Wednesday, August 1, 2018

「原子番号八十七」

フィルポッツは(1862-1960)はダートムアを舞台に、優れた小説を書いた人だが、エンターテイメントの分野でも良い作品を残している。「原子番号八十七」(1922)はその一つで、巨大な蝙蝠に似た、不思議な生き物が世界の要人を殺害し、とてつもない未知のエネルギーを発して建築物を粉々にしてしまうという話だ。「バット」と呼ばれるようになるこの巨大な蝙蝠の正体はなんなのか、地球上のいまだ知られざる生物なのか、それとも宇宙から来た侵略者なのか。

最後に種明かしをされると、「なんだ」ということになるのだが、しかしそこに至るまでの物語はじつによくできている。二つの世界大戦にはさまれた期間を、英語ではインターウォー・ピリオドというが、その微妙な時期の世界情勢、当時の科学的発見(相対性理論や原子物理学)が思想や倫理観に与えた影響、権力とエゴイズム、古い理想主義と新しい世界のありよう、悪を滅ぼすに悪をもってしなければならないというパラドクス、こうした重い話題が、奇怪な連続殺人事件のあいだにさしはさまれる。その議論はどれも面白く、考えさせるものを持っている。しかしこの作品のいちばんすぐれているのは……文体である。

古めかしいといえば古めかしいのだが、硬質で、読者に知的な緊張を強いてくるような文体なのだ。わたしはこの緊張感にたまらない魅力を感じた。エンターテイメントだからといって文体がなおざりにされてはならない。この鋼のような文体は、最後まで物語が弛緩することを許さないだろう。作者がこの物語を手すさびではなく、真剣な思想表現の場と見なしていたことが、この文体からもわかる。

関口存男「新ドイツ語大講座 下」(2)

§2. Der ? ach, dem traut ja keiner. あいつか?へん、あんなやつに誰が信用するものか。 trauen : 信用する。 ja : (文の勢いを強めるための助辞)  前項のは名詞に冠したものでしたが、こんどは名詞を省いたもの...