筋トレをはじめてから食事にも気を遣うようになった。筋肉をつけるには、その原料であるタンパク質を多く摂らなければならない。
食事だけでタンパク質を摂りきるのは、大食漢でないわたしには、なかなか難しい。市販されているプロテインは高価なので(今みたいにプロテインが各種出回るようになったのは最近のことである)主に牛乳を飲んでいたが、あるときふと小さな雑貨屋で煮干し一キロの徳用袋を千円ちょっとで売っているのに気がついた。
煮干しというのはだいたい70パーセントくらいがタンパク質である。こいつをぼりぼり食ってやろう。そう考えてそれから一年くらいはその店で徳用袋を買い続けた。
ただ煮干しというのはまずい。おいしい出しは取れるが、煮干しそのものを食べるのは苦行である。袋の後ろに「内臓や頭を取るとよりおいしい出しが取れます」と書いてあったので、食べるときに内臓や頭を取ってみたこともある。しかしこれは逆効果だった。腹を割って黒くひからびた内臓が出てくるならまだましだが、灰色と黒のまだら模様がでてきたりすると、これはいったいなんぞや、とぎょっとする。食欲はたちまち減退する。だから食べるときは、けっして腹を割かないようにしている。
魚のタンパク質は優秀なのだが、煮干しの形で摂取するのはあまり吸収によくないのだろう。煮干しをたくさん食べたからといって、とくに筋肉がついたような気はしなかった。
ところが煮干しを食べはじめて一年数カ月後の健康診断で、意外なことがわかった。身長が七ミリ伸びていたのである。わたしは二十歳から五十歳まで168.5センチだった。ところが煮干しを盛んに食べた結果、身長が七ミリ伸びたのである。しかも五十台に入ってからだ。今はさらに二ミリ延びて169.4センチである。
煮干しはタンパク質が豊富であるだけでなく、カルシウムもふんだんに含んでいる。わたしはカルシウムや鉄を強化した牛乳やチーズが好きで、ほとんど毎日のように食べていたから、一日のカルシウムの総摂取量は三千ミリグラムだったのではないだろうか。おそらくそれで骨が太くなり、身長が伸びたのだ。あれには本当に驚いた。
Thursday, August 2, 2018
E.C.R.ロラック「作者の死」
ヴィヴィアン・レストレンジは超売れっ子のミステリ作家である。この作家は人嫌いなのかなんなのか、けっして社交の場には出て来ない。覆面作家という言い方があるが、この人の場合は覆面もなにも、とにかく人には会わない。出版社の人々にすら会わないのだ。あるとき編集者からパーティーに呼ばれたが...
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