ガーディアン紙に英国著作権料回収団体(Authors Licensing and Collecting Society)の作家収入に関する調査結果が記事となって出ていた。手っ取り早く内容を要約するなら、作家収入の年平均は一万ポンドしかなく、生きていくためには副業や婚姻相手の収入に頼らなければならないという状況なのだそうである。
しかも作家収入は過去と較べて徐々に減る傾向にあるようだ。だとすれば、作家業以外の収入がまずなければ、作家にはなれないという事態がおきつつあるということだ。いや、実際いま、そうなっているのである。
女性は男性より収入が低いから、作家になろうとするなら男性よりも不利な条件下におかれる。有色人種は白色人種より収入の道がきびしいから、作家になろうとするなら白色人種より不利な条件下におかれる。労働階級の人々はもちろん、作家になろうとするなら上流階級の人々より不利だ。
こういうことが積み重なると、文学はエリートのものとなり、作家の多様性から生まれる文学全体としての豊饒さは失われてしまうだろう。ある人々は文学による自己表現の権利・機会を奪われるのである。それどころかゆくゆくは生き残ったエリート文学者すら文学に従事できなくなるだろう。
ある種の功利主義的思考が文化をずいぶんやせ細らせている。文化の大切さを唱える者は、反時代的な態度をとらざるをえない。
Tuesday, June 11, 2019
エドワード・アタイヤ「残酷な火」
エドワード・アタイヤ(1903-1964)はレバノンに生まれ、オクスフォード大学に学び、スコットランド人の女性と結婚した作家である。自伝や「アラブ人」という評論が有名だが、ミステリも何冊か書いている。ウィキペディアの書誌を見る限り「残酷な火」(61)は彼が書いた最後のミステリ...

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