ジェイムズ・ジョイスの「若き日の芸術家の肖像」に影響を受けて、チャールズ・ペリーも文体を変化させながら一人の男の幼少時代から若くして破滅するまでの物語を書いた。ジョイスの作品はイカロス神話をもとにしているが、ペリーもこの神話を念頭に置いていたのだろう。太陽まで天翔けようとして熱に羽が溶け、海へ落下するという青春の悲劇が「溺れる」という言葉にあらわされている。
主人公の名前はハリー・オドゥム。大恐慌の時期にブルックリンのスラム街に生まれた。父親のハップは母親のケイトと仲がうまくいかず家出をしたり、また戻ってきたりを繰り返している。ハリーは不良仲間と小さい頃から付き合いがあり、彼らがギャングの使いっ走りをするようになると、自然とハリーもギャングと付き合いをはじめるようになった。そして彼が持つある種の「狂気」がギャングの世界で彼をのしあがらせることになる。彼は地元のギャング団のトップから目をかけられ、殺人を含めたさまざまな悪事に手を染める。
暴力と並んでもう一つ大きなテーマとなっているのが性の問題である。ハップがいるときはのめりこむようにハップを愛し頼っていたケイトだが、彼女はハップが家出すると息子のハリーに異常な愛情をそそぐようになる。そのためなのだろう、ハリーは性的不能に陥り、不気味な二重人格を持つに至る。そして最後には……。いやいや、ここは実際に本を読んでいただいたほうがいい。性と暴力がないまぜになった物語にふさわしい、すさまじくも悲しい結末が読む人を待っている。
これは驚くべき作品である。どうしてこれだけの作品が埋もれたままになっているのか、理解がゆかない。