妻を殺害したと疑われ、刑務所に入れられていた男が脱獄し、本当の犯人を捜し出そうとする。テレビドラマの「逃亡者」とそっくりの筋立てだ。実際、「逃亡者」の原作ともいわれている。
いかにもノワールといった物語だが、わたしは読んでいて作ったような感じが残っているのに引っかかった。シチュエーションやキャラクターがことさらに誇張されていて、自然な感じがしないのだ。たとえば主人公の脱獄囚と元妻との関係は不可解だし、彼を助ける女との関係も不可解だ。最後に主人公の妻を殺した真犯人が判明するが、すとんと納得できるような解決ではない。文章もどこかたどたどしい。随所に充分こなれきっていないなにかがあり、物語にのめりこむことができなかった。しかしわたしは消化不良のようなこの印象をもってこの作品を断罪しようとは思わない。逆にこの消化不良は面白い徴候として存在しているような気がする。method in madness という表現があるが、グーディスのこの作品に於ける失敗にはある種システマチックなところがある。時間をおいて再読し、もう一度この作品を議論したい。