Thursday, October 29, 2026

ジョン・ロード「クラヴァトン事件」


ジョン・ロードのプリーストレイ博士ものには文章にある種の風格があって、わたしは物語よりそちらのほうを楽しんでいるようなところがある。名文家というわけではない。にもかかわらずどっしりと構えた、悠揚迫らぬ語り口で楽しませてくれる。

「クラヴァトン事件」はこの堂々たる語り口という点ではジョン・ロードの作品のなかでもかなり上位に位置すると思う。話はややこみいっているので、事件の中核だけを取り出して紹介する。クラヴァトンという裕福な独り者の男が病気にかかり、妹とその娘を屋敷へ呼び、世話をしてもらっていた。お金持ちだから死んだら親戚の者に多額の遺産が渡るわけで、甥などはご機嫌伺いに定期的に屋敷を訪ねている。妹とその娘は貧乏だし、甥は仕事などしたくないという遊び人である。みんなクラヴァトンが死んでくれたらいいと思っている。

あるときクラヴァトンの食事にヒ素がまぜられるという事件が起きた。そのときは幸いクラヴァトンは助かったのだが、それからしばらくして彼は胃に穴が開いて死んでしまった。ヒ素による殺人未遂があったので、クラヴァトンの死因は徹底的に調べられたのだが、ヒ素もなんの毒物も発見されない。事件を知ったプリーストレイ博士は事件の経過や、クラヴァトンの死が突然であったことから殺人を疑うのだが、専門家は自信を以てただの病死と結論づける。専門家の目をすらごまかすような殺人方法があるのだろうか。

ミステリとしての興味はここにあるだろう。しかし物語はふくよかで、登場人物ひとりひとりの過去がなんらかの形で事件と結びついており、そうしたエピソードが作品に意外さと面白さと深みをつけ加えている。地の文が多いという印象はあるが、降霊会が二回も開かれ、センセーショナリズムに陥らない程度に事件も起きるので退屈することはない。

ジョン・ロード「クラヴァトン事件」

ジョン・ロードのプリーストレイ博士ものには文章にある種の風格があって、わたしは物語よりそちらのほうを楽しんでいるようなところがある。名文家というわけではない。にもかかわらずどっしりと構えた、悠揚迫らぬ語り口で楽しませてくれる。 「クラヴァトン事件」はこの堂々たる語り口という点では...