久しぶりに山田風太郎の作品を読んだ。やっぱり面白かった。
将軍家康は二人居る後継者候補のいずれかを選ばなければならないのだが、彼はコイン投げをするかわりに伊賀の忍者と甲賀の忍者を戦わせることにしたのである。家康は自分の内的な葛藤を伊賀と甲賀の忍者に投影し、責任を転嫁したのだと言える。
甲賀の忍者の一人、朧がひどく印象的なのは、彼女が政治的パペットとなることを断固拒否するからである。彼女はリベラルが大好きな可憐な抵抗を示しているだろう。
朧がもう一つ面白いのは、彼女が見つめると忍者の忍法が無効化されるという点だ。つまり彼女の忍法は「忍法は存在しない」ことを告げる忍法、忍法の中でもまさしく忍法を否定する忍法なのである。資本主義の世界は自由だと云われるけれど、実はこの自由の中には奇怪な自由が含まれている。言論の自由、宗教の自由、住む場所の自由、そして自由を売る自由。そして最後の奇怪な自由こそが資本主義の世界を支えている。それとまったく同じ異様な集合論がここに示されている。もちろん「自由を売る自由」が資本主義の核心であるように、忍法を否定する朧は甲賀の忍者の首領挌である。
Saturday, August 17, 2019
今月の注目作
El espejo de la muerte : Cuentos cortos by Miguel de Unamuno Project Gutenberg ミゲル・デ・ウナムーノ(1864ー1936)はスペインの文人で哲学者。今回出たのは「死の鏡」という1913年出版の短編...
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ウィリアム・スローン(William Sloane)は1906年に生まれ、74年に亡くなるまで編集者として活躍したが、実は30年代に二冊だけ小説も書いている。これが非常に出来のよい作品で、なぜ日本語の訳が出ていないのか、不思議なくらいである。 一冊は37年に出た「夜を歩いて」...
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アリソン・フラッドがガーディアン紙に「古本 文学的剽窃という薄暗い世界」というタイトルで記事を出していた。 最近ガーディアン紙上で盗作問題が連続して取り上げられたので、それをまとめたような内容になっている。それを読んで思ったことを書きつけておく。 わたしは学術論文でもないかぎり、...
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「ミセス・バルフェイムは殺人の決心をした」という一文で本作ははじまる。 ミセス・バルフェイムは当時で云う「新しい女」の一人である。家に閉じこもる古いタイプの女性ではなく、男性顔負けの知的な会話もすれば、地域の社交をリードしもする。 彼女の良人デイブは考え方がやや古い政治家...