プロジェクト・グーテンバーグに The Woman and the Car という本がアップロードされていて、どんな本だろうとちらちらと読んで見た。女性作者が女性に向かって車の運転を手ほどきしている本で、内容的にはいわゆる実用本みたいなものである。ただ巻頭に掲げられた写真には深い印象を受けた。こんな写真である。
いい写真だ。どこかスタジオで撮ったのだろう。メタリックに輝くハンドルと、毛皮を着たゴージャスな女の、ほとんどエロチックといってもいい関係がよくあらわされている。
彼女はドロシー・レヴィット(Dorothy Levitt)、この本の作者であり、イギリス初の女性レーサーだ。1882年に生まれ、1922年に薬物の過剰摂取で亡くなっている。十九世紀末から二十世紀初頭にかけては女権論者が活躍した時代、いわゆる「新しい女」がもてはやされた頃である。それまで女性は家庭に閉じこもり、育児や家事にいそしんでいたが、労働力として社会進出するとともに、女性の権利を主張する尖鋭な人々があらわれ、メガネを掛けて男と対等に議論したり、馬や自転車を乗りまわしたりするようになったのだ。ドロシー・レヴィットはそんな新しい女性のひとりだった。
しかしこの写真には、あのころの時代性を越えたなにかがあるように思う。女だてらに車を運転して見せるというだけではない。彼女の目つきは、女権論者的な、男性への defiant な視線ではなく、メタル(金属)に対する親密な感情を示していはしないか。男性に対抗するのではなく、車と秘密の関係を築いた彼女はそのまま男性を取り残してどこかへ行ってしまいそうである。そんな印象にわたしははっとするのだ。「あたらしい女」にまじって、彼らとは違う感性の持ち主が活躍していた。その可能性に気づかされ、わたしは今、ちょこちょといろいろな参考書にあたっている。
Saturday, March 9, 2019
関口存男「新ドイツ語大講座 下」(4)
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