以前「文学の慰め」ということを書いた。困難な時に陥ったとき、苦しくてつぶれてしまいそうな自分を慰め、力を与えてくれる本が書店や図書館にあるかもしれない。だから藁にもすがりたい想いを抱いている方は、一度そうした場所を訪ねてはどうだろうか、といったことを書いた。書店も図書館も知が集積されている場所だ。自分の中にある混乱を鎮め、整理し、道を示してくれるものがきっとあるはずなのだ。
人生に挫折したとき、あるいは困難にぶつかったとき、こんな本を読んでみてはいかがですかと、本を紹介すること。それを英語ではブック・クリニックなどという。辞書に載るような固定された表現ではないけれど、たまに見かけるし、語感も悪くない。いつものようにガーディアン紙を見ていたら、両親が離婚したときにどんな本を読んだらよいのか、参考になる本が挙げられていた。ホリーさんというイギリスの十七歳の女の子への問いに答える形で記事は書かれている。
Stag's Leap by Sharon Olds
Hideous Kinky by Esther Freud
Eat Pray Love by Elizabeth Gilbert
Madame Doubtfire by Anne Fine
Tha Parent Trap by Erich Kastner
I Capture the Castle by Dodie Smith
挙がっていたのはこんな本である。十七歳ということで新しめの本が多いが、ケストナーのようなモダン・クラシックもまじっている。なかなかいいリストになっていると思う。ただし絶対に読むな、という本も一冊挙げられている。それは
What Masie Knew by Henry James
ううむ。どういうことだ? これは密かに(反面教師的な意味で)、読め、と言っているのかな。
Monday, December 3, 2018
ジュリアン・マクラーレン・ロス「四十年代回想録」
ジュリアン・マクラーレン=ロス(1912-1964)はボヘミアン的な生活を送っていたことで有名な、ロンドン生まれの小説家、脚本家である。ボヘミアンというのは、まあ、まともな社会生活に適合できないはみ出し者、くらいの意味である。ロンドンでもパリでもそうだが、芸術家でボヘミアンという...
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ウィリアム・スローン(William Sloane)は1906年に生まれ、74年に亡くなるまで編集者として活躍したが、実は30年代に二冊だけ小説も書いている。これが非常に出来のよい作品で、なぜ日本語の訳が出ていないのか、不思議なくらいである。 一冊は37年に出た「夜を歩いて」...
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「ミセス・バルフェイムは殺人の決心をした」という一文で本作ははじまる。 ミセス・バルフェイムは当時で云う「新しい女」の一人である。家に閉じこもる古いタイプの女性ではなく、男性顔負けの知的な会話もすれば、地域の社交をリードしもする。 彼女の良人デイブは考え方がやや古い政治家...