もちろんレマルクの名作だが、新潮文庫に収められた訳文は、はっきりいってあまりよくなかった。自分の日本語能力を棚に上げて言えば、文章がぞろっぺえでがある。
こういう文章は一文一文を丁寧に、かみしめて読むことができない。ついつい走り読みになってしまう。軍隊に関する用語、訳語をチェックするつもりで読みはじめたのだが、内容のよさが感じ取られただけに、しみじみと作品世界にひたってみたかった。
一つだけ感想を書いておく。この作品の中で、新兵が(はじめて戦場に来た兵士たち)が毒ガスの性質を知らずに死んでいったり、恐怖のあまり塹壕を飛び出したり、爆弾の音を聞き分けられずに命を落としたりという、実に生々しい事実が語られる部分がある。あれを読んだとき、黒部ダムの建設に携わった人から聞いた話を思い出した。それによると落盤事故などで死ぬ作業員は、やはり新人が多かったのだそうだ。ある程度経験を積むと、危険な場所や事故の発生を、徴候や勘で察知することができるのだが、それができない新人は危険な場所で危険な真似をしてむざむざ死んでしまうこともよくあったそうだ。黒部ダムの建設もある意味では戦争状況だったのだ。そしてそのような状況に置かれる人々はいつも同じである。さらに、兵士が死のうと戦況報告は「異常なし」となるように、黒部ダムでいくら人が死のうと、一般の人はダムの栄光のことしか聞くことがない。
Friday, August 30, 2019
英語読解のヒント(145)
145. 付帯状況の with 基本表現と解説 He was sitting, book in hand, at an open window. 「彼は本を手にして開いた窓際に座っていた」 book in hand は with a book in his hand の...
-
昨年アマゾンから出版したチャールズ・ペリー作「溺れゆく若い男の肖像」とロバート・レスリー・ベレム作「ブルーマーダー」の販売を停止します。理由は著作権保護期間に対するわたしの勘違いで、いずれの作品もまだ日本ではパブリックドメイン入りをしていませんでした。自分の迂闊さを反省し、読者の...
-
久しぶりにプロレスの話を書く。 四月二十八日に行われたチャンピオン・カーニバルで大谷選手がケガをした。肩の骨の骨折と聞いている。ビデオを見る限り、大谷選手がリングのエプロンからリング下の相手に一廻転して体当たりをくわせようとしたようである。そのときの落ち方が悪く、堅い床に肩をぶつ...
-
19世紀の世紀末にあらわれた魅力的な小説の一つに「エティドルパ」がある。これは神秘学とSFを混ぜ合わせたような作品、あるいは日本で言う「伝奇小説」的な味わいを持つ、一風変わった作品である。この手の本が好きな人なら読書に没頭してしまうだろう。國枝史郎のような白熱した想像力が物語を支...