外を歩いているときなど、ときどき無意識のうちに自分の胸をとんとんと叩くことがある。大胸筋が大きくなり出した頃から身に着いた癖である。
大胸筋が発達するのはうれしいものだ。腕が太いのは力をあらわし、足が太いのは頑健さを示すが、胸の分厚さは「頼りがい」を感じさせる。この「頼りがい」は他人が見て感じるだけでなく、自分にとってもそうなのである。自分が自分に頼りがいを感じる、それが自信というものだろう。
わたしが胸をとんとんと叩くのは、身体の変化を確認し自己満足にひたるというより、不安を鎮めるためのような気がする。自分にはこの大胸筋がある、怖れることはない。そう自分に言い聞かせているような気がする。
実は最近、風邪をひいてしばらく寝込んでしまった。今の風邪はわたしが子供の頃に経験した風邪とは違い、症状の出方が微妙に違うし、なかなか自然治癒しない。数年前にかかった風邪は、熱が収まっても咳だけが残り、しかもそれが数カ月間つづいた。風邪は意外と怖い病気である。
わたしは薬を飲んで横になりながら、ぽんぽんと胸を叩いた。これだけ身体を鍛えているのだから、抵抗力はあるはずだ、心配することはない、と思いながら。
幸いにして寝込んだのは一日だけで、そのあと二日くらいで完全に回復した。今日からはまた普通にトレーニングを開始するつもりでいる。
Wednesday, December 5, 2018
ジュリアン・マクラーレン・ロス「四十年代回想録」
ジュリアン・マクラーレン=ロス(1912-1964)はボヘミアン的な生活を送っていたことで有名な、ロンドン生まれの小説家、脚本家である。ボヘミアンというのは、まあ、まともな社会生活に適合できないはみ出し者、くらいの意味である。ロンドンでもパリでもそうだが、芸術家でボヘミアンという...
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