マイケル・タルボットは1953年にミシガンに生まれ、1992年、三十八歳で亡くなった。彼の早すぎる死はほんとうに残念だ。彼は「超一流」というにふさわしいホラー作家だったから。アイデアだけでなく、文章でも読ませる才人だった。
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バンパイア小説である The Delicate Dependency「微妙な依存関係」は、ヴィクトリア女王時代のイギリスを舞台にしている。医学者であるグラッドストーンは、ふとした機縁から若くて美貌のバンパイアを家に泊めることになる。このバンパイアはグラッドストーンの家を出るとき、なぜか彼の娘を誘拐していく。
グラッドストーンは娘を取り返すためにフランス、そしてイタリアへと向かい、そこではらはらどきどきの冒険を繰り返す。その過程で彼はバンパイアがはるか昔から人間たちといっしょに共存してきたこと、そして今、彼らがなにか大きな企みをくわだてていることを知る。
その企みとはなにか。彼は娘を取り返すことができるのか。
そういった内容である。
語り手は医者のグラッドストーンで、ヴィクトリア女王時代の書き手らしく、物語の進展はゆっくりとしていて、しかも説明が細かい。短気な人なら飛ばし読みをしそうな書き方だが、なにしろ文章がすばらしいから、しっかりと読んでしまう。わたしは大衆文学こそよい文章で書かれねばならないと固く信じている。
変わった表題がついているが、これを説明するとネタばらしになるので、やめておく。
この作品はホラー小説という親しみやすい形式はとっているものの、いくつか考えるべき問題を含んでいる。知は人間の栄光であると共に、まさしく人間それ自体をほろぼすような禍々しいなにかでもある。知のこのような背反的性格にどのようにどのように立ち向かうべきなのか、われわれはまだ答を見出していない。そのことをわたしはこの作品を読み終えてあらためて思った。
またヴァンパイアが人間社会に介入・操作するやり方、つまり幻とミスコミュニケーションは、じつはヴァンパイアがいなくても人間の社会において常に起こらざるをえない、ある種の揺れ、不安定性のことではないか。人間はシンボルを使ってコミュニケーションをはかり、文化を発展させるが、このシンボルの体系には必然的にある種の脆弱性がつきまとう。それは予期しない誤解や間違いをかならず生み出すのだ。ヴァンパイアはシンボル体系に寄生し、その制御不能な位相として働いている。このとらえ方はなかなか面白く、わたしはもっと時間をかけて考えて見たいと思う。
マイケル・タルボットはこの作品の他にも「夜の怪物」という傑作を書いている。興味のある方は是非一読を願いたい。
関口存男「新ドイツ語大講座 下」(4)
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