市立図書館で本を読んでいたら、となりの児童書コーナーから子供が本を読み上げる声が聞こえてきた。その子の読み方は非常に奇妙なもので、一語一語を拾うように読み上げるかと思えば、急に声高に、怒鳴るように読み、しかも喉が悪いのか、しきりにゲッ、ゲッという音を立てて咳をする。この異様な朗読にはわたし以外の人もぎょっとしたようで、立って声のするほうをじっと見つめる人が二人ほどもいた。
そのときわたしはこんなことを考えた。子供が読んでいるテキストは、実は、あのような異様な読み方をも可能性として秘めているのではないか。テキストの背後にはさまざまな可能態が隠れていて、あの子供の読み方はその一つを現実態として引き出したのではないか。子供の読みにはいくつもの誤読が含まれていたが、しかし可能態の総体としてテキストは、そのような誤読すら含んでいるのではないか。もしかしたらあのゲッ、ゲッという咳も含まれているのだ。
日本人が英語のテキストを読むとき、テキストに日本語が入りこむことは避けられない。ケンポウスキーなどという固有名を見ると、瞬間、「憲法好き」という日本語が頭をよぎる。英語圏の子供はドイツ語の「父」がファーターであると知ると、それが英語のファーター「屁をする者」につながるものだから、大笑いする。このような「事故」も、実は、もとのテキストに潜在的な可能性として秘められているのではないか。いや、そういうテキストを越えたテキスト、見えないテキストをわたしは考えたい。
そのような可能態の総体としてのテキストは、いったいどのように記述されるだろう。どのような特徴を持っているだろう。英語とドイツ語がショートをおこし、日本語と英語が交錯するするテキスト。無意識が無意識に連接するテキスト。
そんなものを考えてなにになると言われそうだが、フロイトを読めば読むほど、テキストの無意識における連接を考えさせられるのだから、あながち意味が無いとも言えないと思う。
Tuesday, January 29, 2019
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