ガーディアン紙の文芸欄で、タイトルにあるような質問が読者に投げかけられ、さまざまな答が返ってきた。これを読むのが非常に面白かった。返答者はいずれもかなりの読書好きだから、わたしの知らない作者の本が結構あげられている。こういうのを頼りにわたしはちょっとずつ自分の読書の幅を広げるのである。
タイトルの shocking or disturbing という表現は解釈が難しい。いやいや、意味は簡単だが、この形容詞を二つ並べるなら、なにやらホラー小説を挙げてくれと言われているように思われる。しかし shocking と disturbing をそれぞれ単独にとらえるなら、つまり、あなたにとってショッキングな本はなんであったか、そしてディスタービングな本はなんであったかと、別々に問われるなら、ホラー小説以外の本を挙げることも可能なようにとれる。そういうわけで、この問いにたいする答はじつにさまざま。「若き芸術家の肖像」を挙げる人もあれば、「アメリカン・サイコ」を挙げる人もある。「閨房哲学」を挙げる人があれば、「ねじまき鳥」を挙げる人もある。だいぶ混乱した様相を呈しているが、感じ方は人によっていろいろだということをあらためて教えてくれるという意味で、この例外的に多い読者コメントを読むのは有益だった。
わたしにとってショッキングな本とはなんだったろうか。おそらくわたしもジョイスをあげなければならないだろう。「ユリシーズ」を時間をかけて読み、気がつくと自分の文学的趣味ががらりと変わってしまっていた。「ユリシーズ」を読んだあとの数年間、わたしは一定以上の認識を持たない作品が稚拙で読めず、自分の変化に呆然としていたような気がする。
ディスタービングな本はあったか。あった。エリザベス・ジェンキンスという人が書いた「ハリエット」という小説で、平静な気持ちで読めないどころか、怒りで爆発しそうになり、一日に二三十ページしか読むことができなかった。
ではホラー小説でショッキング、あるいはディスタービングな本はあったか。これは思いつかない。ホラー小説はどんなにグロテスクな場面でも、かえって楽しく読めてしまうのである。どんなに内蔵があふれてきても作り物とわかっているからホラー映画は怖くないし、平気でおやつが食べられるのと同じである。
独逸語大講座(20)
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