Wednesday, October 14, 2026

関口存男「新ドイツ語大講座 下」(25)

§25.Es ist aus mit ihm.
あいつはもうお仕舞いだ。

 「それはあいつと共にお仕舞いだ」が「あいつはもう助からない」、「彼が事既に休す焉」の意になります。この Es は、「現象らしく表現するための非人称主語」で、Es ist aus (万事休す)といってしまうと、もはや er という主語を一格の形で入れることが出来ないから、mit ihm (「彼に関しては」)という間接的な形で入れると思えばよろしい。

 あるいはこう思っていいでしょう。文章を非人称化(「基礎入門編§125」)する場合には、一般的現象として、論理上の主語を一格の形で追加的に後から添えることが出来ますが(たとえば Der Wind weht 「風が吹く」の代わりに Es weht der Wind)、主語と動詞との関係が、「風」と「吹く」との間の関係ほど密接な関係でない場合(多くは熟語)には、論理的主語を mit ~ の形で入れる、というわけです。

 こうした現象は英語と共通です。Es ist aus mit ihm. は英語でも It is all up with him, It is all over with him.

(1) Mit der Zahlung eilt es gar nicht.
  支払の方はちっとも急ぎません。

(2) Wie steht es mit der Ernährung?
  栄養の方はどんな調子ですか?

(3) Jetzt hapert es mit Rohstofffragen.
  こんどは原料問題が故障ときた。

(4) Wie ist es mit der Ehescheidung zugegangen?
  あの離婚問題はいったいどういういきさつなのだい?

(5) Wo will es denn eigentlich mit der Krise hinaus?
  いったいこの危機は結局どこまで行くのでしょう。

(6) Mit seinen „guten Geschäften“ ist es nicht weit her.
  あの男のいう「ぼろい話」というのは大抵高がしれている。

 殊に「人を教育するは、たとえば田を耕すが如し」とか、「人生はたとえば旅の如し」とかいって、比喩によって説明する場合には、Das Leben ist wie eine Reise. などというよりは Es ist mit dem Leben wie mit einer Reise. (英:It is with the life as with a journey.)というふうにいうことが普通になっています。

 Es ist, Es steht の場合には mit の代わりに um をも用います:Es ist dir also Ernst um's Sterben? (ではおまえは、死ぬというのは本気なのかい?)、Es ist etwas Edles um ihn (彼はどことなく気品の高いところがある、英語ならば it よりは there で:There is something noble about him)、Wie stünde es um die Zukunft der Menschheit, wenn kein Weib mehr Kinder haben wollte? (どの女も子供が出来ることをいやがりだした日には、人類の将来はいったいどんなことになるのだ?)

§25. (1) Zahlung, f. : 支払。eilen: 急ぐ。(2) Ernährung, f. : ernähren (養う)より。(3) es hapert: 故障だ、調子が悪い。Rohstoff, m. : 原料(roh, 原の、粗なる)(4) Ehescheidung, f. : Ehe (夫婦関係)、scheiden (分かれる、離別する)。es geht zu: 成り行く、経過する。(5) hinauswollen: [勢いが]趣く、趨向する。eigentlich: そもそも、いったい。(6) es ist nicht weit her: 直訳すれば「それは遠[大な]所から[発しているもの]ではない」、すなわち「大したものではない」、「高がしれている」。
Ernst, m. : 本気、真剣。Edles: edel (noble). stünde: stehen の接続法第二式。Zukunft, f. : 将来、未来、今後。Menschheit, f. : 人類(humanity)

〔校正者註〕It is with the life as with a journey は It is with life as with a journey のほうが普通。

関口存男「新ドイツ語大講座 下」(25)

§25. Es ist aus mit ihm. あいつはもうお仕舞いだ。  「それはあいつと共にお仕舞いだ」が「あいつはもう助からない」、「彼が事既に休す焉」の意になります。この Es は、「現象らしく表現するための非人称主語」で、Es ist aus (万事休す...