これはいわゆる膜宇宙論を説明した一般向けの解説書である。膜宇宙論とはなにか。どうやら人間が理解する三次元空間の宇宙は、じつは高次元の空間に浮かんでいる膜みたいなものだということらしい。このバルクと呼ばれる高次元の空間にはわれわれの住む膜以外にも、いろいろな膜が浮かんでいると考えられている。
なぜ科学者がこんな膜宇宙を考えたかというと、重力の特異性をこれによって説明できるからだと言う。物理学では重力、電磁気力、弱い力、強い力という四つの力が考えられている。このうち重力は最も弱く、なぜこんなに弱いのかということが物理学者の疑問だったらしいが、膜宇宙モデルでは重力の力が高次元へ漏れているからだ、と説明できる点が強みだ。
もう一つこの本を読んで知ったのは、ビッグバンの起源についてだ。膜宇宙論においてはビッグバンは膜同士が衝突して起きると考えられるらしい。以前ユーチューブの番組で物理学者のショーン・キャロルが、ビッグバンが起きたことはあらゆる証拠から見て確実であると自信をもって語っていたので、このシナリオは決定的なものなのかと思っていたが、そうでもないようだ。赤方偏移の現象から宇宙は膨張していると長らく考えられていたが、じつは宇宙が回転しているために膨張しているような見かけを与えているのではないか、という説が去年あらわれたり、科学といえども「常識」はつぎつぎと書き換えられるようだ。
しかし正直にこの本の感想を言えば、ひどいのひと言に尽きる。リサ・ランドールはまったく文章が書けない人だ。アメリカには科学の最先端をわかりやすく門外漢に説明するサイエンス・ライターがたくさんいて、いつもうらやましく思うのだが、この人はまったくの例外である。話し言葉と書き言葉を無造作に混在させる文章感覚のなさ、比喩表現のぞろっぺいさ、論旨の混乱、意味のない繰り返し、読んでいて不愉快きわまりなかった。本書は「ワープする宇宙 五次元時空の謎を解く」というタイトルで翻訳が出ているそうだが、アマゾンの評価は星4.2。信じられないような高評価である。よっぽどの「名訳」なのだろう。しかし原文はひどい。わたしは最近の物理学における高次元の考え方に興味があるから最後まで我慢して読んだが、そのあとすぐ口直しにジュリアン・バーンズのミステリを読んだ。リサ・ランドールは二度と読まない。