまでは決まっているのだが、その心理を理解するために、みずから殺人を犯そうかと思っている、などと酒場で友人のナイトに語ったのである。ナイトはシャーウッドの部屋に来てから、人前では滅多なことを言ってはいけない、と友だちをいさめる。全くその通り。人を殺す、なんて話は、あまりにもぶっそうだ。しかしシャーウッドはそんな常識的な忠告をせせら笑う。

さて、ナイトが帰ってから(ちなみにシャーウッドとナイトはおなじ下宿に住んでいる)シャーウッドは二作目の創作にとりかかるのだが、そのとたんにノックの音がする。訪ねて来たのはソーンダイクという年老いた役者だ。じつはソーンダイクは自分が考えた芝居のネタをシャーウッドに見せたことがあった。そしてシャーウッドはそれを盗用し、ヒット作を作り上げたのだ。ソーンダイクはそれを恨みに思い、しかもあろうことか、その妻は失望のあまり死んでしまった。

ソーンダイクは復讐のために一計を案じ、シャーウッドを家の訪ねて来たのだ。ここからが緊張感が高まって面白いところなのだが、ネタばらしはやめておこう。

この手のミステリ・サスペンス劇ではよくある展開なのだが、本作は1914年の作品。こうした劇のひな形を作った作品の一つといえるのではないだろうか。

Thursday, October 20, 2022

平林たい子「沙漠の花」

平林のおそらくは自伝的要素の濃い小説である。貧乏な家に生まれて高等教育を受けることができなかった文学少女「平林たい子」が、女学校卒業とともに電話の交換手として働き出すが、政治活動やら恋愛やら夫婦関係の故に次々と苦難を味わう様子を長編にしたものである。この苦難が一通りのものではない。借金生活にあえぎ、結婚してからは警察の嫌がらせを受けて(たい子は社会主義者、アナキストと交流があった)牢獄入り、あげくに大陸へと渡り、そこで栄養不良、重度のかっけという状態で妊娠、生まれた子供はすぐに死亡、極貧のためろくにお墓も用意できなかった。たい子は獄中にいる夫を見捨てて東京に帰り、その日暮らしをつづけながらも結婚、離婚を繰り返す。ときには娼婦まがいの仕事までやらされそうになりながらも、彼女はこれも文学・人生修養の一部と思ってひたすら先へ先へと突き進んでいく。若いとはいえ、驚くべきバイタリティーである。その後、社会運動の同志と結婚してからもあらぬ嫌疑をかけられて投獄され、結核にかかり、それこそ生死の境をさまよっている。

関東大震災を含む大正末年の世相を描き出しながら、壮絶な人生絵図を展開した本書は圧倒的に面白いだけでなく、自分の人生を深く反省させもする。

読んでいて「おや」と思ったのは、主人公がどん底のような生活に落ち込んだとき、キリスト教などの神にすがるところである。いや、「すがる」とは言えない。彼女は宗教的なものに傾倒はするものの、完全にそこに自己を埋没させるわけではないからである。しかしそれでもある種の神頼みを彼女はやっている。アナキストといえどもある種の境遇に置かれると、やはり神の観念が芽生えるものらしい。それからこんな一節も気になった。「私は、自分がせっぱつまるとアナキストであることを忘れて、自分をうらむ女だった。こんなことになるのも、社会がわるいのだと思うまえに、やっぱり、自分がわるいのだと思うほうが自然だった」こう書くとき「平林たい子」はこの「自然」がどれだけ本当に自然なものなのか、疑問を感じているのだろうか。つまり彼女の人生はたしかに多難であって、あの苦労の中を生き抜いたのはすごいことだと思うが、人生に対する心構えのほうはある種のナイーブさに満ちているのではないか。

わたしは主人公を非難しているのではない。実行力のある人間はえてして認識においてナイーブであるものだからだ。そうした盲点を持つ人間の研究として、この小説は最高におもしろい。しかし主人公がこの物語の作者として立ち現れるとき、つまり、小説家という位相にあるとき、その認識のナイーブさ(真面目さ)はいささか読者にくいたらない思いをさせることも事実である。

もう一点気になったのは、平林が売れない作家時代に探偵小説を書いていたということである。しかも出来がよくてその筋では注目されたらしい。これは捜し出して読まなければならない。しかし残っているだろうか。


Monday, October 17, 2022

ジョン・ラッセル・ファーン「気象企業」

最近はSFでも気象変動を取り扱うのがはやっているが、その中でもファーンの「気象企業」はかなり初期の作品と言えるのでないか。パルプだから内容はかなり雑だし、いまのような深刻な気象問題とは別次元の軽い作品ではあるけれど。

家族はあるがまだ若いとある気象官の男が、半径一マイル程度の狭い地域なら気象を自由にコントロールできる装置をつくりあげる。彼はそれを大企業に売り込むのだが、不幸なことにそれを「買った」社長は汚いことを平気でやる男だった。社長は発明の内容をすべて入手したうえで、発明者もその妻も殺害してしまう。

社長がねらっているのは全世界の気象を管理下に治めること。それは全世界を支配することに等しい。会社の管理下にある地域や国は、理想的な天候状態を維持できるが、もしも会社の管理下から抜け出したりしたなら、どんな悪天候になり、人的・物的被害を被るかわからない。しかし管理されているあいだは会社に莫大な管理費を支払うことになるのだ。

それだけではない。会社に不都合な人物が住む地域に人為的な暴風・雷雨・洪水を引きおこし、殺人を犯すことも可能なのだ。こうして絶対的な権力を握った会社は実質上、世界の独裁者となる。殺された気象官の息子が成人し、両親の仇を討ち、会社の独裁体制を転覆しようと企てるまでは……。

この小説は意外と面白くて、楽しみながら読めた。現在の巨大企業のあり方、その活動に対するさまざまな懸念などを思い合わせながら読んでいくと、この作品はパルプでありながらも結構本質的な問題を取り扱っていて、感心させられた。所詮は漫画のような物語、ということもできるが、漫画でもこのくらいのレベルになれば楽しめるというものだ。全世界の気象コントロールが完璧には行われず、いわば望ましくない剰余の気象エネルギーが安全弁と称される地域に放出されるという設定もいい。裕福な国家の気象が優先され、そうでない国々が「非生産的な」国家と見なされ犠牲にされる様子など、まさに現在の世界を思い起こさせる。

Friday, October 14, 2022

独逸語大講座(1)

関口存男が監修した「独逸語大講座」六巻の中から訳読の部分を電子化する。この本はフラクツール、いわゆる髭文字を使っているので、慣れていない人には読みにくい。それをラテン字体に直すだけでも役に立つのではないか。文法を解説した部分は省く。epub 形式にフォーマットするのが面倒くさいからである。また第一巻の問題文には日本語で発音が示してあるが、これも省く。

ざっと読んでみたところ、誤植が散見された。できるだけ直して電子化するが、その過程で私自身が間違いを犯すかもしれないので、お気づきの点があればご指摘いただければ幸いである。

第一課

(動詞の人称変化)
lieben愛するliegen横わるnicht mehr[no more]
loben褒めるdenken考えるwo[where]
leben生きるtun為すauch[also]
stehen立つkommen来るoder[or]
trinken飲むdas Kind子供etwas[something]
rauchen喫煙するwarum[why]nichts[nothing]
lachen笑うsehr非常にwas[what]
spielen遊ぶschonすでにaber[but]
weinen泣くjetztnicht[not]
lernen学ぶnochまだes[it]

1. Ich liebe. 2. Du stehst. 3. Er註1 weint. 4. Sie lacht. 5. Wir leben hier. 6. Ihr tut es. 7. Sie tun es nicht. 8. Er tut es, aber sie tut es nicht. 9. Er trinkt und lacht. 10. Es liegt hier.

【訳】l. 私は(ich)愛する(liebe). 2. 汝は(Du)立つ(stehst). 3. 彼 は(er)泣く(weiut) 4. 彼女は(sie)笑う(lacht) 5. 我々は(wir)此所に (hier)住む(leben) 6. 汝等は(ihr)それを(es)為す(tut) 7. 彼等は(sie) それを(es)為さ(tun)ない(nicht) 8. 彼は(er)それを(es)為す(tut).併 しながら(aber)彼女は(sie)それを(es)為さ(tut)ない(nicht) 9. 彼は(er) 飲み(trinkt)且つ(und)笑う(lacht) 10. それが(es)此所に(hier)横わ っている(liegt)

11. Was lernst Du註2? 12. Ich lerne nichts. 13. Wir lernen etwas. 14. Was trinkst Du, Kaffee oder Tee? 15. Ihr lobt es, aber wir loben es nicht. 16. Sie tun es, aber ich tue es nicht. 17. Ich lebe hier in Japan, Sie leben auch hier in Japan. 18. Er tut etwas, aber sie tut nichts. 19. Wo spielt er? 20. Er spielt hier.

【訳】11. 汝は(Du)何を(was)学ぶ(lernst)か 12. 私は(ich)〔何も〕 (nichts)学ば(lerne)〔ない〕 13. 我々は(wir)何かを(etwas)学ぶ(lernen) 14. 汝は(Du)何を(was)飲む(trinkst)か、コーヒー(Kaffee)か、或は(oder) 茶か(Tee) 15. 汝等は(ihr)それを(es)褒める(lobt)が併しながら(aber) 我々は(wir)それを(es)褒め(loben)ない(nicht) 16. あなたは(Sie)そ れを(es)為す(tun)が併しながら(aber)私は(ich)それを(es)為さ(tue) ない(nicht) 17. 私は(ich)当(hier=here)日本(Japan)に(in)住む(lebe) あなた(Sie)も亦(auch)当日本に(hier in Japan)住む(leben) 18. 彼は(er) 何かを(etwas)為す(tut)が併しながら(aber)彼女は(sie)何も(nichts)為 さ(tut)ない 19. 彼は(er)何所に(wo)遊んでいる(spielt)註3か 20.彼 は(er)此所に(hier)遊んでいる(spielt)

21. Denkst Du oder denkst Du nicht? 22. Er lebt nicht mehr. 23. Sie lernt noch nichts. 24. Sie lieben es nicht. 25. Weinen Sie, oder lachen Sie? 26. Der Vater lacht, die Mutter lacht auch. 27. Wo leben Sie jetzt? 28. Sie kommt noch nicht. 29. Ich trinke jetzt nicht mehr. 30. Trinken Sie noch?

21. 汝は(du)考える(denkst)か、或は(oder)汝は(du)考え(denkst) ない(nicht)か 22. 彼は(er)最早(nicht mehr)生きてい(lebt)ない 23. 彼女は(sie)未だ(noch)何も(nichts)学ば(lernt)ない 24. 彼等は(sie)そ れを(es)愛さ(lieben)ない(nicht) 25. あなたは(Sie)泣いています (weinen)か、それとも(oder)あなたは(Sie)笑っています(lachen)か 26. 父は(der Vater)笑う(lacht)母(die Mutter)も亦(auch)笑う(lacht) 27. あなたは(Sie)今(jetzt)何所で(wo)お暮らし(leben)ですか 28. 彼女は (sie)未だ(noch)来(kommt)ない(nicht) 29. 私は(ich)今は(jetzt)最う (nicht mehr)飲ま(trinke)〔ない〕 30. あなたは(Sie)未だ(noch)飲みま す(trinken)か

31. Was rauchst Du? 32. Wo liegt es? 33. Was tut die Mutter? 34. Wo steht der Vater? 35. Warum kommen Sie nicht? 36. Sie weint schon. 37. Ich lobe es sehr. 38. Was lernen wir, Englisch oder Deutsch? 39. Trinkst Du etwas? 40. Wo steht ihr?

31. 君は(Du)何を(was)喫みますか(rauchst) 32. それは(es) 何所に(wo)横わっているか(liegt) 33. 母は(die Mutter)何を(was)為す か(tut) 34. 父は(der Vater)何所に(wo)立っているか(steht) 35. 何故 (warum)あなたは(Sie)来(kommen)ないか(nicht) 36. 彼女は(sie)既に (schon)泣いている(weint) 37. 私は(ich)それを(es)非常に(sehr)褒める (lobe) 38. 我々は(wir)何を(was)学ぶか(lernen)英語か(Englisch)又は (oder)独逸語か(Deutsch) 39. 汝は(Du)何か或物を(etwas)飲むか(trinkst) 40. 何所に(wo)汝等は(ihr)立つか(steht)

41. Der Mann hier lacht und singt. 42. Die Mutter lebt schon nicht mehr. 43. Steht der Vater hier? 44. Warum kommt er nicht? 45. Ihr lernt Japanisch und Deutsch. 46. Das Kind weint nicht mehr. 47. Die Mutter weint und das Kind weint nicht. 48. Ich trinke Bier oder Wein, Du trinkst Kaffee oder Tee. 49. Warum steht das Kind hier? 50. Was lerne ich jetzt, Deutsch, Englisch oder Französisch?

【訳】41. 此所にいる(hier)人は(der Mann)笑い(lacht)且(und)歌う (singt,) 42. 母は(die Mutter)最早(nicht mehr)既に(schon)生きて(lebt) 〔ない〕43. 父は(der Vater)此所に(hier)立つか (steht) 44. 何故に (warum)彼は(er)来(kommt)ないか(nicht) 45. 汝等は(ihr)日本語 (Japanisch)と(und)独逸語とを(Deutsch)学ぶ(lernt) 46. 子供は(das Kind) 最早(nicht mehr)泣か(weint)〔ない〕 47. 母は(die Mutter)泣く(weint) そして(und)子供は(das Kind)泣か(weint)ない(nicht) 48. 私は(ich) ビール(Bier)又は(oder)葡萄酒を(Wein)飲む(trinke). 君は(Du)コーヒ ー(Kaffee)又は(oder)茶を(Tee)飲む(trinkst) 49. 何故に(warum)子供は (das Kind)此所に(hier)立つか(steht) 50. 何を(was)私は(ich)今(jetzt) 学んでいるか(lerne)独逸語か(Deutsch)英語か(Englisch)又は(oder)仏蘭西 語か(Französisch)

51. Du lernst Deutsch und Englisch. 52. Der Vater tut jetzt nichts. 53. Die Mutter lobt das Kind. 54. Er lacht und der Vater lacht auch. 55. Lebt der Vater und die Mutter noch? 56. Warum liegt das Kind hier? 57. Warum rauchen Sie nicht mehr? 58. Warum trinkst Du noch? 59. Warum spielt das Kind nicht mehr? 60. Lernen Sie auch Deutsch?

【訳】51. 汝は(Du)独逸語(Deutsch)と(und)英語とを(Englisch)学ぶ (lernst) 52. 父は(der Vater)今は(jetzt)何も(nichts)為さ(tut)〔ない〕 53. 母は(die Mutter)子供を(das Kind)褒める(lobt) 54. 彼は(er)笑う (lacht)そして(und)父(der Vater)も亦(auch)笑う(lacht) 55. 父(der Vater)と(und)母とは(die Mutter)まだ(noch)生きているか(lebt) 56. 何 故に(warum)子供は(das Kind)此所に(hier)横わっているか(liegt) 57· 何故(warum)あなたは(Sie)最う(nicht mehr)喫烟し(rauchen)〔ないか〕 58. 何故に(warum)お前は(Du)まだ(noch)飲酒するか(trinkst) 59. 何 故に(warum)子供は(das Kind)最早(nicht mehr)遊ば(spielt)〔ないか〕 60. あなた(Sie)も亦(auch)独逸語を(Deutsch)学ぶか(lernen)

61. Warum tut sie es nicht? 62. Er raucht nicht, spielt auch nicht. 63. Das Kind und die Mutter weinen noch. 64. Der Vater lobt es sehr. 65. Der Mann denkt etwas, aber das Kind denkt nichts. 66. Wo liegt Deutschland? 67. Was lobt der Vater oder die Mutter? 68. Sie tun es, aber ich tue es nicht. 69. Er kommt nicht mehr. 70. Trinken Sie auch Tee?

61. 何故に(warum)彼女は(sie)それを(es)為さ(tut)ないか (nicht) 62. 彼は(er)喫烟し(raucht)ない(nicht)賭博もし(spielt auch)ない (nicht) 63. 子供(das Kind)と(und)母とは(die Mutter)まだ(noch) 泣いている(weinen) 64. 父は(der Vater)それを(es)非常に(sehr) 褒める(lobt) 65. 大人は(der Mann)何か知ら或物を(etwas)考える(denkt)が併 しながら(aber)子供は(das Kind)何物も(nichts)考え(denkt)〔ない〕 66, 何所に(wo)独逸国は(Deutschland)横わっているか(liegt) 67. 父(der Vater)又は(oder)母は(die Mutter)何を(was)褒めるか(lobt) 68. あな たは(Sie)註4 それを(es)為す(tun)が併しながら(aber)私は(ich)それを(es) 為さ(tue)ない(nicht) 69. 彼は(er)最早(nicht mehr)来(kommt)〔ない〕 70. あなた(Sie)も亦(auch)茶を(Tee)飲むか(trinken)

71. Nein, ich trinke Milch. 72. Lebt nicht der Vater noch? 73. Ja, er lebt noch, aber die Mutter lebt nicht mehr. 74. Was lobt ihr? 75. Warum trinken Sie nichts ?

71. 否(nein)私は(ich)ミルクを(Milch)飲む(trinke) 72. 父が (der Vater)まだ(noch)生きている(lebt)ではないか(nicht) 73. はい(ja) 彼は(er)まだ(noch)生きている(lebt)が併しながら(aber)母は(die Mutter) 最早(nicht mehr)生きてい(lebt)〔ない〕 74. 何を(was)汝等は(ihr)褒めるか(lobt) 75. 何故に(warum)あなたは(Sie)何も(nichts)飲ま(trinken) 〔ないか〕

【註】〔1〕er (エル)の発音の問題ですが、之れは普通の場合は「エル」と短く発音し、殊に取立てて er が問題にされる時は「エール」と発音します。例えば、Er ist es. (それは彼れです) er selbst (彼自身)の如きそうです。
〔2〕du を大文字に Du とするは、Sie (貴方は)の場合と同じ行き方でありますが、此の Du は、初歩の独逸文章を筆者が、直接の呼掛〔direkte Anrede〕として書く際に、用いられるのです。それから、手紙の文句の中でも大字に書きます。序でに申上げますが、第二人称の尊称として現今は Sie が用いられていますが、古くは Ihr が用いられていました。更に古くは Er と云う形もあります。いづれの場合を見ましても皆大文字で書いてあります。併し、英語は I と大字にして you は小文字にしてあります。国民性の差異が最も根本的な言語の上に現れています。
〔3〕独逸語には、英語に於けるが如き進行法と云う形がなく、普通の現在形を以って之れを兼ねている。
〔4〕Sie は、「かれらは」と訳すことも出来ます。それは Sie が文章の先頭にあるから、三人称複数でも、大文字で書かなければならないからです。併し、此の問題は、こんな短い一行丈けの文章であるから起るので、普通の長い文章の一部である場合には、前後の意味で、いづれか一つに定まらなければなりません。

Tuesday, October 11, 2022

英語読解のヒント(29)

29. as I live / as I am here

基本表現と解説
  • as I live
  • as I am here
  • as you sit there
  • as you stand there

これらは as (true as) I live 「(わたしが生きているのをおなじくらい)確かに」とか as (certainly as) you sit there「(あなたがそこに座っているのとおなじくらい)間違いなく」という意味。自明なことを取り上げて、それくらい確実・本当であるという表現。この手の表現にはいろいろなバリエーションがある。例:

  • as I am alive
  • as true as the good God is above us
  • as sure as God made me
  • as there is God in heaven

例文1

"No! as I live, a hedgehog! Look, Ellen, how it has coiled itself into a thorny ball! Off with it, May! Don't bring it to me!"

Mary Russell Mitford, Our Village

「いいえ、本当にはりねずみ! エレン、まるでボールのようにまるまってしまったわ! こら、メイ、放しておしまい。持って来るんじゃないわよ」

例文2

"If what I say to you now is ever known by others to have passed my lips, as certainly as we two sit here, I am a dead man."

Wilkie Collins, The Woman in White

「これからきみに話すことがもしぼくの口から出たとほかの連中に知れたら、それこそぼくは命がない」

例文3

"Well, then, when after my late viscount's misfortune, my mother went up with us to London, to ask for justice against you all (as for Mohun, I'll have his blood, as sure as my name is Francis Viscount Esmond) — we went to stay with our cousin my Lady Marlborough, with whom we had quarrelled for ever so long."

William Makepeace Thackeray, The History of Henry Esmond, Esq.

「それから故子爵の不幸ののち、わたしの母がおまえたちを相手に裁判をおこそうとして、わたしたちといっしょにロンドンへ行ったとき(モーハンのやつは、どうあっても殺さずにはおかないぞ)、わたしたちは長年争っていたマールボロ夫人のお屋敷に滞在したのだ」

Saturday, October 8, 2022

英語読解のヒント(28)

28. as...as

基本表現と解説
  • Ehan Allen was as honest as he was brave. 「イーサン・アレンは勇敢であるのと同様に正直でもあった」

性質・程度がおなじであることを示す表現。

例文1

The women drink to almost as great an extent as the men. In Scotland, they equal them. In Ireland, they surpass them.

Max O'Rell, John Bull and his Island

女は男とほとんどおなじくらい酒を飲む。スコットランドでは女は男とおなじだけ飲む。アイルランドでは女の酒量は男のそれをしのぐ。

例文2

Colonel Washington was as good at stratagem as he was brave.

G. P. Quackenbos, Primary History of the United States

ワシントン大佐は勇敢であると同様に軍略にも長けていた。

例文3

Everybody struggles to rise into some other class above him. The spirit of caste is found as keenly at work among the humblest as among the highest ranks.

Samuel Smiles, Thrift

誰もが上の階級にのしあがろうとあがいている。階級の精神は社会の最上層におけると同様、最下層でも強くはたらいている。

Wednesday, October 5, 2022

英語読解のヒント(27)

27. as it is (2)

基本表現と解説
  • If he were not ill he would attend the meeting. As it is, he stays at home. 「病気でなければ会合に出るのだが、しかしそうではないから(病気だから)家にいる」

as it is は前の文章の内容を受けて、「しかし実際はそうでないのであって」という意味で用いられることがある。

例文1

When the London carmen treat their wives as well as they treat their horses, I shall appreciate their sentiments of humanity; as it is, they only remind me of the love of the Turk for his dog. If, in the streets of Constantinople, you were seen to harm a dog, you would immediately have the populace at your heels; but you might serve a woman or child as badly as you pleased, and no one would think of interfering with you.

Max O'Rell, John Bull and his Island

もしロンドンの馭者が、馬を扱うときくらいやさしく妻に接しているなら、わたしは彼らの人間的な心を大いに評価するが、実際はそうではなく、彼らはただトルコ人の犬好きぶりを思い起こさせるだけである。コンスタンチノープルで犬に危害を加えようものなら、たちどころに人々に追いかけられるが、妻や子供を思うさま虐げても誰も止めに入ろうとはしない。

例文2

 "For Heaven's sake, Dora," he said, quickly, "do look a little brighter; what will the countess think of you? You look like a frightened school girl."
 It was an injudicious speech. If Ronald had only caressed her, all would have been sunshine again; as it was, the first impatient words she had ever heard from him smote her with a new, strange pain, and the tears overflowed.

Charlotte M. Braeme, Dora Thorne

 「頼むからドーラ、もうちょっと明るい顔をしてくれ。伯爵夫人がどう思うかね。おびえた女学生みたいじゃないか」と彼は早口に言った。
 それは軽率な言い方だった。もしもロナルドが彼女をなぐさめてさえいれば、万事はまた晴れやかなものとなっただろう。しかしはじめて聞いた夫の気短な言葉が、今まで知らなかった異様な苦痛を彼女に与え、涙が流れた。

Sunday, October 2, 2022

英語読解のヒント(26)

26. as it is (1)

基本表現と解説
  • Let it remain as it is for a white. 「しばらくそのままにしておけ」

as it is は「そのまま」「ありのまま」「いまのままでももうすでに」などの意味になる。

例文1

"Now, then!" growled Sikes, as Oliver started up; "half-past five! Look sharp, or you'll get no breakfast; for it's late as it is."

Charles Dickens, Oliver Twist

オリヴァーが驚いて起きるとサイクスは怒鳴った。「さあ、五時半だ! 早くしないと朝飯を食わせんぞ。今でも遅いんだからな」

例文2

Part of Grant's great strength lay in the fact that he faced facts as they were, and not as he wished they might be.

Theodore Roosevelt, "Grant's Genius"

グラント大統領の偉大な力の一端は、ありのままに事物を見つめ、かくあれかしと望むようには見なかったという点にある。

例文3

I could not but think what a beautiful young man he must have been before he had learned to accept things as they are.

Arthur Conan Doyle, Uncle Bernac

わたしは彼がものごとをありのままに見るようになる以前は、さぞかしすばらしい青年だっただろうと思わざるをえなかった。

 ここの accept things as they are とは、歳を取って人生をリアリスチックに見るようになることを指す。

英語読解のヒント(111)

111. never so / ever so (1) 基本表現と解説 He looked never so healthy. 「彼がそのように健康そうに見えたことは今までになかった」 He looked ever so healthy. 「彼はじつに健康そうに見...