戦争小説を訳そうと思っているが、これを機にと、戦争小説でまだよんでなかった本を去年の終わり頃から読みはじめた。火野葦平の兵隊ものはその一つである。
彼は戦犯作家と認定されたが、確かに「土と兵隊」や「麦と兵隊」を読むと、他者にたいする視線の欠如に唖然とする。
ただ「土と兵隊」は非常に参考になった。どこが参考になったかというと、兵隊が泥まみれになって、進軍していくという部分である。
わたしが訳そうと考えている小説も「土と兵隊」と同様に季節は秋だ。そして山中を行軍するのだが、雨が降り、本道は泥濘と化し、兵隊達は泥人形のようになるのである。そして主人公である語り手は、「われわれは敵と戦っているのではなく、泥と戦っている」とすら考えるようになる。この作品はかなりシンボリックな書き方がされているのだが、しかし泥まみれになることが兵隊の現実であることを知ることが出来たのは貴重だ。わたしが作品に踏みこんでいくときの、ひとつの足場となるだろう。
Saturday, June 8, 2019
マリ・ドルトン「跪く女の謎」
マリ・ドルトン(Moray Dalton)は1881年にロンドンに生まれ、スコットランドヤードのヒュー・コリアー警部を主人公にしたミステリを三十冊近く書いた。近年 Dean Street Press が彼女の作品を電子化して出しており、わたしもはじめて彼女の本を手にした。1936...
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§9. 不定の意を強める irgend 「何か」(etwas, was)といえばよいところを、特に念を入れて「何でもよいからとにかく何か」といいたい時には irgend etwas, irgend was といいます。その他不定詞(ein, jemand,...
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