アンバーソンという医者が自宅の書斎で殺害され、金庫のなかが荒らされていた。警察はアンバーソンの知り合いのジェイソンという若い医者を逮捕する。現場にエーテルを含んだ彼のハンカチが落ちていて、金庫からなくなっていたのが、ジェイソンがアンバーソンから借りていた借金の一覧だったからである。警察は巨額の借金を返済したくなかったジェイソンが、アンバーソンにエーテルをかがせ、そのあげく殺したと考えたのだ。
しかしアンバーソンは無実だった。一度は逮捕され拘留されたものの、金を払って保釈された彼は、アンバーソンの娘メアリや、友人の弁護士の力を借りて、数カ月後に始まる裁判の前に真犯人を見つけ出そうとする。そしてアンバーソンという男の知られざる側面を知ることになる。
著者のレイモンド・レスリー・ゴールドマン(1895-1950)はイギリスの作家らしいが、詳しいことは分からない。ひどく英語の読みやすい人だ。文法を一応マスターした人ならそれほど困難もなく読めるだろう。ただし彼には語りの技術がない。一本調子で話をたんたんと進めていくので、どうも盛りあがらない。やはりドラマチックな部分、落ち着いた部分など、めりはりをつけてくれなくては。登場人物の性格もひどく単純である。後半はノワール的な味わいと出そうとしているのだが、正直、期待はずれな出来だった。