今哲学の世界でもっとも強力な議論を展開しているのはラカン派と言われる人々である。その内容をまとめることは、わたしにはとてもできないけれど、わりとわかりやすい断片的言説をこのブログで紹介してみてはどうだろうと思いついた。たくさんの断片を提示するうちに、もしかしたら読者の頭の中で点が線をつくり、線が面に広がるかもしれない。
わたしが今読んでいるアレンカ・ズパンチッチの「性とはなにか」からまず引用していく。
ひとつ注意して欲しいが、わたしはこの本のエッセンスを示すために引用するのではない。ラカン派の考え方がわかりやすく表出されている部分を抜き出すだけである。
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ルイ・アルチュセールがそのすばらしいエッセイ「マルクスとフロイトについて」で議論しているように、マルクス主義と精神分析に共通している点、それはおのおのが理論化しようとしている「対立」の「まっただ中」にそれらが位置していることである。マルクス主義も精神分析も、それら自身が、それらが対立的で相反していると認識する現実の一部なのである。そのような場合、科学的客観性は中立な立場となり得ない。それは存在する対立、あるいは現実にある搾取を覆い隠すものでしかないのだ。どのような社会的対立においても、「中立的」な立場はいつも、必然的に、支配階級の立場である。それが「中立的」と見えるのは、それがすでに支配的イデオロギーとなっていて、常に自明性を帯びて見えるからである。このような場合、客観性の範疇は中立ではなく、理論がその状況内においてどれだけ特殊な、個別的立場を取りうるかという、その能力である。この意味で客観性は「偏ること」「党派性を持ちうること」と結びついている。アルチュセールはこう言っている。対立的な現実をあつかう場合(マルクス主義も精神分析も対立的現実を扱う)、人はあらゆる場所に立ってあらゆるものを見るわけにはいかない。ある立場はこの対立を覆い隠し、ある立場は対立を剥き出しにする。対立的現実の本質をつかもうとするなら、まさにこの対立の中にある、ある特定の立場に立たなければならない。(前文より)
英語読解のヒント(145)
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