Wednesday, November 29, 2023

オリーブ・ノートン「死の床に横たわりたる」


オリーブ・ノートン(1913-1973)はロマンスや子供向けの本を書いた人だが、ミステリも書いている。本作(Now Lying Dead)は67年の発表である。

ブライアン・オールソップはあるとき市民向け創作講座に出席し、そこでこんな話を聞く。どんなに人畜無害な、人好きのする人であっても殺人の被害者になりうる。その人の友人と話をし、過去を分析し、秘密を探ってみるといい。きっとその人を殺したがっているだれかを発見するだろう。

ブライアンはこの言葉に惹かれ、ミステリを書いてみようと思い立つ。そして妻の親友の夫、アーサー・ヘイボールを犠牲者に仕立て上げようと考える。彼はアーサーの身辺に注意を払うようになり、やがて妻が心配になるくらい、その興味が偏執狂じみてくる。そしてとうとう事件が起きる。アーサーにゴルフに誘われたブライアンは、ゲームの最中にゴルフクラブを振り回し、それが「偶然」アーサーに当たってしまうのだ。そしてアーサーは即死する。

ブライアンは検死審問で無罪を言い渡される。しかし私は考え込んだ。なるほどブライアンは「意識の上では」無邪気にゴルフクラブを振り回し、アーサーが運悪くそれにぶつかっただけなのかも知れない。が、「無意識においては」どうなのだろう。アーサーは自分でも知らないうちに殺意を抱いていたのではないか。

事件はこのあと様相を二転三転させるが、私はそれをまさに「無意識」の領域に切り込んでいく過程であると読み取った。(あくまで私の解釈である)この部分がこの作品のすばらしいところで、ブライアンの無意識が妻との転移関係によって影響されていること、そして究極的にはそれが誤認であることがあきらかにされる。

この計算されつくされた展開はじつに見事で、読み終わったときに私はううんとうなってしまった。これはハイスミスやドゥ・モーリエと比較しても決して遜色のない作品である。とくに精神分析に興味のある人にとっては興味が尽きないだろう。これほどの作品がまるで知られないまま埋もれているのか。

英語読解のヒント(145)

145. 付帯状況の with 基本表現と解説 He was sitting, book in hand, at an open window. 「彼は本を手にして開いた窓際に座っていた」 book in hand は with a book in his hand の...