ガーディアン紙の文芸欄に「ディストピアン小説は多くの女性にとっての日常を描いている」 Dystopian fiction tells a pretty everyday story for many women という記事が出ていた。滅亡後の世界を描く、いわゆる post-apocalyptic と言われる作品が陰鬱、陰惨な状況を描き出しているが、そこに書かれたことは今、現実に起きていることだという。
ごくありきたりの日常レベルでも、女性は行動が制限されている。ウィル・セルフ(Will Self)という厭な名前の男性作家が、真夜中の散歩の楽しさについて書いているが、女性にはそれはできない。窓をあけたまま寝ることもできないし、バーで酒を飲んでいるとき、お酒をグラスに残したままお手洗いには行けない。なぜなら彼女がいないあいだに男がグラスの中に薬を入れるかも知れないからだ。(日本にもおなじことをした卑劣なジャーナリストがいたな)
イギリス国家統計局の調べによると(こっちの統計は日本と違って信頼していいだろう)、イングランドとウエールズに住む女性五人に一人は暴行をはたらかれた経験があるそうだ。これが世界レベルとなると、四人に一人となる。しかも有色人種の女性、難民の女性の割合が高くなる。記事には書いてないことだが、難民の女性が暴行されるケースが多いというのはひどい話だ。彼らは自国の過酷な現実を逃れ、いわばユートピアを求めて難民となるのだが、その行き着いた先がディストピアでは目の前が真っ暗になるではないか。
ディストピア小説というと「すばらしき新世界」とか「一九八四年」とか「われら」など男性作家による作品を思い浮かべるが、女性作家もたくさん書いている。アトウッドの The Handmaid's Tale はその中でももっとも有名だ。もしかしたら今の人にとってディストピア小説の代表はこの作品かも知れない。しかしビナ・シャーという女流作家が言うように「サウジ・アラビア、パキスタン、アフガニスタンで起きていることは、The Handmaid's Tale の中で起きていることよりもっとひどい」のだ。記事の書き手は言う。The Handmaid's Tale はテレビドラマ化され、、それには女性器切除のおそろしい場面が含まれていたが、しかし女性器切除はイングランドとウエールズだけでも十三万七千人の女性や少女に施されているのである。
さらに二○一八年、アメリカと英国の病院に於いては麻酔をかけられた女性に対して、本人の同意なく、骨盤検査が行われていたのだそうだ。アリゾナではインディアンの女性が十年も植物状態で病院に収容されていたのに、突然子供を産んだそうである。看護師がレイプの罪で逮捕された。病院は女性の身体を守るべき場所だが、そこもけっして安全ではない。
男性は、わたしも含めて、こうした現実に鈍感すぎると思う。とりわけ日本の男性は鈍感である。欧米においてはこうしたことは、少なくとも、盛んに議論されているのだが、日本には社会の亀裂を見まいとする力がことさら強くはたらいているようだ。
Sunday, September 1, 2019
新刊について
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