ジジェクの講演は星の数ほども YouTube にアップロードされている。わたしは暇なときによくこれを聞いている。一つの講演が質疑応答を含めて二時間以上も続くので聞き応えがある。
最初はジジェクの知的アクロバットに幻惑されるかもしれないが、いろいろ聞いているうちに、彼の論点が次第に整理されてきて、慣れれば彼がこれからあのエピソードを話すな、などと先を予想することができるようになる。
しかし今でも新しい論点を見出し、精力的に議論を展開するジジェクは、さすが一流の哲学者だし、自分の政治的な立場を徹底してつらぬいているところは尊敬に値する。
わたしは最近 Slavoy Zizek - Hegel in Athens: what would Hegel have said about our predicament? という二部構成の講演記録を聞いた。これはジジェクの講演のなかでも出色の面白さ、そして知的な刺激を持っている。
とりわけ第二部の質疑応答で、ジジェクがデリダについて語っている部分は、非常に興味深かった。ジジェクはデリダをよく攻撃するが、しかしいつもその攻撃はデリダ本人に向けられるのではなく、デリダ派、つまりデリダのエピゴーネンに向けられる。それを聞きながら、案外ジジェクはデリダと似たものを持っているのではないかと思っていたが、この講演でジジェクははっきりとある程度までデリダの功績を認めている。しかしジジェクはデリダの「声」とか「エクリチュール」にたいする考え方にさらなるひねりを加えていくのだ。そしてデリダ本人もこのひねりの可能性について気づいていたかもしれないと指摘している。
このあたりの議論は圧巻で、熱を帯びたジジェクの声に会場もしんと静まり返っていた。哲学に興味のある方は是非聞いていただきたい講演である。
Thursday, June 27, 2019
エドワード・アタイヤ「残酷な火」
エドワード・アタイヤ(1903-1964)はレバノンに生まれ、オクスフォード大学に学び、スコットランド人の女性と結婚した作家である。自伝や「アラブ人」という評論が有名だが、ミステリも何冊か書いている。ウィキペディアの書誌を見る限り「残酷な火」(61)は彼が書いた最後のミステリ...

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