Thursday, January 18, 2024

独逸語大講座(16)

童話「木製の乙女」

原文 W. Schmidtbonn
改修訳注 関口存男

 これは原作を私が読み安く改修したものです。新たな単語を除く外は、凡て之れまでの文法の知識で読める筈です。註の方もなるべく詳しく読んで頂きたく思います。それは、註によって文法の復習をし、同時に文法に洩れた事柄を補って行くからです。  此際特に要求して置きたいのは音読です。昔の寺子屋風な教え方には或種の理があるので、語学は殊に大きな声を出して読まなければ上達しません。眼だけで紙の上をスケーティングやっていたのでは、それは結局生きた知識には成り得ません。机の上に置いて黙って睨み詰めるにしては独逸語なんてものは大して適当な対象ではありませんからね。日本人に一番多い癖です。とにかく向う三軒両隣が挙って新聞に投書する程声を揚げて読みさえすれば語学は面白い程上達します。言語とは、読んで字の如く、やはり口を以て喉を以て盛んに発音し続けるに非ざれば、それを母国語として現在喋舌っている外人達のそれに平行するような「語感」という奴が吾人の言語中枢の中に生じては来ないのです。音読せよ、而して音読に快感を覚えよ、――これが語学上達の第一の秘訣です。

Das Mädchen aus1 Holz

Vier Männer2 machten einmal zusammen eine Wanderung: ein Zimmermann, ein Goldschmied,3 ein Schneider4 und ein Mönch.5 Eines Abends6 übernachteten7 sie in einem großen Wald, wo8 sie von9 Räubern10 und wilden Tieren bedroht11 waren.12 Deshalb beschlossen sie, daß immer einer13 von ihnen wach14 bleiben15 soll, während die drei andern schliefen.16 Zuerst kam der Zimmermann an die Reihe.17 Als er aber die andern18 im tiefen Schlaf schnarchen hörte, wurde er sehr schläfrig. Darum19 nahm20 er sein Handwerkszeug21 aus seinem Bündel, schlug einen jungen Baum ab,22 säuberte23 ihn von24 den Ästen25 und schnitt26 daraus27 die Gestalt eines Mädchens mit Gesicht, Händen und Füßen.

訳。四人の男が vier Männer 或時 einmal 一緒に zusammen 徒歩旅行を eine Wanderung した machte。即ち(:) 一人の大工と ein Zimmermann 一人の金細工師と ein Goldschmied 一人の裁縫師と ein Schneider そして一人の 僧とが und ein Mönch。ある晩 eines Abends 彼等は sie ある大きな森の中で in einem großen Wald 夜を明かしたが übernachteten 其処では wo 彼等は sie 盗賊や野獣に von Räubern und wilden Tieren 脅威を受けていたのであった bedroht waren。それ故 deshalb 彼等は sie 他の三人が die drei andern 眠っている schliefen [schlafen 眠る、の過去 schlief は複数]間は während 絶えず immer 彼等の中の一人が einer von ihnen 眼を覚ましているべきである wach bleiben soll と daß 決議した beschlossen [beschließen の過去 beschloß の複数]――最初先ず zuerst 大工が der Zimmermann 順番に中った kam an die Reihe。ところが aber 他の者達が die andern (四格)深き眠りに落ちて im tiefen Schlaf 鼾をかいているのを schnarchen 聞くと als er hörte 彼は er 非常に眠たく sehr schläfrig なった wurde。だから darum 彼は er 自分の風呂敷包みの中から aus seinem Bündel 自分の商売道具を sein Handwerkzeug 取り出し nahm、一本の若樹を einen jungen Baum 切り取り schlug ab。その枝を掃除して säuberte ihn von den Ästen そしてund 其物から daraus 顔も手も足もある一人の乙女の姿を die Gestalt eines Mädchens mit Gesicht, Händen und Füßen 彫り上げた schnitt. (schneiden 切る、の過去)

註。――1. aus Holz または von Holz。「……製」と云う時には von、aus を用いる。――2. こういう時には Leute(人々)が使えない。Leute は英語の people で、その数が不定な時にのみ使う言葉である。――3. Schmied=smith 「鍛冶屋」の事だが、Goldschmied, goldsmith となると金銀を打って細工する職人のこと。――4. Schneider は、布地を裁って(schneiden, 裁る)服を作るからそう云うのである。――5. Mönch (英 monk)は Monaco (名高い賭博の国)München (独逸の都会、München ビールは名高い)等の固有名詞と同語源で、教会僧ではなく、僧院に籠って修道する僧の事を独逸語では Mönch 伊太利語では monaco と謂うのである。――6. eines Abends (或る晩のこと)は熟語である。形容詞附きの名詞を二格にすると副詞句が出来上る。その他 eines Tages(或日)eines Morgens (或朝)等がある。――7. über die Nacht (over night)「夜通し」から来た非分離動詞が übernachten (to stay over night)「一泊する」である。übernachteten はその過去の複数三人称。――8. wo は前の Wald を先行詞とする関係代名詞。(第二巻 172)――9. 此の von については第二巻 116――10. 「奪う」(rauben 英 rob)から来た名詞。――11. bedrohen (脅かす)の過去分詞。過去分詞でありながら ge- の附かない理由は? (第二巻 141 を見よ)。――12. 受働形ならば元来は bedroht wurden の筈である(第二巻 115)が、そうすると「脅威された」(一回きりの動作)の意になって、「脅威されていた」(連続的状態)の意にならない。――13. ein という不定冠詞を「一つ」「一人」という名詞的な意味に用いる時には、男ならば男性の語尾を附して einer と云う。――14. wach は英語の awake に相当する形容詞で、「私は起きている」ならば ich bin wach 又は ich bleibe wach である。――15. bleiben は元来は「とどまる」の意であるが、その用法は独逸語特有で、たとえば ich bin ein Kind に対して ich bleibe ein Kind と云えば「私は相変らず子供である」或は「私は子供であることを止めない」の意である。形容詞と共に用いる場合も同様で ich bleibe wach と云えば、「他のものが眠ってしまった後と雖も」と云う考を土台に置いて、「私は依然として目ざめている」という事になる。――16. 日本語で云えば、眠って「いる」間は、であるが、ドイツ語はもっと合理的で、「眠って「いる」のではなく、眠って「いた」のであるから、過去形を用いる。訳語は凡て日本語に囚われざるを得ないから、斯う云う点は特に注意して頂きたい。――17. an die Reihe kommen (順番に中る)という熟語。die Reihe は「順番」。――18. 此処で die andern は四格である。だから die andern schnarchen (他の者達「が」鼾をかく)と結び附けて考えてはいけない。die andern hören (他の者達「を」聞く)即ち詳しく云えば die andern schnarchen hören (他の者達を、鼾をかくのを、聞く)と分解して考えなければいけない。――同様に、「私は彼が来るのを見る」と云う時には ich sehe ihn kommen (私は彼「を」来るのを見る)と云うのがドイツ語の語法である。――19. darum=deshalb――20. 「取る」の三要形は表を見よ。――21. Handwerk は「手職」「商売」。――Zeug はWerkzeug と同じで「道具」。――22. abschlagen と云う分離動詞。ab= には「云々し取る」「云々し去る」の意がある。――23. säubern (拭う、掃除する)は sauber (綺麗な、清潔な)から来た動詞。――24. 此の前後の一文は、原文通りに訳すると、「それを(樹を)枝から清めた」となる。日本語では、関係を反対にして、「樹から枝を払いのけた」と云わなければならない。これも独逸語の語法だと思って覚えるの外はない。――25. 単数 der Ast. ――26. 切る事を schneiden と云うと同時に、截って作り上げる、彫る、彫刻する事をも schneiden と云う。――27. heraus は「それから」「その中から」「それを出立点にして」「それを台にして」「それを材料にして」の意。(heraus の構造に関しては第二巻 186)。

独逸語大講座(20)

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