これはコーエンとJ.U.ギージイという人が共作した1917年の作品。読んで見たらミステリではなく、ロマンチック・コメディだった。しかしアメリカの小さな町にちょっとした混乱が起き、最後に関係者が全員集められて、なぜ混乱が起きたのか、その謎解きをするという形なので、ミステリとよく似ている。似ていると言えば、本作はプラウトゥスの「メナエクムス兄弟」とかシェイクスピアの「間違いの喜劇」ともよく似ている。本作を読みながらわたしは、一度この手の作品をまとめて読んで、いろいろと考えてみたいと思った。
物語は二組のカップルの関係をめぐるものである。一組はすでに結婚しているのだが、夫のほうは独身時代、その町のドンファンとしてさんざん浮き名を流した男である。妻は彼と結婚できて喜んではいるが、自分の容姿が人並みでしかないことを気にし、心密かに夫の浮気を怖れている。
もう一組は婚約中のカップルだ。こちらは男も女もごく普通の人間。ただ、男は一組目のカップルの男と仲がよく、顔もよく似ている。
「顔もよく似ている」と聞けば、ははあ、人違いが生じててんやわんやの騒ぎになるのだな、と予想がつくだろう。その通りである。
ここに町の外から一人の女がやってくる。がらっぱちな感じの女で、口のきき方も伝法だ。彼女は最初のカップルの男と結婚するためにここに来た、というのである。その男の奥さん、驚くまいことか。誤解に次ぐ誤解の結果、彼女は夫と別居することになる。
このとばっちりを受けるのが二組目のカップルの男。顔が似ているために町の外から来た女に結婚相手と間違えられ、こちらもフィアンセから婚約破棄を申しつけられる。
しかしホテルのフロント係がそのありさまを見て、真相を察し、全員を集めて見事、誤解を解くのである。
他の人との共作ではあるけれど、軽快なテンポで進み、いかにもコーエンらしい作品だった。
エドワード・アタイヤ「残酷な火」
エドワード・アタイヤ(1903-1964)はレバノンに生まれ、オクスフォード大学に学び、スコットランド人の女性と結婚した作家である。自伝や「アラブ人」という評論が有名だが、ミステリも何冊か書いている。ウィキペディアの書誌を見る限り「残酷な火」(61)は彼が書いた最後のミステリ...

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