Sunday, July 21, 2019

A.キアリナ・コルデラ

最近読んだアカデミックな著作の中で、いちばん秀逸だったのはこのコルデラという人が書いた Surplus: Spinoza, Lacan という本だ。ラカンとスピノザの関係、とりわけスピノザの無限の概念からラカンの剰余の概念を説明していく手際はあざやかで、コンパクトにまとまっている。ジジェクなどはスピノザをラカンと相容れないと考えているようだが、そうではないということを見事を示してくれた。さらにマルクスの剰余概念にも議論は及び、わたしは大いに蒙を啓かれた。先月、岩井克人の「貨幣論」を読んで、まるでだめだと思ったが、コルデラの議論にははたと膝を打った。

コルデラはもともとはスピノザの研究者なのだろうか。ずいぶん大部の専門書を出しているようだ。しかしラカンに対する切り口は鋭く、明晰で、アレンカ・ズパンチッチにも負けないくらい知的な起爆力を持った議論を展開する。今年は彼女の本を探し出して、じっくり腰を据えて読もうと思っている。

エドワード・アタイヤ「残酷な火」

  エドワード・アタイヤ(1903-1964)はレバノンに生まれ、オクスフォード大学に学び、スコットランド人の女性と結婚した作家である。自伝や「アラブ人」という評論が有名だが、ミステリも何冊か書いている。ウィキペディアの書誌を見る限り「残酷な火」(61)は彼が書いた最後のミステリ...