Monday, September 9, 2019

精神分析の今を知るために(8)

ジャック・ラカンがすばらしいことを言っている。妻が浮気をしていると思い込んでいる夫がいるとする。彼の疑念がすべて正しかったとしても(たとえば妻が事実として手当たり次第男をベッドに引きずり込んでいたとしても)、彼の嫉妬は病的(パソロジカル)である。病的な嫉妬は、彼のアイデンティティを維持するために必要とされる。このことは反ユダヤ主義や反移民を唱える人々にもいえる。移民の流入に異を唱える人は、彼等は原理主義者だとか、女性にたいする考え方がちがうとかいうが、それに対してわれわれは、彼等はわれわれと同じ教養ある人々だ、などと反論するのは間違いで、こう言うべきなのだ。なるほど彼等のうちには原理主義者がいたり、女性にたいする考え方のちがう人もいるだろうが、そのことはあなたが感じる移民への恐怖とは関係がない。移民への恐怖はパソロジカルなものであり、その源泉はべつのところにある。それはヨーロッパの不安定、社会福祉の喪失などから来ている。だから真の意味でヨーロッパを脅かしているのは、ヨーロッパを守ると言っている人々、右翼、反移民を唱える人々である。

YouTube "Slavoj Zizek - On the left" から一部内容を要約した。

エドワード・アタイヤ「残酷な火」

  エドワード・アタイヤ(1903-1964)はレバノンに生まれ、オクスフォード大学に学び、スコットランド人の女性と結婚した作家である。自伝や「アラブ人」という評論が有名だが、ミステリも何冊か書いている。ウィキペディアの書誌を見る限り「残酷な火」(61)は彼が書いた最後のミステリ...