前から読もうと思って、なぜか引き延ばしになっていた本だ。思い切って尻をすえ、一気に読み切った。
この本に関しては、ネタバレせずに書評することはできないので、そこは御寛恕願いたい。
一言で言えば、宇宙人が地球人を誘拐し、美味しくその肉を食べてしまうという話である。地球人は牛や豚のように飼育され、高級食材として異星人の星で売られるのだ。
これが動物の肉を食べている人間への、ある種の批判になっていることはすぐに見て取れるが、わたしが気になったのは、物語の階級的な側面である。
ここには明らかに三つの階級が存在する。異星にある超巨大企業(ここが人肉を売っている)、その下で過酷な労働条件のもと働いている人々(人間を誘拐したり、食肉加工する人々)、そして誘拐され食肉にされる人々である。最後の人々は、職も家族もなく、社会から脱落した人々である。登場人物はこの三つの階層にはっきりとわかれている。
小説の舞台がイギリスなので、イギリスを例にとっていうが、昔はイギリスは植民地の人々を搾取して富を得ていた。しかし外で搾取することができなくなると、今度は内側に無理やり「外」を創り出すようになる。それがプレカリアートだ。これによって国内の貧富の差は拡大していった。
プレカリアートは内側に存在していながら、実質上「外」と見なされ、軽蔑と唾棄の対象になる。そしてなぜかプロレタリアートはプレカリアートを激しく憎む。いつ自分たちがプレカリアートになるかわからないからである。一種の近親憎悪とでもいおうか。本当の問題は金持ちだけがますます富を増大させる、そのような仕組みにあるのに、プロレタリアートはその下の階層に対して嫌悪をつのらせるのである。
わたしはこの階級的な構造が「皮膚の下」に反映されていると思う。SF的な仕掛けが用いられているが、核心にあるのはまさしく今の社会の現実である。最下層の労働者を骨までしゃぶり(この物語では実際に肉をしゃぶられるわけだが)用無しになればぽいと捨ててしまう過酷な資本主義の姿がここにある。そして本当の敵を見間違う人々の姿が。
英語読解のヒント(145)
145. 付帯状況の with 基本表現と解説 He was sitting, book in hand, at an open window. 「彼は本を手にして開いた窓際に座っていた」 book in hand は with a book in his hand の...
-
昨年アマゾンから出版したチャールズ・ペリー作「溺れゆく若い男の肖像」とロバート・レスリー・ベレム作「ブルーマーダー」の販売を停止します。理由は著作権保護期間に対するわたしの勘違いで、いずれの作品もまだ日本ではパブリックドメイン入りをしていませんでした。自分の迂闊さを反省し、読者の...
-
久しぶりにプロレスの話を書く。 四月二十八日に行われたチャンピオン・カーニバルで大谷選手がケガをした。肩の骨の骨折と聞いている。ビデオを見る限り、大谷選手がリングのエプロンからリング下の相手に一廻転して体当たりをくわせようとしたようである。そのときの落ち方が悪く、堅い床に肩をぶつ...
-
19世紀の世紀末にあらわれた魅力的な小説の一つに「エティドルパ」がある。これは神秘学とSFを混ぜ合わせたような作品、あるいは日本で言う「伝奇小説」的な味わいを持つ、一風変わった作品である。この手の本が好きな人なら読書に没頭してしまうだろう。國枝史郎のような白熱した想像力が物語を支...