クロード・ホートンの作品。
「わが名はジョナサン・スクリブナー」を読んで一驚して以来、彼の作品をできるだけ読むようにしているが、なかなか手に入らないのが難である。
本作は「ジョナサン・スクリブナー」ほどの傑作ではないけれど、ホートンの筆が生き生きと走っているように思えた。書こうと思ったことを、すこしも屈折することなく、まっすぐに書ききったという感じなのだ。それゆえ読後感は爽快である。これで知的な興奮も残ったら文句なく明日から翻訳に取りかかるのだが。
本作はミステリのような形を取っている。マックスという才能豊かな画家が語り手だ。彼にはモデルであり、かつ情婦でもある女がいる。その女がある晩、殺害されるのである。マックスはその晩、自分の下宿で寝ていたのだが……彼は自分が部屋を出、通りを歩き、情婦の家に行く夢を見るのだ。そして彼は子供の頃、夢遊病で、夜中に外を出歩くことがあった。
そこで彼は自分に疑惑を抱くことになる。あの夢は夢ではなくて、自分があの晩に取った行動そのものじゃなかったのか。自分は情婦の女を憎んでいた。手を切ろうとしていた。だから彼女を殺したのではないか。
物語はスコットランドヤードの刑事による捜査、マックスのまわりの人間の事件に対する反応、マックスが知らなかった情婦の過去、そしてマックス自身の過去をめぐって展開し、非常に面白く読める。最後はもちろん刑事が真犯人を捕まえる。
内容の豊かな物語ではあるけれど、ホートンらしい狭さも感じさせた。登場人物が語り手マックスの分身のように見えてしまうからである。ここには決定的な外部性がない。ある夢の世界の内部の事件が描かれているのだ。
そういう閉塞感はあるものの、これは面白い物語である。ホートンを読むのがますます楽しくなった。
関口存男「新ドイツ語大講座 下」(16)
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