Sunday, October 23, 2022

アーサー・エッカスレイ「錠剤」

一幕物の戯曲。作者についてはあまりよくわからないが、二十世紀初頭に映画のシナリオを書いていたらしい。

登場人物はたったの三人。大当たりのドラマを書いて時の人となったシャーウッドという劇作家、その友だちのナイト、そして年老いた役者のソーンダイクである。まずはシャーウッドとナイトが酒場からシャーウッドの部屋へ戻ってきた場面からはじまる。シャーウッドはヒット作のあとにどんな芝居を書こうかと頭を悩ましている。いや、殺人者を主人公にするところまでは決まっているのだが、その心理を理解するために、みずから殺人を犯そうかと思っている、などと酒場で友人のナイトに語ったのである。ナイトはシャーウッドの部屋に来てから、人前では滅多なことを言ってはいけない、と友だちをいさめる。全くその通り。人を殺す、なんて話は、あまりにもぶっそうだ。しかしシャーウッドはそんな常識的な忠告をせせら笑う。

さて、ナイトが帰ってから(ちなみにシャーウッドとナイトはおなじ下宿に住んでいる)シャーウッドは二作目の創作にとりかかるのだが、そのとたんにノックの音がする。訪ねて来たのはソーンダイクという年老いた役者だ。じつはソーンダイクは自分が考えた芝居のネタをシャーウッドに見せたことがあった。そしてシャーウッドはそれを盗用し、ヒット作を作り上げたのだ。ソーンダイクはそれを恨みに思い、しかもあろうことか、その妻は失望のあまり死んでしまった。

ソーンダイクは復讐のために一計を案じ、シャーウッドを家の訪ねて来たのだ。ここからが緊張感が高まって面白いところなのだが、ネタばらしはやめておこう。

この手のミステリ・サスペンス劇ではよくある展開なのだが、本作は1914年の作品。こうした劇のひな形を作った作品の一つといえるのではないだろうか。

エドワード・アタイヤ「残酷な火」

  エドワード・アタイヤ(1903-1964)はレバノンに生まれ、オクスフォード大学に学び、スコットランド人の女性と結婚した作家である。自伝や「アラブ人」という評論が有名だが、ミステリも何冊か書いている。ウィキペディアの書誌を見る限り「残酷な火」(61)は彼が書いた最後のミステリ...