Thursday, November 27, 2025

マイケル・タルボット「夜の怪物」

 


マイケル・タルボットのホラー小説は翻訳されているのだろうか。1982年に処女作 The Delicate Dependency という吸血鬼ものを書いて注目され、91年には The Holographic Universe を出し、科学番組などでいまだに取り上げられたりする。ところが彼は92年に38歳で亡くなってしまった。非常に面白い人だっただけに惜しまれる死である。

「夜の怪物」は彼の処女作ほどの重厚さはなく、クライマックスに至る展開にやや難があるが、よくできたB級ホラー映画のような面白さがあった。ロックスターのスティーブン・ランソムと芸能記者のローレン・モントゴメリが結婚した。スティーブンは初婚だが、ローレンは再婚で、すでに小さな息子がいる。この三人がアディロンダックス山中の巨大なお屋敷を借りて夏休みを過ごすのだが、このお屋敷がものすごい。ヴィクトリア朝時代に建てられ、部屋数が160ある。しかも建てた人が気が狂っていたせいだろう、いろいろと変な仕掛けが施されているのだ。さらに夜になると亡霊? 妖怪? が出てくるようなのだ。

物語を引っぱっていくのは二つの緊迫感だ。一つはスティーブン、ローレン、彼女の息子の関係に徐々にひびが入っていくサスペンス。スティーブンは恋愛上手で、ローレンをいい気分にさせてくれるが、アディロンダックスに着いてからは、気質がまったく異なるローレンの連れ子とそりが合わず、憎しみを感じるようになる。さらにローレンは、音楽会社を経営する彼が冷酷な性格を持っていて、部下の人生を平気で狂わせるようなことをやってのけることを知る。

もう一つの緊迫感は、もちろんお屋敷の謎である。玄関には奇妙なラテン語の文句が掲げられ、巨大な屋敷は人間の感覚を狂わせる奇妙な造りになっていて、屋敷の奥には行けないようにできている。この屋敷を造ったとされる女性はいったいなんのためにこんな不思議な構造を考え出したのか。夜な夜な出没する妖怪はなんなのか。この二つの興味がうまく配合されながら物語は進展する。

タルボットの文章は超一流である。すばらしく達意で自然な流れをもち、生理的な快感を与える。

マイケル・タルボット「夜の怪物」

  マイケル・タルボットのホラー小説は翻訳されているのだろうか。1982年に処女作 The Delicate Dependency という吸血鬼ものを書いて注目され、91年には The Holographic Universe を出し、科学番組などでいまだに取り上げられたりする。...