Tuesday, September 17, 2019
被害者は誰だ
この写真を見てピンと来る人も多いだろう。そう、切り裂きジャックの犯行を報じる Illustrated Police News の挿絵である。今と違って、昔の新聞は事件の内容を挿絵入りで報じることがよくあった。
切り裂きジャックは五人の女性を殺した。しかし結局捕まらなかったために、犯人は誰なのかという点がずいぶんと取り沙汰されてきた。ヴィクトリア女王の孫が犯人ではないか、などという説まであって、不謹慎な言い方だが、犯人捜しの歴史をひもとくと結構楽しい。
しかしこのたびハリー・ルーベンホールドが出した「五人」というノンフィクションは、殺された五人の女性に焦点を合わせている。ガーディアン紙の書評者がいうように、このような本はもっと早くに書かれるべきだった。われわれは犯人捜しにやっきになって、肝腎の五人の女性をなおざりにしてきてしまった。しかも誰か分からない犯人に注目するより、被害者を調べた方が、当時の社会のありようがより明瞭になるのである。被害者の女性を通してこそ、切り裂きジャックの本当の闇が浮かびあがるのだ。
五人の女性はみな経歴が似ている。幼年時代などと言うものはないに等しく、すぐさま子供を産み、アルコール依存症になり、貧困、絶望、ホームレスの生活を送ることになる。彼らのうち二人は確かに売春婦だったが、残りの三人は売春をしていたという証拠がないのに、なぜか警察は売春婦が狙われたと考え、彼らもいかがわしい商売に手を染めていただろうと先入観を持つ。しかしルーベンホールドは、彼らが性を売り物にしていたから狙われたのではなく、酒に酔い、ホームレスで、なによりも寝込んでいたから狙われたのだと考える。切り裂きジャックはいなくなっても誰も気にしないような相手を選んで殺していたのだ。
社会からはみ出した、ほとんどパーリアのような女性が殺されたということ。これは重要な点である。ある種の差別意識がはたらいていることを示唆するからである。なるほど切り裂きジャックはサイコかもしれない。狂っているのかも知れない。しかしハムレットじゃないが、Though this be madness, yet there is method in it、つまり差別意識という method がこの犯罪には存在している。そしてこの差別意識は警察も、おそらくはほかの大勢の人々も共有するものではなかったか。われわれは切り裂きジャックの特異な性格にばかり眼がゆきがちだが、じつは「ある種の人間は無用である」といった、社会に見えない形で蔓延する差別意識がその犯罪に関与していたとしたらどうだろう。そう考えると切り裂きジャックは社会の徴候と読むこともできるようになる。
Elementary German Series (7)
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