もちろんレマルクの名作だが、新潮文庫に収められた訳文は、はっきりいってあまりよくなかった。自分の日本語能力を棚に上げて言えば、文章がぞろっぺえでがある。
こういう文章は一文一文を丁寧に、かみしめて読むことができない。ついつい走り読みになってしまう。軍隊に関する用語、訳語をチェックするつもりで読みはじめたのだが、内容のよさが感じ取られただけに、しみじみと作品世界にひたってみたかった。
一つだけ感想を書いておく。この作品の中で、新兵が(はじめて戦場に来た兵士たち)が毒ガスの性質を知らずに死んでいったり、恐怖のあまり塹壕を飛び出したり、爆弾の音を聞き分けられずに命を落としたりという、実に生々しい事実が語られる部分がある。あれを読んだとき、黒部ダムの建設に携わった人から聞いた話を思い出した。それによると落盤事故などで死ぬ作業員は、やはり新人が多かったのだそうだ。ある程度経験を積むと、危険な場所や事故の発生を、徴候や勘で察知することができるのだが、それができない新人は危険な場所で危険な真似をしてむざむざ死んでしまうこともよくあったそうだ。黒部ダムの建設もある意味では戦争状況だったのだ。そしてそのような状況に置かれる人々はいつも同じである。さらに、兵士が死のうと戦況報告は「異常なし」となるように、黒部ダムでいくら人が死のうと、一般の人はダムの栄光のことしか聞くことがない。
Friday, August 30, 2019
エドワード・アタイヤ「残酷な火」
エドワード・アタイヤ(1903-1964)はレバノンに生まれ、オクスフォード大学に学び、スコットランド人の女性と結婚した作家である。自伝や「アラブ人」という評論が有名だが、ミステリも何冊か書いている。ウィキペディアの書誌を見る限り「残酷な火」(61)は彼が書いた最後のミステリ...

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