コリン・ブルックス(1893-1959)はイギリスのジャーナリストで30年代40年代はファイナンシャル・ニューズやサンデイ・ディスパッチの編集をしていた。BBCのラジオにも出演していたらしい。同時に以下のようなミステリも書いていた。
Mr X (1927)
The Body Snatchers (1927)
The Ghost Hunters (1928)
The Catspaws (1929)
Seven Hells (1929)
Found Dead (1930) 本書
Account Paid (1930)
O Sweet McTavish (1930)
Three Yards of Cord (1931)
Mr Daddy Detective (1933)
Frame Up (1935)
The Swimming Frong (1951)
このほかにも Her Serene Highness (1929) というのがあってこれもミステリっぽいところがありそうだ。HathiTrust で目次を確認したところ、語り手が「探偵になる」と題された章があるから。しかしまだ読んでないので断言はできない。
思わず彼の著作リストを調べてしまったのは、本書が予想以上によかったからである。出だしは仮定法の文章が三つ連続で使われている。
もし赤毛の娘の靴下止めがはずれなければマクタヴィッシュは振り返らなかっただろう。もしマクタヴィッシュが振り返らなかったら、わたしは彼とぶつかりはしなかっただろう。もしもわたしがマクタヴィッシュにぶつからなければ、この話は書かれなかっただろう。
通りを歩いていた赤毛の娘の靴下止めがはずれ、それを直そうと人目のない中庭に入っていった。マクタヴィッシュは娘が奇妙な足取りで中庭へ入っていったので通りからちらりとその方向を見たのだが、すると彼女が靴下止めを直す魅惑的な姿がちらりと見えるではないか。その瞬間、通りを急ぎ足で歩いていた語り手の「わたし」がマクタヴィッシュと正面衝突するのである。そのときだ。赤毛の娘が地階の窓からなにかを見つけ、悲鳴をあげる。そして靴下止めを直さずに男二人のほうへ駆け寄りこういうのだ。「人が死んでいる!」
このあともちろん警察が捜査に乗り出すが、マクタヴィッシュの発案で赤毛の娘と語り手もチームを組んで事件の解決に乗り出すことになる。
若い娘が薄暗がりのなか白い足を腿までさらけ出してガーターを直すという姿はなまめかしいが、しかしその後はとくにセンセーショナルなことも起きず話は進んでいく。しかしこれが面白くてついつい先を読んでしまう。センセーショナルなことは起きずとも、物語はテンポよく展開するし、会話がユーモラスで楽しいのである。アマチュア探偵チーム三人の個性もうまく表現されている。しかも彼らにはなんとなく怪しげなところがあるのだ。それは強調されてはいないが、すべての登場人物を疑ってかかるミステリファンならきっと「待てよ」と思う瞬間がところどころに配されている。コリン・ブルックスが文章家だとは思わないが、読者の興味を引き付ける技術はたしかに持っていると思う。
物語は後半に入って第二の殺人事件が起き、一気にその興趣を増す。そして見事などんでん返しがあり、なぜ出だしの部分があれほど印象的に書かれていたのか、その理由も明らかになる。なるほど、そうだったのか! と読者はきっと膝を打つだろう。標準以上の、仕掛けにみちたミステリに仕上がっている。
コリン・ブルックスのほかの作品は探偵小説と言うよりスリラーとか冒険小説に近いようだが、ぜひ読んでみたい。