Friday, January 11, 2019

「飛行士の死」 Death of an Airman(1934)

クリストファー・セント・ジョン・スプリッグは1907年にロンドンに生まれ、七冊のミステリを書き、さらにクリストファー・コードウェルの名前でマルクス主義理論に関する評論をあらわしもした。彼はスペイン内乱の際に国際旅団として従軍し1937年に命をなくした。

わたしは以前「日焼けした顔の死体」という彼の作品を読んだことがある。出来がよいとはいえないが、面白く読めた。最近、彼のミステリが復刊され、ミステリ・ファンのあいだではちょっとした人気を呼んでいるので、わたしももう一冊読んでみることにした。なにしろあの「幻想と現実」の作者である。彼がミステリ作家としてどれくらいの実力だったのか、気になって当然ではないか。

飛行士の養成所でインストラクターの一人が事故死する。単独で飛行していたところ、きりもみ状態になり、そのまま墜落したのだ。彼は計器に頭をぶつけ即死したものと考えられた。

ところがこの養成所で免許を取りに来ていた牧師さんが、死後硬直をおこしていない死体に気づき、死亡時刻に疑問を抱く。調査の結果、彼は頭を銃で撃たれて死んだことが判明する。

このあとは二人の刑事がイギリスとフランスで調査を進め、飛行士の死の背後には国際的な麻薬組織が存在することをつきとめる。どうやら飛行士はこの組織の秘密を握り、脅しをかけながら金を手に入れようとしたらしい。それが逆に殺されてしまったのだ。

話はこんな具合に展開するのだが、エンターテイメントとしては上々の出来というのがわたしの感想である。死体と死後硬直の謎は読者を惹きつけてはなさないだけの魅力がある。それでいて充分な手がかりが与えられているから、じっくり考えれば読者は物語よりも早く真相にたどり着くことができる。そういう書き方も爽快感を与えていい。

もう一つの謎は麻薬組織の大ボスは誰かという点だが、これがわかる人はなかなかいないのではないか。偽の手がかりがふんだんにばらまかれているため、わたしもこれはわからなかった。しかし、ミステリに関していえば、「してやられた!」「うまくだまされた」という感を強くするとき、それはよい作品に出会えたことを意味するだろう。

本書は「日焼けした顔の死体」よりはるかにすぐれた作品である。イギリスのミステリ黄金期を支えた一作としてもっと知られてもいいだろう。ついでにいうと、この作者は This My Hand という犯罪者の心理を描いた小説も書いている。リンダ・カッツとビル・カッツが著した Writer's Choice によるとこれは隠れた名作らしい。早くどこかから再刊されないものか。

英語読解のヒント(145)

145. 付帯状況の with 基本表現と解説 He was sitting, book in hand, at an open window. 「彼は本を手にして開いた窓際に座っていた」 book in hand は with a book in his hand の...