フィルポッツは(1862-1960)はダートムアを舞台に、優れた小説を書いた人だが、エンターテイメントの分野でも良い作品を残している。「原子番号八十七」(1922)はその一つで、巨大な蝙蝠に似た、不思議な生き物が世界の要人を殺害し、とてつもない未知のエネルギーを発して建築物を粉々にしてしまうという話だ。「バット」と呼ばれるようになるこの巨大な蝙蝠の正体はなんなのか、地球上のいまだ知られざる生物なのか、それとも宇宙から来た侵略者なのか。
最後に種明かしをされると、「なんだ」ということになるのだが、しかしそこに至るまでの物語はじつによくできている。二つの世界大戦にはさまれた期間を、英語ではインターウォー・ピリオドというが、その微妙な時期の世界情勢、当時の科学的発見(相対性理論や原子物理学)が思想や倫理観に与えた影響、権力とエゴイズム、古い理想主義と新しい世界のありよう、悪を滅ぼすに悪をもってしなければならないというパラドクス、こうした重い話題が、奇怪な連続殺人事件のあいだにさしはさまれる。その議論はどれも面白く、考えさせるものを持っている。しかしこの作品のいちばんすぐれているのは……文体である。
古めかしいといえば古めかしいのだが、硬質で、読者に知的な緊張を強いてくるような文体なのだ。わたしはこの緊張感にたまらない魅力を感じた。エンターテイメントだからといって文体がなおざりにされてはならない。この鋼のような文体は、最後まで物語が弛緩することを許さないだろう。作者がこの物語を手すさびではなく、真剣な思想表現の場と見なしていたことが、この文体からもわかる。
Wednesday, August 1, 2018
関口存男「新ドイツ語大講座 下」(2)
§2. Der ? ach, dem traut ja keiner. あいつか?へん、あんなやつに誰が信用するものか。 trauen : 信用する。 ja : (文の勢いを強めるための助辞) 前項のは名詞に冠したものでしたが、こんどは名詞を省いたもの...
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昨年アマゾンから出版したチャールズ・ペリー作「溺れゆく若い男の肖像」とロバート・レスリー・ベレム作「ブルーマーダー」の販売を停止します。理由は著作権保護期間に対するわたしの勘違いで、いずれの作品もまだ日本ではパブリックドメイン入りをしていませんでした。自分の迂闊さを反省し、読者の...
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久しぶりにプロレスの話を書く。 四月二十八日に行われたチャンピオン・カーニバルで大谷選手がケガをした。肩の骨の骨折と聞いている。ビデオを見る限り、大谷選手がリングのエプロンからリング下の相手に一廻転して体当たりをくわせようとしたようである。そのときの落ち方が悪く、堅い床に肩をぶつ...
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19世紀の世紀末にあらわれた魅力的な小説の一つに「エティドルパ」がある。これは神秘学とSFを混ぜ合わせたような作品、あるいは日本で言う「伝奇小説」的な味わいを持つ、一風変わった作品である。この手の本が好きな人なら読書に没頭してしまうだろう。國枝史郎のような白熱した想像力が物語を支...