久しぶりに山田風太郎の作品を読んだ。やっぱり面白かった。
将軍家康は二人居る後継者候補のいずれかを選ばなければならないのだが、彼はコイン投げをするかわりに伊賀の忍者と甲賀の忍者を戦わせることにしたのである。家康は自分の内的な葛藤を伊賀と甲賀の忍者に投影し、責任を転嫁したのだと言える。
甲賀の忍者の一人、朧がひどく印象的なのは、彼女が政治的パペットとなることを断固拒否するからである。彼女はリベラルが大好きな可憐な抵抗を示しているだろう。
朧がもう一つ面白いのは、彼女が見つめると忍者の忍法が無効化されるという点だ。つまり彼女の忍法は「忍法は存在しない」ことを告げる忍法、忍法の中でもまさしく忍法を否定する忍法なのである。資本主義の世界は自由だと云われるけれど、実はこの自由の中には奇怪な自由が含まれている。言論の自由、宗教の自由、住む場所の自由、そして自由を売る自由。そして最後の奇怪な自由こそが資本主義の世界を支えている。それとまったく同じ異様な集合論がここに示されている。もちろん「自由を売る自由」が資本主義の核心であるように、忍法を否定する朧は甲賀の忍者の首領挌である。
Saturday, August 17, 2019
エドワード・アタイヤ「残酷な火」
エドワード・アタイヤ(1903-1964)はレバノンに生まれ、オクスフォード大学に学び、スコットランド人の女性と結婚した作家である。自伝や「アラブ人」という評論が有名だが、ミステリも何冊か書いている。ウィキペディアの書誌を見る限り「残酷な火」(61)は彼が書いた最後のミステリ...

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